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「………痛いか?」
布団の上にそっと月夜の身体を寝かせると、黒曜は乾き始めている血液を優しく拭う様に唇に触れた。
「今……拭いてやるから……」
立ち上がり手拭いを持つと、水瓶から桶に水を汲みその手拭いを冷たい水に浸した。
静寂の中の水音に、月夜はやっとその背中を見つめた。
胸に抱かれここに来るまで、黒曜が震えているのに気付いていた。
それが恐れられている『神の力』のせいなのか、自分の所為で傷付けてしまったからなのか、わからなかった。
ただ、黒曜を見るのが怖くて目を閉じていた。
慣れ親しんだ匂いも、肌の温もりも、きっと自分を拒んでいる筈だ。
きっと……それ程傷付けた……。
「…………失敗しちゃったぁ」
布団の上で顔だけ黒曜へ向けた月夜は無理に笑った。
「本当はさ、あの人間殺して……俺はトンヅラするつもりだったんだよね……。まさか……こんなにすぐ見つかると思わなかった」
それにただ静かな息遣いと、水音だけが返ってくる。
怒っているのか、呆れているのか……それすら分からない。
「……冷てぇぞ……」
小さな桶を手に月夜のすぐ横に座ると、黒曜は濡れた手拭いで血で汚れた身体を拭き始めた。
「───つッ…………」
「染みるか?…………紫黒様が、ああ言ってたから……明日には瑠璃を寄こしてくれる筈だ……そうすりゃ全部とはいかねぇが……怪我を治してくれる」
自分の言葉には何も返さない黒曜の声が、酷く痛々しく感じる。
優しく拭われる肌が冷たくて
優しく触れる手が熱い
「…………どうして……何も言わないのさ……責めればいいじゃん……」
熱い手がもどかしくて
優しい言葉が辛い…………
「……俺の所為で…………あの人に…………」
あんな冷たい視線を向けられた───
「そんなこと……どうでもいいんだよ……」
「───なんで……?大切なんでしょ!?──あの人のことが……」
いつだって黒曜の中を占めてる。
自分を抱いてる肌も、感じさせる指も……
本当は違う誰かを抱いているのだと思わずにはいられなかった。
「あの人が好きで……愛しくて───本当はあの人が──欲しくて欲しくて仕方ないんじゃん!!」
「───しょうがねぇだろッ!!眷属なんだからッッ!!」
お互いの怒鳴り声と温かい手がちぐはぐで、本当はこんな事言いたくないのに、それすら上手くいかない。
月夜は涙で視界がぼやけてくるのが分かった。
恐らく、黒曜が一番言いたくない言葉を言わせてしまった。
「……おれは………琥珀の眷属なんだよ……それは……絶対に変わらねぇ……」
身体を拭う手が止まって、冷たかった筈の感触が、徐々に温かくなっていく。
「そんなのッ……そんなの言われなくても解ってるよ!別におれは……あんたの気を引きたい訳じゃないッ!おれはあんたに、ただ……笑ってて欲しかったから…………」
辛そうにしている黒曜を、これ以上見ていたくなかった。
恋しい人が見てくれない辛さなら、充分過ぎるほど知っているから………。
布団の上にそっと月夜の身体を寝かせると、黒曜は乾き始めている血液を優しく拭う様に唇に触れた。
「今……拭いてやるから……」
立ち上がり手拭いを持つと、水瓶から桶に水を汲みその手拭いを冷たい水に浸した。
静寂の中の水音に、月夜はやっとその背中を見つめた。
胸に抱かれここに来るまで、黒曜が震えているのに気付いていた。
それが恐れられている『神の力』のせいなのか、自分の所為で傷付けてしまったからなのか、わからなかった。
ただ、黒曜を見るのが怖くて目を閉じていた。
慣れ親しんだ匂いも、肌の温もりも、きっと自分を拒んでいる筈だ。
きっと……それ程傷付けた……。
「…………失敗しちゃったぁ」
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それにただ静かな息遣いと、水音だけが返ってくる。
怒っているのか、呆れているのか……それすら分からない。
「……冷てぇぞ……」
小さな桶を手に月夜のすぐ横に座ると、黒曜は濡れた手拭いで血で汚れた身体を拭き始めた。
「───つッ…………」
「染みるか?…………紫黒様が、ああ言ってたから……明日には瑠璃を寄こしてくれる筈だ……そうすりゃ全部とはいかねぇが……怪我を治してくれる」
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優しく拭われる肌が冷たくて
優しく触れる手が熱い
「…………どうして……何も言わないのさ……責めればいいじゃん……」
熱い手がもどかしくて
優しい言葉が辛い…………
「……俺の所為で…………あの人に…………」
あんな冷たい視線を向けられた───
「そんなこと……どうでもいいんだよ……」
「───なんで……?大切なんでしょ!?──あの人のことが……」
いつだって黒曜の中を占めてる。
自分を抱いてる肌も、感じさせる指も……
本当は違う誰かを抱いているのだと思わずにはいられなかった。
「あの人が好きで……愛しくて───本当はあの人が──欲しくて欲しくて仕方ないんじゃん!!」
「───しょうがねぇだろッ!!眷属なんだからッッ!!」
お互いの怒鳴り声と温かい手がちぐはぐで、本当はこんな事言いたくないのに、それすら上手くいかない。
月夜は涙で視界がぼやけてくるのが分かった。
恐らく、黒曜が一番言いたくない言葉を言わせてしまった。
「……おれは………琥珀の眷属なんだよ……それは……絶対に変わらねぇ……」
身体を拭う手が止まって、冷たかった筈の感触が、徐々に温かくなっていく。
「そんなのッ……そんなの言われなくても解ってるよ!別におれは……あんたの気を引きたい訳じゃないッ!おれはあんたに、ただ……笑ってて欲しかったから…………」
辛そうにしている黒曜を、これ以上見ていたくなかった。
恋しい人が見てくれない辛さなら、充分過ぎるほど知っているから………。
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