神殺しの花嫁

海花

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想い

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昨夜と同じように遠くから聞こえてくる幸成の歌声に耳を傾けながら、琥珀は障子を背もたれに少し掛けている月を眺めていた。
昼間の紫黒に言われた事が少なからず胸に留まったまま離れなかった。


「別にお前がどんな理由であのチビをそばに置こうが俺は構わねぇ」
真っ直ぐな瞳が、心配とは違う戒める様に見つめていた。
「そんなことはどうでもいい。………ただ、これから奴ら人間と事を構えるかもしれねぇって時に…………奴はお前の足枷にしかならねぇぞ」


「…………足枷ねぇ……」

耳触りの良い歌声が、今まで聞いたことの無い言葉と旋律を紡ぎだし、琥珀は心地よさそうに瞼を閉じた。

紫黒は自分の犯してきた罪を全て知っている。
雪乃が死んだ後も……黒曜と出会っていなければ、どうなっていたか自分でも分からない。
それほどまでに雪乃を愛していた。

幸成と雪乃を重ねていないと言えば嘘になる。
初めて会った祭りの夜も……。
自分の瞳を真っ直ぐに見据えたのは、雪乃と幸成だけだった。
素直で儚げに見えながら、ひとつ強い芯を持っているところも、その癖どこか抜けているところも……。
確かに、幸成との時間は雪乃を思い出させる。

「……けど……それだけじゃねぇ……」

どこが……と言われれば琥珀にも分からなかった。しかし間違い無く幸成に惹かれている。
“気に入っている”ではない……
“惹かれている”のだ。
足枷だと言われても手離したくない程に。

途切れた歌声に瞼を開けると、暫くして襖が開く音がして幸成が姿を見せた。

「……寝たか?」

「はい。三人ともとてもよく寝てます」

見なくても幸成が笑顔で答えたのが分かる。
昼間の事があった所為で、隣に呼んでもいいものか決めかねていると、幸成は自ら隣に来て腰を下ろした。

「………お前は寝なくていいのか?」

「……はい……」

「…………そうか……」

隣にいる幸成の体温が微かに感じられ、琥珀は月に向けていた視線をその熱の元へ向けた。
月明かりに微かに頬を赤くしているのが分かる。

「…………オレが恐くはないのか……?」

「…………………恐いです……」

俯いた線の細い横顔が意を固める様に、琥珀に向けられた。


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