29 / 50
…
しおりを挟む昼休みに直斗が立ち上がると
「お前……また英研行くの?」
康平が見上げて声をかけた。ここ数日暇さえあれば英研に行っていた。普段英研には水野と零しかいない。他の教師は職員室で過ごすことが多いからだ。そして直斗と康平が入り浸るようになってからは物の見事にほかの教師は寄り付かなくなった。
「嫌なら来んなよ」
直斗が面白くなさそうに康平を睨んだ。本心はもちろん来てほしくない。康平がいることで、例え水野が席を立っても零と二人きりになれるチャンスは皆無になるからだ。
「涼しいから行くよ」
そう言って二人は購買に寄ってから英研に向かった。
英研のドアを開けると水野どころか零もおらず、二人はとりあえず空いている席に座って昼を食べ始めた。
直斗がふと零の机を見ると英語で書かれた零宛の手紙が目に入った。
──あの女……本当に書きやがった……
イラつきながら広げてある手紙に目を通す。
中には一緒に遊びに行きたいから始まり、連絡先を教えてとか、付き合いたいとか…直斗のイラつきを増幅させる言葉が並んでいた。
───なんだこれ……あいつから……こんなん貰ったの聞いてないんだけど……
直斗が昼を食べるのも忘れ手紙を睨み続けていると英研のドアが開いて零が姿を現した。
「お邪魔してまぁす」
康平がパンを食べながら零に声を掛けた。
「高野くん……藤井くんも…来てたの?」
零が笑顔を向け自分の机まで来てやっと、直斗が女子生徒から貰った手紙を目にしている事に気付いた。
───ヤバい…………。
零が手紙から直斗へ視線を移すとまだ手紙を見つめている。もしかして…まだ読み始めたばかりかも……と零が手紙を取り封筒にしまった。しかしこれが逆に直斗に火を付けた。
「何隠してんの?」
「───え……」
直斗の目が冷静に零を睨む。まだ会ったばかりの時に見た直斗の目だ。
「隠してる訳じゃないよ」
康平の目を気にしながら零が学校での笑顔で答えた。
「隠しただろ?」
直斗が零ににじり寄る。手紙を貰ったことより、隠そうとした事に腹を立てていた。
「藤井くん……冷静になろう」
零が後ずさるがちょうど他の机が邪魔になって袋小路になっていて動けない。
急に怒り出した直斗を康平がキョトンと見ている。何に怒っているのかさっぱり分からない。
「俺は冷静だけど?零が手紙を貰ってたのに何も言わなかった事も、今俺の目の前で隠そうとしたのもちゃんと理解できてる」
直斗が今にも噛みつけそうな程の距離まで詰め寄る。
「…………レイ?」
何が起こっているのか理解出来ずに見ていた康平の耳にも『レイ』と言った直斗の言葉が届いていた。
「ちょっと……藤井くん……『高野くん』がびっくりしてるから……」
零は何とか直斗を冷静にしようと康平の名を出した。今自分を『零』と呼ぶのは非常にマズイ……。
「だから何だよ?零が隠そうとした事と康平はなんの関係もねぇだろ」
「そうじゃなくて……」
───全然冷静じゃない…………
「何で隠した?」
「また……後で…ゆっくり話そう……。今ここでする話じゃないと思うんだけど……」
そう言って「ね?高野くん」零が康平に助けを求めた。とにかく直斗を冷静にしなければ……。
「え?……ごめん……全然話が見えないんだけど……」
しかし当の康平は困った様に顔を顰めた。
───高野くん!……頼むよ……。
「零……今は俺と話してるんだろ?」
直斗が康平の方へ向いていた零の顔を無理に自分へ向ける。
「零……何で隠すの?」
「藤井……くん」
「お前は……俺だけのでしょ……」
「直斗くん!」
藤井が思わず大きな声を上げた瞬間、直斗がその口を口付けで塞いだ……。
「……………………え……………………?」
そして英研に康平の間の抜けた声が響いた。
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
十七歳の心模様
須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない…
ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん
柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、
葵は初めての恋に溺れていた。
付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。
告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、
その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。
※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
キンモクセイは夏の記憶とともに
広崎之斗
BL
弟みたいで好きだった年下αに、外堀を埋められてしまい意を決して番になるまでの物語。
小山悠人は大学入学を機に上京し、それから実家には帰っていなかった。
田舎故にΩであることに対する風当たりに我慢できなかったからだ。
そして10年の月日が流れたある日、年下で幼なじみの六條純一が突然悠人の前に現われる。
純一はずっと好きだったと告白し、10年越しの想いを伝える。
しかし純一はαであり、立派に仕事もしていて、なにより見た目だって良い。
「俺になんてもったいない!」
素直になれない年下Ωと、執着系年下αを取り巻く人達との、ハッピーエンドまでの物語。
性描写のある話は【※】をつけていきます。
王道にはしたくないので
八瑠璃
BL
国中殆どの金持ちの子息のみが通う、小中高一貫の超名門マンモス校〈朱鷺学園〉
幼少の頃からそこに通い、能力を高め他を率いてきた生徒会長こと鷹官 仁。前世知識から得た何れ来るとも知れぬ転校生に、平穏な日々と将来を潰されない為に日々努力を怠らず理想の会長となるべく努めてきた仁だったが、少々やり過ぎなせいでいつの間にか大変なことになっていた_____。
これは、やりすぎちまった超絶カリスマ生徒会長とそんな彼の周囲のお話である。
目が覚めたら囲まれてました
るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。
燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。
そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。
チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。
不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で!
独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。
真冬の痛悔
白鳩 唯斗
BL
闇を抱えた王道学園の生徒会長、東雲真冬は、完璧王子と呼ばれ、真面目に日々を送っていた。
ある日、王道転校生が訪れ、真冬の生活は狂っていく。
主人公嫌われでも無ければ、生徒会に裏切られる様な話でもありません。
むしろその逆と言いますか·····逆王道?的な感じです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる