君の手の温もりが…

海花

文字の大きさ
上 下
154 / 160

住所

しおりを挟む
藤井の瞳が余計冷たさを増すのが分かって、俊輔は一瞬怯みそうになったが何とか藤井の冷たい瞳を見つめ続けた。

「葵は、夏休みが終わったら帰ると言ってるけど……?」

「……それじゃあ遅いんです」

「課題の問題?それなら帰りに俺が…」

「違います」

藤井の言葉を俊輔が遮り

「俺の問題です」

藤井の目を見据えた。

「………キミの問題?」

「葵を……これ以上あなたの側にいさせたくありません」

俊輔は自分の手が震えるのが分かった。無茶を言っているのも分かっている。

「随分……勝手なことを言うね。………葵はなんて?」

「それは………」

俊輔は思わず俯いた。まさか電話にすら出てもらえないとは言いたく無い。

「聞いてないの?」

「……………」

「それじゃあ話にならない。キミが連れて帰ると言ったところで…葵が嫌がったらどうするつもり?」

「……それは…」

つい言葉が詰まる。自分が迎えに行ったところで当然嫌だと言われるだろう。

「キミは全く考えなしだね。この間もそうだった。少し冷静になって考えたらどう?別に俺が無理に葵を引き止めている訳じゃ無い。現に今だって家で自由にしている。葵が帰りたかったら帰ってるんじゃない?」

藤井の言っていることはもっともだった。家に帰らないと決めたのは葵本人だ。

「それでも……それでも嫌なんです!これ以上葵と…あなたが一緒にいるのが!俺も葵が好きだから……」

俊輔が精一杯の言葉を吐いた。ずっと我慢してきた思い。
藤井はしばらく俊輔を見ていたが大きなため息を着いて

「それ……俺に言うこと?」

呆れた様に呟いた。

「少し遅いけど……10時過ぎにうちにおいで。そこで葵に言うといい……。それで……選ぶのは葵だ」

藤井がどこか諦めた様な口調でそう言い、自宅の住所を俊輔に教えた。



「藤井さん……何かあったんですか?…さっきの子、葵くんのお兄さんて言ってたけど……」

店に戻ると千尋が心配そうにスタッフルームに入ってきた。

「いや……大したことじゃ無いから大丈夫だよ」

藤井が仕事用の笑顔で微笑んだ。

「……なら良いんですけど……。藤井さんの顔色も良くないし……」

———そりゃそうだ……帰ったら………

「随分仕事サボってたからね。サボり癖がついちゃっただけだよ」

———葵を……手放さなきゃならないんだから…………。

藤井は千尋に向かって無理に笑うと背中を向けて仕事を始めた。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

執着攻めと平凡受けの短編集

松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。 疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。 基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)

弟は僕の名前を知らないらしい。

いちの瀬
BL
ずっと、居ないものとして扱われてきた。 父にも、母にも、弟にさえも。 そう思っていたけど、まず弟は僕の存在を知らなかったみたいだ。 シリアスかと思いきやガチガチのただのほのぼの男子高校生の戯れです。 BLなのかもわからないような男子高校生のふざけあいが苦手な方はご遠慮ください。

ヤクザに囚われて

BL
友達の借金のカタに売られてなんやかんやされちゃうお話です

片桐くんはただの幼馴染

ベポ田
BL
俺とアイツは同小同中ってだけなので、そのチョコは直接片桐くんに渡してあげてください。 藤白侑希 バレー部。眠そうな地味顔。知らないうちに部屋に置かれていた水槽にいつの間にか住み着いていた亀が、気付いたらいなくなっていた。 右成夕陽 バレー部。精悍な顔つきの黒髪美形。特に親しくない人の水筒から無断で茶を飲む。 片桐秀司 バスケ部。爽やかな風が吹く黒髪美形。部活生の9割は黒髪か坊主。 佐伯浩平 こーくん。キリッとした塩顔。藤白のジュニアからの先輩。藤白を先輩離れさせようと努力していたが、ちゃんと高校まで追ってきて涙ぐんだ。

大学生はバックヤードで

リリーブルー
BL
大学生がクラブのバックヤードにつれこまれ初体験にあえぐ。

熱中症

こじらせた処女
BL
会社で熱中症になってしまった木野瀬 遼(きのせ りょう)(26)は、同居人で恋人でもある八瀬希一(やせ きいち)(29)に迎えに来てもらおうと電話するが…?

愛され末っ子

西条ネア
BL
本サイトでの感想欄は感想のみでお願いします。全ての感想に返答します。 リクエストはTwitter(@NeaSaijou)にて受付中です。また、小説のストーリーに関するアンケートもTwitterにて行います。 (お知らせは本編で行います。) ******** 上園琉架(うえぞの るか)四男 理斗の双子の弟 虚弱 前髪は後々左に流し始めます。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い赤みたいなのアースアイ 後々髪の毛を肩口くらいまで伸ばしてゆるく結びます。アレルギー多め。その他の設定は各話で出てきます! 上園理斗(うえぞの りと)三男 琉架の双子の兄 琉架が心配 琉架第一&大好き 前髪は後々右に流します。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い緑みたいなアースアイ 髪型はずっと短いままです。 琉架の元気もお母さんのお腹の中で取っちゃった、、、 上園静矢 (うえぞの せいや)長男 普通にサラッとイケメン。なんでもできちゃうマン。でも弟(特に琉架)絡むと残念。弟達溺愛。深い青色の瞳。髪の毛の色はご想像にお任せします。 上園竜葵(うえぞの りゅうき)次男 ツンデレみたいな、考えと行動が一致しないマン。でも弟達大好きで奮闘して玉砕する。弟達傷つけられたら、、、 深い青色の瞳。兄貴(静矢)と一個差 ケンカ強い でも勉強できる。料理は壊滅的 上園理玖斗(うえぞの りくと)父 息子達大好き 藍羅(あいら・妻)も愛してる 家族傷つけるやつ許さんマジ 琉架の身体が弱すぎて心配 深い緑の瞳。普通にイケメン 上園藍羅(うえぞの あいら) 母 子供達、夫大好き 母は強し、の具現化版 美人さん 息子達(特に琉架)傷つけるやつ許さんマジ。 てか普通に上園家の皆さんは顔面偏差値馬鹿高いです。 (特に琉架)の部分は家族の中で順列ができているわけではなく、特に琉架になる場面が多いという意味です。 琉架の従者 遼(はる)琉架の10歳上 理斗の従者 蘭(らん)理斗の10歳上 その他の従者は後々出します。 虚弱体質な末っ子・琉架が家族からの寵愛、溺愛を受ける物語です。 前半、BL要素少なめです。 この作品は作者の前作と違い毎日更新(予定)です。 できないな、と悟ったらこの文は消します。 ※琉架はある一定の時期から体の成長(精神も若干)がなくなる設定です。詳しくはその時に補足します。 皆様にとって最高の作品になりますように。 ※作者の近況状況欄は要チェックです! 西条ネア

処理中です...