君の手の温もりが…

海花

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本当の気持ち

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「今…誰か来てた?」

突然話し掛けられて俊輔が慌てて顔を上げた。

「結衣………」

シャワーを終えて出てきた、不安げな結衣の視線とぶつかりまた目を逸らす…。

「葵が……着替え取りに来ただけだよ」

俊輔の表情からそれだけでは無いことはすぐに分かった。

———顔つきがさっきまでと全然違う……。私がシャワーなんか借りてたから…

「ごめん……俺もシャワー浴びてくる」

俊輔は無理に笑顔を向けると浴室へ向かった。ただ……結衣を見ているのが辛かった。

———やっぱり…………葵が好きだ………

シャワーを頭から浴びさっきの会話を消そうとするが葵の言葉が頭から離れなかった。
あの人の元に行かせたくなくて、またわざわざ葵を傷つける様なことを言ってしまった。

———きっともう嫌われた………。

そう思うと辛くて自分が情けなくなる…。それでも葵を好きな気持ちは変えられないと思った。例え嫌われてしまったとしても、どんなに誤魔化そうとしても、葵を一眼見ただけで隠せなくなる。

———俺は……葵しか見えない……。


浴室から出てくると結衣は黙ったまま俊輔を見つめた。俊輔の思い詰めた表情から今から言われる事が分かる気がする。

「ごめん…。俺やっぱり———葵しか見えないんだ」

———やっぱり………そう言われると思った………。

「本当にごめん……」

俊輔が辛そうに謝る姿を見て結衣がため息をついた。

———バチが当たったんだ………。二人の気持ちを知ってたクセに……俊輔を取られたくなくて…黙ってたか
ら……。

「そんな事だと思った。ずっと……好きだったのに、そう簡単に諦められる訳ないよね」

「……ごめん…」

「仕方がないから……付き合おうって言ったの無しにしてあげる」

結衣が精一杯の笑顔を見せた。

「その代わり!」

結衣が俊輔に近づき

「ちゃんと葵に気持ちを伝える事!」

俊輔の胸目がけ人差し指を指した。

「———それは………」

焦る俊輔を睨みつけると

「ダメ元だとしても!伝えもしないでグチグチ言ってるなんて……男らしくないよ!葵が好きだって、私をフルん
だから……ちゃんと気持ちくらい伝えてよ‼︎」

そう言いながら少しずつ顔が歪み…やがて涙が溢れ出した……。

「———結衣………」

「ちゃんと……伝えてよぉ……」

次から次に溢れ出す涙に、堪えきれず俊輔に縋り付く。

「わかった……。ちゃんと…伝えるから…。約束する…」

———結衣だって俺が葵を好きだって解ってて…それでも好きだって言ってくれてた……。

「ごめんな……。こんな俺…好きでいてくれてありがとう……」

———今度は、俺が勇気を出さなきゃ……。

静かに深くなっていく夜の中、結衣の泣き声だけが少しの間響いていた。
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