君の手の温もりが…

海花

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それぞれの夜

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───あの人は…………意地悪だ…………

俊輔は結衣の手を握ったまま走り続けた。
目が合った瞬間わざわざ葵を呼び、見せつけるようにキスをした。

───『葵は自分のものだ』と知らしめる為に…………

人混みの中をどう走ったのか分からないまま、ただあの人と葵から少しでも離れたかった。
「俊輔!」
結衣に呼ばれ漸く足を止めた。
俊輔が慌てて振り返ると結衣が苦しそうに息をしていて、そこで初めてずっと走り続けていたのだと気付いた。
「———ごめん!……」
結衣が肩で息をしながら首を横に振る。何か言いたかったが、苦しくて声にならない。
「……本当にごめん…………」
俊輔が離そうとする手を結衣が強く握りしめ
「……大丈夫……だから…………」
結衣がどうにか声にして微笑んだ。俊輔の手が微かに震えているのにずっと気付いていた。
町中を少し抜けて人通りが少なくなった道路で二人は立っていた。
それでも疎らに通る人が立ち尽くす二人を怪訝そうに見ていく。
「一緒に……帰ろう」
そう言って結衣が俊輔をそっと抱きしめた……。


「楽しかったぁー!」
葵が満足気に戦利品を手に部屋に入って行く。
夕食も外で済ませ大好きな甘い物も、もちろん食べてきた。
「それは何より。また行こう」
藤井も微笑んでソファーへ腰を下ろした。
すると隣に座った葵が戦利品の中から大きなぬいぐるみを出しポンポンと叩いて膨らませるとソファーの端に置き満足気に笑って頷いている。
藤井がそれを不思議そうに
「……そういうの好きなの?」
覗き込んで見ている。
「まさか!…ここで横になる時に枕替わりになるかなって思って」
葵が嬉しそうにニッと笑った。
「…ベッドがあるのに……ここで横になることなんてある?」
訝しげに聞く藤井に
「……よく言いますよ…。すぐここで押し倒すクセに」
呆れたように葵がふざけて睨みつける。
「…………なるほどね。じゃあ……俺はこれから心置き無く、ここで葵を押し倒せる訳だ」
そう言ってニヤっと笑うと葵にキスをして押し倒した。
「──そういう訳じゃないけどっ!」
葵の抗議も虚しく藤井の唇が全てを塞いでいった。


「…………ん…………」
薄暗い部屋の中で甘い吐息が漏れる。
ベッドの下に無造作に脱ぎ捨てられた服が…二人の荒い呼吸が…余計に夢中にさせている。
何も考えず目の前の柔らかく温かい肌にただけ没頭する。
「…………俊輔…………」
甘い声と共に結衣の柔らかい腕が俊輔の背中にそっと絡みついていった…………。
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