君の手の温もりが…

海花

文字の大きさ
上 下
67 / 160

兄弟へ…

しおりを挟む
「……ただいま……」
葵がリビングに入っていくと
「おかえり。昼のカレー残ってたから…今日カレードリアでいいよな?」
俊輔がキッチンから笑顔を向けるが、葵は黙ったまま立ち尽くしている。
「……どうした?」
葵の様子がおかしいことに気付き、俊輔が心配そうに声を掛けると、堪えきれず葵の顔が歪んだ……。
「…………葵?…」
俊輔が手を止め、キッチンから葵の元へ向かう。
「どうした?……何かあったか?」
心配そうに葵の顔を覗こむと、瞳に溢れんばかりの涙があることに気付いた。
「葵……?」
優しく名前を呼ばれて、堰を切ったように葵が俊輔に抱きつき泣き出した。
「おい……どうしたんだよ?何があった?」
俊輔が慌てて顔を見ようとするが、葵が俊輔の肩に顔を埋めて離れない。
「…………ごめんなさい…」
葵の声が震えている。
「え……?」
「──ごめん……なさい……」
「なにがぁ?」
俊輔が笑って葵の背中をポンポンとあやす様に優しく叩く。
「……わがまま…ばっかり…いっ…て……」
葵の声が嗚咽でかすれる…。
肩が涙で濡れているのが判る。
「…もっ…と…手伝いも……す…から……」
言葉が詰まる。
俊輔は黙って愛おしい髪を撫でる。

───ああ……俺は……

「……嫌いに…なら……いで……」

───葵の兄貴でいい───

「…い…い……おと…とで…いるから……」

───兄として…………
─────こいつを守っていこう───

「バカ。俺がお前を嫌いになる訳ないだろ?」
俊輔の言葉に葵が声を上げて泣き出す。
ずっと…我慢していた何かが溢れ出した。


その後はお互いシャワーを浴び、夕食を食べ、以前の様にリビングでお互い自由に過ごした。
葵の目がパンパンに腫れていること以外
まるで何も無かった様に……。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

執着攻めと平凡受けの短編集

松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。 疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。 基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)

鬼ごっこ

ハタセ
BL
年下からのイジメにより精神が摩耗していく年上平凡受けと そんな平凡を歪んだ愛情で追いかける年下攻めのお話です。

弟は僕の名前を知らないらしい。

いちの瀬
BL
ずっと、居ないものとして扱われてきた。 父にも、母にも、弟にさえも。 そう思っていたけど、まず弟は僕の存在を知らなかったみたいだ。 シリアスかと思いきやガチガチのただのほのぼの男子高校生の戯れです。 BLなのかもわからないような男子高校生のふざけあいが苦手な方はご遠慮ください。

推しの完璧超人お兄様になっちゃった

紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。 そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。 ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。 そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。

目が覚めたら囲まれてました

るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。 燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。 そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。 チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。 不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で! 独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

大学生はバックヤードで

リリーブルー
BL
大学生がクラブのバックヤードにつれこまれ初体験にあえぐ。

処理中です...