君の手の温もりが…

海花

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バイト先

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朝から暑い日差しの中、葵はバイト先へと向かった……。
昨夜はほとんど寝ていない。
朝起こしに来た俊輔が、起きていた葵に驚いて「すげーじゃん」と笑っていた。
そして…何も無かったかのように俊輔の作った朝食を食べ、少しだけ会話をして家を出た…。

「おはようございます」
バイト先に着くとスタッフルームに上原がいて、少しホッとする。
「おつかれー」
着替えを終えている上原がスマホから葵に視線を移した。
「葵ー!頼むから女の子紹介して!」
「……朝から何言ってんすか……」
荷物を置きながら呆れた声を出す。
「俺……工業だから男ばっかですよ?」
ふと更衣室を見ると『使用中』とあって、空くまで座ろうとする。
「あ、中にいるの藤井さんだから入れるよ」
やはり更衣室の順番を待っているらしき女性スタッフが教えてくれる。
──昨日の事が頭に浮ぶ……。
一瞬躊躇ったが、入らないのも変に思えて、葵はノックをすると更衣室へ入った。
「……失礼します」
葵が声を掛けると制服のシャツのボタンを止めながら藤井が笑顔を向ける。
「おはよう」
葵は思わず目を逸らし
「…おはようございます…」
返す声も少し小さくなる…。
服を脱ぐのが恥しい気がして、狭い更衣室で少し離れて服を脱ぎ始めた。
「────後悔してる?」
藤井が視線を向けず話しかける。
葵の鼓動が早くなる……。
「してません。ただ…ちょっと…恥ずかしいだけです…」
顔が赤くなるのが分かる……。
「…………それなら良かった…」
藤井は着替えを終えると
「お先に…」
そう言って更衣室を出た。
葵は緊張が解けて「はぁ…」とため息をつくのと同時に、藤井の何も変わらない態度に少し寂しいような感覚が胸に残る…。

休憩時間になりスタッフルームへ行くと、先に休憩に入っていた上原と、藤井がパソコンの前で仕事をしている。
「お疲れ様です」
葵が昼の弁当を広げる。
大好きなオムライスだ。
「…お前の兄ちゃんて、ホントマメな」
スマホをいじりながら上原が葵の弁当に目をやる。
「……そうっすね……」
確かに…。弟の弁当まで作る兄はそういないのかも…。
当たり前で気付きもしなかった……。
「上原くんは?兄弟いないの?」
話を聞いていた藤井がパソコンに目を向けたまま話しかけた。
葵には、藤井がわざと俊輔の話から逸らしてくれた様に聞こえた。
「いますよ!クソ生意気な弟が」
上原が眉をひそめる。
「マジ!生意気でムカつきますよ」
上原の言葉に2人で笑った。
「それより…葵、ガチで女の子紹介して…」
「また…。俺、周り男しかいないって。工業ですよ?元男子校ですよ?」
葵が呆れ気味に昼を食べ始める。
「葵なら学校以外だってすぐ女の子見つけられるだろー。その辺歩いてちょっとナンパしてきてよ…」
「ヤですよ。……なんでそんなに彼女欲しいんすか…?」
そう言って葵がオムライスを口に運ぶ。
「えー……やりたいから?」
上原の素直な返答に葵が思わずオムライスを吹き出した。
「──!?おまえっ…!汚ねぇなぁ!」
上原が慌ててティッシュで飛んできたオムライスを拭いている。
「───上原さんが……変な事……言うから……」
葵がムセながら真っ赤な顔で言い訳をする。
「バカヤロー!男なんだから当然の主張だろ!」
葵は水を飲んでどうにか落ち着く。
「……昼間からそんなことを言ってんの、上原さんぐらいっすよ…」
「そんな訳あるか!男は365日何時でもやりたいんだよ!」
上原が「藤井さんだってやりたいですよね!?」
藤井に話を振った。
「僕!?」
突然の指名に少し同様して振り返り、葵と目が合う。
心做しか…微かに顔が赤くなっている様に見える。
「上原くん…突然振らないでよ」
次の瞬間、藤井は普段通りに戻り
「まぁ……女の子よりは…男の方が性欲がはっきりしてるからね」
そう言って笑った。
「ほら見ろ!藤井さんもやりたいって!」
「…そこまでは言ってないよ…」
苦笑いする。
「…溜まりすぎ……」
葵がボソッ言うと
「お前だって彼女いないだろ!」
「…いないですけど…」
「結果、お前だって溜まってる!」
上原の言葉に昨日の藤井との事が蘇る。
つい顔が熱くなった……。
「──お前!?」
もちろんそれを上原が見逃すわけがない。
「…………何故赤くなった……」
「──え!?」
突っ込まれて葵が余計赤くなる。
「──やってるな─?お前──彼女いないとか言いながら……」
「─え……いや……」
思わず藤井を見てしまう……。
「ほらほら、そこまでにして。上原くんそろそろ休憩終わりでしょ?」
藤井が時計に目をやり、助け舟を出す。
「あ!やばっ!千尋さんに殺される」
上原が慌てて立ち上がり片付けながら
「葵!お前後で尋問だかんな!」
言いながら仕事に戻った。
藤井が葵を振り返り
「葵くん……相変わらず素直だね」
優しく微笑んだ。
「……すみません…」
「謝る必要ないよ。僕はそんな葵くんが好きなんだから」
藤井の笑顔を葵が見つめる。
「──ん?どうしたの?」
「……何か…その言い方……嘘っぽいな…って思って……」
藤井の顔から笑顔が消え、立ち上がると葵の前に来る。
──マズイこと言った……かも……
葵が慌てて目を逸らす。
「──葵……」
名前を呼び捨てにされ思わず顔を上げる。
藤井が屈みこみ葵にキスをした……。
「──嘘じゃない。俺は…そんな嘘は言わない」
葵の心臓が破裂するんじゃないかと思う程激しく打つ……。
もう一度屈みこみ葵にキスをする。
藤井の舌が容赦なく葵を求め、葵も答えるように舌を絡ませる…。
身体が少しづつ熱くなる……。
「今日……俺の家に来る──?」
藤井が耳元で甘く囁く……。
葵が顔を赤くして頷いた…。


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