君の手の温もりが…

海花

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家に着くと鍵が開いていて葵は眉をひそめた。
自分が出る時閉めたはずだ。
あの状態の俊輔が家から出るとも思えない……。
ドアを開けると、知らない靴があり急いでリビングへ向かった。
知らない男がソファーに座り
その膝で俊輔が眠っている……。
その俊輔の胸の上で男の手と俊輔の手が固く握られている……。
葵の顔が強ばった。
「留守の間にお邪魔して悪いね」
その男がにっこりと笑う。
同年代に見えるが、俊輔の友達では見たことがない…。
「片山って言うんだけど…俊輔から聞いてる?」
そう言ってから
「聞いてないか……」
と笑った。
「聞いてます。特進コースのひとですよね…」
何故かバカにされた気がしてイラつきながら答えた。
「そうそう。俊輔に電話したら発作起こしかけててさ」
説明しながら片山と名乗った男は俊輔の髪を撫でている…。
「慌ててきたら完全に発作起こしてた」
「……俊の…発作のこと……」
「俊輔から前に聞いてたから…。水に対して恐怖心があるって」
葵の鼓動が早くなる。
………俊が……自分から……?
片山が葵に笑顔を向ける。
葵は無性にイラついて
「ありがとうございました。もう、俺が帰ってきたから大丈夫です」
片山の目を見据えた。
「………あっそ」
そう言うと笑って
「俊輔!…俊輔起きな!……俺、帰るよ?」
声をかける。
俊輔は目を開けると「……薫…帰るの…?」
不安そうな顔で起き上がる…。
「もう発作も止まってるし…大丈夫だろ?何かあったら…すぐ来るから」
そう言って俊輔の額にキスをした。
葵の顔が歪む……。
「そう怖い顔するなよ」
片山が葵に言うと
「……葵…?」
俊輔が初めて葵に気付いた。
「今日4時までって言ってなかった…?」
俊輔が時計に目をやる。
まだ3時にもなってない。
「……マネージャーが帰っていいって」
「…俺のせい……?」
俊輔が心配そうな顔を向ける。
「違うよ。今日暇だったから…」
葵が安心させるように微笑む。
「…あの店……暇な時なんかあるんだ」
薫が笑いながら立ち上がる。
葵が薫を睨みつける。
「さて…帰ろ」
薫が葵の横を通り過ぎながら
「俊輔を守れるのが自分だけだとでも思ってたか…?」
挑発的な笑顔を向けた。
葵はカッと顔が熱くなる。
薫が部屋を出ると俊輔が心配そうに
「……葵…?…大丈夫…?」
イラつく葵を心配する。
「…何が?」
俊輔のそばまで行くと、笑顔を向け頭を撫で横に座る。
不安で仕方ない俊輔にこれ以上心配させたくない……。
顔を見ると発作の後特有の顔をしていて唇も乾いている。
「水…飲むか?」
葵の問いかけに
「…いらない」
と、横をむく。
「…コーヒーは?」
「それなら飲む」
葵はキッチンへ行きお湯を沸かし始めた。
水を飲むのまで拒否したのは初めてだった。
シンクの横を見ると抗不安薬を飲んだ跡がある…。
「俊、薬いつ飲んだ?」
俊輔が気にしないようにさりげなく聞くと
「…葵が家を出て少ししてから…」
と答えた。
───薬…効かなかったのか?
葵の中に不安が顔を覗かせる。
コーヒーを入れてリビングへ向かうとソファーで膝を抱いて座っている俊輔が葵を見上げる。
今にも泣きそうな顔に隣へ座りコーヒーを渡した。
「大丈夫だから。ずっとそばにいるから」
葵が優しく笑いかけると少し安心したようにコーヒーを飲み出す。
薫の顔が頭をチラついた。
何もかも見透かしたような口ぶりに苛立ちが募る。
「疲れた顔してる。ごめんな…」
俊輔が葵の頭を撫でた。
こんな時でも俊輔の優しさが垣間見える。
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