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藤井の秘密
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2人の若い女性客に葵が注文を届ける。
バイトも3週間が経ち何とか慣れてきた。
「ありがとう。ねぇ、君、成瀬くんて言うの?」
1人の客が葵の名札を見て話しかけてきた。
「あ、はい」
葵が笑顔で返事をする。
「いくつ?」
もう1人の客も加わる。
「…16です」
「やだぁ!16歳だって!可愛い!」
葵は内心うんざりしていた。
バイトを初めて何回こんな会話をさせられたか分からない。
「ねぇ!ねぇ!連絡先教えて!ご飯奢ってあげる」
葵はわざわざ困ったように笑い
「俺、スマホ持ってないんです。親がうるさくて」
そう言うと『すみません、失礼します』とカウンターに戻った。
「お前…またナンパされてたろ?」
2つ年上の上原が面白くなさそうに見てくる。
葵はチラっと上原に視線を向け
「はぁ…まあ。上原さんもされたらいいじゃないですか」
と興味なさそうに答えた。
「こいつ…いつかぶっ飛ばす」
上原がふざけて葵を殴るフリをする。
「ほらほら!遊んでない!」
チーフが笑いながら注意する。
居心地も大分良くなり、葵の中でバイトも楽しみになりつつあった。
人見知りだが、慣れてしまえば人懐っこい性格がみんなに可愛いがられた。
「葵、今日2時までだよな?」
上原が客の切れ間に声をかける。
「そうっすね」
「その後ゲーセン行かね?俺も2時までだから」
上原の誘いに
「あ…、今日ちょっと予定があって…」
葵がすまなそうに答える。
「なんだよ!デートかよ!」
上原がからかうように肘でつついてくる。
「違いますよ。今日藤井さんちに遊びに行く予定で」
「藤井さんて…マネージャーの藤井さん?」
「はい。ゲームやらせてもらうことになってて。良かったら上原さんも行きます?」
葵の言葉に
「あー…俺はいいわ。マネージャーいい人だし嫌いって訳じゃないんだけど…。あの人の雰囲気って微妙に苦手なんだよね」
上原が困ったように頭を搔く。「ちょっと独特じゃん?」
「そうっすかね?」
葵は首を傾げる。
そう言われれば…確かに独特かもしれない。
中性的と言うか…。
「ま、楽しんでこいよ。次は付き合えよな」
そう言うと上原は仕事に戻っていった。
確かに今まで会ったことのないタイプだな…と葵が考えていると
「葵くん!こっちお願い」
チーフに呼ばれて慌てて仕事に頭を切り替えた。
葵は高層マンションの前に立っていた。
地図アプリで調べながら藤井の家へ向かっていたのだ。
「店からそう遠くないからすぐ分かるよ」
と藤井は言っていたが…。
着いてみたら店からも見える大きなマンションで
「こりゃ分かるわ…」
葵が呟いた。
605号室のインターフォンを押すと
「葵くん?」
藤井の声が聞こえる。
「あ…はい!」
初めてのオートロックのマンションに思わず声が大きくなる。
カチャっと音がすると
「どうぞ。入っておいで」
藤井が言った。
エレベーターに乗り6階まで上がる。
降りるとちょうど1つのドアが開き藤井が顔を出した。
「よく来たね。どうぞ」
「お邪魔します」
中に入るとまるで雑誌の中か、モデルルームの様なオシャレな部屋に葵は目を丸くした。
「めちゃくちゃオシャレっすね…」
全体的にグレーを基調に黒と白、それと赤がセンスの良さを醸し出していた。
「ああ…。付き合ってる子がインテリアとか好きでね。僕はさっぱりだよ」
藤井がソファーにかけるよう促す。「何か飲むかい?」
「あ…いただきます」
葵はまだキョロキョロしている。
「葵くんはインテリアとか興味あるの?」
キッチンから藤井が話し掛ける。
「いや、全くっすね。部屋はゲーム出来て寝られれば良いと思ってるんで」
藤井がキッチンで笑っている。
「僕も似たようなもんだよ」
言いながら飲み物を葵の前に置いた。「はい、どうぞ」
「わぁ…」
思わず感嘆の声を上げる。
「アイスココアで良かった?」
クリームがたっぷり乗っている。
「ありがとうございます!いただきます」
葵がスプーンでクリームを食べ始める。
「今日忙しかった?」
藤井がコーヒーを飲みながら話し掛ける。
「…そうっすね。結構忙しかったかな」
葵が口の中のクリームを飲み込むと答えた。
「そっか。お疲れ様だったね」
藤井がにっこり笑う。
「…自分の休みでも、店のこと気になりますか?」
葵の質問に
「そりゃ…。一応自分が任されてる店だからね。売上が悪くて閉店…なんてことになったら頑張ってくれてるみんなにも悪いしね」
そう答えると「うちは本店も合わせて4店舗あるんだけど、最近は本店の次に売上がいいんだよ。みんなが頑張ってくれてるおかげだ」
そう付け加えた。
葵が「へぇー…」と感心していると
「さぁ!それ飲んだらゲームしようか」
そう言って藤井が微笑んだ。
連れて行かれた部屋は広くはなかったが、対角線上に2台のゲームスペースがあり、やはり小洒落た部屋だった。
「はい、ここ座って」
藤井は葵を座らせると「せっかくだからパッドじゃなくてキーボードとマウスでやろう」
簡単な操作の説明をした。
高そうなパソコンを葵は感動しながら見ている。
フッとモニターのすぐ上の壁に写真が2枚飾られているのが目に入る。
1枚は綺麗な女性と藤井。
もう1枚は男性と2人のツーショット。
どちらの写真も仲良さそうに写っている。
「さあ、初めてどうぞ」
藤井に声を掛けられ早速ゲームをスタートする。
しばらくの間藤井は、目を輝かせてゲームに集中する葵を立って見ていたが
「あー!もう!マジ難しい」
葵の言葉に笑って、後ろからマウスを持つ葵の手を握った。
「あ…」
葵が緊張するのが手から伝わる。
息がかかりそうな程近くなる。
「ほら、ゲームに集中して」
藤井がそう言って葵の手ごとマウスを操作する。
今まで中々当たらなかったエイムが完璧に当たるようになる。
「すごっ…!」
葵が再びゲームに集中しだす。
「ゲーム機と違ってオートエイムじゃないから最初は中々当たらないかもね」
部屋の中にキーボードを打つ音が響き渡る。
何回かやると画面に見事Championの文字が光る。
「やった!!」
葵が本当に嬉しそうに言った。
「少し休もうか」
藤井も葵につられて笑顔になっている。
時計を見ると2時間近く経っていた。
リビングに戻ると藤井がケーキを持ってくる。
「はい、どうぞ」
フルーツとクリームがたっぷり乗ったタルトだ。
「いいんですか!?美味そう!」
早速スプーンを手にする葵に
「付き合ってる子がパティシエでね。葵くんの話をしたら、張り切って作ってたよ」
笑いながら言った。
「美味っ!!」
ひと口食べて葵が感嘆の声を上げる。「マジで美味いっす!」
そう言ってまたひと口食べると
「あ!モニターの横の写真の美人さんですか!?」
思い出したように言った。
「あぁー…彼女も付き合ってるんだけど…。そっちじゃなくて、もう1枚の方の写真見た?その子なんだよ」
藤井が少し困ったような笑顔で答えた。
ケーキを食べながら聞いていた葵の手が止まる。
スプーンを咥えたままケーキを見つめている。
確かに写真は2枚飾られていた。
1枚には髪の長い綺麗な女性。
もう1枚には藤井より少し若そうな優しそうな男性。
「こんなこと葵くんに話すのもどうかと思うんだけど…。僕は俗に言う『バイ・セクシャル』っていうやつらしい。女性しか愛せない訳じゃないし、男性だけが好きな訳でもない。性別を気にせず人を好きになってしまうんだよね」
藤井は自分のコーヒーに視線を落としたまま話している。
葵は咥えていたスプーンを口から出すとケーキをゆっくり飲み込んだ。
「気持ち悪いと思うかい?」
藤井が葵に視線を戻す。
「気持ち悪いとは思わないけど…」
葵が藤井を見つめ「鬼畜っすね」
そう言った。
「だって、要は二股かけてるってことですよね?」
葵が真っ直ぐ藤井の目を見てくる。
藤井は一瞬驚いたように目を丸くして、フッと笑顔になった。
「そっか…。えっと…僕達の関係は少し変わっていてね。2人ともお互いの存在を容認している。3人で食事をしたり、酒を飲むこともある」
藤井の説明を葵は黙って聞いている。
「僕と2人は個々に恋人と言う関係だけど、それは関係上の一部でしかないんだ。葵くんが美人と言ってくれた彼女は建築家でデザイナーでもある。彼女は仕事に僕の感性が役に立つと言っている。そこでは恋人同士ではなく、仕事のパートナーになる。逆に彼の仕事はパティシエで僕は仕事の役には立たないけど、家族がいない彼にとって僕は兄であり家族になる。2人とも僕を独占することを必要としていない。恋人だけど、友達でもありお互いの理解者でもある。……分かってもらえるかな?」
藤井の説明にまた俯き
「何となく…。大人ってすごいですね。…俺ならきっと…嫌だな…」
素直な感想を述べた。
「葵くんは本当良い子だね」
藤井が優しい笑顔で葵を見つめる「同性の恋人がいることより、そっちを突っ込まれるとは思わなかったよ」
葵は顔を上げると
「それは…別に…。好きになった人が同性だったってだけだから…。誰にも有り得ますよね?」
葵の質問に藤井が葵の瞳を真っ直ぐ見つめ
「…そうだね」
一言だけ返した。
「けど…、そんなプライベートな話…俺なんかにしちゃっていいんですか?」
葵は少し困ったような顔をした。
「何でかな…。葵くんになら解ってもらえると思ったんだよね」
藤井が再び微笑む。
「そうなんすか…?まぁ、藤井さんが実は二股かけるような人でも、俺は藤井さん尊敬してるし好きですけどね」
葵の言葉に一瞬目を見開いてから嬉しそうに微笑んだ。
「…ありがとう」
そう言うと「しかし…二股こだわるね」
と、苦笑いしたのだった。
バイトも3週間が経ち何とか慣れてきた。
「ありがとう。ねぇ、君、成瀬くんて言うの?」
1人の客が葵の名札を見て話しかけてきた。
「あ、はい」
葵が笑顔で返事をする。
「いくつ?」
もう1人の客も加わる。
「…16です」
「やだぁ!16歳だって!可愛い!」
葵は内心うんざりしていた。
バイトを初めて何回こんな会話をさせられたか分からない。
「ねぇ!ねぇ!連絡先教えて!ご飯奢ってあげる」
葵はわざわざ困ったように笑い
「俺、スマホ持ってないんです。親がうるさくて」
そう言うと『すみません、失礼します』とカウンターに戻った。
「お前…またナンパされてたろ?」
2つ年上の上原が面白くなさそうに見てくる。
葵はチラっと上原に視線を向け
「はぁ…まあ。上原さんもされたらいいじゃないですか」
と興味なさそうに答えた。
「こいつ…いつかぶっ飛ばす」
上原がふざけて葵を殴るフリをする。
「ほらほら!遊んでない!」
チーフが笑いながら注意する。
居心地も大分良くなり、葵の中でバイトも楽しみになりつつあった。
人見知りだが、慣れてしまえば人懐っこい性格がみんなに可愛いがられた。
「葵、今日2時までだよな?」
上原が客の切れ間に声をかける。
「そうっすね」
「その後ゲーセン行かね?俺も2時までだから」
上原の誘いに
「あ…、今日ちょっと予定があって…」
葵がすまなそうに答える。
「なんだよ!デートかよ!」
上原がからかうように肘でつついてくる。
「違いますよ。今日藤井さんちに遊びに行く予定で」
「藤井さんて…マネージャーの藤井さん?」
「はい。ゲームやらせてもらうことになってて。良かったら上原さんも行きます?」
葵の言葉に
「あー…俺はいいわ。マネージャーいい人だし嫌いって訳じゃないんだけど…。あの人の雰囲気って微妙に苦手なんだよね」
上原が困ったように頭を搔く。「ちょっと独特じゃん?」
「そうっすかね?」
葵は首を傾げる。
そう言われれば…確かに独特かもしれない。
中性的と言うか…。
「ま、楽しんでこいよ。次は付き合えよな」
そう言うと上原は仕事に戻っていった。
確かに今まで会ったことのないタイプだな…と葵が考えていると
「葵くん!こっちお願い」
チーフに呼ばれて慌てて仕事に頭を切り替えた。
葵は高層マンションの前に立っていた。
地図アプリで調べながら藤井の家へ向かっていたのだ。
「店からそう遠くないからすぐ分かるよ」
と藤井は言っていたが…。
着いてみたら店からも見える大きなマンションで
「こりゃ分かるわ…」
葵が呟いた。
605号室のインターフォンを押すと
「葵くん?」
藤井の声が聞こえる。
「あ…はい!」
初めてのオートロックのマンションに思わず声が大きくなる。
カチャっと音がすると
「どうぞ。入っておいで」
藤井が言った。
エレベーターに乗り6階まで上がる。
降りるとちょうど1つのドアが開き藤井が顔を出した。
「よく来たね。どうぞ」
「お邪魔します」
中に入るとまるで雑誌の中か、モデルルームの様なオシャレな部屋に葵は目を丸くした。
「めちゃくちゃオシャレっすね…」
全体的にグレーを基調に黒と白、それと赤がセンスの良さを醸し出していた。
「ああ…。付き合ってる子がインテリアとか好きでね。僕はさっぱりだよ」
藤井がソファーにかけるよう促す。「何か飲むかい?」
「あ…いただきます」
葵はまだキョロキョロしている。
「葵くんはインテリアとか興味あるの?」
キッチンから藤井が話し掛ける。
「いや、全くっすね。部屋はゲーム出来て寝られれば良いと思ってるんで」
藤井がキッチンで笑っている。
「僕も似たようなもんだよ」
言いながら飲み物を葵の前に置いた。「はい、どうぞ」
「わぁ…」
思わず感嘆の声を上げる。
「アイスココアで良かった?」
クリームがたっぷり乗っている。
「ありがとうございます!いただきます」
葵がスプーンでクリームを食べ始める。
「今日忙しかった?」
藤井がコーヒーを飲みながら話し掛ける。
「…そうっすね。結構忙しかったかな」
葵が口の中のクリームを飲み込むと答えた。
「そっか。お疲れ様だったね」
藤井がにっこり笑う。
「…自分の休みでも、店のこと気になりますか?」
葵の質問に
「そりゃ…。一応自分が任されてる店だからね。売上が悪くて閉店…なんてことになったら頑張ってくれてるみんなにも悪いしね」
そう答えると「うちは本店も合わせて4店舗あるんだけど、最近は本店の次に売上がいいんだよ。みんなが頑張ってくれてるおかげだ」
そう付け加えた。
葵が「へぇー…」と感心していると
「さぁ!それ飲んだらゲームしようか」
そう言って藤井が微笑んだ。
連れて行かれた部屋は広くはなかったが、対角線上に2台のゲームスペースがあり、やはり小洒落た部屋だった。
「はい、ここ座って」
藤井は葵を座らせると「せっかくだからパッドじゃなくてキーボードとマウスでやろう」
簡単な操作の説明をした。
高そうなパソコンを葵は感動しながら見ている。
フッとモニターのすぐ上の壁に写真が2枚飾られているのが目に入る。
1枚は綺麗な女性と藤井。
もう1枚は男性と2人のツーショット。
どちらの写真も仲良さそうに写っている。
「さあ、初めてどうぞ」
藤井に声を掛けられ早速ゲームをスタートする。
しばらくの間藤井は、目を輝かせてゲームに集中する葵を立って見ていたが
「あー!もう!マジ難しい」
葵の言葉に笑って、後ろからマウスを持つ葵の手を握った。
「あ…」
葵が緊張するのが手から伝わる。
息がかかりそうな程近くなる。
「ほら、ゲームに集中して」
藤井がそう言って葵の手ごとマウスを操作する。
今まで中々当たらなかったエイムが完璧に当たるようになる。
「すごっ…!」
葵が再びゲームに集中しだす。
「ゲーム機と違ってオートエイムじゃないから最初は中々当たらないかもね」
部屋の中にキーボードを打つ音が響き渡る。
何回かやると画面に見事Championの文字が光る。
「やった!!」
葵が本当に嬉しそうに言った。
「少し休もうか」
藤井も葵につられて笑顔になっている。
時計を見ると2時間近く経っていた。
リビングに戻ると藤井がケーキを持ってくる。
「はい、どうぞ」
フルーツとクリームがたっぷり乗ったタルトだ。
「いいんですか!?美味そう!」
早速スプーンを手にする葵に
「付き合ってる子がパティシエでね。葵くんの話をしたら、張り切って作ってたよ」
笑いながら言った。
「美味っ!!」
ひと口食べて葵が感嘆の声を上げる。「マジで美味いっす!」
そう言ってまたひと口食べると
「あ!モニターの横の写真の美人さんですか!?」
思い出したように言った。
「あぁー…彼女も付き合ってるんだけど…。そっちじゃなくて、もう1枚の方の写真見た?その子なんだよ」
藤井が少し困ったような笑顔で答えた。
ケーキを食べながら聞いていた葵の手が止まる。
スプーンを咥えたままケーキを見つめている。
確かに写真は2枚飾られていた。
1枚には髪の長い綺麗な女性。
もう1枚には藤井より少し若そうな優しそうな男性。
「こんなこと葵くんに話すのもどうかと思うんだけど…。僕は俗に言う『バイ・セクシャル』っていうやつらしい。女性しか愛せない訳じゃないし、男性だけが好きな訳でもない。性別を気にせず人を好きになってしまうんだよね」
藤井は自分のコーヒーに視線を落としたまま話している。
葵は咥えていたスプーンを口から出すとケーキをゆっくり飲み込んだ。
「気持ち悪いと思うかい?」
藤井が葵に視線を戻す。
「気持ち悪いとは思わないけど…」
葵が藤井を見つめ「鬼畜っすね」
そう言った。
「だって、要は二股かけてるってことですよね?」
葵が真っ直ぐ藤井の目を見てくる。
藤井は一瞬驚いたように目を丸くして、フッと笑顔になった。
「そっか…。えっと…僕達の関係は少し変わっていてね。2人ともお互いの存在を容認している。3人で食事をしたり、酒を飲むこともある」
藤井の説明を葵は黙って聞いている。
「僕と2人は個々に恋人と言う関係だけど、それは関係上の一部でしかないんだ。葵くんが美人と言ってくれた彼女は建築家でデザイナーでもある。彼女は仕事に僕の感性が役に立つと言っている。そこでは恋人同士ではなく、仕事のパートナーになる。逆に彼の仕事はパティシエで僕は仕事の役には立たないけど、家族がいない彼にとって僕は兄であり家族になる。2人とも僕を独占することを必要としていない。恋人だけど、友達でもありお互いの理解者でもある。……分かってもらえるかな?」
藤井の説明にまた俯き
「何となく…。大人ってすごいですね。…俺ならきっと…嫌だな…」
素直な感想を述べた。
「葵くんは本当良い子だね」
藤井が優しい笑顔で葵を見つめる「同性の恋人がいることより、そっちを突っ込まれるとは思わなかったよ」
葵は顔を上げると
「それは…別に…。好きになった人が同性だったってだけだから…。誰にも有り得ますよね?」
葵の質問に藤井が葵の瞳を真っ直ぐ見つめ
「…そうだね」
一言だけ返した。
「けど…、そんなプライベートな話…俺なんかにしちゃっていいんですか?」
葵は少し困ったような顔をした。
「何でかな…。葵くんになら解ってもらえると思ったんだよね」
藤井が再び微笑む。
「そうなんすか…?まぁ、藤井さんが実は二股かけるような人でも、俺は藤井さん尊敬してるし好きですけどね」
葵の言葉に一瞬目を見開いてから嬉しそうに微笑んだ。
「…ありがとう」
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