鳥籠の花

海花

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 バスを使わなくなって分かったコトは、朝にしろ帰りにしろ、道が混雑するこの時間帯は、そう急がなくても自転車の方が余程早く移動出来るという事。それに加え“抜け道”という車が通れないような細い道を使うことで、その時間が更に短縮出来るのだという事だ。
 哲太が通るその抜け道は、古い家やアパートが幾つも立ち並ぶちょっとした住宅街だったり、和志が見たことも無いような小さな店が並んでいたりと、和志の日常から余りにもかけ離れていて、最初“異空間“に迷い込んでしまったような気すらした。
 そして哲太と過ごすこの異空間の抜け道は、和志が唯一『本多和志』として偽らずに済む空間であった。
 
 “荷台”に進行方向とは逆に座り、和志は心地良さに目を閉じていた。
 僅かに触れている哲太の背中から伝わる体温が、嘘も緊張も溶かしていく。
 するといつもは止まらない場所で自転車がゆっくりと止まり、和志は不思議そうに哲太を振り返った。

「ちょっと寄り道してこうぜ」

 イタズラっぽく笑った笑顔に、和志は首を傾げながら荷台から降りた。
 バスの代わりに哲太の自転車で通うようになってから“寄り道”などしたことが無かったからだ。

「ママチャリだから……スピード出ねぇし、そんな時間ねぇけどさ」

 そう言いながら和志を乗せるために母から借りた自転車を停めると、古ぼけたベンチが置かれた、ドアもあるのか無いのか分からないような古びた小さな店へと哲太は入って行った。

「ばぁちゃん!お好み焼き大至急出来る!?」

 店の奥に親しげに声を掛ける哲太の背中から躊躇いながら覗くと、テレビや動画で見るような色とりどりの小さなお菓子が所狭しと幾つも並んでいる。そしてその奥には真ん中が大きく鉄板になった机がひとつ置かれているのが見える。

「……うゎ……すごい……」

 昭和の駄菓子屋がそのままタイツトリップしてきたような店内に、和志は思わず声を上げた。映像として見たことはあるが、『駄菓子屋』に入るのは初めてだ。
 子供の頃住んでいたアパートの近くにもの店は無かった。

「あれ、お兄ちゃん、久しぶりだねぇ」

 奥からひょいと顔を覗かせた人の良さそうな白髪の皺を深く刻ませた笑顔が、2人を出迎えた。

「豚玉2つ!大至急出来る!?」

「豚玉2つね、はいはい」

 にっこりと笑うと「よっこらしょ」と口にしながら椅子から立ち上がった腰の曲がったその姿が、昔見たアニメに出てくる「おばあさん」そのもので和志は目を丸くした。
 実際「よっこらしょ」と言いながら立ち上がる光景も初めて見た。

「……カンタのおばぁちゃんだ……」

 和志がぽつりと吐いた言葉に、哲太は目を丸くすると大声をあげて笑いだした。




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