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しおりを挟む学校の少し手前で哲太と別れると、和志はホームルームが終わり騷つく廊下を教室へ急いだ。
哲太が言った通り、バスを使うより大分早く着いた。
「そりゃそっか……あれだけ飛ばせば……」
そう口にすると和志の口角が無意識に上がった。
別れた場所に帰りも迎えに来ると言っていた哲太を思い出したのだ。
危険を伴うことは重々承知している。それなのに、会えば会うほど、同じ時間を過ごせば過ごすほど、離れたくなくなっていく。
「本多、珍しいな……遅刻か?」
教室から出てきた担任の木島とちょうど鉢合わせ、掛けられた声に和志は用意していたように、はにかみながら
「すみません……駅で、お腹の調子が悪くなってしまって……」
在り来りな言い訳を口にした。
「……そうか、もう大丈夫なのか?」
「はい。すみませんでした……」
「まぁ、授業に遅れた訳じゃない……気にするな。しかし次からはちゃんと連絡くらいしろよ」
大して関心なさそうに決まり文句を口にした木島に内心ホッとしながら、和志はもう一度頭を下げると教室に入っていった。
授業をサボり哲太と落ち合うより、余程上手くいくように思える。
───けど……哲太は授業遅れちゃったよな………
別れ際それを口にした和志に
「遅れない日のが少ないから心配すんな」
そう言って笑っていたが……。
窓際の自分の席に着くと、カバンの中の荷物を丁寧にしまいながら、ついニヤケている自分に気付き、誰にも見られていないのに照れ隠しからか和志は軽く咳払いをした。
学校が終わるのが楽しみだと思えるのは小学生以来だろうか。
秀行の待つ家に帰るのは変わらず気を重くさせたが、それでも哲太と会える時間へ思いを馳せずにはいられなかった。
───また会える───
そう思うだけで暗闇で足掻くような生活にも、僅かに光がさしていると思えるのだ。
例えそれが薄い皮膚で覆われた、決して出ることが出来ない泥中だったとしても。
和志の後ろ姿が教室に入るのを確認すると、木島は鼻歌交じりに職員室へと歩き始めた。
1時間目はちょうど空き時間になっている。それに放課後予定されていた会議は、担当教員が体調を崩したことで来週に延期になった。
「……今日はツイてるな」
職員室の自分の席に着くと、机からスマホを取り出しながら思わず本音が口を衝いて出る。
「木島先生、朝からご機嫌ですね」
すると傍から見ても分かるのか、スマホをいじる木島に隣の同僚が声を掛けた。
木島より二つ三つ歳下のソコソコ若い女教師だ。
「え?…あぁ……最近ちょいちょい臨時収入が入りましてね」
そう嬉しそうに口にすると、手にしていたスマホを机に置き
「どうですか?今晩飯でも……奢りますよ?」
そう言って木島はニヤッと笑った。
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