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第四章
「ケルークス」出張する
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「ユーリ、椅子とテーブルは並べ終わった。魔力の容器はどこにあったっけ?」
「二番って書いた木箱に入っているから!」
この日私は時の黄色の八レイヤという、今まで訪れたことのない場所にいた。
というのも「ケルークス」がこの場所で出張営業することになったからだ。
私に同行を命じたアイリスによれば、長老会議がカフェに興味を持ったらしく、存在界との接点が少ないこのレイヤで実験的な営業をしてくれと言ってきたそうだ。
相談所に併設されている本来の店舗についてはピア、クアン、シンさんに任せることにし、店長のユーリと調理担当の一体ブリスがこちらに出張している。
それだけでは準備や後片付けのメンバーが足りないということになり、アイリスと私が同行することになった。
相談所については副所長のハーウェックが中心になって留守を預かる。
「ケルークス」、相談所共に過去に何度も経験している体制だから問題はないはずだ。
敢えて言えば出張への同行者として私が選ばれたことがいまいち腑に落ちない。
それもアイリスが
「長老会議のお偉方が来るのだけど、存在界から取り寄せたものの説明を求められそうなのよ。説明できるとしたらユーリかアーベルだけど、ユーリは手が空かないと思うのよね」
と主張したからだ。
「ケルークス」のメニューで存在界のものは日本のものばかりだし、「ケルークス」とうちの相談所を合わせても、日本人だったのはユーリと私しかいない。
その意味ではアイリスの主張は妥当なものではあるので、私も素直に同行に応じざるを得なかった。だが、私は「ケルークス」の店員ではない。
「ブリス、フードの準備はできてる? そろそろ開店時刻だけど」
「問題ないぞ。待っている客はいるか?」
厨房━━といってもテントとテーブルがあるだけの場所だけど━━でユーリとブリスが最後の確認をしている。
基本店はこの二人で回すことになっている。
私もレジは担当するが、アイリスによれば長老会議のメンバーの相手が中心になるだろうとのことであった。
「はーい、出張『ケルークス』、今からオープンしまーす」
午前一一時、ユーリの声をきっかけにして営業が開始された。
近くで営業開始を待っていた十体ほどの精霊がぞろぞろと席に着いた。
用意したテーブルは八つ、席数は三二。
これは「ケルークス」本店の八割くらいの規模だ。
メニューは本店と同様、という訳にもいかないのでかなり絞り込んでいる。
目玉は存在界のフードで人気の柿の種、ポテチ、数量限定だが缶詰もある。
「アーベル、お願いっ! グラネトエールの樽を二つ厨房まで持ってきて」
ユーリが慌てた様子で私に頼み込んできた。
「わかった」
営業開始と同時に三分の一ほどの席が埋まったと思ったら、十分もしないうちに満席になった。
これらの客が一斉に注文したので、厨房が大混乱になったのだ。
「ケルークス」本店も満席になることはよくあるが、勝手が違う。
というのも本店の客は席に着いてから比較的注文に時間をかけるし、一度にまとまって何十人も来店するというケースが少ないからだ。
先が思いやられるな、と思っていたが混乱は長くは続かなかった。
ユーリとブリスはベテランだし、精霊は基本的にのんびりした性質の者が多い。
一度頼んだ品物が来てしまえば、追加注文までは時間がかかるし、席の回転もゆっくりだ。
レジの対応に私が入るまでもない。
「アーベル、こっちにきて話をしてもらえる?」
私がほっと息をついていると、アイリスから呼ばれた。
アイリスの向かいには長距離ランナーを彷彿させる小柄で無駄な肉が一切ない男性型の精霊が座っている。
「はい。何をお話すればよいでしょうか?」
私はアイリスに言われるままに彼女の隣に腰かけた。
「君がアーベル君か。私はノーデンス。ここで出てくる料理のことを知っているとアイリスから聞いたのでね、私に教えて欲しい」
ノーデンスと名乗った男性型の精霊が丁寧な口調で私に挨拶してきた。
アイリスがこそっと「ノーデンスは長老会議のメンバーだけど面倒なタイプじゃないから」と教えてくれた。
「はい、私がアーベルです。私にわかることであれば説明します」
「ありがとう。私は存在界に行ったことが無いので存在界から入手した書物でしか見たことがないのだが、『ケルークス』のような場は存在界では一般的なものなのだろうか?」
「……そうですね、ある程度の数の人間がまとまって住んでいる場所には必ずある施設ですし、よく利用されていると思います」
フードメニューのことを聞かれるとばかり思っていたので、正直ノーデンスの質問には面食らった。主語が大きすぎる。
「なるほど。アーベル君は存在界に住んでいたとき、このような施設をどのような目的で利用していたのだろうか?」
「ええと……目的は空腹や乾きを満たすためであったり、寒さや暑さから逃れるためであったり、時間調整であったり……」
飲食が娯楽でしかない精霊たちに人間がカフェを利用する目的を説明するのには苦労した。
飲食を楽しむ精霊は割合的に決して多くないそうだし、それ以外のカフェの利用目的に至っては精霊にない感覚のものが少なくなかったからだ。
しどろもどろになりながら何とか説明を終えるとノーデンスが次の質問を投げかけてきた。
「なるほど。精霊にはわからない感覚の目的もあるが……一体人間はどのくらいの頻度でこのような施設を利用するのか?」
「人によって差が大きいと思います。私は年に二、三度といったくらいでしたが、毎日という人もいますし、月に二、三度という人もいますね……」
「何と? 毎日通う者もいるというのか?!」
毎日通う、と聞いたところでノーデンスは驚きの声をあげた。
「割合としては多くないと思いますが……」
「そうか……もう少し詳しく聞かせて欲しい」
私の答えに興味を持ったのか、ノーデンスは次々に私に質問を投げかけてきた。
飲み物を二品、フードを三品追加して、これらをすべて空にしたところでようやく席を立ってくれた。
存在界の品物というより、私の専門外であるカフェに関する質問がほとんどだったので、申し訳ないが私もどっと疲れてしまった。あくまで精神的なものなのだけど。
「アーベル君、色々聞けて助かった。少し考えたいことがあったのでね。これで魂霊の移住が増えるとよいのだが……」
ノーデンスは私に礼を言って店を後にした。何か考えている様子だったが、我々にとって良いことであることを期待したい。
「そこにおるのはアイリスにアーベルじゃな? ちょうどよかった」
ノーデンスが店を出た後、ジーパン姿の頑固そうな老人が手を挙げてこちらに向かってきた。ローズルという長老会議に所属する精霊だ。
アイリスが「げっ!」と不快感を露わにした。
「ローズルさんもこちらをご利用ですか?」
「そうじゃ。存在界の食い物や飲み物を知るためにやってきた。アーベル、説明を頼むぞ」
先ほどまでノーデンスが座っていた席にローズルが腰を掛けた。
長老会議のお偉いさんなのでぞんざいに扱う訳にもいかないし、説明は私の担当だ。
「……わかりました」
「ローズル様、私は厨房を見てくるのでこれで失礼……」
「なんじゃ? 厨房ならブリスとユーリで十分じゃろう。それとも他に何かあるのか?」
「……ありません」
アイリスが席を立ってローズルから逃れようとしたが、ローズルはそれを許さなかった。
アイリスがローズルを避けようとするのは理解できる。とにかく話が長いからだ。
「……ふむ、このポテチというのは様々な味があるのじゃな。存在界での位置づけは我らにとってのマナのようなものなのか?」
「……どうでしょうね、マナは主食のイメージなのですが、ポテチはおやつ、という感じです。精霊の方にこの感覚が伝わるかどうか自信がないですが……」
食事に関する感覚は人間と精霊とで大きく異なる。
生命をつなぐための食事、というのが精霊には存在しないからだ。
そういう意味だと精霊界のマナも、存在界のポテチも「生命をつなぐための食事ではない」ということになりそうだが、マナとウケはどうしても主食のイメージが抜けきらない。
「楽しみのために食う、というやつか。理解したぞ。カキノタネもそうだが、ポテチも精霊には合う食べ物だのう。こちらで近いものを作れないだろうか?」
「……食感が近いものが見当たらないですね……」
存在界の食べ物を精霊界で再現しようというのは「ケルークス」でも試みていることなのだが、ネックが食材だ。
肉類や魚はそもそも存在しないし、炭水化物系はパンやケーキみたいな食感になるものばかりだ。
イモとか米の食感になるものには出会えていない。
「……不勉強じゃな。ポテチの方はマナを加工すれば同じような食感にできるはずじゃ。カキノタネは……ロトスの実を干したものを使ったらどうじゃ?」
「ロトス?」
ローズルに怒られてしまったが、知らないものは知らないので仕方ない。そもそも私は料理の専門家ではない。
「小さな赤い実を付ける木じゃ。黄色、赤、橙のレイヤによくあるものじゃ。知らんのか?」
「すみません、恐らく見たことがありません」
「……お前さんの住処は青緑で、職場は緑のレイヤか。無理もないか」
ローズルがやれやれと首を横に振った。こちらの住んでいる場所が原因のようなので、納得してくれたのか?
「……そういえばお前さんが資料館に入れるよう手配したが、行っておるのか?」
納得してくれたかと思ったら、ローズルが嫌なことを思い出してくれた。
前にリーゼと一緒に「ケルークス」を訪れたときに、昔の記録を見ることができるようローズルが手配してくれていたのだ。
「すみません、まだでして……」
リーゼを誘って行こうとは考えていたのだが、調べたいことがなかったのでまだ行っていなかったのだ。
「仕方のない奴じゃな……まあいい。宿題とは言わんが、カキノタネとポテチの作り方を研究するのじゃな」
「は、はあ……」
私は「精霊界移住相談所」の相談員であって、「ケルークス」の店員ではない。
ただ、これをユーリやブリスに研究してもらうのも何となく違うような気がする。
隣にいるアイリスをちらっと見ると、力なく首を横に振っていた。
諦めろ、ということらしい。
「まあ、あまり期待せんで待っておるわ。カッカッカッ」
ローズルが豪快に笑った。
とばっちりを受けた気分ではあるが、柿の種やポテチは私も嫌いじゃない。
精霊界でいつでも味わえるようになるならそれはそれでいいことだろう。
「そうですね、期待せずに待ってもらえると……」
私はそう答えて、誰と一緒に研究しようかと考えた。
気長に無理せず考えてみよう。
この日はこれ以上長老会議のメンバーなどから質問や宿題をねじ込まれることはなかった。
「ケルークス」の出張営業も評判が良く、予定より一時間早く営業を終了した。
持ってきた食べ物や飲み物が無くなったからだった。
「二番って書いた木箱に入っているから!」
この日私は時の黄色の八レイヤという、今まで訪れたことのない場所にいた。
というのも「ケルークス」がこの場所で出張営業することになったからだ。
私に同行を命じたアイリスによれば、長老会議がカフェに興味を持ったらしく、存在界との接点が少ないこのレイヤで実験的な営業をしてくれと言ってきたそうだ。
相談所に併設されている本来の店舗についてはピア、クアン、シンさんに任せることにし、店長のユーリと調理担当の一体ブリスがこちらに出張している。
それだけでは準備や後片付けのメンバーが足りないということになり、アイリスと私が同行することになった。
相談所については副所長のハーウェックが中心になって留守を預かる。
「ケルークス」、相談所共に過去に何度も経験している体制だから問題はないはずだ。
敢えて言えば出張への同行者として私が選ばれたことがいまいち腑に落ちない。
それもアイリスが
「長老会議のお偉方が来るのだけど、存在界から取り寄せたものの説明を求められそうなのよ。説明できるとしたらユーリかアーベルだけど、ユーリは手が空かないと思うのよね」
と主張したからだ。
「ケルークス」のメニューで存在界のものは日本のものばかりだし、「ケルークス」とうちの相談所を合わせても、日本人だったのはユーリと私しかいない。
その意味ではアイリスの主張は妥当なものではあるので、私も素直に同行に応じざるを得なかった。だが、私は「ケルークス」の店員ではない。
「ブリス、フードの準備はできてる? そろそろ開店時刻だけど」
「問題ないぞ。待っている客はいるか?」
厨房━━といってもテントとテーブルがあるだけの場所だけど━━でユーリとブリスが最後の確認をしている。
基本店はこの二人で回すことになっている。
私もレジは担当するが、アイリスによれば長老会議のメンバーの相手が中心になるだろうとのことであった。
「はーい、出張『ケルークス』、今からオープンしまーす」
午前一一時、ユーリの声をきっかけにして営業が開始された。
近くで営業開始を待っていた十体ほどの精霊がぞろぞろと席に着いた。
用意したテーブルは八つ、席数は三二。
これは「ケルークス」本店の八割くらいの規模だ。
メニューは本店と同様、という訳にもいかないのでかなり絞り込んでいる。
目玉は存在界のフードで人気の柿の種、ポテチ、数量限定だが缶詰もある。
「アーベル、お願いっ! グラネトエールの樽を二つ厨房まで持ってきて」
ユーリが慌てた様子で私に頼み込んできた。
「わかった」
営業開始と同時に三分の一ほどの席が埋まったと思ったら、十分もしないうちに満席になった。
これらの客が一斉に注文したので、厨房が大混乱になったのだ。
「ケルークス」本店も満席になることはよくあるが、勝手が違う。
というのも本店の客は席に着いてから比較的注文に時間をかけるし、一度にまとまって何十人も来店するというケースが少ないからだ。
先が思いやられるな、と思っていたが混乱は長くは続かなかった。
ユーリとブリスはベテランだし、精霊は基本的にのんびりした性質の者が多い。
一度頼んだ品物が来てしまえば、追加注文までは時間がかかるし、席の回転もゆっくりだ。
レジの対応に私が入るまでもない。
「アーベル、こっちにきて話をしてもらえる?」
私がほっと息をついていると、アイリスから呼ばれた。
アイリスの向かいには長距離ランナーを彷彿させる小柄で無駄な肉が一切ない男性型の精霊が座っている。
「はい。何をお話すればよいでしょうか?」
私はアイリスに言われるままに彼女の隣に腰かけた。
「君がアーベル君か。私はノーデンス。ここで出てくる料理のことを知っているとアイリスから聞いたのでね、私に教えて欲しい」
ノーデンスと名乗った男性型の精霊が丁寧な口調で私に挨拶してきた。
アイリスがこそっと「ノーデンスは長老会議のメンバーだけど面倒なタイプじゃないから」と教えてくれた。
「はい、私がアーベルです。私にわかることであれば説明します」
「ありがとう。私は存在界に行ったことが無いので存在界から入手した書物でしか見たことがないのだが、『ケルークス』のような場は存在界では一般的なものなのだろうか?」
「……そうですね、ある程度の数の人間がまとまって住んでいる場所には必ずある施設ですし、よく利用されていると思います」
フードメニューのことを聞かれるとばかり思っていたので、正直ノーデンスの質問には面食らった。主語が大きすぎる。
「なるほど。アーベル君は存在界に住んでいたとき、このような施設をどのような目的で利用していたのだろうか?」
「ええと……目的は空腹や乾きを満たすためであったり、寒さや暑さから逃れるためであったり、時間調整であったり……」
飲食が娯楽でしかない精霊たちに人間がカフェを利用する目的を説明するのには苦労した。
飲食を楽しむ精霊は割合的に決して多くないそうだし、それ以外のカフェの利用目的に至っては精霊にない感覚のものが少なくなかったからだ。
しどろもどろになりながら何とか説明を終えるとノーデンスが次の質問を投げかけてきた。
「なるほど。精霊にはわからない感覚の目的もあるが……一体人間はどのくらいの頻度でこのような施設を利用するのか?」
「人によって差が大きいと思います。私は年に二、三度といったくらいでしたが、毎日という人もいますし、月に二、三度という人もいますね……」
「何と? 毎日通う者もいるというのか?!」
毎日通う、と聞いたところでノーデンスは驚きの声をあげた。
「割合としては多くないと思いますが……」
「そうか……もう少し詳しく聞かせて欲しい」
私の答えに興味を持ったのか、ノーデンスは次々に私に質問を投げかけてきた。
飲み物を二品、フードを三品追加して、これらをすべて空にしたところでようやく席を立ってくれた。
存在界の品物というより、私の専門外であるカフェに関する質問がほとんどだったので、申し訳ないが私もどっと疲れてしまった。あくまで精神的なものなのだけど。
「アーベル君、色々聞けて助かった。少し考えたいことがあったのでね。これで魂霊の移住が増えるとよいのだが……」
ノーデンスは私に礼を言って店を後にした。何か考えている様子だったが、我々にとって良いことであることを期待したい。
「そこにおるのはアイリスにアーベルじゃな? ちょうどよかった」
ノーデンスが店を出た後、ジーパン姿の頑固そうな老人が手を挙げてこちらに向かってきた。ローズルという長老会議に所属する精霊だ。
アイリスが「げっ!」と不快感を露わにした。
「ローズルさんもこちらをご利用ですか?」
「そうじゃ。存在界の食い物や飲み物を知るためにやってきた。アーベル、説明を頼むぞ」
先ほどまでノーデンスが座っていた席にローズルが腰を掛けた。
長老会議のお偉いさんなのでぞんざいに扱う訳にもいかないし、説明は私の担当だ。
「……わかりました」
「ローズル様、私は厨房を見てくるのでこれで失礼……」
「なんじゃ? 厨房ならブリスとユーリで十分じゃろう。それとも他に何かあるのか?」
「……ありません」
アイリスが席を立ってローズルから逃れようとしたが、ローズルはそれを許さなかった。
アイリスがローズルを避けようとするのは理解できる。とにかく話が長いからだ。
「……ふむ、このポテチというのは様々な味があるのじゃな。存在界での位置づけは我らにとってのマナのようなものなのか?」
「……どうでしょうね、マナは主食のイメージなのですが、ポテチはおやつ、という感じです。精霊の方にこの感覚が伝わるかどうか自信がないですが……」
食事に関する感覚は人間と精霊とで大きく異なる。
生命をつなぐための食事、というのが精霊には存在しないからだ。
そういう意味だと精霊界のマナも、存在界のポテチも「生命をつなぐための食事ではない」ということになりそうだが、マナとウケはどうしても主食のイメージが抜けきらない。
「楽しみのために食う、というやつか。理解したぞ。カキノタネもそうだが、ポテチも精霊には合う食べ物だのう。こちらで近いものを作れないだろうか?」
「……食感が近いものが見当たらないですね……」
存在界の食べ物を精霊界で再現しようというのは「ケルークス」でも試みていることなのだが、ネックが食材だ。
肉類や魚はそもそも存在しないし、炭水化物系はパンやケーキみたいな食感になるものばかりだ。
イモとか米の食感になるものには出会えていない。
「……不勉強じゃな。ポテチの方はマナを加工すれば同じような食感にできるはずじゃ。カキノタネは……ロトスの実を干したものを使ったらどうじゃ?」
「ロトス?」
ローズルに怒られてしまったが、知らないものは知らないので仕方ない。そもそも私は料理の専門家ではない。
「小さな赤い実を付ける木じゃ。黄色、赤、橙のレイヤによくあるものじゃ。知らんのか?」
「すみません、恐らく見たことがありません」
「……お前さんの住処は青緑で、職場は緑のレイヤか。無理もないか」
ローズルがやれやれと首を横に振った。こちらの住んでいる場所が原因のようなので、納得してくれたのか?
「……そういえばお前さんが資料館に入れるよう手配したが、行っておるのか?」
納得してくれたかと思ったら、ローズルが嫌なことを思い出してくれた。
前にリーゼと一緒に「ケルークス」を訪れたときに、昔の記録を見ることができるようローズルが手配してくれていたのだ。
「すみません、まだでして……」
リーゼを誘って行こうとは考えていたのだが、調べたいことがなかったのでまだ行っていなかったのだ。
「仕方のない奴じゃな……まあいい。宿題とは言わんが、カキノタネとポテチの作り方を研究するのじゃな」
「は、はあ……」
私は「精霊界移住相談所」の相談員であって、「ケルークス」の店員ではない。
ただ、これをユーリやブリスに研究してもらうのも何となく違うような気がする。
隣にいるアイリスをちらっと見ると、力なく首を横に振っていた。
諦めろ、ということらしい。
「まあ、あまり期待せんで待っておるわ。カッカッカッ」
ローズルが豪快に笑った。
とばっちりを受けた気分ではあるが、柿の種やポテチは私も嫌いじゃない。
精霊界でいつでも味わえるようになるならそれはそれでいいことだろう。
「そうですね、期待せずに待ってもらえると……」
私はそう答えて、誰と一緒に研究しようかと考えた。
気長に無理せず考えてみよう。
この日はこれ以上長老会議のメンバーなどから質問や宿題をねじ込まれることはなかった。
「ケルークス」の出張営業も評判が良く、予定より一時間早く営業を終了した。
持ってきた食べ物や飲み物が無くなったからだった。
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