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第三章
こういう相談も……あるのです。精霊による事件 前編
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カーリンとリーゼの泉に積もった葉を掃除した二日後、私はカーリンお手製のアンブロシア酒を持って「ケルークス」へと出勤した。
樽を持って店内に入ると、満席に近い客の視線が私の手元に集まった。
「すみませーん、今納品されるアンブロシア酒は二週間後から提供ですからね。アンブロシア酒は少しだけ残っているので飲みたい方はお早めにー!」
ユーリがパンと手を叩いて、状況を説明した。
カーリンのアンブロシア酒が人気なのは知っていたが、今やここまで注目されているのか。
自分はほとんど何もしていないが、パートナーが褒められているので鼻が高い。
辛うじて私の指定席であるカウンターは空いていたので、そこに陣取ってアイスティーを注文した。
奥の席にアイリスの姿があるので、相談客は来ていないことがわかる。
他の相談員は……と店内を見回すと、ベネディクトがパートナーのメイヴと談笑している姿を見つけた。
飲んでいるのは……グラネトエールっぽいが、魂霊は酒に酔わないから相談員の仕事に支障はないだろう。
今回はプライベートで来店している可能性もあるが……
「アイリスはいるかの? ちょっと話を聞いてもらいたいのだが」
存在界側の入口から垂れた犬の耳を持つ男が入ってきて、アイリスを呼んだ。
確か存在界に行っているウーゴというトロールだ。よく見るとその背後には人間の若い女性の姿が見える。
「相談なら二階で受けるわ。ついてきて」
アイリスがすーっと階段を上がっていく。
ウーゴと若い女性は少しの間迷っていたが、うなずき合ってアイリスの後を追った。
「??」
精霊界への移住相談なら、アイリスは移住希望者だけと会う。
だが、いつまで経ってもウーゴが上から降りてこない。
「アーベル、上に来てくれないかしら」
「今行きます」
それどころか、ウーゴが応接室から出てくる前に私が呼び出された。
何か良くないことでも起きたのではないか、と考えながら私は階段を上がっていった。
「アーベルは知っているでしょう? 彼のパートナーにドライアドがいるから、聞いてみればわかるかもしれない」
応接室に入るや否や、アイリスが私を指差してそんなことを言い出した。何が起きたのか?
「あの……アーベルさん、ですか。実は私の彼が女の人に引っ張られて木の中に取り込まれちゃったんです! 彼を助けてください!」
ウーゴに連れられてきた女性が必死に訴えてきた。
「パートナーにその手の話に詳しいのがいるので、連れてきます」
「あ、私が念話で伝えるわ。アーベルはここに残って」
家にメラニーを呼びに行こうと扉の方に向かったところ、アイリスに止められた。
ドライアドの手によって木の中に男性が取り込まれる、という話は存在界では割とポピュラーなおとぎ話だが、今はそんなことをする精霊はいないと思う。
何かトラブルでもあったのだろうか?
「アーベル、アイリス、来たわよ!」
しばらくしてメラニーが応接室へとやってきた。人間だったら息を切らせているだろうが、精霊にはそのようなことはない。
アイリスが簡単に事情を説明した後、ウーゴに連れられてきた女性━━ゴトウさん、というそうだ━━が詳しい状況を話し始めた。
ゴトウさんによる一通りの状況説明が終わると、メラニーが次々に質問していった。
「貴女の彼が木の中に連れ込まれたのはいつ?」
「えっと……一昨日の夜です。彼の家に行っても戻った様子はなかったですし、仕事も無断で休んでいるみたいで……」
「連れ込まれた木を傷つけたりはしていない?」
「それはないです。木のところを通りかかったら、いきなり女の人が出てきて彼を引っ張っていったので」
「その木のある場所はよく行く場所なの?」
「ええ、駅から私の家に行く通り道にあるんです。彼はいつも家まで私を送ってくれるので……」
「彼が連れ込まれたとき、近くに他の人はいなかったの?」
「はい。あまり人通りの多い場所ではないので、多分他の人はいなかったと思います。騒ぎとかにもなっていないのでそうなのではないかと……」
「……木の中に彼を連れ込んだ女性は、貴方に何か言わなかった?」
「『このままだと貴女が持たないから、ちょっと待っていて』というようなことは言われました。かなり焦っているような感じでした」
「最近彼や貴女に知らない人が接触してくる、ということはなかった?」
「私にはありません。彼の方はちょっとわからないですけど」
メラニーは矢継ぎ早にゴトウさんに質問を浴びせ、次々に情報を引き出していく。
「最近彼の様子が変わった、というようなことはない? どんな小さなことでもいいから?」
「え、えっ? アレは……違うよね、多分……」
ゴトウさんが口ごもる。
「何でもいいからあったら教えて? 言いにくいことでもここのメンバーなら秘密は守るから!」
「……で、でも……」
「彼を取り戻すために必要な情報なの」
「は、はい……」
ゴトウさんは真っ赤になってうつむいている。
「……じ、実はっ! 最近、彼がすごくたくさん私を求めてくれるというか……普段はどちらかというと淡白な方だと思うのですけど……」
意を決してゴトウさんが話してくれた。確かに人間の感覚だと話しにくい内容かもしれない。
「いいことじゃない! 私たち精霊にとってはご褒美でしかないわ! 何かトラブルに巻き込まれていなければ、だけどね」
メラニーが何故かばーんと胸を張った。
「メラニー、今『ケルークス』から存在界に出張しているドライアドはティナ、シェリー、ルースの三体よ」
アイリスが何かに気付いたのだろう。メラニーにメモを差し出した。
「ここと彼女たちのいる場所がどのくらい離れているかわかる? 念話を飛ばしてみたいのだけど」
「『ケルークス』がここ。木の場所がこのあたり。出張しているドライアドの三体はこのあたりにいるはず……」
アイリスが地図を広げてそれぞれの場所を指し示した。
「さすがにここからじゃ念話は届かない、か。アーベル、アイリス! 私ちょっと存在界に行ってくる!」
メラニーが精神を集中して姿を変える。
背格好や髪の色などは変わらないが、服装がハイキング客のそれに変わった。
これが妖精化したメラニーの姿だ。彼女とは三〇年以上の付き合いになるが、妖精としての姿は初めて目にする。
「メラニー、存在界に行くにはまだ早いわ。まずはこれを使いなさい」
アイリスがすっと細長い板を差し出した。私が精霊界に移住する直前の時期にはスマートフォンと呼ばれていた代物だが、今は何というのだろうか?
「何これ? どう使うの?」
存在界の情報に詳しい (といっても偏りがあるが)リーゼならともかく、メラニーはスマートフォンなど見たこともないはずだ。当然使い方だって知らないだろう。
私も何十年かぶりになるので操作に自信はなかったが、カンで操作してみると思うように動かせることがわかった。
メラニーに操作方法を説明して、彼女にドライアドたちと連絡を取らせた。
「……うん、何もないならいいの。そのまま活動を続けてってアイリスが言ってるわ。じゃあね」
「そう。なら大丈夫ね。報告ありがとう」
ティナ、シェリーとは無事に連絡が取れた。彼女たちは事件には無関係だということがわかった。
「……出ないわね。留守電にメッセージだけ残しておくか」
最後にルースにかけてみたが、彼女だけ応答がない。
「他のドライアド、の可能性もあるけどルースが関わっている可能性が高そうね。メラニー、許可するから行ってきて。精霊界を嫌っている人間が見張っているから気を付けて!」
「わかったわ。行ってくる」
アイリスの許可を得てメラニーが立ち上がった。
「メラニー、気を付けて」
「うん、アーベル。任せて」
メラニーが力強くうなずいてくれた。
魂霊である私は存在界に行くことができないから待つことしかできない。
せめて彼女の無事を祈るとともに、目の前のゴトウさんが安心できるよう手を打つことにしよう。
※※
一時間ほど経過したがメラニーは戻ってこない。
私はゴトウさんを落ち着かせるため、といいつつ私自身を落ち着かせるためでもあるのだが、ゴトウさんと色々話をしていた。
相談客でない彼女を「ケルークス」に入れるわけにはいかないので、「ケルークス」から飲み物と菓子を持ってこさせた。 (代金は相談所が出してくれた)
アイリスは念話でどこかと連絡を取っているようだ。
何か言っているようだが口に出さないので、話の内容はわからない。
ゴトウさんの話を聞いているうちに、彼女の友人が精霊界への移住に興味を持っているらしいことがわかった。
ゴトウさんは与太話の類かと疑っていたそうだが、目の前で彼氏が行方知れずになり、こうして精霊に連れられて精霊界の一部を垣間見てようやく精霊の存在を信じることができたと話してくれた。
彼女自身や付き合っている彼氏には精霊界への移住に興味はないとのことだったが。
「それにしても遅いですね……」
ゴトウさんが時計に目をやった。
「このあたりまでいかないと念話が届かないはず。メラニーの足でも往復一時間くらいはかかるわ」
アイリスが地図で説明してくれた。
メラニーはハイキングコースを山頂の方に向けて進んでいるようだ。ここから一番近い展望台が目的地となる。
「もう少し待ちましょう。メラニーならここには戻ってこられるでしょうから」
彼女が傷ついたりするのは私も嫌だが、精霊には「死」がない。
存在界でダメージを受けたとしても、強制的にこのあたりに戻されてくる。
どこかに監禁されたとしても戻ってくる手段だけはあるのだ。
結論から言うと、メラニーは出発してから二時間弱で戻ってきた。
息を切らせていたのは、存在界に行くので妖精化したためだ。彼女は存在界の活動に慣れていないので仕方ない。
死ぬことはないと知っていても無事でよかったと胸を撫で下ろした。
「やっぱりルースが関係していたわ! 落ち着いて聞いて」
呼吸を落ち着かせたメラニーが、ゴトウさんにそう告げた。
樽を持って店内に入ると、満席に近い客の視線が私の手元に集まった。
「すみませーん、今納品されるアンブロシア酒は二週間後から提供ですからね。アンブロシア酒は少しだけ残っているので飲みたい方はお早めにー!」
ユーリがパンと手を叩いて、状況を説明した。
カーリンのアンブロシア酒が人気なのは知っていたが、今やここまで注目されているのか。
自分はほとんど何もしていないが、パートナーが褒められているので鼻が高い。
辛うじて私の指定席であるカウンターは空いていたので、そこに陣取ってアイスティーを注文した。
奥の席にアイリスの姿があるので、相談客は来ていないことがわかる。
他の相談員は……と店内を見回すと、ベネディクトがパートナーのメイヴと談笑している姿を見つけた。
飲んでいるのは……グラネトエールっぽいが、魂霊は酒に酔わないから相談員の仕事に支障はないだろう。
今回はプライベートで来店している可能性もあるが……
「アイリスはいるかの? ちょっと話を聞いてもらいたいのだが」
存在界側の入口から垂れた犬の耳を持つ男が入ってきて、アイリスを呼んだ。
確か存在界に行っているウーゴというトロールだ。よく見るとその背後には人間の若い女性の姿が見える。
「相談なら二階で受けるわ。ついてきて」
アイリスがすーっと階段を上がっていく。
ウーゴと若い女性は少しの間迷っていたが、うなずき合ってアイリスの後を追った。
「??」
精霊界への移住相談なら、アイリスは移住希望者だけと会う。
だが、いつまで経ってもウーゴが上から降りてこない。
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「今行きます」
それどころか、ウーゴが応接室から出てくる前に私が呼び出された。
何か良くないことでも起きたのではないか、と考えながら私は階段を上がっていった。
「アーベルは知っているでしょう? 彼のパートナーにドライアドがいるから、聞いてみればわかるかもしれない」
応接室に入るや否や、アイリスが私を指差してそんなことを言い出した。何が起きたのか?
「あの……アーベルさん、ですか。実は私の彼が女の人に引っ張られて木の中に取り込まれちゃったんです! 彼を助けてください!」
ウーゴに連れられてきた女性が必死に訴えてきた。
「パートナーにその手の話に詳しいのがいるので、連れてきます」
「あ、私が念話で伝えるわ。アーベルはここに残って」
家にメラニーを呼びに行こうと扉の方に向かったところ、アイリスに止められた。
ドライアドの手によって木の中に男性が取り込まれる、という話は存在界では割とポピュラーなおとぎ話だが、今はそんなことをする精霊はいないと思う。
何かトラブルでもあったのだろうか?
「アーベル、アイリス、来たわよ!」
しばらくしてメラニーが応接室へとやってきた。人間だったら息を切らせているだろうが、精霊にはそのようなことはない。
アイリスが簡単に事情を説明した後、ウーゴに連れられてきた女性━━ゴトウさん、というそうだ━━が詳しい状況を話し始めた。
ゴトウさんによる一通りの状況説明が終わると、メラニーが次々に質問していった。
「貴女の彼が木の中に連れ込まれたのはいつ?」
「えっと……一昨日の夜です。彼の家に行っても戻った様子はなかったですし、仕事も無断で休んでいるみたいで……」
「連れ込まれた木を傷つけたりはしていない?」
「それはないです。木のところを通りかかったら、いきなり女の人が出てきて彼を引っ張っていったので」
「その木のある場所はよく行く場所なの?」
「ええ、駅から私の家に行く通り道にあるんです。彼はいつも家まで私を送ってくれるので……」
「彼が連れ込まれたとき、近くに他の人はいなかったの?」
「はい。あまり人通りの多い場所ではないので、多分他の人はいなかったと思います。騒ぎとかにもなっていないのでそうなのではないかと……」
「……木の中に彼を連れ込んだ女性は、貴方に何か言わなかった?」
「『このままだと貴女が持たないから、ちょっと待っていて』というようなことは言われました。かなり焦っているような感じでした」
「最近彼や貴女に知らない人が接触してくる、ということはなかった?」
「私にはありません。彼の方はちょっとわからないですけど」
メラニーは矢継ぎ早にゴトウさんに質問を浴びせ、次々に情報を引き出していく。
「最近彼の様子が変わった、というようなことはない? どんな小さなことでもいいから?」
「え、えっ? アレは……違うよね、多分……」
ゴトウさんが口ごもる。
「何でもいいからあったら教えて? 言いにくいことでもここのメンバーなら秘密は守るから!」
「……で、でも……」
「彼を取り戻すために必要な情報なの」
「は、はい……」
ゴトウさんは真っ赤になってうつむいている。
「……じ、実はっ! 最近、彼がすごくたくさん私を求めてくれるというか……普段はどちらかというと淡白な方だと思うのですけど……」
意を決してゴトウさんが話してくれた。確かに人間の感覚だと話しにくい内容かもしれない。
「いいことじゃない! 私たち精霊にとってはご褒美でしかないわ! 何かトラブルに巻き込まれていなければ、だけどね」
メラニーが何故かばーんと胸を張った。
「メラニー、今『ケルークス』から存在界に出張しているドライアドはティナ、シェリー、ルースの三体よ」
アイリスが何かに気付いたのだろう。メラニーにメモを差し出した。
「ここと彼女たちのいる場所がどのくらい離れているかわかる? 念話を飛ばしてみたいのだけど」
「『ケルークス』がここ。木の場所がこのあたり。出張しているドライアドの三体はこのあたりにいるはず……」
アイリスが地図を広げてそれぞれの場所を指し示した。
「さすがにここからじゃ念話は届かない、か。アーベル、アイリス! 私ちょっと存在界に行ってくる!」
メラニーが精神を集中して姿を変える。
背格好や髪の色などは変わらないが、服装がハイキング客のそれに変わった。
これが妖精化したメラニーの姿だ。彼女とは三〇年以上の付き合いになるが、妖精としての姿は初めて目にする。
「メラニー、存在界に行くにはまだ早いわ。まずはこれを使いなさい」
アイリスがすっと細長い板を差し出した。私が精霊界に移住する直前の時期にはスマートフォンと呼ばれていた代物だが、今は何というのだろうか?
「何これ? どう使うの?」
存在界の情報に詳しい (といっても偏りがあるが)リーゼならともかく、メラニーはスマートフォンなど見たこともないはずだ。当然使い方だって知らないだろう。
私も何十年かぶりになるので操作に自信はなかったが、カンで操作してみると思うように動かせることがわかった。
メラニーに操作方法を説明して、彼女にドライアドたちと連絡を取らせた。
「……うん、何もないならいいの。そのまま活動を続けてってアイリスが言ってるわ。じゃあね」
「そう。なら大丈夫ね。報告ありがとう」
ティナ、シェリーとは無事に連絡が取れた。彼女たちは事件には無関係だということがわかった。
「……出ないわね。留守電にメッセージだけ残しておくか」
最後にルースにかけてみたが、彼女だけ応答がない。
「他のドライアド、の可能性もあるけどルースが関わっている可能性が高そうね。メラニー、許可するから行ってきて。精霊界を嫌っている人間が見張っているから気を付けて!」
「わかったわ。行ってくる」
アイリスの許可を得てメラニーが立ち上がった。
「メラニー、気を付けて」
「うん、アーベル。任せて」
メラニーが力強くうなずいてくれた。
魂霊である私は存在界に行くことができないから待つことしかできない。
せめて彼女の無事を祈るとともに、目の前のゴトウさんが安心できるよう手を打つことにしよう。
※※
一時間ほど経過したがメラニーは戻ってこない。
私はゴトウさんを落ち着かせるため、といいつつ私自身を落ち着かせるためでもあるのだが、ゴトウさんと色々話をしていた。
相談客でない彼女を「ケルークス」に入れるわけにはいかないので、「ケルークス」から飲み物と菓子を持ってこさせた。 (代金は相談所が出してくれた)
アイリスは念話でどこかと連絡を取っているようだ。
何か言っているようだが口に出さないので、話の内容はわからない。
ゴトウさんの話を聞いているうちに、彼女の友人が精霊界への移住に興味を持っているらしいことがわかった。
ゴトウさんは与太話の類かと疑っていたそうだが、目の前で彼氏が行方知れずになり、こうして精霊に連れられて精霊界の一部を垣間見てようやく精霊の存在を信じることができたと話してくれた。
彼女自身や付き合っている彼氏には精霊界への移住に興味はないとのことだったが。
「それにしても遅いですね……」
ゴトウさんが時計に目をやった。
「このあたりまでいかないと念話が届かないはず。メラニーの足でも往復一時間くらいはかかるわ」
アイリスが地図で説明してくれた。
メラニーはハイキングコースを山頂の方に向けて進んでいるようだ。ここから一番近い展望台が目的地となる。
「もう少し待ちましょう。メラニーならここには戻ってこられるでしょうから」
彼女が傷ついたりするのは私も嫌だが、精霊には「死」がない。
存在界でダメージを受けたとしても、強制的にこのあたりに戻されてくる。
どこかに監禁されたとしても戻ってくる手段だけはあるのだ。
結論から言うと、メラニーは出発してから二時間弱で戻ってきた。
息を切らせていたのは、存在界に行くので妖精化したためだ。彼女は存在界の活動に慣れていないので仕方ない。
死ぬことはないと知っていても無事でよかったと胸を撫で下ろした。
「やっぱりルースが関係していたわ! 落ち着いて聞いて」
呼吸を落ち着かせたメラニーが、ゴトウさんにそう告げた。
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