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第二章
私(アーベル)の最初の契約 前編
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ある日私が「ケルークス」に出勤すると、奥にある指定席でノートパソコンを広げたアイリスと画面を覗き込むユーリの姿があった。
この日はカーリンお手製のアンブロシア酒の納品も兼ねていたので、私は樽をカウンターに置き、ブリスに受け入れを頼んだ。
店内を見回したところ、他に客は二組いるが、アイリス以外の相談員の姿はない。
相談員もそろそろ増やした方がいいのではないかと思うのだが、なり手を確保するのも楽ではないようだ。
「あれ、アーベル。ちょうどよかった。ちょっとお願いしたいことがあるのだけど……」
変にニヤついた顔でアイリスが私を手招きした。
「ちょ、ちょっと!」
ユーリが一瞬アイリスを止めようと腕を引っ張ったが、何故か途中で止めてしまった。
「?? 何でしょうか?」
「ほら、ユーリもそろそろ契約する相手を決めないとならないでしょう? その参考にアーベルが最初に契約を決めたときのことを教えてあげたいのよ」
「あ、アーベルっ! イヤならいいけど……」
何か妙な理由であるが、契約の経緯は相談員としてよく受ける質問ではある。
別にユーリなら問題ないだろう。
「ユーリは存在界で活動しているメンバーと一番多く話をするから、相談員がよく受けるような質問については知っておいてもらいたいのよ」
所長がそういうのであれば、私に断るつもりはない。
「別にいいですよ。ユーリなら信頼していますし」
「……し、信頼って……あ、そうだ! アーベルは飲み物何にする?」
「今日はホットコーヒーをお願いするよ」
ユーリはオーダーを取ると、パタパタと厨房へと引き上げてしまった。
少ししてユーリがタイマーとコーヒーのポットをトレーに乗せて運んできた。
「はい、これ。話はアイリスのテーブルで聞くから、問題ないかアーベルも付き合って」
今は相談客もいないことだし、私は素直にユーリの言葉に従った。
「アーベルの最初の記録はこれになるわね。説明は私がするけど、何か気になることがあったらアーベルはいつでもツッコんでいいから」
「はいはい」
━━何十年か前━━
「アーベル、契約相手の候補が見つかったのだけどどう?」
私が精霊界に移住して二年ほど過ぎたある日、アイリスに声をかけられた。
当時「精霊界移住相談所」の中にカフェ「ケルークス」はなく、一階の半分は相談員の控室として使われていた。
残りの半分は契約相手が見つかっていない魂霊が生活する場所となっていた。
私も移住してからずっとこの場所で暮らしてきたのだ。
移住して何ヶ月か後にアイリスから相談員に任命されたので、一応相談員の仕事をしながら、という形になる。
「相手のことを知りたいです。情報を見せてもらえないでしょうか?」
「もちろん。で、相手は二体。姉妹なのだけど契約するのなら二体一緒が条件になるわ」
二体同時に契約、というところで大丈夫だろうか? という気分になった。
姉妹とはいえ、扱いを誤ったら揉めることになりそうだし、そうなったら私に対処できるとは思えなかったからだ。
私は一人暮らしが長く、実家を出る前の未成年の時代を除けば他の誰かと生活を共にしたことがない。
「何か気になることでもある?」
「ええ、何せ家ではずっと一人だったので、知らず知らずのうちに相手の機嫌を損ねたりしないか心配なのですよね……」
「もう! 何度も聞いているけど、アーベルの性格なら大丈夫よ。むしろ相手がアーベルを離さないから心配しなさんな」
アイリスの言葉はどうも信用しがたいのだが、相手の情報も知らずに断るのは何か違うと思う。
アイリスから二体に関する情報が書かれた書類を受け取って内容を確認する。
相手候補は二体とも池や泉などを司るニンフという流れのない (正確には「流れが少ない」らしい)水属性の精霊だ。
画像で見る限り、二体とも二〇歳かその少し前くらいの外見だ。
姉妹ということもあるためか顔はそっくりで、私には髪型でしか区別がつかなかった。
どちらも私と釣り合いそうもない、水色の少し癖のある髪をした可愛らしい女性だ。
「伝えておくことがあるけど、お姉さんの方が溢壊しているの。だからあまり余裕がある状況ではないことは理解して」
なるほど、溢壊しているということはすぐにでも契約者が必要だ。
「妹さんの方は特に記述がないけど……」
「妹さんは『揺らいで』いるけど、今のところ溢壊はしていない。ただ、将来的にはわからないわね……」
この姉妹は一緒に暮らしているそうなので、姉が溢壊している以上、妹の状態が悪くなる可能性が高いのだそうだ。
青緑の水の二レイヤに住んでいるらしいので、相談所の近くだ。
「会ってみましょう。セッティングをお願いできますか?」
「もちろん」
私は選り好みができるような者ではないし、向こうからお断りされる可能性もある。
少なくともこちらから断る理由はないはずだ。
通常は書類を渡す時点で相談所内に相手が待機しているのだが、この二体は近所に住んでいるので、住処に待機しているらしい。
そのため、こちらにやってくるまでには少し時間があるようだ。
アイリスが二体を連れてくるまでの間、私は書類を読み込んだ。
姉の方に「酒造りが趣味」という記述があり、目を惹かれた。
おしゃべりとか遊びの趣味を持つ精霊は少なくないが、もの造りを趣味にしているのは珍しい。
妹の方は特に趣味についての記載がないので、対照的だ。
姉の方の希望には「お酒造りを一緒に楽しめる方だと尚よいです」と書かれていた。
私は酒を造ったことはないが、面白そうだとは思った。
妹の方は姉と比較して情報が少ない。
その点は気になるが、会えばわかることもあるだろう。
「アーベル、連れてきたわよ」
アイリスの背後に二体の精霊の姿があった。書類にあった姿と同じではあるが、想像したより小柄だ。
「アーベルと言います。よろしくお願いします」
「か、カーリンですっ! お、お願いしますっ!」
「……リーゼです……」
ぎこちない挨拶の後、顔合わせが開始された。
「カーリンさん、お酒造りが趣味とありましたが、精霊界でのお酒造りはどのようにして行われるのでしょうか?」
「……」
「お姉ちゃん、お酒造りのやり方を知りたいって」
「あ、それは……」
姉だというカーリンはどこか会話に集中できていないようで、反応が鈍かったり、素っ頓狂な答えを返すことが少なくなかった。
妹のリーゼの方は必要最低限以外の話はしない性質らしく、口数が少ない。
カーリンは溢壊しているというので精神的に不安定なことは覚悟していた。
ただ、ここまで反応が鈍いと、私で対処できるか不安にはなってくる。
下世話な話で申し訳ないが、少なくとも外見や所作は二体とも非常に魅力的な女性だ。
姉のカーリンは外見的には程よく活発に見える。
水色のウエーブのかかった髪をショートボブにしているが、気が強いタイプではなさそうだ。
私は運動ができる気さくな優等生といったイメージを持った。
表情が沈んだり急にテンションが上がったりで不安定なのは、溢壊の影響だろう。
妹のリーゼは姉と比べると少し小柄で、その代わり髪は長めだ。
髪の先の方を束ねて、左肩側に垂らしている。
表情の変化は少ないが、私の方を興味深そうに見ているので、もしかしたら好奇心が強いのかもしれない。
口数が少ないので、何を考えているかはよくわからないのだが。
「……という手順になるのですけど……」
「魔術で造るのか……私のような魂霊は使えないみたいだけど、手伝うとしたら材料を切るとか、樽を運ぶとかになるのだろうか?」
「あ、その……もし契約できたら、お話しして考えたいと言いますか……」
さすがに質問が細かすぎたようだ。
一般的な精霊は私のような魂霊に何ができて何ができないのか、といったような知識はあまり持っていないらしい。
「そういうのはいいですね。正直申し訳ないけど、私はあまり気が利くタイプではないから色々話してくれた方が助かる」
「は、はい。そういうのは助かります……」
カーリンの目が泳いでいる。やはり溢壊の影響なのか精神的に安定していない。
「お姉ちゃん、もうちょっとアピールした方がいいです」
隣のリーゼがカーリンの服の袖を引っ張って小声で耳打ちした。
その内容は私にも聞こえてしまっているのだが……
カーリンとリーゼの様子を見て、私は契約してよいものかどうか見当がつかずにいた。
姉のカーリンは溢壊の影響のためか、精神的に安定していないところがあるが、会話は成立している。
私から見て魅力的に見えるし、向こうがいいと言ってくれるのであれば「揺らぎ」も抑える方向に持っていけるのではないかと思う。
妹のリーゼは私に直接話しかけることがほとんどないので、どう考えているかちょっとわからない。
契約はあくまで二体いっしょが条件だから、カーリンだけでなくリーゼが首を縦に振らなければ成立しない。
その一方で私はリーゼが全くと言っていいほどわからないので、契約してよいものかどうか迷っていたのだ。
「その……妹さん、リーゼからは私に質問などはあるだろうか?」
「私、ですか……?」
私がリーゼに声をかけると、リーゼは不思議そうな表情で私を見た。
「そう。私からは聞いてみたいことがあるのだが、いいだろうか?」
「……はい、どうぞ」
リーゼは目をぱちくりさせながらうなずいた。
「もし私と契約したとして、リーゼがしたいことはあるだろうか?」
「……」
リーゼはカーリンの方をちらりと見てから、考えるそぶりを見せた。
「悪いけどそろそろ時間ね。アーベル、どうする?」
アイリスが割り込んできて話を止めた。
この時点でなら私の答えは一つしかない。
「近いうちにもう一度話をさせてください。もう少し彼女たちのことを知りたい」
「カーリン、リーゼ、それでいいかしら?」
「「(コクリ)」」
カーリンとリーゼは力なくうなずいた。
アイリスが二体を住処まで送った後、カーリンの状態が限界に近づいていることをアイリスから知らされた。
「このまま話を続けたら、カーリンがまた溢壊しそうだったから止めたわ。次回はカーリンが落ち着いたらセットするからそれまで待って」
「わかりました」
カーリンが落ち着くまで時間を要したため、二度目の顔合わせは初回から二週間ほど後になった。
この日はカーリンお手製のアンブロシア酒の納品も兼ねていたので、私は樽をカウンターに置き、ブリスに受け入れを頼んだ。
店内を見回したところ、他に客は二組いるが、アイリス以外の相談員の姿はない。
相談員もそろそろ増やした方がいいのではないかと思うのだが、なり手を確保するのも楽ではないようだ。
「あれ、アーベル。ちょうどよかった。ちょっとお願いしたいことがあるのだけど……」
変にニヤついた顔でアイリスが私を手招きした。
「ちょ、ちょっと!」
ユーリが一瞬アイリスを止めようと腕を引っ張ったが、何故か途中で止めてしまった。
「?? 何でしょうか?」
「ほら、ユーリもそろそろ契約する相手を決めないとならないでしょう? その参考にアーベルが最初に契約を決めたときのことを教えてあげたいのよ」
「あ、アーベルっ! イヤならいいけど……」
何か妙な理由であるが、契約の経緯は相談員としてよく受ける質問ではある。
別にユーリなら問題ないだろう。
「ユーリは存在界で活動しているメンバーと一番多く話をするから、相談員がよく受けるような質問については知っておいてもらいたいのよ」
所長がそういうのであれば、私に断るつもりはない。
「別にいいですよ。ユーリなら信頼していますし」
「……し、信頼って……あ、そうだ! アーベルは飲み物何にする?」
「今日はホットコーヒーをお願いするよ」
ユーリはオーダーを取ると、パタパタと厨房へと引き上げてしまった。
少ししてユーリがタイマーとコーヒーのポットをトレーに乗せて運んできた。
「はい、これ。話はアイリスのテーブルで聞くから、問題ないかアーベルも付き合って」
今は相談客もいないことだし、私は素直にユーリの言葉に従った。
「アーベルの最初の記録はこれになるわね。説明は私がするけど、何か気になることがあったらアーベルはいつでもツッコんでいいから」
「はいはい」
━━何十年か前━━
「アーベル、契約相手の候補が見つかったのだけどどう?」
私が精霊界に移住して二年ほど過ぎたある日、アイリスに声をかけられた。
当時「精霊界移住相談所」の中にカフェ「ケルークス」はなく、一階の半分は相談員の控室として使われていた。
残りの半分は契約相手が見つかっていない魂霊が生活する場所となっていた。
私も移住してからずっとこの場所で暮らしてきたのだ。
移住して何ヶ月か後にアイリスから相談員に任命されたので、一応相談員の仕事をしながら、という形になる。
「相手のことを知りたいです。情報を見せてもらえないでしょうか?」
「もちろん。で、相手は二体。姉妹なのだけど契約するのなら二体一緒が条件になるわ」
二体同時に契約、というところで大丈夫だろうか? という気分になった。
姉妹とはいえ、扱いを誤ったら揉めることになりそうだし、そうなったら私に対処できるとは思えなかったからだ。
私は一人暮らしが長く、実家を出る前の未成年の時代を除けば他の誰かと生活を共にしたことがない。
「何か気になることでもある?」
「ええ、何せ家ではずっと一人だったので、知らず知らずのうちに相手の機嫌を損ねたりしないか心配なのですよね……」
「もう! 何度も聞いているけど、アーベルの性格なら大丈夫よ。むしろ相手がアーベルを離さないから心配しなさんな」
アイリスの言葉はどうも信用しがたいのだが、相手の情報も知らずに断るのは何か違うと思う。
アイリスから二体に関する情報が書かれた書類を受け取って内容を確認する。
相手候補は二体とも池や泉などを司るニンフという流れのない (正確には「流れが少ない」らしい)水属性の精霊だ。
画像で見る限り、二体とも二〇歳かその少し前くらいの外見だ。
姉妹ということもあるためか顔はそっくりで、私には髪型でしか区別がつかなかった。
どちらも私と釣り合いそうもない、水色の少し癖のある髪をした可愛らしい女性だ。
「伝えておくことがあるけど、お姉さんの方が溢壊しているの。だからあまり余裕がある状況ではないことは理解して」
なるほど、溢壊しているということはすぐにでも契約者が必要だ。
「妹さんの方は特に記述がないけど……」
「妹さんは『揺らいで』いるけど、今のところ溢壊はしていない。ただ、将来的にはわからないわね……」
この姉妹は一緒に暮らしているそうなので、姉が溢壊している以上、妹の状態が悪くなる可能性が高いのだそうだ。
青緑の水の二レイヤに住んでいるらしいので、相談所の近くだ。
「会ってみましょう。セッティングをお願いできますか?」
「もちろん」
私は選り好みができるような者ではないし、向こうからお断りされる可能性もある。
少なくともこちらから断る理由はないはずだ。
通常は書類を渡す時点で相談所内に相手が待機しているのだが、この二体は近所に住んでいるので、住処に待機しているらしい。
そのため、こちらにやってくるまでには少し時間があるようだ。
アイリスが二体を連れてくるまでの間、私は書類を読み込んだ。
姉の方に「酒造りが趣味」という記述があり、目を惹かれた。
おしゃべりとか遊びの趣味を持つ精霊は少なくないが、もの造りを趣味にしているのは珍しい。
妹の方は特に趣味についての記載がないので、対照的だ。
姉の方の希望には「お酒造りを一緒に楽しめる方だと尚よいです」と書かれていた。
私は酒を造ったことはないが、面白そうだとは思った。
妹の方は姉と比較して情報が少ない。
その点は気になるが、会えばわかることもあるだろう。
「アーベル、連れてきたわよ」
アイリスの背後に二体の精霊の姿があった。書類にあった姿と同じではあるが、想像したより小柄だ。
「アーベルと言います。よろしくお願いします」
「か、カーリンですっ! お、お願いしますっ!」
「……リーゼです……」
ぎこちない挨拶の後、顔合わせが開始された。
「カーリンさん、お酒造りが趣味とありましたが、精霊界でのお酒造りはどのようにして行われるのでしょうか?」
「……」
「お姉ちゃん、お酒造りのやり方を知りたいって」
「あ、それは……」
姉だというカーリンはどこか会話に集中できていないようで、反応が鈍かったり、素っ頓狂な答えを返すことが少なくなかった。
妹のリーゼの方は必要最低限以外の話はしない性質らしく、口数が少ない。
カーリンは溢壊しているというので精神的に不安定なことは覚悟していた。
ただ、ここまで反応が鈍いと、私で対処できるか不安にはなってくる。
下世話な話で申し訳ないが、少なくとも外見や所作は二体とも非常に魅力的な女性だ。
姉のカーリンは外見的には程よく活発に見える。
水色のウエーブのかかった髪をショートボブにしているが、気が強いタイプではなさそうだ。
私は運動ができる気さくな優等生といったイメージを持った。
表情が沈んだり急にテンションが上がったりで不安定なのは、溢壊の影響だろう。
妹のリーゼは姉と比べると少し小柄で、その代わり髪は長めだ。
髪の先の方を束ねて、左肩側に垂らしている。
表情の変化は少ないが、私の方を興味深そうに見ているので、もしかしたら好奇心が強いのかもしれない。
口数が少ないので、何を考えているかはよくわからないのだが。
「……という手順になるのですけど……」
「魔術で造るのか……私のような魂霊は使えないみたいだけど、手伝うとしたら材料を切るとか、樽を運ぶとかになるのだろうか?」
「あ、その……もし契約できたら、お話しして考えたいと言いますか……」
さすがに質問が細かすぎたようだ。
一般的な精霊は私のような魂霊に何ができて何ができないのか、といったような知識はあまり持っていないらしい。
「そういうのはいいですね。正直申し訳ないけど、私はあまり気が利くタイプではないから色々話してくれた方が助かる」
「は、はい。そういうのは助かります……」
カーリンの目が泳いでいる。やはり溢壊の影響なのか精神的に安定していない。
「お姉ちゃん、もうちょっとアピールした方がいいです」
隣のリーゼがカーリンの服の袖を引っ張って小声で耳打ちした。
その内容は私にも聞こえてしまっているのだが……
カーリンとリーゼの様子を見て、私は契約してよいものかどうか見当がつかずにいた。
姉のカーリンは溢壊の影響のためか、精神的に安定していないところがあるが、会話は成立している。
私から見て魅力的に見えるし、向こうがいいと言ってくれるのであれば「揺らぎ」も抑える方向に持っていけるのではないかと思う。
妹のリーゼは私に直接話しかけることがほとんどないので、どう考えているかちょっとわからない。
契約はあくまで二体いっしょが条件だから、カーリンだけでなくリーゼが首を縦に振らなければ成立しない。
その一方で私はリーゼが全くと言っていいほどわからないので、契約してよいものかどうか迷っていたのだ。
「その……妹さん、リーゼからは私に質問などはあるだろうか?」
「私、ですか……?」
私がリーゼに声をかけると、リーゼは不思議そうな表情で私を見た。
「そう。私からは聞いてみたいことがあるのだが、いいだろうか?」
「……はい、どうぞ」
リーゼは目をぱちくりさせながらうなずいた。
「もし私と契約したとして、リーゼがしたいことはあるだろうか?」
「……」
リーゼはカーリンの方をちらりと見てから、考えるそぶりを見せた。
「悪いけどそろそろ時間ね。アーベル、どうする?」
アイリスが割り込んできて話を止めた。
この時点でなら私の答えは一つしかない。
「近いうちにもう一度話をさせてください。もう少し彼女たちのことを知りたい」
「カーリン、リーゼ、それでいいかしら?」
「「(コクリ)」」
カーリンとリーゼは力なくうなずいた。
アイリスが二体を住処まで送った後、カーリンの状態が限界に近づいていることをアイリスから知らされた。
「このまま話を続けたら、カーリンがまた溢壊しそうだったから止めたわ。次回はカーリンが落ち着いたらセットするからそれまで待って」
「わかりました」
カーリンが落ち着くまで時間を要したため、二度目の顔合わせは初回から二週間ほど後になった。
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