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第二章
「ケルークス」とは
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「アーベルっ! 今日出勤だよね? 一緒に行こう!」
「海の家」の視察の三日後、私は家のリビングでパートナーのメラニーから声をかけられた。
「わかった。カーリンが納品の準備をしているから、それが終わってからになるよ」
特に断る理由もないし、メラニーとは最近コミュニケーションが少ない気がしていたから好都合だ。
今日はカーリンお手製のアンブロシア酒の納品を兼ねた出勤なので、その準備ができるのを待ってから出発することになる。
「アーベルさん、準備できましたー」
作業場の方からカーリンの声が聞こえてきた。
「ありがとう。今行く」
「じゃ、私も」
メラニーががっしりと私の左腕を抱えるように抱き着いた。私の左腕は彼女の定位置だ。
「じゃ、行ってくるよ」
「アーベルさん、右手だけで三樽持つのは無理がないですか?」
「カーリン、私が一つ持つわよ」
「……仕方ないですね……」
カーリンも私について行きたかったのだろうが、作業場の後片付けがあるので諦めたようだ。
一樽をメラニーが持って、残りの二樽は私が持った。
一〇分ほど歩いて相談所の建物に到着した。
「ケルークス」の店内に入ると中にはアイリス、ユーリ、コレットの姿があった。
私とメラニーは納品するアンブロシア酒をカウンターに置いた。
「メラニー、頼むわね」
奥に座っていたアイリスがメラニーの姿に気付いて声をかけてきた。
「任せておきなさい、ってね」
メラニーが腕まくりして外へと出ていった。
彼女は樹木を司るドライアドである。
ここ「精霊界移住相談所」の建物周辺の樹木の面倒を見ているのも彼女なのだ。
「ふあぁぁぁ。アーベル、来たんだ」
私が座っているカウンターの近くのテーブルに突っ伏したままのコレットが話しかけてきた。
顔を上げようともしないが、これは珍しいことではない。
いつも眠そうにしているのがコレットだからだ。
「他の相談員は来ていないようだな。相談客は来たのか?」
「二人来たけど~、私は呼ばれてないよ~」
「二人とも初めての相談だったのよ」
コレットが答えた後、アイリスがジロリを私を見た。
私に聞きなさいよ、と言いたいのだろう。
だが、私としてはコレットが本格的に寝ないように声をかけただけなのだ。
しばらく相談客が来る気配はなさそうだし、こういうときは雑談でもして暇をつぶすに限る。
相談客が近づいて来れば外にいるメラニーが気付いて知らせてくれるはずだ。
「存在界での広報活動は最近どんな感じなんです?」
雑談としてはこのあたりが無難だろう。「ケルークス」の新メニューの件などを話したら、ユーリがパンクしそうだ。
「あまり変わりないわね。メンバーが足りないから、『揺らぎ』防止のためにクサーファーあたりに行かせてみようかしら」
「……それ、大騒ぎになりませんか?」
アイリスはご機嫌斜めなのか、かなり物騒な発言をしている。
私が相談客の状況をコレットに尋ねたことがそれほど気に入らなかったのだろうか?
「アイリス、デュラハンを存在界に行かせたらどうなるのかしら?」
トレー片手にユーリがこちらにやってきた。
何故、アイリスのところに行かずに私? と思ったのだが、その理由はすぐに判明した。
タイマーを私のところに置いて、注文を取ろうとしたからだ。
そういえば、まだ何も頼んでいなかったな。
「どうなるって、あのままよ。さすがに甲冑はマズいから向こうの服に着替えてもらうけど」
「あのままって、首と胴体は離れたままですか?」
私はデュラハンであるクサーファーが甲冑と兜を脱いだ姿を想像したが、どう考えてもすんなり存在界に受け入れられるとは思えなかった。
「そりゃそうよ。自分の頭を自分で持つのがデュラハンだもの。妖精になったところで変わるわけないじゃない」
「「……」」
ユーリと私は顔を見合わせて首を横に振った。
「……ユーリ、注文はアイスコーヒーで。ところでアイリスに何かあったのか?」
「了解。よくわからないけど、今朝からずっとあんな感じなのよ……」
アイリスに聞こえないよう、私とユーリは小声でやり取りした。
アイリスは私情を仕事に持ち込むタイプではないと思うので、相談業務への影響はないと思う。
だが、この状況は気にかかる。彼女は理由もなく機嫌を損ねるような精霊ではない。
「さすがに首を持った男がうろついていたら、警察を呼ばれそうですし、いろいろ調べられて面倒なことになりませんか?」
「……否定はできないわね。さすがに何かのアトラクションに出演させるしかできないか、ふぅ」
アイリスがため息をついた。
その直後、相談員用の扉が開いて険しい顔をしたメラニーが中に入ってきた。
「様子見てきたわよ」
そう言って私の隣の席に腰かけた。
「アーベルぅ、私も注文いい?」
メラニーが甘えた声で尋ねてきたが、彼女に注文させないなどという選択肢は私にはないし、私に許可を求めるようなことでもない。
そう伝えるとメラニーは私と同じアイスコーヒーを注文した。
「メラニー、何か報告がある、ということね?」
アイリスが背筋を伸ばしてメラニーに問うてきた。スイッチが入ったようだ。
「この辺の子たちは無事。だけど、気になることを言っている子がいるの」
「気になること? 話して」
アイリスは私とユーリにも話を聞くように目配せした。寝ていると思われるコレットについては諦めているのだろう。
「どうもこのあたりをウロウロしている人間がいるみたいなの。建物には近寄らないと言っていたから、相談を迷っている人間なのか、それ以外の理由かよくわからないのだけど……」
メラニーは樹木とのコミュニケーションが取れる。
今日は建物周辺の樹木に異常が無いか確認に来たのだが、その際に樹木から聞き出したのだ。
「相談に来るかどうか迷って建物の周辺をウロウロする人間はいるけど、建物に近づかないのはヘンね……」
アイリスの表情が険しくなった。
「確かに、監視されているとかだと厄介だと思います」
建物に近づかないとなると、建物に近づく人間を監視している可能性もある。
精霊界への移住に良くない感情を持っている人間がやっているとしたら、相談客が相談に来にくくなる可能性がある。
「リーダーの子に『建物の周りを監視するとか、周辺を調べる人間を見たらアイリスに報告して』とは伝えたわ」
「わかったわ。私も周りには注意する」
メラニーの言葉にアイリスが真剣な面持ちでうなずいた。
「メラニー……リーダーの木ってどの木なの?」
ユーリが恐る恐るといった様子で尋ねた。何かあったのだろうか?
「存在界側の入口の近くにある一番背の高いウバメガシだけど? ユーリ、どうかした?」
「やばっ! 看板どけてくるっ!」
「ユーリ、待ちなよ」
慌てて階段の方に走ろうとしたユーリの服の襟をメラニーが引っ張った。
「ゴメンっ! あの木に看板かけちゃったのよ! 周りを見てもらうのなら邪魔になるかと思って」
ユーリがメラニーの前で手を合わせた。
「それなら大丈夫。むしろ店の看板を見えなくして申し訳ない、って謝っていたくらいだから」
そもそもユーリがウバメガシの木に看板をかけたのは、この木の枝が伸びて「ケルークス」の看板が見にくくなったからだ。
そのため、ユーリは新しい看板を作って存在界側から見やすい木の幹に看板をぶら下げたのだ。
「そうよ。看板に自分の名前があるって鼻歌歌っていたから大丈夫じゃない?」
アイリスがユーリの慌てっぷりをからかうように言った。
「そ、それならいいけど……」
「ウバメガシの木は看板の文字を読めるのですか? ウバメガシの視界がよくわからないのですが……」
私は率直な疑問を口にした。
そもそも木はどういう視界を持っているのだろうか?
「アーベルぅ。木は周りの様子を『感じ取って』いるんだよ。看板の文字も感じ取れるの」
メラニーが説明してくれたが、何となくわかったようなわからないような……
「『ケルークス』で理解できちゃうの? 確かに店名はあのウバメガシからなのだけど……」
ユーリは困惑している。
「ケルークス」も開店してからずいぶん経つが、私は店名を決めるときにひと悶着あったのを思い出していた。
※※
「ケルークス」の店名はユーリの発案だ。
建物の前の大きなウバメガシはいい目印だからだ。
当初、彼女は店名を「クエルクス」と読まそうとしていた。
もともとはウバメガシが属するコナラ属を意味する英語の「Quercus」が由来らしいのだが、私は英語に疎いのでよくわからなかった。
精霊界には英和辞典もないのだ。
ユーリは「クエルクス」を主張していたのだけど、英語のできるエリシアとフランシスに発音してもらうとちょっと違う。
エリシアやフランシスの発音では、私などは「カーカス」としか聞こえなかった。
アイリスに至っては「カラスが鳴いているみたいで気が抜ける」と言い放ち、「別の店名にしない?」とまで言い出す始末だった。
「……『ケルークス』ならどうですか?」
悩んだユーリは「ケルークス」という店名を考えたのだ。英字表記はそのままで。
もとの発音とは全然違うけど、私は悪くないと思った。
「クエルクスよりはイメージしやすいからいいんじゃない?」
アイリスもあっさりユーリの案を受け入れた。
精霊にとっては「クエルクス」よりも「ケルークス」の方が馴染みやすいという説明もしてくれたが、どうしてそうなるのか私やユーリにはよくわからなかった。
エリシアやフランシスも同じだったと思う。
「じゃ、『ケルークス』で。店の運営はユーリに任せるから。必要なものがあれば私に声をかけて」
アイリスのこのひと声で、店名とユーリの店長への就任が決定した。
※※
「あのウバメガシは『ケルークス』を自分の名前だと思っているのかぁ。なら店をこの名前にして良かったかな?」
ユーリがメラニーに尋ねた。
「良かったと思うよ。枝が伸びたのもご機嫌だからだしね」
「そっか。ありがとう」
ユーリがトレー片手に軽い足取りで厨房へと引き上げていった。
「……」
指定席である奥の席に戻ったアイリスが何かつぶやいたが、私には何を言っているか聞き取れなかった。
やはり、建物の周辺をウロウロしている人間が気になるのだろう。
「ケルークス」の移転が必要になるような事態にならないと良いのだが。
「海の家」の視察の三日後、私は家のリビングでパートナーのメラニーから声をかけられた。
「わかった。カーリンが納品の準備をしているから、それが終わってからになるよ」
特に断る理由もないし、メラニーとは最近コミュニケーションが少ない気がしていたから好都合だ。
今日はカーリンお手製のアンブロシア酒の納品を兼ねた出勤なので、その準備ができるのを待ってから出発することになる。
「アーベルさん、準備できましたー」
作業場の方からカーリンの声が聞こえてきた。
「ありがとう。今行く」
「じゃ、私も」
メラニーががっしりと私の左腕を抱えるように抱き着いた。私の左腕は彼女の定位置だ。
「じゃ、行ってくるよ」
「アーベルさん、右手だけで三樽持つのは無理がないですか?」
「カーリン、私が一つ持つわよ」
「……仕方ないですね……」
カーリンも私について行きたかったのだろうが、作業場の後片付けがあるので諦めたようだ。
一樽をメラニーが持って、残りの二樽は私が持った。
一〇分ほど歩いて相談所の建物に到着した。
「ケルークス」の店内に入ると中にはアイリス、ユーリ、コレットの姿があった。
私とメラニーは納品するアンブロシア酒をカウンターに置いた。
「メラニー、頼むわね」
奥に座っていたアイリスがメラニーの姿に気付いて声をかけてきた。
「任せておきなさい、ってね」
メラニーが腕まくりして外へと出ていった。
彼女は樹木を司るドライアドである。
ここ「精霊界移住相談所」の建物周辺の樹木の面倒を見ているのも彼女なのだ。
「ふあぁぁぁ。アーベル、来たんだ」
私が座っているカウンターの近くのテーブルに突っ伏したままのコレットが話しかけてきた。
顔を上げようともしないが、これは珍しいことではない。
いつも眠そうにしているのがコレットだからだ。
「他の相談員は来ていないようだな。相談客は来たのか?」
「二人来たけど~、私は呼ばれてないよ~」
「二人とも初めての相談だったのよ」
コレットが答えた後、アイリスがジロリを私を見た。
私に聞きなさいよ、と言いたいのだろう。
だが、私としてはコレットが本格的に寝ないように声をかけただけなのだ。
しばらく相談客が来る気配はなさそうだし、こういうときは雑談でもして暇をつぶすに限る。
相談客が近づいて来れば外にいるメラニーが気付いて知らせてくれるはずだ。
「存在界での広報活動は最近どんな感じなんです?」
雑談としてはこのあたりが無難だろう。「ケルークス」の新メニューの件などを話したら、ユーリがパンクしそうだ。
「あまり変わりないわね。メンバーが足りないから、『揺らぎ』防止のためにクサーファーあたりに行かせてみようかしら」
「……それ、大騒ぎになりませんか?」
アイリスはご機嫌斜めなのか、かなり物騒な発言をしている。
私が相談客の状況をコレットに尋ねたことがそれほど気に入らなかったのだろうか?
「アイリス、デュラハンを存在界に行かせたらどうなるのかしら?」
トレー片手にユーリがこちらにやってきた。
何故、アイリスのところに行かずに私? と思ったのだが、その理由はすぐに判明した。
タイマーを私のところに置いて、注文を取ろうとしたからだ。
そういえば、まだ何も頼んでいなかったな。
「どうなるって、あのままよ。さすがに甲冑はマズいから向こうの服に着替えてもらうけど」
「あのままって、首と胴体は離れたままですか?」
私はデュラハンであるクサーファーが甲冑と兜を脱いだ姿を想像したが、どう考えてもすんなり存在界に受け入れられるとは思えなかった。
「そりゃそうよ。自分の頭を自分で持つのがデュラハンだもの。妖精になったところで変わるわけないじゃない」
「「……」」
ユーリと私は顔を見合わせて首を横に振った。
「……ユーリ、注文はアイスコーヒーで。ところでアイリスに何かあったのか?」
「了解。よくわからないけど、今朝からずっとあんな感じなのよ……」
アイリスに聞こえないよう、私とユーリは小声でやり取りした。
アイリスは私情を仕事に持ち込むタイプではないと思うので、相談業務への影響はないと思う。
だが、この状況は気にかかる。彼女は理由もなく機嫌を損ねるような精霊ではない。
「さすがに首を持った男がうろついていたら、警察を呼ばれそうですし、いろいろ調べられて面倒なことになりませんか?」
「……否定はできないわね。さすがに何かのアトラクションに出演させるしかできないか、ふぅ」
アイリスがため息をついた。
その直後、相談員用の扉が開いて険しい顔をしたメラニーが中に入ってきた。
「様子見てきたわよ」
そう言って私の隣の席に腰かけた。
「アーベルぅ、私も注文いい?」
メラニーが甘えた声で尋ねてきたが、彼女に注文させないなどという選択肢は私にはないし、私に許可を求めるようなことでもない。
そう伝えるとメラニーは私と同じアイスコーヒーを注文した。
「メラニー、何か報告がある、ということね?」
アイリスが背筋を伸ばしてメラニーに問うてきた。スイッチが入ったようだ。
「この辺の子たちは無事。だけど、気になることを言っている子がいるの」
「気になること? 話して」
アイリスは私とユーリにも話を聞くように目配せした。寝ていると思われるコレットについては諦めているのだろう。
「どうもこのあたりをウロウロしている人間がいるみたいなの。建物には近寄らないと言っていたから、相談を迷っている人間なのか、それ以外の理由かよくわからないのだけど……」
メラニーは樹木とのコミュニケーションが取れる。
今日は建物周辺の樹木に異常が無いか確認に来たのだが、その際に樹木から聞き出したのだ。
「相談に来るかどうか迷って建物の周辺をウロウロする人間はいるけど、建物に近づかないのはヘンね……」
アイリスの表情が険しくなった。
「確かに、監視されているとかだと厄介だと思います」
建物に近づかないとなると、建物に近づく人間を監視している可能性もある。
精霊界への移住に良くない感情を持っている人間がやっているとしたら、相談客が相談に来にくくなる可能性がある。
「リーダーの子に『建物の周りを監視するとか、周辺を調べる人間を見たらアイリスに報告して』とは伝えたわ」
「わかったわ。私も周りには注意する」
メラニーの言葉にアイリスが真剣な面持ちでうなずいた。
「メラニー……リーダーの木ってどの木なの?」
ユーリが恐る恐るといった様子で尋ねた。何かあったのだろうか?
「存在界側の入口の近くにある一番背の高いウバメガシだけど? ユーリ、どうかした?」
「やばっ! 看板どけてくるっ!」
「ユーリ、待ちなよ」
慌てて階段の方に走ろうとしたユーリの服の襟をメラニーが引っ張った。
「ゴメンっ! あの木に看板かけちゃったのよ! 周りを見てもらうのなら邪魔になるかと思って」
ユーリがメラニーの前で手を合わせた。
「それなら大丈夫。むしろ店の看板を見えなくして申し訳ない、って謝っていたくらいだから」
そもそもユーリがウバメガシの木に看板をかけたのは、この木の枝が伸びて「ケルークス」の看板が見にくくなったからだ。
そのため、ユーリは新しい看板を作って存在界側から見やすい木の幹に看板をぶら下げたのだ。
「そうよ。看板に自分の名前があるって鼻歌歌っていたから大丈夫じゃない?」
アイリスがユーリの慌てっぷりをからかうように言った。
「そ、それならいいけど……」
「ウバメガシの木は看板の文字を読めるのですか? ウバメガシの視界がよくわからないのですが……」
私は率直な疑問を口にした。
そもそも木はどういう視界を持っているのだろうか?
「アーベルぅ。木は周りの様子を『感じ取って』いるんだよ。看板の文字も感じ取れるの」
メラニーが説明してくれたが、何となくわかったようなわからないような……
「『ケルークス』で理解できちゃうの? 確かに店名はあのウバメガシからなのだけど……」
ユーリは困惑している。
「ケルークス」も開店してからずいぶん経つが、私は店名を決めるときにひと悶着あったのを思い出していた。
※※
「ケルークス」の店名はユーリの発案だ。
建物の前の大きなウバメガシはいい目印だからだ。
当初、彼女は店名を「クエルクス」と読まそうとしていた。
もともとはウバメガシが属するコナラ属を意味する英語の「Quercus」が由来らしいのだが、私は英語に疎いのでよくわからなかった。
精霊界には英和辞典もないのだ。
ユーリは「クエルクス」を主張していたのだけど、英語のできるエリシアとフランシスに発音してもらうとちょっと違う。
エリシアやフランシスの発音では、私などは「カーカス」としか聞こえなかった。
アイリスに至っては「カラスが鳴いているみたいで気が抜ける」と言い放ち、「別の店名にしない?」とまで言い出す始末だった。
「……『ケルークス』ならどうですか?」
悩んだユーリは「ケルークス」という店名を考えたのだ。英字表記はそのままで。
もとの発音とは全然違うけど、私は悪くないと思った。
「クエルクスよりはイメージしやすいからいいんじゃない?」
アイリスもあっさりユーリの案を受け入れた。
精霊にとっては「クエルクス」よりも「ケルークス」の方が馴染みやすいという説明もしてくれたが、どうしてそうなるのか私やユーリにはよくわからなかった。
エリシアやフランシスも同じだったと思う。
「じゃ、『ケルークス』で。店の運営はユーリに任せるから。必要なものがあれば私に声をかけて」
アイリスのこのひと声で、店名とユーリの店長への就任が決定した。
※※
「あのウバメガシは『ケルークス』を自分の名前だと思っているのかぁ。なら店をこの名前にして良かったかな?」
ユーリがメラニーに尋ねた。
「良かったと思うよ。枝が伸びたのもご機嫌だからだしね」
「そっか。ありがとう」
ユーリがトレー片手に軽い足取りで厨房へと引き上げていった。
「……」
指定席である奥の席に戻ったアイリスが何かつぶやいたが、私には何を言っているか聞き取れなかった。
やはり、建物の周辺をウロウロしている人間が気になるのだろう。
「ケルークス」の移転が必要になるような事態にならないと良いのだが。
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