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第九章
422:「東部探索隊」、「はじまりの丘」を発つ
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ロビーとセスの二人が「はじまりの丘」の上にあるウォーリー・トワの墓の前にたたずんでいる。
ロビーがふとセスのほうに目をやると、セスはポケットから記録ディスクと写真を取り出してそれを見つめていた。
これらのものはセスが兄に対する手がかりとして持っていたすべてだった。
この二つからスタートし、セスは兄にたどり着いた。
不幸にも生きている兄と直接会うことは叶わなかったが、それでもモニタを通して会話ができたことは大きな収穫であるはずだ。
ウォーリー・トワは、セス・クルスという弟と名乗る存在を知ってこの世を去ったのだから……
ロビーの視線に気づいたのか、セスは慌てて記録ディスクと写真をポケットに隠した。
ふと、セスがつぶやく。
「モリタはこなかったね……」
そのことについてはロビーも腹を立てている。
セスや自分自身に対する裏切りではないか?
問題はモリタの残留をレイカが求めた、という点だ。
それがなければモリタを一、二発ぶん殴っているところなのだ。
レイカがモリタの残留を求めた意図はロビーにはわからない。
ただ、突拍子もなさそうなことをして他人をあっと言わせるのは彼女の常套手段である。
何か深い意味があって、敢えてモリタだけを残した可能性もある。
「メルツ室長が何か考えているのかも知れねえな。
モリタが来ても文句ばかり言っているような気もするから、室長がそれをまずいと考えたのかも知れねえな……」
そう考えれば納得がいく、とロビーは思う。
今回の道は果てしなく厳しいものとなるだろう。
モリタが文句を言ったり弱音を吐いたりすると、隊全体の士気に関わる。
それを見越したレイカが先手を打ったのかもしれない。
レイカは突拍子もないことをするだけでなはく、細やかな気遣いもできる女性だ。
むしろ今回は後者の方に重きを置いているのかもしれない。
「……そうかもしれないね。
どう考えても僕と同じくらい、モリタは山歩きには向いていないからね……」
セスの目は遥か遠くを見つめているようであった。
翌日、八月二〇日の朝、「はじまりの丘」付近は快晴に恵まれていた。
「じゃ、行ってくるからな。ユニヴァースのおっさん、セスを頼むわ」
ロビーが挨拶とともに見送りに出てきたユニヴァースの肩を叩いた。
ユニヴァースは迷惑そうな表情で、ジロリとロビーに視線を向けた。
アイネスがユニヴァースと交渉し、ユニヴァースの館に補給物資とセスを預かることを承知してもらった。
ユニヴァースは迷惑そうな顔を隠そうともしなかったが、本を読むのに邪魔にならなければ、という条件でしぶしぶ受け入れたようである。
見送りに出てきたユニヴァースは、ロビーの挨拶を聞くとさっさと部屋に戻ってしまったが、ロビーは敢えてそのことに文句を言うつもりはなかった。
肝心なところでは必ず動く人物だ、ということを知っていたからである。
セスがこの地で倒れた際、ユニヴァースはセスの様子を窺いにやってきたのだ。
異変があれば彼は必ず動く、という確信がロビーにはある。
「じゃ、クルス君、行ってくるからね。大人しく待っているのよ」
セスの向かいで中腰になったオオイダが猫なで声で言った。
そして人差し指でセスの頬をつつく。
セスは苦笑しながらも、
「オオイダさんも気をつけて行ってきてくださいね」
と健気に答えた。
「オオイダ、何やっているのよ! クルス君が嫌がっているじゃないの!」
カネサキがオオイダの襟首を引っ張って、セスから離れさせる。
セスは助かったとばかりに、大きく息をついた。
「ま、私たちお姉さん組にまかせておきなさい」
カネサキがセスの頭を軽く叩いた。
「『お姉さん』、ってあんた三十路のおばさんじゃない」
オオイダは口を尖らせている。
「私は『とぉえんてぃ? ず』ってクルス君から言われているものね。永遠のお姉さんよ」
カネサキの拠りどころは、セスが命名した彼女たちのチーム名らしい。
コナカは、
「じゃ、行ってくるから。クルス君も身体に気をつけてね」
と穏やかに声をかけた。
アイネスとホンゴウは無言でセスに握手を求めた。
二人とも力が強く、セスは手の痛みに思わず顔をしかめてしまう。
続いてメイがコナカの影から「行ってきます」と少々場違いかもしれない挨拶をした。
セスが直接彼女の言葉を聞くのは二度目である。
最後にロビーがセスに向かって掌を突き出した。
セスがそれに自分の掌を合わせる。
「いいか、絶対に成功して帰ってくるからな!」
「わかってる。ロビーに任せたよ」
こうして「東部探索隊」の七名が「はじまりの丘」の麓にあるユニヴァースの館を出発した。
先頭にロビーとコナカ、続いてカネサキ、オオイダ、間にメイが入って後ろからホンゴウとアイネスである。
セスが車椅子から立ち上がって手を振った。
思わずロビーが無理しないで座っていろと怒鳴り返した。
しかし、それでもセスは車椅子には座らない。
ロビー、カネサキ、オオイダ、コナカがセスに向かって手を振り返す。
セスは彼等の姿が見えなくなるまで、立ったまま手を振り続けた。
これほど長い間自分の足で立っていたのは、いつ以来だろうか?
皆の姿が見えなくなると、セスは車椅子に身体を預けた。
そして、車椅子を「はじまりの丘」へと走らせる。
以前、この地を訪れたときと異なり、丘にはスロープ状に道がつけられていた。
ウォーリーの墓標となる石を運び上げる際に、ロビーとホンゴウが作った道であった。
これならセスの車椅子でも容易に上に向かって進むことができる。
セスは丘の頂上へと上り、彼の兄が眠る場所へと向かう。
兄の墓標と向き合うと、ポケットから写真と記録ディスクを取り出した……
ロビーがふとセスのほうに目をやると、セスはポケットから記録ディスクと写真を取り出してそれを見つめていた。
これらのものはセスが兄に対する手がかりとして持っていたすべてだった。
この二つからスタートし、セスは兄にたどり着いた。
不幸にも生きている兄と直接会うことは叶わなかったが、それでもモニタを通して会話ができたことは大きな収穫であるはずだ。
ウォーリー・トワは、セス・クルスという弟と名乗る存在を知ってこの世を去ったのだから……
ロビーの視線に気づいたのか、セスは慌てて記録ディスクと写真をポケットに隠した。
ふと、セスがつぶやく。
「モリタはこなかったね……」
そのことについてはロビーも腹を立てている。
セスや自分自身に対する裏切りではないか?
問題はモリタの残留をレイカが求めた、という点だ。
それがなければモリタを一、二発ぶん殴っているところなのだ。
レイカがモリタの残留を求めた意図はロビーにはわからない。
ただ、突拍子もなさそうなことをして他人をあっと言わせるのは彼女の常套手段である。
何か深い意味があって、敢えてモリタだけを残した可能性もある。
「メルツ室長が何か考えているのかも知れねえな。
モリタが来ても文句ばかり言っているような気もするから、室長がそれをまずいと考えたのかも知れねえな……」
そう考えれば納得がいく、とロビーは思う。
今回の道は果てしなく厳しいものとなるだろう。
モリタが文句を言ったり弱音を吐いたりすると、隊全体の士気に関わる。
それを見越したレイカが先手を打ったのかもしれない。
レイカは突拍子もないことをするだけでなはく、細やかな気遣いもできる女性だ。
むしろ今回は後者の方に重きを置いているのかもしれない。
「……そうかもしれないね。
どう考えても僕と同じくらい、モリタは山歩きには向いていないからね……」
セスの目は遥か遠くを見つめているようであった。
翌日、八月二〇日の朝、「はじまりの丘」付近は快晴に恵まれていた。
「じゃ、行ってくるからな。ユニヴァースのおっさん、セスを頼むわ」
ロビーが挨拶とともに見送りに出てきたユニヴァースの肩を叩いた。
ユニヴァースは迷惑そうな表情で、ジロリとロビーに視線を向けた。
アイネスがユニヴァースと交渉し、ユニヴァースの館に補給物資とセスを預かることを承知してもらった。
ユニヴァースは迷惑そうな顔を隠そうともしなかったが、本を読むのに邪魔にならなければ、という条件でしぶしぶ受け入れたようである。
見送りに出てきたユニヴァースは、ロビーの挨拶を聞くとさっさと部屋に戻ってしまったが、ロビーは敢えてそのことに文句を言うつもりはなかった。
肝心なところでは必ず動く人物だ、ということを知っていたからである。
セスがこの地で倒れた際、ユニヴァースはセスの様子を窺いにやってきたのだ。
異変があれば彼は必ず動く、という確信がロビーにはある。
「じゃ、クルス君、行ってくるからね。大人しく待っているのよ」
セスの向かいで中腰になったオオイダが猫なで声で言った。
そして人差し指でセスの頬をつつく。
セスは苦笑しながらも、
「オオイダさんも気をつけて行ってきてくださいね」
と健気に答えた。
「オオイダ、何やっているのよ! クルス君が嫌がっているじゃないの!」
カネサキがオオイダの襟首を引っ張って、セスから離れさせる。
セスは助かったとばかりに、大きく息をついた。
「ま、私たちお姉さん組にまかせておきなさい」
カネサキがセスの頭を軽く叩いた。
「『お姉さん』、ってあんた三十路のおばさんじゃない」
オオイダは口を尖らせている。
「私は『とぉえんてぃ? ず』ってクルス君から言われているものね。永遠のお姉さんよ」
カネサキの拠りどころは、セスが命名した彼女たちのチーム名らしい。
コナカは、
「じゃ、行ってくるから。クルス君も身体に気をつけてね」
と穏やかに声をかけた。
アイネスとホンゴウは無言でセスに握手を求めた。
二人とも力が強く、セスは手の痛みに思わず顔をしかめてしまう。
続いてメイがコナカの影から「行ってきます」と少々場違いかもしれない挨拶をした。
セスが直接彼女の言葉を聞くのは二度目である。
最後にロビーがセスに向かって掌を突き出した。
セスがそれに自分の掌を合わせる。
「いいか、絶対に成功して帰ってくるからな!」
「わかってる。ロビーに任せたよ」
こうして「東部探索隊」の七名が「はじまりの丘」の麓にあるユニヴァースの館を出発した。
先頭にロビーとコナカ、続いてカネサキ、オオイダ、間にメイが入って後ろからホンゴウとアイネスである。
セスが車椅子から立ち上がって手を振った。
思わずロビーが無理しないで座っていろと怒鳴り返した。
しかし、それでもセスは車椅子には座らない。
ロビー、カネサキ、オオイダ、コナカがセスに向かって手を振り返す。
セスは彼等の姿が見えなくなるまで、立ったまま手を振り続けた。
これほど長い間自分の足で立っていたのは、いつ以来だろうか?
皆の姿が見えなくなると、セスは車椅子に身体を預けた。
そして、車椅子を「はじまりの丘」へと走らせる。
以前、この地を訪れたときと異なり、丘にはスロープ状に道がつけられていた。
ウォーリーの墓標となる石を運び上げる際に、ロビーとホンゴウが作った道であった。
これならセスの車椅子でも容易に上に向かって進むことができる。
セスは丘の頂上へと上り、彼の兄が眠る場所へと向かう。
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