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第九章
418:エクザローム一(いち)のマーケターのご指名
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メイの参加が決定したのを機に、静かに宴が開始された。
順番に料理が運ばれてくる。
レイカの選択だけあって、見栄えも味も上々のものだ。
宴の途中、セスが悩んだ末にレイカに問いかける。
「メルツ室長、どうしてモリタをここに参加させなかったのですか?」
その言葉に皆がセスの方を振り向いた。
聞いてはならないことを聞いたのではないか、とセスの背筋が一瞬凍りつく。
レイカは周囲を見回してから口を開いた。
「……いいわ、私の考えを話すわね」
「是非、聞いてみたいものですな」
ミヤハラがワイングラスを片手にレイカの方を向いた。
どうもこの男にはワイングラスよりも湯飲みの方が似合いそうに思えるのだが、あえてそのことを指摘する者はない。
「社長のお眼鏡にかなうかはわかりませんが。私の考えをお話しします。このプロジェクトは……社長の肝煎りで行われることは、社の誰もが知っています。
また、現在はミヤハラ社長をはじめ、『タブーなきエンジニア集団』の元幹部が社を牽引しているといっても過言ではない状況です」
「それで?」
サクライがゆっくりと身を乗り出してきた。
「『タブーなきエンジニア集団』の元幹部は、元をただせば多くがECN社の従業員だったわけですけど、一度は社の方針に反対して社を飛び出した身。そうした立場の人たちが、いきなり社を牛耳るようになれば、それ以外の人たちはあまりいい印象を持たないと思います。
今回のプロジェクトに参加している人を見ると、従来のECN社の従業員の方は一人もいません」
「そりゃ、誰も立候補しなかったんだからな」
だから、当然だとミヤハラは腕を組んでうなずいている。
「社長の人望の賜物ともいえるかもしれないですね」
サクライが冗談とも嫌味ともつかない軽口を叩いた。
「そうだな。社長の人望がありすぎて、社員たちが遠慮してしまったのだろうな」
ミヤハラが平然と応じた。
レイカはサクライとミヤハラのやり取りが聞こえていないかのように話を続けている。
「ですが……誰も指名しなかったことで、旧『タブーなきエンジニア集団』が社を独断で動かそうとしているのではないか、という疑念をもたれる可能性があります。それは社にとって好ましいことではありません」
レイカは軽くグラスのワインを口に含んでから話を続ける。
こうした動作も洗練されたもので、このような雰囲気の店にはよく似合う。
「ですから、『タブーなきエンジニア集団』に近い方に、従来のECN社の業務の中でも、もっとも泥臭いところをやってもらおうかと考えています。
モリタ君は山道を歩くような探索は得意ではない、と言っていましたから、最初は彼にその役目をやってもらおうと思いまして……」
そして、レイカは直後にエリックにチラリと目をやった。
「あと、できればモトムラマネージャーにもお手伝いしていただきたいと思います。マネージャーのチームは『タブーなきエンジニア集団』のチームですからね。そのトップ自らが泥をかぶって従来の仕事に理解を示さないと、他の従業員の方は納得されないと思います」
それを聞いたミヤハラが大口を開けて笑った。
「わはは、よかったな、エリック。社内一、じゃなかったエクザロームナンバーワンのび、お方のご指名だ。頑張って業務に励んでくれ。社長の俺が許可する」
ミヤハラが危うく美人、と言いかけて「お方」と訂正した。
これならセクハラで訴えられることもないだろう。
「……社長、面白がっているでしょう?」
エリックは精一杯冷ややかな視線をミヤハラに浴びせている。彼にできる精一杯の抵抗だろう。
「……いや、俺もメルツ室長の案に賛成だな」
「サクライさんまで!」
エリックは立ち上がって抗議しようとしたが、レイカになだめられた。
「社長や副社長では、腰が据わっているというか……態度が立派に見えるので、この役割には向かないのではないかと思うのです。
その点、マネージャーなら相手に理解されそうな態度を取ることができますし、フットワークも軽いと伺っていますので、是非お願いしたいのですが……」
「……」
レイカの言葉にエリックがミヤハラとサクライに助けを求めるかのように視線を向けた。
確かにこの二人、肝が据わっているのか、何事にも動じない、ひょっとすれば傲慢に見えないこともない。その証拠にエリックの視線などまるで気付いていないかのように談笑している。
「仕方ないですね……」
エリックに残された選択肢はレイカの申し出を受け入れること、だけだった。
順番に料理が運ばれてくる。
レイカの選択だけあって、見栄えも味も上々のものだ。
宴の途中、セスが悩んだ末にレイカに問いかける。
「メルツ室長、どうしてモリタをここに参加させなかったのですか?」
その言葉に皆がセスの方を振り向いた。
聞いてはならないことを聞いたのではないか、とセスの背筋が一瞬凍りつく。
レイカは周囲を見回してから口を開いた。
「……いいわ、私の考えを話すわね」
「是非、聞いてみたいものですな」
ミヤハラがワイングラスを片手にレイカの方を向いた。
どうもこの男にはワイングラスよりも湯飲みの方が似合いそうに思えるのだが、あえてそのことを指摘する者はない。
「社長のお眼鏡にかなうかはわかりませんが。私の考えをお話しします。このプロジェクトは……社長の肝煎りで行われることは、社の誰もが知っています。
また、現在はミヤハラ社長をはじめ、『タブーなきエンジニア集団』の元幹部が社を牽引しているといっても過言ではない状況です」
「それで?」
サクライがゆっくりと身を乗り出してきた。
「『タブーなきエンジニア集団』の元幹部は、元をただせば多くがECN社の従業員だったわけですけど、一度は社の方針に反対して社を飛び出した身。そうした立場の人たちが、いきなり社を牛耳るようになれば、それ以外の人たちはあまりいい印象を持たないと思います。
今回のプロジェクトに参加している人を見ると、従来のECN社の従業員の方は一人もいません」
「そりゃ、誰も立候補しなかったんだからな」
だから、当然だとミヤハラは腕を組んでうなずいている。
「社長の人望の賜物ともいえるかもしれないですね」
サクライが冗談とも嫌味ともつかない軽口を叩いた。
「そうだな。社長の人望がありすぎて、社員たちが遠慮してしまったのだろうな」
ミヤハラが平然と応じた。
レイカはサクライとミヤハラのやり取りが聞こえていないかのように話を続けている。
「ですが……誰も指名しなかったことで、旧『タブーなきエンジニア集団』が社を独断で動かそうとしているのではないか、という疑念をもたれる可能性があります。それは社にとって好ましいことではありません」
レイカは軽くグラスのワインを口に含んでから話を続ける。
こうした動作も洗練されたもので、このような雰囲気の店にはよく似合う。
「ですから、『タブーなきエンジニア集団』に近い方に、従来のECN社の業務の中でも、もっとも泥臭いところをやってもらおうかと考えています。
モリタ君は山道を歩くような探索は得意ではない、と言っていましたから、最初は彼にその役目をやってもらおうと思いまして……」
そして、レイカは直後にエリックにチラリと目をやった。
「あと、できればモトムラマネージャーにもお手伝いしていただきたいと思います。マネージャーのチームは『タブーなきエンジニア集団』のチームですからね。そのトップ自らが泥をかぶって従来の仕事に理解を示さないと、他の従業員の方は納得されないと思います」
それを聞いたミヤハラが大口を開けて笑った。
「わはは、よかったな、エリック。社内一、じゃなかったエクザロームナンバーワンのび、お方のご指名だ。頑張って業務に励んでくれ。社長の俺が許可する」
ミヤハラが危うく美人、と言いかけて「お方」と訂正した。
これならセクハラで訴えられることもないだろう。
「……社長、面白がっているでしょう?」
エリックは精一杯冷ややかな視線をミヤハラに浴びせている。彼にできる精一杯の抵抗だろう。
「……いや、俺もメルツ室長の案に賛成だな」
「サクライさんまで!」
エリックは立ち上がって抗議しようとしたが、レイカになだめられた。
「社長や副社長では、腰が据わっているというか……態度が立派に見えるので、この役割には向かないのではないかと思うのです。
その点、マネージャーなら相手に理解されそうな態度を取ることができますし、フットワークも軽いと伺っていますので、是非お願いしたいのですが……」
「……」
レイカの言葉にエリックがミヤハラとサクライに助けを求めるかのように視線を向けた。
確かにこの二人、肝が据わっているのか、何事にも動じない、ひょっとすれば傲慢に見えないこともない。その証拠にエリックの視線などまるで気付いていないかのように談笑している。
「仕方ないですね……」
エリックに残された選択肢はレイカの申し出を受け入れること、だけだった。
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