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第九章
417:東部探索隊、メンバー確定す
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コナカに手を引かれて小柄な女性が姿を現した。
艶やかな黒のストレートヘアと、黒地にエメラルドグリーンを被せたつぶらな瞳が特徴的だ。
「秘書さんっ!」
セスが最初に声をあげた。
「秘書さん」というのは、彼女の現在の正確な地位を示したものではなかった。
彼女━━メイ・カワナは、既にECN社を辞し、「タブーなきエンジニア集団」に身を寄せていた。
「タブーなきエンジニア集団」がECN社に統合された後は、ECN社への就業を希望せず、それから何をしていたのか、この場に知る者はなかった。
「彼女が会社の近くにいたところを見つけたんです。『東部探索隊』に参加したい、って……
だから、連れてきました」
コナカがミヤハラに何かを求めるような視線を向けた。
ほぼ同時にセスがコナカとメイに席を勧める。
メイは未だ対人恐怖症が治っていないらしく、おどおどした様子で、隅っこの席に着く。そして、その隣にはコナカが座った。
「おい、どうする?」
ミヤハラが小声でロビーにささやく。
一応メイに気を遣っているのだろう。
「とは言っても悪いけど、秘書さんの体力で大丈夫なのか? ハイキングや遠足の類じゃないぜ! これは生命と未来を賭けた探索なんだ!」
ロビーが声を荒げたので、セスが抑えるように手をやった。
もう少し静かにしてくれ、ということなのであろう。
セスの気遣いもロビーを落ち着かせるには至らない。
メイのような小柄で体力もなさそうな女性に、この任務が務まるとも思えない。
また、彼女はこのメンバーの大部分とまともに話をすることもできないのだ。
そのような者を隊に入れてどうしようというのか……
この場にいる大部分の者が、彼女の参加に異議を唱えるであろうと思われた。どう考えても適任とは思われない。
しかし、一人、その異議に反対する者があった。
「私が責任を持って彼女の面倒を見ます! 連れて行ってあげてください!」
コナカだった。普段自分の意思を強く主張しない彼女にしては珍しいことだ。
思わず大きな声をあげてしまったのに気付いて、コナカは慌てて口を塞いでから声のトーンを落とす。
「すみません、興奮してしまって……
でも、彼女を連れて行ってあげたいんです。理由は上手に説明できないんですけど……」
「って、どう責任を取るんだ? 取りようがないじゃないか!」
ロビーはきつく言い放ったが、これでも彼なりに気を遣っている。
コナカとメイの身を案じて、あえて厳しい態度で接しているのだ。
「タカミさんの仰ることは理解しています、でも……」
コナカはそこで口ごもってしまう。彼女もロビーの気遣いが手に取るようにわかるから、強く反論できないのだ。
少しの間、沈黙が場を支配した。
だが、それも長くは続かず、次の言葉によって破られた。
「……僕も秘書さんを参加させるべきだ、と思う」
声のした方をロビーが振り返る。遅れて他のメンバーの視線も声のした方に集まっていく。
「兄だけじゃない、前の……イナ社長も東に行きたがっていた……
僕が知る限り、最初に島の東を知りたがっていた人はイナ社長なんだ……」
声の主はセスであった。
「おいおい、セス、何が言いたい?」
ロビーがセスの目をじっと見据えた。状況を理解しているのか? と言わんばかりだ。
「イナ社長の想いを一番多く引き継いでいるのは、秘書さんだと思う。
秘書さんが唯一コミュニケーションを取れたのはイナ社長だったし、イナ社長が社内で一番多く接していた人は秘書さんだから……
僕は兄、ウォーリー・トワの想いを引き継いでこの探索に臨む。
イナ社長の分も、と思ったけど、僕は適任じゃないよ。
秘書さんこそイナ社長の想いを引き継ぐ適任者なんだと思うよ」
セスは一瞬たりともロビーから視線を逸らさなかった。
セスが言い終えるとロビーが顔をしかめてから、セスの車椅子を見やった。セスの勢いに負けたのだといってよい。
「なら……『はじまりの丘』をセスと一緒に管理するのか?」
ロビーの問いにセスが静かに首を横に振った。
「秘書さんは僕と違って自分の足で歩くことができる……行かなければ後悔すると思うよ……」
ロビーがセスの表情を見るとセスは遠い目をしていた。
セスの奴、本当は行きたいのに気を遣っているのか……
セスの言葉の端に、自身が先へ進めないことの無念さが見てとれる。
ロビーも折れるしかなかった。
「わかった……コナカさん、秘書さんにも同行してもらおう」
隊長が許可すれば、彼女の参加は認められたのと一緒だ。
「それでは隊員が確定したところで、決起集会を開始しましょう」
ロビーが折れたのを見たレイカが店員にスタートの合図を出した。
艶やかな黒のストレートヘアと、黒地にエメラルドグリーンを被せたつぶらな瞳が特徴的だ。
「秘書さんっ!」
セスが最初に声をあげた。
「秘書さん」というのは、彼女の現在の正確な地位を示したものではなかった。
彼女━━メイ・カワナは、既にECN社を辞し、「タブーなきエンジニア集団」に身を寄せていた。
「タブーなきエンジニア集団」がECN社に統合された後は、ECN社への就業を希望せず、それから何をしていたのか、この場に知る者はなかった。
「彼女が会社の近くにいたところを見つけたんです。『東部探索隊』に参加したい、って……
だから、連れてきました」
コナカがミヤハラに何かを求めるような視線を向けた。
ほぼ同時にセスがコナカとメイに席を勧める。
メイは未だ対人恐怖症が治っていないらしく、おどおどした様子で、隅っこの席に着く。そして、その隣にはコナカが座った。
「おい、どうする?」
ミヤハラが小声でロビーにささやく。
一応メイに気を遣っているのだろう。
「とは言っても悪いけど、秘書さんの体力で大丈夫なのか? ハイキングや遠足の類じゃないぜ! これは生命と未来を賭けた探索なんだ!」
ロビーが声を荒げたので、セスが抑えるように手をやった。
もう少し静かにしてくれ、ということなのであろう。
セスの気遣いもロビーを落ち着かせるには至らない。
メイのような小柄で体力もなさそうな女性に、この任務が務まるとも思えない。
また、彼女はこのメンバーの大部分とまともに話をすることもできないのだ。
そのような者を隊に入れてどうしようというのか……
この場にいる大部分の者が、彼女の参加に異議を唱えるであろうと思われた。どう考えても適任とは思われない。
しかし、一人、その異議に反対する者があった。
「私が責任を持って彼女の面倒を見ます! 連れて行ってあげてください!」
コナカだった。普段自分の意思を強く主張しない彼女にしては珍しいことだ。
思わず大きな声をあげてしまったのに気付いて、コナカは慌てて口を塞いでから声のトーンを落とす。
「すみません、興奮してしまって……
でも、彼女を連れて行ってあげたいんです。理由は上手に説明できないんですけど……」
「って、どう責任を取るんだ? 取りようがないじゃないか!」
ロビーはきつく言い放ったが、これでも彼なりに気を遣っている。
コナカとメイの身を案じて、あえて厳しい態度で接しているのだ。
「タカミさんの仰ることは理解しています、でも……」
コナカはそこで口ごもってしまう。彼女もロビーの気遣いが手に取るようにわかるから、強く反論できないのだ。
少しの間、沈黙が場を支配した。
だが、それも長くは続かず、次の言葉によって破られた。
「……僕も秘書さんを参加させるべきだ、と思う」
声のした方をロビーが振り返る。遅れて他のメンバーの視線も声のした方に集まっていく。
「兄だけじゃない、前の……イナ社長も東に行きたがっていた……
僕が知る限り、最初に島の東を知りたがっていた人はイナ社長なんだ……」
声の主はセスであった。
「おいおい、セス、何が言いたい?」
ロビーがセスの目をじっと見据えた。状況を理解しているのか? と言わんばかりだ。
「イナ社長の想いを一番多く引き継いでいるのは、秘書さんだと思う。
秘書さんが唯一コミュニケーションを取れたのはイナ社長だったし、イナ社長が社内で一番多く接していた人は秘書さんだから……
僕は兄、ウォーリー・トワの想いを引き継いでこの探索に臨む。
イナ社長の分も、と思ったけど、僕は適任じゃないよ。
秘書さんこそイナ社長の想いを引き継ぐ適任者なんだと思うよ」
セスは一瞬たりともロビーから視線を逸らさなかった。
セスが言い終えるとロビーが顔をしかめてから、セスの車椅子を見やった。セスの勢いに負けたのだといってよい。
「なら……『はじまりの丘』をセスと一緒に管理するのか?」
ロビーの問いにセスが静かに首を横に振った。
「秘書さんは僕と違って自分の足で歩くことができる……行かなければ後悔すると思うよ……」
ロビーがセスの表情を見るとセスは遠い目をしていた。
セスの奴、本当は行きたいのに気を遣っているのか……
セスの言葉の端に、自身が先へ進めないことの無念さが見てとれる。
ロビーも折れるしかなかった。
「わかった……コナカさん、秘書さんにも同行してもらおう」
隊長が許可すれば、彼女の参加は認められたのと一緒だ。
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