423 / 436
第九章
413:新戦力
しおりを挟む
ECN社四階の社長室には、社長のミヤハラ、副社長のサクライ、そしてエリックの姿がある。
ミヤハラがロビー・タカミから提出された島東部探索の計画を承認したので、これに参加するメンバーを選ぶ必要がある。
「まあ、人は社内で希望者を募ってみようじゃないか」
ミヤハラの提案にサクライ、エリックとも異存は無い。
「クルス君の病状が気になります。できるだけ早く準備を済ませたいですね」
それはこの部屋にいる誰もが望むところだった。
正直なところ、車椅子の彼は多少なりとも道が整備されている「はじまりの丘」まで行くのが目一杯だろうと思われる。
そこから、本隊にドガン山脈越えをさせて島の東部を探索し、戻ってくるまでの期間を考えると、出発は一日でも早い方が良い。
残された命の時間が短いセスの望みはかなえてやりたいのが本音だ。
「正直なところ、経過には私も興味ありますからね。自分の仕事を少し他の人にも振りたいと思っています。そうすれば、こっちも経過を見ながら動けると思うのですが」
サクライがミヤハラの方に向けて身を乗り出してきた。
確かに現在、彼の業務負荷はかなり高くなっている。
財務戦略が彼の本職であるが、現在彼に要求されているのは他にも「タブーなきエンジニア集団」の資源の分配問題であるとか、現在の状況を鑑みた経営戦略の立案、従業員からの意見や苦情の処理、マスコミ対応など多岐にわたる。
このうち特にサクライが嫌がっているのが、苦情処理とマスコミ対応である。
「なら……前任の部門が気に入らんから気が進まんが、その手の人間を募集するか?」
ミヤハラの意見にサクライは是非やってください、と答えた。
ミヤハラが「気が進まない」と言ったのは、サクライが任せたいと言っている業務の多くを担当していたのが経営企画室であったからだ。
経営企画室が無くなった後は、オイゲンと一部の役員がその業務を代行していた。
しかし、オイゲンは行方知れずであるし、ミヤハラが社長代行に就任して以来、多くの役員は表舞台に立とうとしなかった。
ECN社はOP社との提携内容を見直して、「タブーなきエンジニア集団」との統合を済ませたばかりで、社内はお世辞にも落ち着いた状態とはいえない。
先代社長のオイゲンが行方不明になっている件についても、予想以上に社内に影響があることが判明した。
ECN社が社長不在であった期間は二ヶ月足らずに過ぎないのだが、その間に積み上げられた問題の半分近くが未処理だったのだ。
サクライやミヤハラは、こうした問題の処理にも追われていた。
エリックも彼等の片腕として、問題解決に尽力していたが、いかんせん人が少なすぎる。
このような厳しい状況の中で、わざわざリスクを取りにくる人材がいるとは考えにくく、サクライの分身が容易に得られるとは誰もが思っていなかった。
彼らは半信半疑で社内外を問わず人材を募集した。
ただ、「経営企画室」という名前は気分が良くないということで「広報企画室」という名称で、そのトップを求めることになった。
意外にも募集開始の当日に手が挙げる者がいた。社外の人間である。
その手の主は若い女性であった。そして、面接官を務めたミヤハラとサクライの前でこう言ってのけたのだ。
「先代の社長さんのときに、何度か御社の中を拝見したことがあります。
私の専門はマーケティングですから、求められているものと少し違うかもしれませんが、御社であれば、役立てることもあると思います。
先代の社長さんは、私のお客様でもありましたし……」
思わずミヤハラとサクライとが顔を見合わせた。
相手のことはミヤハラもサクライもよく知っている。
顔は過去に何度も見ているし、言葉を交わしたこともある。
しかし、先代、すなわちオイゲンが社長の時代にECN社に出入りしていた、という話は聞いたことがない。
ましてやオイゲンが彼女の顧客であったなど、信じがたい話だと思えた。
「私などではとてもその任には耐えない、とお考えでしょうか?」
サクライが、とんでもない、と手を振った。
彼女の実力はサクライも十分に認めている。
サクライの答を聞くと空色のパンツスーツに身を包んだその女性は、トレードマークとなっている赤いスカーフに手をやり、さっと乱れを直した。
女性はレイカ・メルツであった。
この地でもっとも有名な女性マーケターで、職業学校の元教官でもある。
最近では、「タブーなきエンジニア集団」に外部から協力し、ジンでの決起集会に姿を見せたこともある。
広報宣伝役としてこれ以上の人材を得るのは非常に難しい。
こうしてミヤハラとサクライが面接した翌日、レイカ・メルツのECN社広報企画室長就任が決定した。
ミヤハラがロビー・タカミから提出された島東部探索の計画を承認したので、これに参加するメンバーを選ぶ必要がある。
「まあ、人は社内で希望者を募ってみようじゃないか」
ミヤハラの提案にサクライ、エリックとも異存は無い。
「クルス君の病状が気になります。できるだけ早く準備を済ませたいですね」
それはこの部屋にいる誰もが望むところだった。
正直なところ、車椅子の彼は多少なりとも道が整備されている「はじまりの丘」まで行くのが目一杯だろうと思われる。
そこから、本隊にドガン山脈越えをさせて島の東部を探索し、戻ってくるまでの期間を考えると、出発は一日でも早い方が良い。
残された命の時間が短いセスの望みはかなえてやりたいのが本音だ。
「正直なところ、経過には私も興味ありますからね。自分の仕事を少し他の人にも振りたいと思っています。そうすれば、こっちも経過を見ながら動けると思うのですが」
サクライがミヤハラの方に向けて身を乗り出してきた。
確かに現在、彼の業務負荷はかなり高くなっている。
財務戦略が彼の本職であるが、現在彼に要求されているのは他にも「タブーなきエンジニア集団」の資源の分配問題であるとか、現在の状況を鑑みた経営戦略の立案、従業員からの意見や苦情の処理、マスコミ対応など多岐にわたる。
このうち特にサクライが嫌がっているのが、苦情処理とマスコミ対応である。
「なら……前任の部門が気に入らんから気が進まんが、その手の人間を募集するか?」
ミヤハラの意見にサクライは是非やってください、と答えた。
ミヤハラが「気が進まない」と言ったのは、サクライが任せたいと言っている業務の多くを担当していたのが経営企画室であったからだ。
経営企画室が無くなった後は、オイゲンと一部の役員がその業務を代行していた。
しかし、オイゲンは行方知れずであるし、ミヤハラが社長代行に就任して以来、多くの役員は表舞台に立とうとしなかった。
ECN社はOP社との提携内容を見直して、「タブーなきエンジニア集団」との統合を済ませたばかりで、社内はお世辞にも落ち着いた状態とはいえない。
先代社長のオイゲンが行方不明になっている件についても、予想以上に社内に影響があることが判明した。
ECN社が社長不在であった期間は二ヶ月足らずに過ぎないのだが、その間に積み上げられた問題の半分近くが未処理だったのだ。
サクライやミヤハラは、こうした問題の処理にも追われていた。
エリックも彼等の片腕として、問題解決に尽力していたが、いかんせん人が少なすぎる。
このような厳しい状況の中で、わざわざリスクを取りにくる人材がいるとは考えにくく、サクライの分身が容易に得られるとは誰もが思っていなかった。
彼らは半信半疑で社内外を問わず人材を募集した。
ただ、「経営企画室」という名前は気分が良くないということで「広報企画室」という名称で、そのトップを求めることになった。
意外にも募集開始の当日に手が挙げる者がいた。社外の人間である。
その手の主は若い女性であった。そして、面接官を務めたミヤハラとサクライの前でこう言ってのけたのだ。
「先代の社長さんのときに、何度か御社の中を拝見したことがあります。
私の専門はマーケティングですから、求められているものと少し違うかもしれませんが、御社であれば、役立てることもあると思います。
先代の社長さんは、私のお客様でもありましたし……」
思わずミヤハラとサクライとが顔を見合わせた。
相手のことはミヤハラもサクライもよく知っている。
顔は過去に何度も見ているし、言葉を交わしたこともある。
しかし、先代、すなわちオイゲンが社長の時代にECN社に出入りしていた、という話は聞いたことがない。
ましてやオイゲンが彼女の顧客であったなど、信じがたい話だと思えた。
「私などではとてもその任には耐えない、とお考えでしょうか?」
サクライが、とんでもない、と手を振った。
彼女の実力はサクライも十分に認めている。
サクライの答を聞くと空色のパンツスーツに身を包んだその女性は、トレードマークとなっている赤いスカーフに手をやり、さっと乱れを直した。
女性はレイカ・メルツであった。
この地でもっとも有名な女性マーケターで、職業学校の元教官でもある。
最近では、「タブーなきエンジニア集団」に外部から協力し、ジンでの決起集会に姿を見せたこともある。
広報宣伝役としてこれ以上の人材を得るのは非常に難しい。
こうしてミヤハラとサクライが面接した翌日、レイカ・メルツのECN社広報企画室長就任が決定した。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ゲート0 -zero- 自衛隊 銀座にて、斯く戦えり
柳内たくみ
ファンタジー
20XX年、うだるような暑さの8月某日――
東京・銀座四丁目交差点中央に、突如巨大な『門(ゲート)』が現れた。
中からなだれ込んできたのは、見目醜悪な怪異の群れ、そして剣や弓を携えた謎の軍勢。
彼らは何の躊躇いもなく、奇声と雄叫びを上げながら、そこで戸惑う人々を殺戮しはじめる。
無慈悲で凄惨な殺戮劇によって、瞬く間に血の海と化した銀座。
政府も警察もマスコミも、誰もがこの状況になすすべもなく混乱するばかりだった。
「皇居だ! 皇居に逃げるんだ!」
ただ、一人を除いて――
これは、たまたま現場に居合わせたオタク自衛官が、
たまたま人々を救い出し、たまたま英雄になっちゃうまでを描いた、7日間の壮絶な物語。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!
ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく
高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。
高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。
しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。
召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。
※カクヨムでも連載しています
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる