ストランディング・ワールド(Stranding World) ~不時着した宇宙ステーションが拓いた地にて兄を探す~

空乃参三

文字の大きさ
上 下
422 / 436
第九章

412:やらせてみたいこと

しおりを挟む
 社長室に残ったミヤハラ、サクライ、エリックの三人は顔を見合わせている。
「これで……よかったんだな、エリック」
「はい、社長。彼等には社の業務として島の東部を探索してもらいたかったので」
 ミヤハラの言葉にエリックが安堵の表情で答えた。
「それにしてもエリックはマメだな。そこまで部下に気を遣わないでもいいんじゃないのか?」
 サクライがエリックを気遣うように言った。

 実はロビーから東部探索の話を持ちかけられた際、エリックはすぐにミヤハラとサクライに話を通しに行ったのだ。
 計画書を準備させたのは、ミヤハラやサクライを説得するためでもあったが、エリックが話を通すための時間稼ぎの意味もあった。
 ロビーから話を持ちかけられた時点で、エリックは自分の権限が許す範囲で彼等に協力することを決めていた。
 ただ、それでは不十分であった。
 島の東部探索は酒の上でのたわごとであったかもしれないが、ウォーリーの遺志だったのだ。
 彼の志を引き継いで行う事業が、たかが自分ごときの決裁で行う事業であってはならなかった。少なくともエリックはそう思っている。
 また、東部探索についてはECN社の前社長であるオイゲン・イナも同じ意志を持っていたとウォーリーから聞いている。そしてウォーリーの弟であるセス・クルスからも同じ話を聞いているのだ。
 これらの三人が何故島の東部探索を望んだか、エリックはその真相までは理解していない。
 それでも、これはエリックの部署ではなく、ECN社全社の事業としてなすべきことだ、ということはなんとなく感じている。
 エリックは部下の話をよく聞き、必要とあらばすぐに行動に移す上司である。
 だから、ロビーの話を聞いてすぐにミヤハラやサクライに話を持ちかけたのだ。
 それを「話がわかる上司」と理解されるのか、「フットワークが軽すぎて威厳が無い」と否定的に捉えられるのかは、相手次第のところがあるのだが。

 エリックの話を聞いたミヤハラは決定をサクライに投げた。
 サクライは半信半疑であったが、意外にもエリックが熱意を持って説得を試みてきたので、話を聞くことにした。
 サクライの立場からすれば、あまり気乗りのしない提案である。
 というよりも、むしろ苛立ちを覚えていた。
 副社長として資金面全般を預かる彼からすれば、得るものが見込めないこの事業に理由も無く多くの資源を割くことは認められなかった。
 計画を申し出たセスやロビーはまだ若いし、「タブーなきエンジニア集団」での経験もほとんどない。彼等がこのような話をするのは、まだ許容できる。
 しかし、年齢はともかく「タブーなきエンジニア集団」の創設当時から一緒にやってきたエリックがこのような話を持ちかけるのは納得がいかない。
 力押しで後先見ないウォーリーや、細かいことに興味の無いミヤハラであるならば「いつものことか」で済んだかもしれない。
 だが、今回この話を持ってきたのは、「タブーなきエンジニア集団」の幹部で良識派と言われていたエリックである。

「あのなぁ、エリック。島の東部探索が成功したところで何のメリットがあるんだ? いや、それ以前に成功の見込みはあるのか?」
「僕は単にマネージャーの遺志を形として残したいだけです!
 その任をマネージャーの弟さんが負うというのは正当だと思います。
 マネージャーの遺志と、この会社の前社長の意志が一致しているなら……それは会社としての事業でやるべきだと僕は思います!」
「エリック、お前なぁ……故人の遺志と会社の経営を天秤にかけるつもりか?!」
 呆れながらもサクライは驚きを隠せなかった。
 エリックがこれほど強い調子で反論してくるとは思わなかったのだ。
「かけます。責任は僕が、と言っても取れないのはわかっています。ただ、個人としても是非やらせてみたい事業です」
「何故そう思うんだ?」
「考えたのも、やろうと申し出たのも僕ではないからです!
 僕の考えよりもマネージャーや彼等の考えの方がよっぽど信用できます!」
「正気か?! そんな理由なら会社の人もカネも出すことはできないぞ」
 サクライが珍しく激昂しかけたが、ミヤハラが間に入った。
「まあ、サクライもエリックも落ちつけ。
 エリックがそこまで言うならやらせてみればいいじゃないか」
「社長までそう言うんですか? 考えなしに言われると困るんですけどね」
 サクライはまだ疑わしげだ。
「OP社の電力事業のことを考えろ。電気がなけりゃうちの社は事業が展開できないんだ。新しい道を模索するなら余裕のある今のうちだ」
 ミヤハラの言葉にサクライが息を呑む。ただ、表面上は少しも動揺を見せてはいない。
「……そういうことならいいでしょう。新規事業開発費から予算を充当しましょう」
 サクライは眉一つ動かさず、そう答えた。
 実は彼もウォーリーが言った東部探索には興味があったのである。
 あまりにもエリックが大上段に構えてきたのと、彼の言い方が趣味に合わなかったので反論してみせただけなのだ。他にも社の資金を預かる立場、という責任感がそうさせたのかもしれない。

 この時点でロビーの申し出が受け入れられることが事実上決まっていた。
 その後でエリックはセスたちが作業をしているミーティングルームへと向かい、計画書の作成を手伝ったのである。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ゲート0 -zero- 自衛隊 銀座にて、斯く戦えり

柳内たくみ
ファンタジー
20XX年、うだるような暑さの8月某日―― 東京・銀座四丁目交差点中央に、突如巨大な『門(ゲート)』が現れた。 中からなだれ込んできたのは、見目醜悪な怪異の群れ、そして剣や弓を携えた謎の軍勢。 彼らは何の躊躇いもなく、奇声と雄叫びを上げながら、そこで戸惑う人々を殺戮しはじめる。 無慈悲で凄惨な殺戮劇によって、瞬く間に血の海と化した銀座。 政府も警察もマスコミも、誰もがこの状況になすすべもなく混乱するばかりだった。 「皇居だ! 皇居に逃げるんだ!」 ただ、一人を除いて―― これは、たまたま現場に居合わせたオタク自衛官が、 たまたま人々を救い出し、たまたま英雄になっちゃうまでを描いた、7日間の壮絶な物語。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

処理中です...