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第九章
412:やらせてみたいこと
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社長室に残ったミヤハラ、サクライ、エリックの三人は顔を見合わせている。
「これで……よかったんだな、エリック」
「はい、社長。彼等には社の業務として島の東部を探索してもらいたかったので」
ミヤハラの言葉にエリックが安堵の表情で答えた。
「それにしてもエリックはマメだな。そこまで部下に気を遣わないでもいいんじゃないのか?」
サクライがエリックを気遣うように言った。
実はロビーから東部探索の話を持ちかけられた際、エリックはすぐにミヤハラとサクライに話を通しに行ったのだ。
計画書を準備させたのは、ミヤハラやサクライを説得するためでもあったが、エリックが話を通すための時間稼ぎの意味もあった。
ロビーから話を持ちかけられた時点で、エリックは自分の権限が許す範囲で彼等に協力することを決めていた。
ただ、それでは不十分であった。
島の東部探索は酒の上でのたわごとであったかもしれないが、ウォーリーの遺志だったのだ。
彼の志を引き継いで行う事業が、たかが自分ごときの決裁で行う事業であってはならなかった。少なくともエリックはそう思っている。
また、東部探索についてはECN社の前社長であるオイゲン・イナも同じ意志を持っていたとウォーリーから聞いている。そしてウォーリーの弟であるセス・クルスからも同じ話を聞いているのだ。
これらの三人が何故島の東部探索を望んだか、エリックはその真相までは理解していない。
それでも、これはエリックの部署ではなく、ECN社全社の事業としてなすべきことだ、ということはなんとなく感じている。
エリックは部下の話をよく聞き、必要とあらばすぐに行動に移す上司である。
だから、ロビーの話を聞いてすぐにミヤハラやサクライに話を持ちかけたのだ。
それを「話がわかる上司」と理解されるのか、「フットワークが軽すぎて威厳が無い」と否定的に捉えられるのかは、相手次第のところがあるのだが。
エリックの話を聞いたミヤハラは決定をサクライに投げた。
サクライは半信半疑であったが、意外にもエリックが熱意を持って説得を試みてきたので、話を聞くことにした。
サクライの立場からすれば、あまり気乗りのしない提案である。
というよりも、むしろ苛立ちを覚えていた。
副社長として資金面全般を預かる彼からすれば、得るものが見込めないこの事業に理由も無く多くの資源を割くことは認められなかった。
計画を申し出たセスやロビーはまだ若いし、「タブーなきエンジニア集団」での経験もほとんどない。彼等がこのような話をするのは、まだ許容できる。
しかし、年齢はともかく「タブーなきエンジニア集団」の創設当時から一緒にやってきたエリックがこのような話を持ちかけるのは納得がいかない。
力押しで後先見ないウォーリーや、細かいことに興味の無いミヤハラであるならば「いつものことか」で済んだかもしれない。
だが、今回この話を持ってきたのは、「タブーなきエンジニア集団」の幹部で良識派と言われていたエリックである。
「あのなぁ、エリック。島の東部探索が成功したところで何のメリットがあるんだ? いや、それ以前に成功の見込みはあるのか?」
「僕は単にマネージャーの遺志を形として残したいだけです!
その任をマネージャーの弟さんが負うというのは正当だと思います。
マネージャーの遺志と、この会社の前社長の意志が一致しているなら……それは会社としての事業でやるべきだと僕は思います!」
「エリック、お前なぁ……故人の遺志と会社の経営を天秤にかけるつもりか?!」
呆れながらもサクライは驚きを隠せなかった。
エリックがこれほど強い調子で反論してくるとは思わなかったのだ。
「かけます。責任は僕が、と言っても取れないのはわかっています。ただ、個人としても是非やらせてみたい事業です」
「何故そう思うんだ?」
「考えたのも、やろうと申し出たのも僕ではないからです!
僕の考えよりもマネージャーや彼等の考えの方がよっぽど信用できます!」
「正気か?! そんな理由なら会社の人もカネも出すことはできないぞ」
サクライが珍しく激昂しかけたが、ミヤハラが間に入った。
「まあ、サクライもエリックも落ちつけ。
エリックがそこまで言うならやらせてみればいいじゃないか」
「社長までそう言うんですか? 考えなしに言われると困るんですけどね」
サクライはまだ疑わしげだ。
「OP社の電力事業のことを考えろ。電気がなけりゃうちの社は事業が展開できないんだ。新しい道を模索するなら余裕のある今のうちだ」
ミヤハラの言葉にサクライが息を呑む。ただ、表面上は少しも動揺を見せてはいない。
「……そういうことならいいでしょう。新規事業開発費から予算を充当しましょう」
サクライは眉一つ動かさず、そう答えた。
実は彼もウォーリーが言った東部探索には興味があったのである。
あまりにもエリックが大上段に構えてきたのと、彼の言い方が趣味に合わなかったので反論してみせただけなのだ。他にも社の資金を預かる立場、という責任感がそうさせたのかもしれない。
この時点でロビーの申し出が受け入れられることが事実上決まっていた。
その後でエリックはセスたちが作業をしているミーティングルームへと向かい、計画書の作成を手伝ったのである。
「これで……よかったんだな、エリック」
「はい、社長。彼等には社の業務として島の東部を探索してもらいたかったので」
ミヤハラの言葉にエリックが安堵の表情で答えた。
「それにしてもエリックはマメだな。そこまで部下に気を遣わないでもいいんじゃないのか?」
サクライがエリックを気遣うように言った。
実はロビーから東部探索の話を持ちかけられた際、エリックはすぐにミヤハラとサクライに話を通しに行ったのだ。
計画書を準備させたのは、ミヤハラやサクライを説得するためでもあったが、エリックが話を通すための時間稼ぎの意味もあった。
ロビーから話を持ちかけられた時点で、エリックは自分の権限が許す範囲で彼等に協力することを決めていた。
ただ、それでは不十分であった。
島の東部探索は酒の上でのたわごとであったかもしれないが、ウォーリーの遺志だったのだ。
彼の志を引き継いで行う事業が、たかが自分ごときの決裁で行う事業であってはならなかった。少なくともエリックはそう思っている。
また、東部探索についてはECN社の前社長であるオイゲン・イナも同じ意志を持っていたとウォーリーから聞いている。そしてウォーリーの弟であるセス・クルスからも同じ話を聞いているのだ。
これらの三人が何故島の東部探索を望んだか、エリックはその真相までは理解していない。
それでも、これはエリックの部署ではなく、ECN社全社の事業としてなすべきことだ、ということはなんとなく感じている。
エリックは部下の話をよく聞き、必要とあらばすぐに行動に移す上司である。
だから、ロビーの話を聞いてすぐにミヤハラやサクライに話を持ちかけたのだ。
それを「話がわかる上司」と理解されるのか、「フットワークが軽すぎて威厳が無い」と否定的に捉えられるのかは、相手次第のところがあるのだが。
エリックの話を聞いたミヤハラは決定をサクライに投げた。
サクライは半信半疑であったが、意外にもエリックが熱意を持って説得を試みてきたので、話を聞くことにした。
サクライの立場からすれば、あまり気乗りのしない提案である。
というよりも、むしろ苛立ちを覚えていた。
副社長として資金面全般を預かる彼からすれば、得るものが見込めないこの事業に理由も無く多くの資源を割くことは認められなかった。
計画を申し出たセスやロビーはまだ若いし、「タブーなきエンジニア集団」での経験もほとんどない。彼等がこのような話をするのは、まだ許容できる。
しかし、年齢はともかく「タブーなきエンジニア集団」の創設当時から一緒にやってきたエリックがこのような話を持ちかけるのは納得がいかない。
力押しで後先見ないウォーリーや、細かいことに興味の無いミヤハラであるならば「いつものことか」で済んだかもしれない。
だが、今回この話を持ってきたのは、「タブーなきエンジニア集団」の幹部で良識派と言われていたエリックである。
「あのなぁ、エリック。島の東部探索が成功したところで何のメリットがあるんだ? いや、それ以前に成功の見込みはあるのか?」
「僕は単にマネージャーの遺志を形として残したいだけです!
その任をマネージャーの弟さんが負うというのは正当だと思います。
マネージャーの遺志と、この会社の前社長の意志が一致しているなら……それは会社としての事業でやるべきだと僕は思います!」
「エリック、お前なぁ……故人の遺志と会社の経営を天秤にかけるつもりか?!」
呆れながらもサクライは驚きを隠せなかった。
エリックがこれほど強い調子で反論してくるとは思わなかったのだ。
「かけます。責任は僕が、と言っても取れないのはわかっています。ただ、個人としても是非やらせてみたい事業です」
「何故そう思うんだ?」
「考えたのも、やろうと申し出たのも僕ではないからです!
僕の考えよりもマネージャーや彼等の考えの方がよっぽど信用できます!」
「正気か?! そんな理由なら会社の人もカネも出すことはできないぞ」
サクライが珍しく激昂しかけたが、ミヤハラが間に入った。
「まあ、サクライもエリックも落ちつけ。
エリックがそこまで言うならやらせてみればいいじゃないか」
「社長までそう言うんですか? 考えなしに言われると困るんですけどね」
サクライはまだ疑わしげだ。
「OP社の電力事業のことを考えろ。電気がなけりゃうちの社は事業が展開できないんだ。新しい道を模索するなら余裕のある今のうちだ」
ミヤハラの言葉にサクライが息を呑む。ただ、表面上は少しも動揺を見せてはいない。
「……そういうことならいいでしょう。新規事業開発費から予算を充当しましょう」
サクライは眉一つ動かさず、そう答えた。
実は彼もウォーリーが言った東部探索には興味があったのである。
あまりにもエリックが大上段に構えてきたのと、彼の言い方が趣味に合わなかったので反論してみせただけなのだ。他にも社の資金を預かる立場、という責任感がそうさせたのかもしれない。
この時点でロビーの申し出が受け入れられることが事実上決まっていた。
その後でエリックはセスたちが作業をしているミーティングルームへと向かい、計画書の作成を手伝ったのである。
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