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第九章
411:一歩目を踏み出す
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「こんなことなら計画書を要求するなよ」
ロビーがセスに向かって悪態をついてみせた。
通路の壁に八つ当たりしかねない状況であったが、さすがにロビーもその点は弁えている。
セスは小声で「そうだね」とロビーに理解を示す。
モリタはそれには気づかない様子で、先頭を歩いている。
エリックが三人を案内したのは、ミヤハラ、サクライがいる社長室であった。
内線でミヤハラと二言三言、言葉を交わすとエリックはドアを開け、三人を先に通した。
「計画書を見せてもらおうじゃないか」
ミヤハラがそう言うと、セスが携帯端末をさっと差し出した。
「……うむ。サクライも見ておけ」
ミヤハラは内容に三〇秒ほど目を通した後、携帯端末をサクライに手渡した。
サクライもミヤハラ同様三〇秒ほど目を通しただけで、セスに端末を返す。
「……で、どうなんですか?」
待ちきれないとばかりに、ロビーが単刀直入に問うた。
「モトムラマネージャーが準備を整えてくれるだろう。社の事業としてやってみろ」
ミヤハラは落ち着いた口調でそう答えた。
あまりの呆気なさに、ロビーやモリタは拍子抜けしたくらいである。
ロビーに至ってはこうした交渉ごとに自信を持っていたが、自分がほとんど何もしない間に良い返事が得られてしまったので、かえって不満に感じる始末である。
「こんなことなら、計画書なんて作らせずにその場で社長がOKしてくれればよかったじゃないですか!」
ミヤハラはそれにはきちんと反論する。
「いや、計画書を見なければ良し悪しの判断などできない。書いてある数字に根拠があり、成功の可能性が十分に考えられたから許可した。我々が欲しいのは、成功の見込みとその根拠だということを忘れないでくれ。細かいことは、それぞれの担当者が考えることだから、それはそれで担当者に任せる」
「そういうことね、わかりましたよ」
ロビーの口調には、まだ不満が残されていた。
セスはロビーを止めようとしたのだが、車椅子の彼では、長身のロビーの口まで手が届かなかった。
「社長、ありがとうございます。モトムラマネージャーと詳細を相談したいと思います」
「わはは、それでいい。細かいことはモトムラマネージャーと話して決めてくれ」
セスが素直に感謝の気持ちを表すと、ミヤハラは豪快に笑ってみせた。もともと気のよい人物なのだ。
サクライが上層部での手続きがあるから、とエリックに社長室に残るよう命じる。
エリックが細かいことは明日相談しようと言ったので、セスたち三人は社長室を後にした。
社長室を出た直後、ロビーが苦虫を噛み潰したような表情でこう言った。
「交渉は絶対成功すると思っていたけどな、何か無駄な仕事をさせられたみたいで気分が悪いや」
すると、モリタがセスに小声で耳打ちする。
「根拠も無しに、ただ何々したいと言うだけで上層部が納得する訳ないよ。ロビーは僕らより社会人経験長いはずなんだけどな」
セスはロビーに聞こえないように、そうだね、とだけ答えた。
ロビーにとっては不満の残る交渉であったが、計画はミヤハラに承認された。
社のトップが決断した以上、島の東部へ行くという計画は正式にECN社の事業となった。
こうしてオイゲン・イナ、ウォーリー・トワ、セス・クルスの希望は実現に向けての第一歩を踏み出したのだった。
ロビーがセスに向かって悪態をついてみせた。
通路の壁に八つ当たりしかねない状況であったが、さすがにロビーもその点は弁えている。
セスは小声で「そうだね」とロビーに理解を示す。
モリタはそれには気づかない様子で、先頭を歩いている。
エリックが三人を案内したのは、ミヤハラ、サクライがいる社長室であった。
内線でミヤハラと二言三言、言葉を交わすとエリックはドアを開け、三人を先に通した。
「計画書を見せてもらおうじゃないか」
ミヤハラがそう言うと、セスが携帯端末をさっと差し出した。
「……うむ。サクライも見ておけ」
ミヤハラは内容に三〇秒ほど目を通した後、携帯端末をサクライに手渡した。
サクライもミヤハラ同様三〇秒ほど目を通しただけで、セスに端末を返す。
「……で、どうなんですか?」
待ちきれないとばかりに、ロビーが単刀直入に問うた。
「モトムラマネージャーが準備を整えてくれるだろう。社の事業としてやってみろ」
ミヤハラは落ち着いた口調でそう答えた。
あまりの呆気なさに、ロビーやモリタは拍子抜けしたくらいである。
ロビーに至ってはこうした交渉ごとに自信を持っていたが、自分がほとんど何もしない間に良い返事が得られてしまったので、かえって不満に感じる始末である。
「こんなことなら、計画書なんて作らせずにその場で社長がOKしてくれればよかったじゃないですか!」
ミヤハラはそれにはきちんと反論する。
「いや、計画書を見なければ良し悪しの判断などできない。書いてある数字に根拠があり、成功の可能性が十分に考えられたから許可した。我々が欲しいのは、成功の見込みとその根拠だということを忘れないでくれ。細かいことは、それぞれの担当者が考えることだから、それはそれで担当者に任せる」
「そういうことね、わかりましたよ」
ロビーの口調には、まだ不満が残されていた。
セスはロビーを止めようとしたのだが、車椅子の彼では、長身のロビーの口まで手が届かなかった。
「社長、ありがとうございます。モトムラマネージャーと詳細を相談したいと思います」
「わはは、それでいい。細かいことはモトムラマネージャーと話して決めてくれ」
セスが素直に感謝の気持ちを表すと、ミヤハラは豪快に笑ってみせた。もともと気のよい人物なのだ。
サクライが上層部での手続きがあるから、とエリックに社長室に残るよう命じる。
エリックが細かいことは明日相談しようと言ったので、セスたち三人は社長室を後にした。
社長室を出た直後、ロビーが苦虫を噛み潰したような表情でこう言った。
「交渉は絶対成功すると思っていたけどな、何か無駄な仕事をさせられたみたいで気分が悪いや」
すると、モリタがセスに小声で耳打ちする。
「根拠も無しに、ただ何々したいと言うだけで上層部が納得する訳ないよ。ロビーは僕らより社会人経験長いはずなんだけどな」
セスはロビーに聞こえないように、そうだね、とだけ答えた。
ロビーにとっては不満の残る交渉であったが、計画はミヤハラに承認された。
社のトップが決断した以上、島の東部へ行くという計画は正式にECN社の事業となった。
こうしてオイゲン・イナ、ウォーリー・トワ、セス・クルスの希望は実現に向けての第一歩を踏み出したのだった。
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