ストランディング・ワールド(Stranding World) ~不時着した宇宙ステーションが拓いた地にて兄を探す~

空乃参三

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第九章

410:計画書

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 計画するルートは北のドガン山脈越えに決まったが、悩ましい問題は人、物資、費用、期間などいくらでもある。
 セスに残された日数を考えれば一日でも早く出発し、調査結果を出したいところである。
 しかし、準備が不十分なまま出発しては、十分な調査結果が得られない━━最悪、島の東部にたどり着けない━━可能性が十分に考えられる。
 それでは意味がないのだ。

 セスは屈強な男性六、七人でチームを組むのがいいだろうと主張した。
 山越えは体力勝負になるから、体力のある者でチームを組むのは当然ともいえる。
 また、セスは予算と探索効率のことも考えていた。
 人数が多すぎては予算もかかりすぎるし、少なすぎては十分な範囲を探索できないからだ。少数精鋭だが、少なすぎない人数、というのがこのあたりだと考えたのである。
 人選については、社の上層部の協力も必要だろう。
 セス、ロビー、モリタの三人に関しては、エリックが気を遣って上級チームマネージャー付きの事務員という扱いになっている。
 エリックが特段指示を与えていないので、こうして就業時間中に堂々と集まって話し合いができるが、他の従業員は必ずしもそうはいかない。
 例えば、「タブーなきエンジニア集団」でセスたちと行動を共にしていた「とぉえんてぃ?ず」の三人ことカネサキ、オオイダ、コナカの三人はエリックのタスクユニットで労務関係の業務に従事している。レイカ・メルツに至っては、正式に「タブーなきエンジニア集団」にメンバー登録していなかった関係もあり、ECN社の従業員ですらない。
 人選は上層部と相談することにして、期間と予算、物資の所要量も計算しなければならない。
 セスは自身の携帯端末に記憶させておいたデータと首っ引きで、これらの最適な所要量を計算している。
 彼が参考にしていたのは、この地に人々が遭難してきた際、どのようにして居住地を見つけ、定住したのかという情報だった。四ヶ月ほど前、ユニヴァースのところで解読されたものが大部分である。
 彼は自身がこの地の歴史を知らなかったことを大いに悔いていた。
 歴史を知っていれば、ウォーリーが兄であることがもう少し早く判明しただろうし、そうであれば死んだ兄ではなく、生きた兄と会うことができたはずだったからだ。
 兄が残した島の東部への探索という課題を前にして、セスは同じ失敗を繰り返したくなかった。
 今回は過去の歴史に学び、十分な情報を得て臨みたい……
 事実、彼はそれをやってのけようとしている。

 セスが過去の情報から導き出した結論はこうであった。
 必要な期間は当面、六ヶ月とする。
 これは「はじまりの丘」付近に不時着した「ルナ・ヘヴンス」から人々が脱出し、現在のポータル・シティにたどり着くまでの時間を参考に算出されたものである。
 いたずらに調査を長期化させることに意味を見出せなかったので、その点からもこのくらいが最適であろうとセスは考えている。これで十分に調査ができなければ次の隊を出す必要がある。
 必要な物資の量は人数と期間から算出できる。ただし、不測の事態が容易に予想できることから余裕を持たせておく必要がある。
 また、できれば「はじまりの丘」より東側に二番目の拠点を構築しておきたい。
 ドガン山脈越えのベースキャンプとしては、「はじまりの丘」はあまりにも遠すぎるのだ。可能であれば、「はじまりの丘」と第二の拠点との間を往復する輸送部隊も別に設置すべきであろう……

 セスがこのように計画書の数字を埋めていると、突然ミーティングルームの扉がノックされた。
 近くにいたモリタがドアを開けると、息を切らせたエリックの姿があった。
 セスがエリックを招き入れると、早速エリックは計画書の進み具合を聞いてきた。
 ロビーが携帯端末を手渡し、近くの椅子に腰かけたエリックがそれに目を通す。
 エリックは二言三言アドバイスして、その通りにロビーが計画書を修正する。
 再びエリックがそれをチェックし、再度修正が行われたところで、エリックが立ち上がった。

「じゃあ、行こうか」
「待ってくれよ! もう行っていいのか?」
 さすがにロビーが慌ててエリックを制止する。
 エリックは構わないと答え、三人に同行するよう指示した。
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