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第九章
409:東へのルート
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その日の午後、ロビーとセス、そしてモリタの三人は、ECN社本社内にあるミーティングルームの一つを占拠して島東部探索の計画書を作っていた。
ホワイトボードには、ロビーの字で大きく「東部探索隊 計画策定会議」と書かれている。決して綺麗ではないが、豪快かつ強い意志を感じさせる文字である。
セスとロビーが携帯端末を囲みながら、ああでもない、こうでもないと議論している。
モリタはテーブルの隅のほうで別の携帯端末を広げて、自分の仕事をしている。
セスやロビーに意見を求められれば、それに対して何か言葉を返すことはしているが、自ら積極的に意見を言うことはないようだ。
だから、議論はどうしてもセスとロビーの二人を中心に進められる。
「セス、攻めるとしたら、北のドガン山脈ルートしかないだろうな。
南はいつ噴火してもおかしくない火山ばかりだから、危なくてしょうがねえ」
「普通に考えたら北側だと思うけど……
北側には山の近くに町が無いよ。持っていける物資には限りがあるし、できるだけ山に近いところに拠点を置きたいな。未知の場所を探索するのだから、探索しながら何度も拠点に戻らなければならないだろうし、拠点が遠いと探索できる範囲も狭くなる。時間とお金を余計に使ってしまうよ」
「そうだな」
「それに、『はじまりの丘』から先は道もないんだよ。恐らく、山を越えて東側へ行くのには一〇〇キロ以上進まなければならない。インデストからなら、その半分以下の距離で山を越えて東側へいけると思うんだけど……」
確かにセスのいう通り、北側のドガン山脈ルートをとる場合、近くに補給拠点となる町が無いのがネックになる。
「はじまりの丘」までの街道沿いに小さな村や集落はいくつかあるが、これらを補給拠点にするには、ポータル・シティあたりから物資を運びこむ必要がある。
これが南側のアカオ山脈ルートをとる場合なら、インデストを補給拠点として使える。
インデストはアカオ山脈から二〇キロほどしか離れていない。
彼等のいるハモネスからも街道が通っており、はるかに島の東部に近づきやすい。
このルートのネックは、アカオ山脈が噴火を繰り返す活火山からなっていることであり、探索の危険が大きい。
これらの他に、島の東部へ行くためのルートは三つ考えられたが、検討の最初の段階で除外された。
島の北側の海を回る方法、及び島の南側の海を回る方法は、過去に海洋調査隊が何度も挑戦し、ことごとく跳ね返されてきた。今回は海洋調査の専門家を探索隊に組み入れることが困難であったので、すぐに検討対象から外された。
島の中央部にあるサファイヤ・シーを船で横断する方法も検討されたが、こちらは湖の中央部が滝で分断されている。
こちらも過去に何度か船で渡ろうとした例はあるらしい。
しかし、滝に阻まれて、そのすべてが失敗している。
迂回路の探索も何度か試みられているが、有力な迂回路は見つかっていない、とのことであった。
意外にも陸路に関しては、探索がほとんどなされていない。これは、前述の通り北側は拠点を置きにくいこと、南側は活火山帯を越えなければならないことが要因である。
「おい、モリタ、お前に意見は無いのかよ?」
ロビーがモリタの方を向いて尋ねた。
モリタの携帯端末を取り上げなかったのが、せめてもの気遣いらしい。
「南は論外じゃないの?」
「何でだよ」
「何のために東へ行くのさ? 一回行って終わり、ってことじゃないんじゃないの?」
するとセスが手を叩いて、
「そうか、東へ行きました、報告しました、でおしまいじゃないものね。行方知らずのイナ社長さんの言葉を考えれば、西と東へ行き来できる手段を作らなければいけないね、ありがとう」
とモリタに賛同の意を示した。
更にセスは「自分の仕事に戻っていてよ。必要があったら、意見を聞くから」と言ってモリタに仕事に戻るよう気遣った。
モリタは無言で、自分の携帯端末へ視線を戻した。
「やっぱり北のドガン山脈ルートか。まあ、順当だな。補給拠点はユニヴァースのおっさんのところを借りるとして……」
ロビーは既にユニヴァースの館を拠点として使うことを決めていたようだ。
ユニヴァースに断られることなど微塵も考えていない、というより、断られたところで既成事実を作ってしまえばどうにかなる、と考えているのだろう。
「……僕はそこで物資を管理するよ。この身体じゃ、そこから先は足手まといになるからね。補給拠点にも管理者がいたほうがいいらしいし」
「それは必要だが……セスはそれでいいのか?」
ロビーとしても、セスに山脈越えの負担はかけさせたくない、というよりセスを連れて五千メートル級の山を越えることは難しいと思っている。
ロビー自身は無事に越える自信があるが、セスの安全を守る自信はない。
それでもセスを気遣うのは、セスの残された命数があまりにも少ないものであるということを知っているからだ。できることなら希望をかなえてやりたい。
「……いいんだ。急な山道では、僕は荷物になることしかできないからね。それで、皆の探索が遅れるようなことがあったら、それこそ兄が浮かばれない。
僕は……皆が調査してきた結果を早く知りたいんだ。島の東に何があって、どのようになっているのか、それを知ることが僕の望みだからね。
それに……」
「それに、何だ?」
「兄は『はじまりの丘』に葬りたいと思うんだ。この島に住むことになった人々のルーツの場所に。OP社と戦って、この地の未来を切り開こうとした兄が眠るには一番いい場所だと思うからね」
「そうか……」
ロビーはこのとき初めて、セスがウォーリーを「はじまりの丘」に葬りたいという希望を持っていることを知った。
ならば、「はじまりの丘」を通らない他のルートはすべて検討対象から外すべきだ。
ロビーは計画書を北のドガン山脈越えルートで作ることを決めた。
ホワイトボードには、ロビーの字で大きく「東部探索隊 計画策定会議」と書かれている。決して綺麗ではないが、豪快かつ強い意志を感じさせる文字である。
セスとロビーが携帯端末を囲みながら、ああでもない、こうでもないと議論している。
モリタはテーブルの隅のほうで別の携帯端末を広げて、自分の仕事をしている。
セスやロビーに意見を求められれば、それに対して何か言葉を返すことはしているが、自ら積極的に意見を言うことはないようだ。
だから、議論はどうしてもセスとロビーの二人を中心に進められる。
「セス、攻めるとしたら、北のドガン山脈ルートしかないだろうな。
南はいつ噴火してもおかしくない火山ばかりだから、危なくてしょうがねえ」
「普通に考えたら北側だと思うけど……
北側には山の近くに町が無いよ。持っていける物資には限りがあるし、できるだけ山に近いところに拠点を置きたいな。未知の場所を探索するのだから、探索しながら何度も拠点に戻らなければならないだろうし、拠点が遠いと探索できる範囲も狭くなる。時間とお金を余計に使ってしまうよ」
「そうだな」
「それに、『はじまりの丘』から先は道もないんだよ。恐らく、山を越えて東側へ行くのには一〇〇キロ以上進まなければならない。インデストからなら、その半分以下の距離で山を越えて東側へいけると思うんだけど……」
確かにセスのいう通り、北側のドガン山脈ルートをとる場合、近くに補給拠点となる町が無いのがネックになる。
「はじまりの丘」までの街道沿いに小さな村や集落はいくつかあるが、これらを補給拠点にするには、ポータル・シティあたりから物資を運びこむ必要がある。
これが南側のアカオ山脈ルートをとる場合なら、インデストを補給拠点として使える。
インデストはアカオ山脈から二〇キロほどしか離れていない。
彼等のいるハモネスからも街道が通っており、はるかに島の東部に近づきやすい。
このルートのネックは、アカオ山脈が噴火を繰り返す活火山からなっていることであり、探索の危険が大きい。
これらの他に、島の東部へ行くためのルートは三つ考えられたが、検討の最初の段階で除外された。
島の北側の海を回る方法、及び島の南側の海を回る方法は、過去に海洋調査隊が何度も挑戦し、ことごとく跳ね返されてきた。今回は海洋調査の専門家を探索隊に組み入れることが困難であったので、すぐに検討対象から外された。
島の中央部にあるサファイヤ・シーを船で横断する方法も検討されたが、こちらは湖の中央部が滝で分断されている。
こちらも過去に何度か船で渡ろうとした例はあるらしい。
しかし、滝に阻まれて、そのすべてが失敗している。
迂回路の探索も何度か試みられているが、有力な迂回路は見つかっていない、とのことであった。
意外にも陸路に関しては、探索がほとんどなされていない。これは、前述の通り北側は拠点を置きにくいこと、南側は活火山帯を越えなければならないことが要因である。
「おい、モリタ、お前に意見は無いのかよ?」
ロビーがモリタの方を向いて尋ねた。
モリタの携帯端末を取り上げなかったのが、せめてもの気遣いらしい。
「南は論外じゃないの?」
「何でだよ」
「何のために東へ行くのさ? 一回行って終わり、ってことじゃないんじゃないの?」
するとセスが手を叩いて、
「そうか、東へ行きました、報告しました、でおしまいじゃないものね。行方知らずのイナ社長さんの言葉を考えれば、西と東へ行き来できる手段を作らなければいけないね、ありがとう」
とモリタに賛同の意を示した。
更にセスは「自分の仕事に戻っていてよ。必要があったら、意見を聞くから」と言ってモリタに仕事に戻るよう気遣った。
モリタは無言で、自分の携帯端末へ視線を戻した。
「やっぱり北のドガン山脈ルートか。まあ、順当だな。補給拠点はユニヴァースのおっさんのところを借りるとして……」
ロビーは既にユニヴァースの館を拠点として使うことを決めていたようだ。
ユニヴァースに断られることなど微塵も考えていない、というより、断られたところで既成事実を作ってしまえばどうにかなる、と考えているのだろう。
「……僕はそこで物資を管理するよ。この身体じゃ、そこから先は足手まといになるからね。補給拠点にも管理者がいたほうがいいらしいし」
「それは必要だが……セスはそれでいいのか?」
ロビーとしても、セスに山脈越えの負担はかけさせたくない、というよりセスを連れて五千メートル級の山を越えることは難しいと思っている。
ロビー自身は無事に越える自信があるが、セスの安全を守る自信はない。
それでもセスを気遣うのは、セスの残された命数があまりにも少ないものであるということを知っているからだ。できることなら希望をかなえてやりたい。
「……いいんだ。急な山道では、僕は荷物になることしかできないからね。それで、皆の探索が遅れるようなことがあったら、それこそ兄が浮かばれない。
僕は……皆が調査してきた結果を早く知りたいんだ。島の東に何があって、どのようになっているのか、それを知ることが僕の望みだからね。
それに……」
「それに、何だ?」
「兄は『はじまりの丘』に葬りたいと思うんだ。この島に住むことになった人々のルーツの場所に。OP社と戦って、この地の未来を切り開こうとした兄が眠るには一番いい場所だと思うからね」
「そうか……」
ロビーはこのとき初めて、セスがウォーリーを「はじまりの丘」に葬りたいという希望を持っていることを知った。
ならば、「はじまりの丘」を通らない他のルートはすべて検討対象から外すべきだ。
ロビーは計画書を北のドガン山脈越えルートで作ることを決めた。
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