ストランディング・ワールド(Stranding World) ~不時着した宇宙ステーションが拓いた地にて兄を探す~

空乃参三

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第九章

408:遺志の継ぎ方

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 ロビーが去った会議スペースにはエリックが一人取り残された。
 (確かに、あの日、マネージャーは島の東を探検してみるとか、と言っていたな……)
 エリックの言う「マネージャー」は、当然ウォーリーのことである。
 自らが「マネージャー」と呼ばれる立場になったにも関わらず、彼自身にその自覚はほとんどなかった。

 ウォーリーはインデスト郊外の「オーシャンリゾート」を出発する前日、確かにサブマリン島東部を探検する希望を述べていた。
 それが、前社長のオイゲンの希望であることも確かに聞いている。
 (それで、今度はマネージャーの弟さんとその友達、か……)
 島の東はなぜ彼等の興味を惹くのだろうか?
 エリックには、その理由がよくわからない。
 誰かが行ってみて、その先に興味を惹くようなものがあることが確認されれば、一度くらいは島の東部へ行ってみようと思うかもしれない、とエリックは考えている。
 しかし、現在、サブマリン島の東には何があるのか見当もつかないのだ。
 そもそも、島の東部へ行くための手段が確立されていないのである。

 島は中央部で二つの山脈と一つの湖によって分断されている。
 北部にあるのは万年雪に覆われた五千メートル級の山々が連なるドガン山脈である。
 そして、南部は同じく五千メートル級の活火山が連なるアカオ山脈、中央部はサファイヤ・シーで、この湖は途中、落差の大きい滝で分断されていると聞いている。
 島の東部と西部を行き来する安全なルートなど見つかっていないのである。
 事実、この地に人が降り立って以来、島の東部に行ったという人の情報は得られていない。
 なのに、なぜ彼等はそこへ行くことを望むのだろうか。
 希望している人物にも問題がある。
 壮健なロビーは良いとしても、セスは車椅子が手放せない。
 また、セスを診ている医師のアイネスが、セスの寿命はもう長くないと言っているのだ。
 (もしかしたら、クルス君は自分の寿命がないことを悟っていて、それで何かをしようと思っているのだろうか……?)
 そうだとすれば、最後の希望くらいは叶えてやりたい気もする。
 エリック自身は一ヶ月ほど前にウォーリーの最期を看取った以外に人の死に接したことはない。
 インデストでハドリ率いるOP社の部隊と戦闘を繰り広げたときですら、直接死人を目の当たりにすることはなかったのだ。
 ウォーリーの死を目の当たりにしてはじめて、おぼろげながら人の死を感覚として感じられるになったと思う。
 ウォーリーがジンへ戻った後、何をしたかったのかはエリックにはよくわからない。
 ただ、言葉として残されているのは、島の東部への探検と、先代社長が残したワインを開けることだけだったと記憶している。
 ウォーリーは、そのどちらも果たせずに逝った。
 彼は休むことを知らない男であったから、健在であれば他にも多くのことを成し遂げたのではないか、とエリックは思う。
 所詮、人などいつ命数が尽きるのかはわからないのである。
 ウォーリーのことで、このことは痛いほど思い知らされた。
 セスの場合は事情が異なり、近いうちに命数が尽きるであろう事が予測されている。
 (クルス君はマネージャーの弟さんだからなぁ……
 弟さんなりにマネージャーの遺志を引き継ごうとしているのだろうか?
 しかし、それにはあまりにも時間がなさ過ぎる……)
 自分のなすべきことを明確に見出せたわけではない。
 エリックはとりあえず目の前の業務を急いで片付け、ロビーやセスが取り組んでいるであろう計画書の作成を手伝うことに決めた。
 そして、それを持ってミヤハラやサクライと話をするつもりだ。
 (そう、こういう場合は最悪の事態を考えた方がいい。縁起でもないが、クルス君がいつ倒れ、亡くなるかもわからないんだ。一秒でも早く話を持って行って、彼等を出発させるに越したことはない)
 その直後、何人かの社員が会議スペースから自席に向けて慌てて走っていくエリックの姿を見かけて、不思議そうな視線を向けていた。
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