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第九章
406:「タブーなきエンジニア集団」の名前
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ミヤハラがECN社社長就任を打診され、返事を先延ばしにしている間、「タブーなきエンジニア集団」にも動きがなかったわけではない。
ミヤハラはほとんど動きを見せなかったものの、エリックやセス、ロビー、そして「とぉえんてぃ? ず」のメンバー等が中心となり「ミヤハラがECN社の社長に就任すべきかどうか」の意見を求めて「タブーなきエンジニア集団」の中を駆けずり回っていたのである。
意見は割れていたが、ECN社とOP社の双方が社長を失ったことが引き金となったのか、ミヤハラのECN社社長就任については、好意的な声がやや多く感じられた。両社とも過去の両社ではない、と判断されたようであった。
エリックはこの調査結果をまとめサクライやミヤハラにそれらを示したが、ミヤハラは動かなかった。
エリックが調査結果を示してから一週間ほどしてジンの「タブーなきエンジニア集団」の事務所に一人の使者がやってきた
この使者は事務所の入口でイライラした様子を見せながら、責任者を出して欲しいと訴えた。
相手をしたのはコナカである。
使者は椅子に腰掛けると眉間にしわを寄せ、足を踏み鳴らしていた。
それだけではなく、終始落ち着きのない様子を見せており、怖いくらいだったとコナカは後に語った。
「あ、あの……こちらへどうぞ」
コナカは緊張を隠しながら使者を会議室へと案内しようとしたが、相手は急ぎの用事なのでここで待つ、と言って聞かない。
(ミヤハラさんでも誰でもいいから、早く来てください……)
コナカはミヤハラの到着を心待ちに待った。
自身の言うことをまったく聞く様子が見られない者を相手にするのは、精神的に非常にきつい。
使者の顔に見覚えがあるのだが、彼女はその名前を思い出せなかったので、それも相手を不機嫌にしているのではないかと焦っていた。
彼女から見ると、使者の周りは張り詰めた空気で覆われており、声をかけるのも憚られる。
先ほど会議室へ案内しようと声をかけたが、それにもかなりの勇気が必要であった。
この使者、名前をタツシ・キノシタという。
現在、ECN社の総務勤務、ということになっている。
彼がこの場にやってきたのは、ミヤハラに「ECN社社長就任を承知する」という書面へサインをさせるためであった。
社内でこの任務を依頼されたとき、彼は書類の書式が一般的でないだの、手渡しではなく発送すればいいのではないかだの、他に行くべき人間が居るだのと様々な理由をつけて、これを拒否しようとした。
実のところ、彼自身はECN社の社長が誰であろうと興味はなく、このような面倒な仕事をしたくなかっただけであったのだが。
執拗な説得にキノシタも折れざるを得なかったのだが、今度は行き先までの道順を地図で示せだの、受付で誰を呼び出せばいいのかだの、ことこまかに手順の説明を求めた。
このような事情もあって、彼はすこぶる機嫌が悪かった。
(このような子供の使いのようなこと、自分のすることではない)
そのような思いが態度に出てしまっており、これがコナカが彼を恐れる要因になったかもしれない。
キノシタが到着してから十数分後、サクライに引っ張られてミヤハラが出てくると、キノシタは名乗りもせず、ミヤハラの前に書面を差し出しこう言ってのけた。
「これはあなたがECN社の社長に就任するということの承認書です。承認欄にサインをしてください。詳しい内容は読んでおいてください」
不躾な態度に、その場にいた誰もが返す言葉もなく茫然としていた。
「承認欄にサインをしてください、というのがわからないのですか!」
キノシタの語気が強くなる。
問題はそこではないだろう、とコナカは思ったが、口に出して指摘することは憚られた。
「TM、いいのではないですか? 諦めて受けましょう」
そう言ってサクライがミヤハラにペンを手渡す。
「おいおい……」
ミヤハラはサインを渋ったが、サクライのこの言葉が決め手となった。
「TMも意外と冷たいんですね。ここで困っている相手を助けないでどうするのですか!」
するとミヤハラは、
「しょうがないな……まあ、何とかなるだろう」
としぶしぶ書面にペンを走らせたのである。
サインをして書面を差し出そうとすると、キノシタは待っていられないという様子でひったくるようにそれを手にして、礼も言わず事務所を出て行ってしまった。
「……何だ、あいつは?」
ミヤハラは呆気に取られてそれ以上言葉が続かなかった。
こうしてミヤハラはヤマガタのOP社社長就任と同じ七月一日にECN社社長代行に就任することとなった。
当初、ミヤハラは社長に就任するように求められたのだが、「現社長の生死も不明なのだから、勝手に社長に就任するのは問題という指摘があった。だから、自分が就任するのはあくまでも社長代行だ」と主張し、それが受け入れられたのである。
これに伴い、「タブーなきエンジニア集団」はECN社と統合された。
社名はECN社の社名をそのまま残すことにし、「タブーなきエンジニア集団」の名前は新生ECN社のキャッチフレーズとして採用されることになった。
「タブーなきエンジニア集団」のメンバーに関しては、本人が希望すればECN社へ転籍し、それを望まない者は「タブーなきエンジニア集団」の規程に基づいて、退職一時金を支払った。
こうして、紆余曲折を経ながらも「タブーなきエンジニア集団」は、元の鞘に納まるとともに、その名をECN社の中に残すこととなったのである。
ミヤハラはほとんど動きを見せなかったものの、エリックやセス、ロビー、そして「とぉえんてぃ? ず」のメンバー等が中心となり「ミヤハラがECN社の社長に就任すべきかどうか」の意見を求めて「タブーなきエンジニア集団」の中を駆けずり回っていたのである。
意見は割れていたが、ECN社とOP社の双方が社長を失ったことが引き金となったのか、ミヤハラのECN社社長就任については、好意的な声がやや多く感じられた。両社とも過去の両社ではない、と判断されたようであった。
エリックはこの調査結果をまとめサクライやミヤハラにそれらを示したが、ミヤハラは動かなかった。
エリックが調査結果を示してから一週間ほどしてジンの「タブーなきエンジニア集団」の事務所に一人の使者がやってきた
この使者は事務所の入口でイライラした様子を見せながら、責任者を出して欲しいと訴えた。
相手をしたのはコナカである。
使者は椅子に腰掛けると眉間にしわを寄せ、足を踏み鳴らしていた。
それだけではなく、終始落ち着きのない様子を見せており、怖いくらいだったとコナカは後に語った。
「あ、あの……こちらへどうぞ」
コナカは緊張を隠しながら使者を会議室へと案内しようとしたが、相手は急ぎの用事なのでここで待つ、と言って聞かない。
(ミヤハラさんでも誰でもいいから、早く来てください……)
コナカはミヤハラの到着を心待ちに待った。
自身の言うことをまったく聞く様子が見られない者を相手にするのは、精神的に非常にきつい。
使者の顔に見覚えがあるのだが、彼女はその名前を思い出せなかったので、それも相手を不機嫌にしているのではないかと焦っていた。
彼女から見ると、使者の周りは張り詰めた空気で覆われており、声をかけるのも憚られる。
先ほど会議室へ案内しようと声をかけたが、それにもかなりの勇気が必要であった。
この使者、名前をタツシ・キノシタという。
現在、ECN社の総務勤務、ということになっている。
彼がこの場にやってきたのは、ミヤハラに「ECN社社長就任を承知する」という書面へサインをさせるためであった。
社内でこの任務を依頼されたとき、彼は書類の書式が一般的でないだの、手渡しではなく発送すればいいのではないかだの、他に行くべき人間が居るだのと様々な理由をつけて、これを拒否しようとした。
実のところ、彼自身はECN社の社長が誰であろうと興味はなく、このような面倒な仕事をしたくなかっただけであったのだが。
執拗な説得にキノシタも折れざるを得なかったのだが、今度は行き先までの道順を地図で示せだの、受付で誰を呼び出せばいいのかだの、ことこまかに手順の説明を求めた。
このような事情もあって、彼はすこぶる機嫌が悪かった。
(このような子供の使いのようなこと、自分のすることではない)
そのような思いが態度に出てしまっており、これがコナカが彼を恐れる要因になったかもしれない。
キノシタが到着してから十数分後、サクライに引っ張られてミヤハラが出てくると、キノシタは名乗りもせず、ミヤハラの前に書面を差し出しこう言ってのけた。
「これはあなたがECN社の社長に就任するということの承認書です。承認欄にサインをしてください。詳しい内容は読んでおいてください」
不躾な態度に、その場にいた誰もが返す言葉もなく茫然としていた。
「承認欄にサインをしてください、というのがわからないのですか!」
キノシタの語気が強くなる。
問題はそこではないだろう、とコナカは思ったが、口に出して指摘することは憚られた。
「TM、いいのではないですか? 諦めて受けましょう」
そう言ってサクライがミヤハラにペンを手渡す。
「おいおい……」
ミヤハラはサインを渋ったが、サクライのこの言葉が決め手となった。
「TMも意外と冷たいんですね。ここで困っている相手を助けないでどうするのですか!」
するとミヤハラは、
「しょうがないな……まあ、何とかなるだろう」
としぶしぶ書面にペンを走らせたのである。
サインをして書面を差し出そうとすると、キノシタは待っていられないという様子でひったくるようにそれを手にして、礼も言わず事務所を出て行ってしまった。
「……何だ、あいつは?」
ミヤハラは呆気に取られてそれ以上言葉が続かなかった。
こうしてミヤハラはヤマガタのOP社社長就任と同じ七月一日にECN社社長代行に就任することとなった。
当初、ミヤハラは社長に就任するように求められたのだが、「現社長の生死も不明なのだから、勝手に社長に就任するのは問題という指摘があった。だから、自分が就任するのはあくまでも社長代行だ」と主張し、それが受け入れられたのである。
これに伴い、「タブーなきエンジニア集団」はECN社と統合された。
社名はECN社の社名をそのまま残すことにし、「タブーなきエンジニア集団」の名前は新生ECN社のキャッチフレーズとして採用されることになった。
「タブーなきエンジニア集団」のメンバーに関しては、本人が希望すればECN社へ転籍し、それを望まない者は「タブーなきエンジニア集団」の規程に基づいて、退職一時金を支払った。
こうして、紆余曲折を経ながらも「タブーなきエンジニア集団」は、元の鞘に納まるとともに、その名をECN社の中に残すこととなったのである。
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