ストランディング・ワールド(Stranding World) ~不時着した宇宙ステーションが拓いた地にて兄を探す~

空乃参三

文字の大きさ
上 下
415 / 436
第九章

405:後継者探し その3

しおりを挟む
 OP社がトニー・シヴァに次期社長就任の打診をしているのと同じ頃、ECN社も後継社長の候補として一人の人物に目をつけていた。
 こちらはOP社と異なり、まず書面で本人に社長就任の意志があるかを問うてきた。

「TM、ECN社から書面が届いていますよ。今更何だというのでしょうね?」
 そう言って封書を手にやってきたのはサクライである。
 ウォーリー亡き今、彼は「タブーなきエンジニア集団」のナンバーツーの立場にある。
 封書を渡されたミヤハラは乱雑に封を破き、その中身にざっと目を通す。

「はぁ? おいおい、俺にECN社の社長にならないか? って打診してきたぞ。会社を飛び出した俺にどうしろ、っていうんだ?」
 ミヤハラは呆れた様子で書面をひらひらと泳がせている。
「やってやったらいいじゃないですか。いなくなってようやく我々のありがたみがわかったということでしょうよ。条件はふっかけてやればいいでしょう」
「そうは言ってもな、この『タブーなきエンジニア集団』はどうするんだ?」
「マネージャーも亡くなったことですし、先方も社長不在というのなら、TMがECN社のトップになって、向こうを吸収合併すればいいじゃないですか」
「あのなぁ……」
 ミヤハラがECN社の次期社長というのは、ミヤハラ本人やサクライなどからすれば晴天の霹靂のような話ではある。
 しかし、ECN社社内ではむしろ当然のように思われていたのも事実だ。
 ミヤハラがECN社を辞した際の役職はチームマネージャーである。
 これより上の役職は役員と上級チームマネージャーであり、これらの役職はECN社の経営に密接に関係している。
 ECN社が事実上OP社の傘下となってしまったことで、役員や上級チームマネージャーの多くは、その意思決定に対する責任を負うべき立場にあった。
 このことから、ECN社では後継社長を社外から招聘することを検討していた、というのが表向きの理由である。
 しかし、実態は社の経営に対する責任を負いたくない、ということから、有力な幹部の間で社長の地位の押し付け合いが行われた結果であった。
 こうした幹部たちは人の好いオイゲンに責任を押し付けて、彼を裏から操ることでうまい汁を吸っていた者が大半であった。彼らには裏から社を牛耳ろうとする意志はあっても、責任が伴う表のトップの座に就くという覚悟や気概がなかった。
 心ある幹部もいたが、こうした者たちは幹部の中での序列が低く、トップの座に就くことを他の幹部がよしとしなかった。
 その結果、外部にトップを求めることとなったのだ。
 名前が挙がったのは当初、ウォーリーと元経営企画室長のサワムラ、同じく元経営企画室副長のトニーであった。
 このうち、元経営企画室の二人はOP社から提携を提案された際、賛成に回ったことがネックとなった。ECN社が事実上OP社の傘下となったことへの責任は免れない、という意見が根強かったのだ。
 ウォーリーも素行に対しての問題を指摘されていたが、問題となったOP社からの提携提案に真っ向から反旗を翻して社を去ったことが評価されていた。
「タブーなきエンジニア集団」としても一貫してOP社の活動に反対を唱えていたこと、そして「タブーなきエンジニア集団」自体が、間接的にではあるがECN社にとって友好的な取引先であったこともウォーリーを推す意見を後押ししていた。
 しかし、ここへ来てのウォーリーの急逝にECN社も混乱した。
 そこで白羽の矢が立ったのがミヤハラである。
 ECN社時代の役職はチームマネージャーであり、経営に直接参加する立場ではない。
 そして、ウォーリーとともにOP社からの提携提案に反対して社を去っていたこと、「タブーなきエンジニア集団」でもウォーリーに次ぐナンバーツーであることが明らかだったこともプラスに作用した。
 ウォーリーと異なり、素行に関して後ろ指を差されることもない、というのもミヤハラを推薦する声を強めた感がある。

 しかし、当の本人はECN社の経営に興味がないわけではないが、「タブーなきエンジニア集団」を率いる立場として踏ん切りがつかないのだ。
 ミヤハラはエリックを呼んで意見を求めた。
 エリックは、「TMに意志があるのならやられてみては」とまるで参考にならない意見を述べたにとどまった。

「まったく、どうしたものかな……」
「タブーなきエンジニア集団」のことを考えなければ、ECN社の社長に就任するのも悪くないとミヤハラは思う。
「タブーなきエンジニア集団」の存在こそが、彼の迷いの原因なのである。
 サクライの言うとおり、ECN社と「タブーなきエンジニア集団」を統合するという手もある。
「タブーなきエンジニア集団」のメンバーには、ECN社から転じた者も多い。
 ECN社に対して好意的な者がいないわけではないが、多くのメンバーがECN社に対して複雑な感情を抱いているだろう。
「タブーなきエンジニア集団」そのものが、ECN社と喧嘩別れした幹部が設立した団体なのだ。
 このことが事態を複雑化させているようにもミヤハラには思える。
「そんなに複雑に考える必要はないと思いますけどね。先方が頭を下げて頼んでいるのだから、ちょっと恩を売りつけながら引き受けてやればいいんですよ」
 他人事だと思っているのか、サクライの意見は単純である。
「だがな……」
 ミヤハラは決心がつかずに返事を先延ばししていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ゲート0 -zero- 自衛隊 銀座にて、斯く戦えり

柳内たくみ
ファンタジー
20XX年、うだるような暑さの8月某日―― 東京・銀座四丁目交差点中央に、突如巨大な『門(ゲート)』が現れた。 中からなだれ込んできたのは、見目醜悪な怪異の群れ、そして剣や弓を携えた謎の軍勢。 彼らは何の躊躇いもなく、奇声と雄叫びを上げながら、そこで戸惑う人々を殺戮しはじめる。 無慈悲で凄惨な殺戮劇によって、瞬く間に血の海と化した銀座。 政府も警察もマスコミも、誰もがこの状況になすすべもなく混乱するばかりだった。 「皇居だ! 皇居に逃げるんだ!」 ただ、一人を除いて―― これは、たまたま現場に居合わせたオタク自衛官が、 たまたま人々を救い出し、たまたま英雄になっちゃうまでを描いた、7日間の壮絶な物語。

「メジャー・インフラトン」序章4/7(僕のグランドゼロ〜マズルカの調べに乗って。少年兵の季節JUMP! JUMP! JUMP! No1)

あおっち
SF
 港に立ち上がる敵AXISの巨大ロボHARMOR。遂に、AXIS本隊が北海道に攻めて来たのだ。その第1次上陸先が苫小牧市だった。  これは、現実なのだ!  その発見者の苫小牧市民たちは、戦渦から脱出できるのか。  それを助ける千歳シーラスワンの御舩たち。  同時進行で圧力をかけるAXISの陽動作戦。  台湾金門県の侵略に対し、真向から立ち向かうシーラス・台湾、そしてきよしの師範のゾフィアとヴィクトリアの機動艦隊。  新たに戦いに加わった衛星シーラス2ボーチャン。  目の離せない戦略・戦術ストーリーなのだ。  昨年、椎葉きよしと共に戦かった女子高生グループ「エイモス5」からも目が離せない。  そして、遂に最強の敵「エキドナ」が目を覚ましたのだ……。  SF大河小説の前章譚、第4部作。  是非ご覧ください。 ※加筆や修正が予告なしにあります。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

調子に乗りすぎて処刑されてしまった悪役貴族のやり直し自制生活 〜ただし自制できるとは言っていない〜

EAT
ファンタジー
「どうしてこうなった?」 優れた血統、高貴な家柄、天賦の才能────生まれときから勝ち組の人生により調子に乗りまくっていた侯爵家嫡男クレイム・ブラッドレイは殺された。 傍から見ればそれは当然の報いであり、殺されて当然な悪逆非道の限りを彼は尽くしてきた。しかし、彼はなぜ自分が殺されなければならないのか理解できなかった。そして、死ぬ間際にてその答えにたどり着く。簡単な話だ………信頼し、友と思っていた人間に騙されていたのである。 そうして誰もにも助けてもらえずに彼は一生を終えた。意識が薄れゆく最中でクレイムは思う。「願うことならば今度の人生は平穏に過ごしたい」と「決して調子に乗らず、謙虚に慎ましく穏やかな自制生活を送ろう」と。 次に目が覚めればまた新しい人生が始まると思っていたクレイムであったが、目覚めてみればそれは10年前の少年時代であった。 最初はどういうことか理解が追いつかなかったが、また同じ未来を繰り返すのかと絶望さえしたが、同時にそれはクレイムにとって悪い話ではなかった。「同じ轍は踏まない。今度は全てを投げ出して平穏なスローライフを送るんだ!」と目標を定め、もう一度人生をやり直すことを決意する。 しかし、運命がそれを許さない。 一度目の人生では考えられないほどの苦難と試練が真人間へと更生したクレイムに次々と降りかかる。果たしてクレイムは本当にのんびり平穏なスローライフを遅れるのだろうか? ※他サイトにも掲載中

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

処理中です...