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第九章
405:後継者探し その3
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OP社がトニー・シヴァに次期社長就任の打診をしているのと同じ頃、ECN社も後継社長の候補として一人の人物に目をつけていた。
こちらはOP社と異なり、まず書面で本人に社長就任の意志があるかを問うてきた。
「TM、ECN社から書面が届いていますよ。今更何だというのでしょうね?」
そう言って封書を手にやってきたのはサクライである。
ウォーリー亡き今、彼は「タブーなきエンジニア集団」のナンバーツーの立場にある。
封書を渡されたミヤハラは乱雑に封を破き、その中身にざっと目を通す。
「はぁ? おいおい、俺にECN社の社長にならないか? って打診してきたぞ。会社を飛び出した俺にどうしろ、っていうんだ?」
ミヤハラは呆れた様子で書面をひらひらと泳がせている。
「やってやったらいいじゃないですか。いなくなってようやく我々のありがたみがわかったということでしょうよ。条件はふっかけてやればいいでしょう」
「そうは言ってもな、この『タブーなきエンジニア集団』はどうするんだ?」
「マネージャーも亡くなったことですし、先方も社長不在というのなら、TMがECN社のトップになって、向こうを吸収合併すればいいじゃないですか」
「あのなぁ……」
ミヤハラがECN社の次期社長というのは、ミヤハラ本人やサクライなどからすれば晴天の霹靂のような話ではある。
しかし、ECN社社内ではむしろ当然のように思われていたのも事実だ。
ミヤハラがECN社を辞した際の役職はチームマネージャーである。
これより上の役職は役員と上級チームマネージャーであり、これらの役職はECN社の経営に密接に関係している。
ECN社が事実上OP社の傘下となってしまったことで、役員や上級チームマネージャーの多くは、その意思決定に対する責任を負うべき立場にあった。
このことから、ECN社では後継社長を社外から招聘することを検討していた、というのが表向きの理由である。
しかし、実態は社の経営に対する責任を負いたくない、ということから、有力な幹部の間で社長の地位の押し付け合いが行われた結果であった。
こうした幹部たちは人の好いオイゲンに責任を押し付けて、彼を裏から操ることでうまい汁を吸っていた者が大半であった。彼らには裏から社を牛耳ろうとする意志はあっても、責任が伴う表のトップの座に就くという覚悟や気概がなかった。
心ある幹部もいたが、こうした者たちは幹部の中での序列が低く、トップの座に就くことを他の幹部がよしとしなかった。
その結果、外部にトップを求めることとなったのだ。
名前が挙がったのは当初、ウォーリーと元経営企画室長のサワムラ、同じく元経営企画室副長のトニーであった。
このうち、元経営企画室の二人はOP社から提携を提案された際、賛成に回ったことがネックとなった。ECN社が事実上OP社の傘下となったことへの責任は免れない、という意見が根強かったのだ。
ウォーリーも素行に対しての問題を指摘されていたが、問題となったOP社からの提携提案に真っ向から反旗を翻して社を去ったことが評価されていた。
「タブーなきエンジニア集団」としても一貫してOP社の活動に反対を唱えていたこと、そして「タブーなきエンジニア集団」自体が、間接的にではあるがECN社にとって友好的な取引先であったこともウォーリーを推す意見を後押ししていた。
しかし、ここへ来てのウォーリーの急逝にECN社も混乱した。
そこで白羽の矢が立ったのがミヤハラである。
ECN社時代の役職はチームマネージャーであり、経営に直接参加する立場ではない。
そして、ウォーリーとともにOP社からの提携提案に反対して社を去っていたこと、「タブーなきエンジニア集団」でもウォーリーに次ぐナンバーツーであることが明らかだったこともプラスに作用した。
ウォーリーと異なり、素行に関して後ろ指を差されることもない、というのもミヤハラを推薦する声を強めた感がある。
しかし、当の本人はECN社の経営に興味がないわけではないが、「タブーなきエンジニア集団」を率いる立場として踏ん切りがつかないのだ。
ミヤハラはエリックを呼んで意見を求めた。
エリックは、「TMに意志があるのならやられてみては」とまるで参考にならない意見を述べたにとどまった。
「まったく、どうしたものかな……」
「タブーなきエンジニア集団」のことを考えなければ、ECN社の社長に就任するのも悪くないとミヤハラは思う。
「タブーなきエンジニア集団」の存在こそが、彼の迷いの原因なのである。
サクライの言うとおり、ECN社と「タブーなきエンジニア集団」を統合するという手もある。
「タブーなきエンジニア集団」のメンバーには、ECN社から転じた者も多い。
ECN社に対して好意的な者がいないわけではないが、多くのメンバーがECN社に対して複雑な感情を抱いているだろう。
「タブーなきエンジニア集団」そのものが、ECN社と喧嘩別れした幹部が設立した団体なのだ。
このことが事態を複雑化させているようにもミヤハラには思える。
「そんなに複雑に考える必要はないと思いますけどね。先方が頭を下げて頼んでいるのだから、ちょっと恩を売りつけながら引き受けてやればいいんですよ」
他人事だと思っているのか、サクライの意見は単純である。
「だがな……」
ミヤハラは決心がつかずに返事を先延ばししていた。
こちらはOP社と異なり、まず書面で本人に社長就任の意志があるかを問うてきた。
「TM、ECN社から書面が届いていますよ。今更何だというのでしょうね?」
そう言って封書を手にやってきたのはサクライである。
ウォーリー亡き今、彼は「タブーなきエンジニア集団」のナンバーツーの立場にある。
封書を渡されたミヤハラは乱雑に封を破き、その中身にざっと目を通す。
「はぁ? おいおい、俺にECN社の社長にならないか? って打診してきたぞ。会社を飛び出した俺にどうしろ、っていうんだ?」
ミヤハラは呆れた様子で書面をひらひらと泳がせている。
「やってやったらいいじゃないですか。いなくなってようやく我々のありがたみがわかったということでしょうよ。条件はふっかけてやればいいでしょう」
「そうは言ってもな、この『タブーなきエンジニア集団』はどうするんだ?」
「マネージャーも亡くなったことですし、先方も社長不在というのなら、TMがECN社のトップになって、向こうを吸収合併すればいいじゃないですか」
「あのなぁ……」
ミヤハラがECN社の次期社長というのは、ミヤハラ本人やサクライなどからすれば晴天の霹靂のような話ではある。
しかし、ECN社社内ではむしろ当然のように思われていたのも事実だ。
ミヤハラがECN社を辞した際の役職はチームマネージャーである。
これより上の役職は役員と上級チームマネージャーであり、これらの役職はECN社の経営に密接に関係している。
ECN社が事実上OP社の傘下となってしまったことで、役員や上級チームマネージャーの多くは、その意思決定に対する責任を負うべき立場にあった。
このことから、ECN社では後継社長を社外から招聘することを検討していた、というのが表向きの理由である。
しかし、実態は社の経営に対する責任を負いたくない、ということから、有力な幹部の間で社長の地位の押し付け合いが行われた結果であった。
こうした幹部たちは人の好いオイゲンに責任を押し付けて、彼を裏から操ることでうまい汁を吸っていた者が大半であった。彼らには裏から社を牛耳ろうとする意志はあっても、責任が伴う表のトップの座に就くという覚悟や気概がなかった。
心ある幹部もいたが、こうした者たちは幹部の中での序列が低く、トップの座に就くことを他の幹部がよしとしなかった。
その結果、外部にトップを求めることとなったのだ。
名前が挙がったのは当初、ウォーリーと元経営企画室長のサワムラ、同じく元経営企画室副長のトニーであった。
このうち、元経営企画室の二人はOP社から提携を提案された際、賛成に回ったことがネックとなった。ECN社が事実上OP社の傘下となったことへの責任は免れない、という意見が根強かったのだ。
ウォーリーも素行に対しての問題を指摘されていたが、問題となったOP社からの提携提案に真っ向から反旗を翻して社を去ったことが評価されていた。
「タブーなきエンジニア集団」としても一貫してOP社の活動に反対を唱えていたこと、そして「タブーなきエンジニア集団」自体が、間接的にではあるがECN社にとって友好的な取引先であったこともウォーリーを推す意見を後押ししていた。
しかし、ここへ来てのウォーリーの急逝にECN社も混乱した。
そこで白羽の矢が立ったのがミヤハラである。
ECN社時代の役職はチームマネージャーであり、経営に直接参加する立場ではない。
そして、ウォーリーとともにOP社からの提携提案に反対して社を去っていたこと、「タブーなきエンジニア集団」でもウォーリーに次ぐナンバーツーであることが明らかだったこともプラスに作用した。
ウォーリーと異なり、素行に関して後ろ指を差されることもない、というのもミヤハラを推薦する声を強めた感がある。
しかし、当の本人はECN社の経営に興味がないわけではないが、「タブーなきエンジニア集団」を率いる立場として踏ん切りがつかないのだ。
ミヤハラはエリックを呼んで意見を求めた。
エリックは、「TMに意志があるのならやられてみては」とまるで参考にならない意見を述べたにとどまった。
「まったく、どうしたものかな……」
「タブーなきエンジニア集団」のことを考えなければ、ECN社の社長に就任するのも悪くないとミヤハラは思う。
「タブーなきエンジニア集団」の存在こそが、彼の迷いの原因なのである。
サクライの言うとおり、ECN社と「タブーなきエンジニア集団」を統合するという手もある。
「タブーなきエンジニア集団」のメンバーには、ECN社から転じた者も多い。
ECN社に対して好意的な者がいないわけではないが、多くのメンバーがECN社に対して複雑な感情を抱いているだろう。
「タブーなきエンジニア集団」そのものが、ECN社と喧嘩別れした幹部が設立した団体なのだ。
このことが事態を複雑化させているようにもミヤハラには思える。
「そんなに複雑に考える必要はないと思いますけどね。先方が頭を下げて頼んでいるのだから、ちょっと恩を売りつけながら引き受けてやればいいんですよ」
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「だがな……」
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