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第九章
403:後継者探し その1
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LH五一年六月中旬、OP社とECN社は、ほぼ同時にトップの後継者を探し始めていた。
OP社が目をつけたのは「リスク管理研究所」の所長であるトニー・シヴァであった。
「リスク管理研究所」はOP社の電力事業の破綻をいち早く予測し、警鐘を鳴らしていたことで知られている。
ハドリが健在のときにOP社の分析を請け負っていたこともあり、OP社の状況についてもっともよく知る外部の者でもある。
パトロール・チームのリーダーであるホンゴウが社から去った後、OP社の上級幹部といえる者は社内に二人しか残されていなかった。
一人は言うまでもなく、ハドリの片腕として彼を支えてきたノブヤ・ヤマガタである。
もう一人はフトシ・ウノであるが、彼はECN社へ派遣されたときの失態などから、後継者レースでは半ば脱落しているような状況であった。
本来ならヤマガタがすんなり次の社長の座に収まるはずであったが、ヤマガタがそれを望まなかった。
ヤマガタにはハドリの部下として彼を支えるという意志はあったが、ハドリにとって代わってOP社のトップに立とうという意志は無かったのである。
ハドリにも、自身に代わってトップに立とうとする人材を集めなかったという節がある。
ヤマガタ、ウノ、オオカワ、ホンゴウ……その全員が、ハドリにとって代わってOP社のトップに立とうという意欲の少ない人材である。
この中で現在、OP社に残っているのがヤマガタとウノだけであることも、そのことを物語っているかも知れない。オオカワはインデストでの戦闘中に行方不明となっており、未だ発見されていなかった。
OP社内は後継者問題で大揺れに揺れた。
建設的とは言い難い議論を積み重ねた結果、一つの結論を出した。
後継者を内部からではなく、外部から招聘することである。
すなわち、内部から後継者を選ぶことを断念したのであった。
ヤマガタはその結論を持って、自らニジョウにある「リスク管理研究所」の事務所に赴いたのだ。
トニーをOP社の社長として招聘するためである。
「……条件は?」
トニーがヤマガタに疑わしげな視線を浴びせながら問うた。
「え、それは……前社長のハドリと同等の条件を考えております」
ヤマガタはそう答えて、ハドリが社長の地位に就いていた際の条件を示した。
トニーは書面にじっくり目を通した後、ヤマガタの提案を一蹴する。
「話になりませんね。受ける気はありません」
もともとトニーにはこの申し出を受ける意志が無かった。
ハドリ亡き後、困難な状況でのOP社社長就任の依頼である。
大きな影響力を有していた前任者の後を引き継ぐこと自体割に合わない、とトニーは考えている。
更にOP社は現在、電力事業が崩壊しつつあり、有していた強大な司法警察権を事実上返上している。
このような悪条件のもと、地位に目がくらんで社長を引き受けるなど、トニーからすれば具の骨頂である。
「……とは言いましても、そちらにも立場はあると思います。外部のアドバイザーとしてなら、御社を援助する準備はあります」
トニーはヤマガタにそう提案した。
外部のアドバイザーならば、直接に責を問われる心配はない。
勿論、OP社の経営に対してアドバイスをする準備はある。
それを受け入れて、経営に活用するかどうかはOP社の幹部次第である。
うまくいけば、それは「リスク管理研究所」のアドバイスがよかったからである。
そうでなければそれは、OP社の幹部に十分な能力か意志が無かったからである。
トニーにはリスクをとる意思は無いし、OP社の経営に直接参加して危険を冒すつもりもない。
彼が望むのはOP社に対する優位性であり、その運営に対する責任など望んでいないのだ。
「そこを何とか引き受けていただくことはできないでしょうか?」
口調こそ丁寧だが、ヤマガタの表情はこわばっている。
トニーに社長就任を断られた場合、他に候補がいないのだ。
ヤマガタ自身はトニーの擁立にそれほど積極的ではなかった。
というのも、トニーの素行に関しては芳しい噂を聞かない。
特に女癖の悪さに関する情報は豊富であり、倫理観を重視するヤマガタから見れば、とても自社のトップに置くべき人物ではないと思えたからだ。
しかし、社で協議した結果、トニーを社長に就任させることに決定したのだ。
ヤマガタはその決定に異議を唱えることをよしとしてはいなかった。
これがヤマガタの限界でもあり、自身が社長の器ではないと感じた理由でもある。
「できませんね。我々はあくまでも御社の調査を行う立場だということを理解していただきたい。外部アドバイザーということであれば、調査契約の期間が残っているので範囲内でお手伝いしましょう。それ以外はできませんね」
「……ならば、調査契約を解約した上で、改めて社長に就任していただくというのは?」
「それは契約の中途解約になりますね。御社の都合での中途解約時は、契約書に定めたとおり、残りの期間の調査費用もすべて支払っていただくことになりますな。それでも私は御社の社長に就任する気はありませんが」
トニーは話にならない、と手を振ったのだった。
OP社が目をつけたのは「リスク管理研究所」の所長であるトニー・シヴァであった。
「リスク管理研究所」はOP社の電力事業の破綻をいち早く予測し、警鐘を鳴らしていたことで知られている。
ハドリが健在のときにOP社の分析を請け負っていたこともあり、OP社の状況についてもっともよく知る外部の者でもある。
パトロール・チームのリーダーであるホンゴウが社から去った後、OP社の上級幹部といえる者は社内に二人しか残されていなかった。
一人は言うまでもなく、ハドリの片腕として彼を支えてきたノブヤ・ヤマガタである。
もう一人はフトシ・ウノであるが、彼はECN社へ派遣されたときの失態などから、後継者レースでは半ば脱落しているような状況であった。
本来ならヤマガタがすんなり次の社長の座に収まるはずであったが、ヤマガタがそれを望まなかった。
ヤマガタにはハドリの部下として彼を支えるという意志はあったが、ハドリにとって代わってOP社のトップに立とうという意志は無かったのである。
ハドリにも、自身に代わってトップに立とうとする人材を集めなかったという節がある。
ヤマガタ、ウノ、オオカワ、ホンゴウ……その全員が、ハドリにとって代わってOP社のトップに立とうという意欲の少ない人材である。
この中で現在、OP社に残っているのがヤマガタとウノだけであることも、そのことを物語っているかも知れない。オオカワはインデストでの戦闘中に行方不明となっており、未だ発見されていなかった。
OP社内は後継者問題で大揺れに揺れた。
建設的とは言い難い議論を積み重ねた結果、一つの結論を出した。
後継者を内部からではなく、外部から招聘することである。
すなわち、内部から後継者を選ぶことを断念したのであった。
ヤマガタはその結論を持って、自らニジョウにある「リスク管理研究所」の事務所に赴いたのだ。
トニーをOP社の社長として招聘するためである。
「……条件は?」
トニーがヤマガタに疑わしげな視線を浴びせながら問うた。
「え、それは……前社長のハドリと同等の条件を考えております」
ヤマガタはそう答えて、ハドリが社長の地位に就いていた際の条件を示した。
トニーは書面にじっくり目を通した後、ヤマガタの提案を一蹴する。
「話になりませんね。受ける気はありません」
もともとトニーにはこの申し出を受ける意志が無かった。
ハドリ亡き後、困難な状況でのOP社社長就任の依頼である。
大きな影響力を有していた前任者の後を引き継ぐこと自体割に合わない、とトニーは考えている。
更にOP社は現在、電力事業が崩壊しつつあり、有していた強大な司法警察権を事実上返上している。
このような悪条件のもと、地位に目がくらんで社長を引き受けるなど、トニーからすれば具の骨頂である。
「……とは言いましても、そちらにも立場はあると思います。外部のアドバイザーとしてなら、御社を援助する準備はあります」
トニーはヤマガタにそう提案した。
外部のアドバイザーならば、直接に責を問われる心配はない。
勿論、OP社の経営に対してアドバイスをする準備はある。
それを受け入れて、経営に活用するかどうかはOP社の幹部次第である。
うまくいけば、それは「リスク管理研究所」のアドバイスがよかったからである。
そうでなければそれは、OP社の幹部に十分な能力か意志が無かったからである。
トニーにはリスクをとる意思は無いし、OP社の経営に直接参加して危険を冒すつもりもない。
彼が望むのはOP社に対する優位性であり、その運営に対する責任など望んでいないのだ。
「そこを何とか引き受けていただくことはできないでしょうか?」
口調こそ丁寧だが、ヤマガタの表情はこわばっている。
トニーに社長就任を断られた場合、他に候補がいないのだ。
ヤマガタ自身はトニーの擁立にそれほど積極的ではなかった。
というのも、トニーの素行に関しては芳しい噂を聞かない。
特に女癖の悪さに関する情報は豊富であり、倫理観を重視するヤマガタから見れば、とても自社のトップに置くべき人物ではないと思えたからだ。
しかし、社で協議した結果、トニーを社長に就任させることに決定したのだ。
ヤマガタはその決定に異議を唱えることをよしとしてはいなかった。
これがヤマガタの限界でもあり、自身が社長の器ではないと感じた理由でもある。
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「それは契約の中途解約になりますね。御社の都合での中途解約時は、契約書に定めたとおり、残りの期間の調査費用もすべて支払っていただくことになりますな。それでも私は御社の社長に就任する気はありませんが」
トニーは話にならない、と手を振ったのだった。
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