ストランディング・ワールド(Stranding World) ~不時着した宇宙ステーションが拓いた地にて兄を探す~

空乃参三

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第九章

402:ひとつの旅の終わり

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 ウォーリーが兄と判明すれば島の東を探索してみる。
 セスはそう決めたものの、自身の身体がその探索に耐え得ないことは彼自身も理解している。
 また、自分自身がウォーリー・トワという人物に到底及ばないことをセスは理解している。
 ウォーリーが健在であれば、セスは彼の探索行を援助する立場に立ったであろう。
 だが、そのウォーリーは亡くなってしまった。
 亡くなった兄の遺志は何としても形に残したい。
 それが、彼が生きた証となるのだから。
 これが東へ行く理由となった。
 東へ実際に行くのは自分以外の誰かである。

(僕は東に行くだけの体力がない。行くと言ったところでアイネス先生が止めるだろう。だったら誰に行ってもらおうか……)
 セスは先ほど検査に向かった際、彼を除く全員がその場に残っていたことを知っていた。
 医師のアイネスがその場にいたことも知っている。
 恐らくセスには話せない何かがあったのだろう。
 ウォーリーの死は病死であると、アイネスから説明を聞いたロビーから教えられた。
 ロビーはセスに説明する際、「珍しい症状で手の施しようがなかった」と言ったのであるが、これがセスの疑念を呼んだ。
 ウォーリーと自分自身との間に血のつながりがあるのであれば……
 同じ症状が自分を襲っても不思議ではない。
 兄弟であるのならば、同じ形質が自身に遺伝しても不思議ではないのだから……
 ウォーリーがどのような症状を抱えていたのかは、セスもよく知らない。
 ただ、「珍しい症状」ということを知っているだけだ。
 セス自身が抱えている症状も、しばしば治療を担当した医師から「珍しい症状」とは聞かされている。
(兄弟なら……血のつながりがあるのなら、同じ病気を持っていても不思議ではないよね……)
 セスは自身が抱えている症状を、ウォーリーが抱えているものと同じと判断した。
 考えてみれば、言葉と運動のリハビリが終了して以来、治療らしい治療は行われていない。
 その一方で、検査だけは頻繁に行われている。
 治療が行われていない、という事実こそセスの症状が「手の施しようがない」状態であることを意味しているのではないだろうか?
 そして、その症状はウォーリーが抱えていたものと同一であり、ウォーリーは結局その症状のため命を断たれた。
 セスが同じ運命をたどらないという保証がどこにあるのだろうか?
 いや、むしろ同じ運命をたどると考えた方が自然に違いない。
 ウォーリーは三一歳を目前にしてこの世を去った。
 セスは現在二一歳である。
 セスがウォーリーの年になるまでには一〇年近くの時間が残されているが、セスには自分の生命がそこまでもつとは考えられなかった。
 色々な人から話を聞く限り、ウォーリーは活力に溢れた人間で、到底病に倒れるとは考えられない。
 一方でセスは病弱でしばしば病に伏せている。
 そう考えれば、セスに残された時間もそう多いものではないだろう。
 セスはウォーリー・トワこそが彼の兄であると確信していた。
 同じ病を抱えていることこそが、明白な証拠である。
 ならば、何をすべきか……?
 兄がしてきたことを知り、それを後世に残すこと、これこそがセスの役割であるように思われた。
 しかし、彼に兄がしてきたことを知り、それを残すだけの時間はないであろう。少なくとも、セス自身はそう考えていた。
 ならば……何をすべきか。
 彼の兄が考えていたことを、信頼できる他人に託し、その思いを受け継ぐこと……
 このことこそが、彼の役割である。
 不意にセスが口を開いた。

「ロビー……」
「何だ?」
「もし、ウォーリー・トワさんが僕の兄だということが確定的になったなら……」
「なったなら?」
「僕は、この島の東のことを調べたいと思う……
 ロビーも手伝ってくれないかな……?」
 ロビーは少しの迷いも見せず即答する。
「ああ、そのときは俺も行くさ」
「よかった……頼むよ……」
「ああ」
 ロビーを誘った一方で、セスはモリタに声をかけることをしなかった。
 その理由は彼自身にも理解できなかったが、何故かモリタに声をかけることだけは憚られたのだ。

 二日後の六月六日午後、DNA鑑定の結果がセスに伝えられた。
 セスとウォーリーの間の血族関係はきわめて高い確率で証明された、と。
 セスの兄を探す長い旅はこうして終わりを告げた。
 これからセスの次の旅が始まる。
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