410 / 436
第九章
400:カウントダウン開始の宣告
しおりを挟む
二時間ほどして、解剖を終えたアイネスが指定した二番の部屋にやってきた。
部屋に入るや否や、結果を報告し始めた。
ウォーリーの死因は肺の異状であり、他殺ではなく病死であることにほぼ間違いないだろうと最初に説明してきた。
また、症状が三年ほど前から断続的に発生しており、定期的に治療を受けていたこともここで説明された。エリックが把握していなかったウォーリーと医師とのやり取りもここで明かされた。
ウォーリーについては非常に困難な症状であり、治療を受けても長期の延命は困難であった可能性が高いことも合わせて説明があった。
最後にセスとウォーリーとの兄弟関係を判断するDNA鑑定には二、三日を要するため、その結果を待ってウォーリーの遺体の処置を決定してはどうか、という提案がアイネスからなされた。
「ちょ、ちょっと……今からですか?」
セスは困惑したものの、他の全員に異存は無い。
ここで、セスは検査のため一旦部屋を離れることになった。
去り際にセスは非常に不安そうな表情を見せたが、ロビーが「ここで遠慮したら後悔するぞ」と強引に押し切った。
部屋にはセスを除いた全員が残された。すなわち、ロビー、ミヤハラ、サクライ、エリックの四名である。
アイネスが部屋を出ようとする者を止めて、その場に留まらせたのだ。
普段でも硬いアイネスの表情には、更なる沈痛さが加わっていた。
そして、重い口が開かれる。
「タカミ君、ここにいるミヤハラさん、サクライさん、モトムラさんもクルス君の関係者として話をしたいと思うがいいだろうか?」
ロビーは少し考えたが、
「トワさんも、イナ社長もいないからな……いいでしょう」
とアイネスの申し出を受け入れた。
「わかりました。では、簡単に説明します。クルス君の病気は、体内の酸素交換反応に異常が生じて、発作が起きるものです。その状況によっては昏倒、最悪の場合は死に至る、というものです」
「……なるほど」
ミヤハラが相槌をうった。実際に理解しているかは不明である。
「亡くなられたトワさんの症状が、クルス君のそれと酷似していると判明したのは五月に入ってからのことです。インデストから送られたデータを分析した結果、そのことが判明しました」
今度はエリックが反応した。
「二人の症状が似ているのですね?」
「そういうことです。非常に珍しい症状であり、二人には同じような血管の奇形もあることから、何らかの血縁関係があっても不思議ではありません」
「で、クルス君の状態はどうなのですか?」
今度はサクライが質問を投げた。
「それですが、非常に難しい……というより当院、いえ現代の医学では手の施しようがありません。正直なところ、次に大きな発作が起きれば救命は困難であると思われます。そして、その発作を防止する手立ても……」
「未だ見つかっていないのか……」
ロビーが悲痛な声でうなった。
それに対しアイネスも毅然と答える。
「その通りです。正直なところ、これ以上の検査や治療は彼を苦しめるだけだと思われます。本人が希望すれば治療を終了させ、彼の望むことをさせるべきだと私は考えます」
「それしかないのか……」
そう呻くように言いながら、ロビーは拳でテーブルを叩いた。
テーブルの金具が当たり、手の甲から血が流れるが、一向に気にする気配はない。
いつもの彼なら激高してアイネスにつかみかかってもおかしくない状況であったが、彼の怒りはアイネスには向かわなかった。
「彼は……クルス君は……あと、どのくらい持ちそうなのでしょうか?」
恐る恐るエリックが問うと、アイネスは「確実なことは言えないが、あと三ヶ月から半年以内という可能性が非常に高い」と答えた。
予想されている中でもかなり悪い方の事態であったためか、部屋の中に漂っていた空気がより重苦しさを増したようになった。
いつまで続くか見当もつかない沈黙が場を覆った。
「ここで黙っていても何も起きねえ!」
不意にロビーが立ち上がった。
「俺は……セスがしたいことをできるように少しでも長く持たせたい。退院させるのはいいが、医者がいないところで放っておくのは気が気でない。何か手を考えたい、少し時間をくれ!」
手立てがないという状況でも、ロビーは何かできることを探すのを止めようとはしない。
「……わかりました。私の方でも案を考えておきます」
アイネスはロビーにそれだけ伝えると部屋から去っていった。
部屋に入るや否や、結果を報告し始めた。
ウォーリーの死因は肺の異状であり、他殺ではなく病死であることにほぼ間違いないだろうと最初に説明してきた。
また、症状が三年ほど前から断続的に発生しており、定期的に治療を受けていたこともここで説明された。エリックが把握していなかったウォーリーと医師とのやり取りもここで明かされた。
ウォーリーについては非常に困難な症状であり、治療を受けても長期の延命は困難であった可能性が高いことも合わせて説明があった。
最後にセスとウォーリーとの兄弟関係を判断するDNA鑑定には二、三日を要するため、その結果を待ってウォーリーの遺体の処置を決定してはどうか、という提案がアイネスからなされた。
「ちょ、ちょっと……今からですか?」
セスは困惑したものの、他の全員に異存は無い。
ここで、セスは検査のため一旦部屋を離れることになった。
去り際にセスは非常に不安そうな表情を見せたが、ロビーが「ここで遠慮したら後悔するぞ」と強引に押し切った。
部屋にはセスを除いた全員が残された。すなわち、ロビー、ミヤハラ、サクライ、エリックの四名である。
アイネスが部屋を出ようとする者を止めて、その場に留まらせたのだ。
普段でも硬いアイネスの表情には、更なる沈痛さが加わっていた。
そして、重い口が開かれる。
「タカミ君、ここにいるミヤハラさん、サクライさん、モトムラさんもクルス君の関係者として話をしたいと思うがいいだろうか?」
ロビーは少し考えたが、
「トワさんも、イナ社長もいないからな……いいでしょう」
とアイネスの申し出を受け入れた。
「わかりました。では、簡単に説明します。クルス君の病気は、体内の酸素交換反応に異常が生じて、発作が起きるものです。その状況によっては昏倒、最悪の場合は死に至る、というものです」
「……なるほど」
ミヤハラが相槌をうった。実際に理解しているかは不明である。
「亡くなられたトワさんの症状が、クルス君のそれと酷似していると判明したのは五月に入ってからのことです。インデストから送られたデータを分析した結果、そのことが判明しました」
今度はエリックが反応した。
「二人の症状が似ているのですね?」
「そういうことです。非常に珍しい症状であり、二人には同じような血管の奇形もあることから、何らかの血縁関係があっても不思議ではありません」
「で、クルス君の状態はどうなのですか?」
今度はサクライが質問を投げた。
「それですが、非常に難しい……というより当院、いえ現代の医学では手の施しようがありません。正直なところ、次に大きな発作が起きれば救命は困難であると思われます。そして、その発作を防止する手立ても……」
「未だ見つかっていないのか……」
ロビーが悲痛な声でうなった。
それに対しアイネスも毅然と答える。
「その通りです。正直なところ、これ以上の検査や治療は彼を苦しめるだけだと思われます。本人が希望すれば治療を終了させ、彼の望むことをさせるべきだと私は考えます」
「それしかないのか……」
そう呻くように言いながら、ロビーは拳でテーブルを叩いた。
テーブルの金具が当たり、手の甲から血が流れるが、一向に気にする気配はない。
いつもの彼なら激高してアイネスにつかみかかってもおかしくない状況であったが、彼の怒りはアイネスには向かわなかった。
「彼は……クルス君は……あと、どのくらい持ちそうなのでしょうか?」
恐る恐るエリックが問うと、アイネスは「確実なことは言えないが、あと三ヶ月から半年以内という可能性が非常に高い」と答えた。
予想されている中でもかなり悪い方の事態であったためか、部屋の中に漂っていた空気がより重苦しさを増したようになった。
いつまで続くか見当もつかない沈黙が場を覆った。
「ここで黙っていても何も起きねえ!」
不意にロビーが立ち上がった。
「俺は……セスがしたいことをできるように少しでも長く持たせたい。退院させるのはいいが、医者がいないところで放っておくのは気が気でない。何か手を考えたい、少し時間をくれ!」
手立てがないという状況でも、ロビーは何かできることを探すのを止めようとはしない。
「……わかりました。私の方でも案を考えておきます」
アイネスはロビーにそれだけ伝えると部屋から去っていった。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ゲート0 -zero- 自衛隊 銀座にて、斯く戦えり
柳内たくみ
ファンタジー
20XX年、うだるような暑さの8月某日――
東京・銀座四丁目交差点中央に、突如巨大な『門(ゲート)』が現れた。
中からなだれ込んできたのは、見目醜悪な怪異の群れ、そして剣や弓を携えた謎の軍勢。
彼らは何の躊躇いもなく、奇声と雄叫びを上げながら、そこで戸惑う人々を殺戮しはじめる。
無慈悲で凄惨な殺戮劇によって、瞬く間に血の海と化した銀座。
政府も警察もマスコミも、誰もがこの状況になすすべもなく混乱するばかりだった。
「皇居だ! 皇居に逃げるんだ!」
ただ、一人を除いて――
これは、たまたま現場に居合わせたオタク自衛官が、
たまたま人々を救い出し、たまたま英雄になっちゃうまでを描いた、7日間の壮絶な物語。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!
ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく
高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。
高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。
しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。
召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。
※カクヨムでも連載しています
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる