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第九章
400:カウントダウン開始の宣告
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二時間ほどして、解剖を終えたアイネスが指定した二番の部屋にやってきた。
部屋に入るや否や、結果を報告し始めた。
ウォーリーの死因は肺の異状であり、他殺ではなく病死であることにほぼ間違いないだろうと最初に説明してきた。
また、症状が三年ほど前から断続的に発生しており、定期的に治療を受けていたこともここで説明された。エリックが把握していなかったウォーリーと医師とのやり取りもここで明かされた。
ウォーリーについては非常に困難な症状であり、治療を受けても長期の延命は困難であった可能性が高いことも合わせて説明があった。
最後にセスとウォーリーとの兄弟関係を判断するDNA鑑定には二、三日を要するため、その結果を待ってウォーリーの遺体の処置を決定してはどうか、という提案がアイネスからなされた。
「ちょ、ちょっと……今からですか?」
セスは困惑したものの、他の全員に異存は無い。
ここで、セスは検査のため一旦部屋を離れることになった。
去り際にセスは非常に不安そうな表情を見せたが、ロビーが「ここで遠慮したら後悔するぞ」と強引に押し切った。
部屋にはセスを除いた全員が残された。すなわち、ロビー、ミヤハラ、サクライ、エリックの四名である。
アイネスが部屋を出ようとする者を止めて、その場に留まらせたのだ。
普段でも硬いアイネスの表情には、更なる沈痛さが加わっていた。
そして、重い口が開かれる。
「タカミ君、ここにいるミヤハラさん、サクライさん、モトムラさんもクルス君の関係者として話をしたいと思うがいいだろうか?」
ロビーは少し考えたが、
「トワさんも、イナ社長もいないからな……いいでしょう」
とアイネスの申し出を受け入れた。
「わかりました。では、簡単に説明します。クルス君の病気は、体内の酸素交換反応に異常が生じて、発作が起きるものです。その状況によっては昏倒、最悪の場合は死に至る、というものです」
「……なるほど」
ミヤハラが相槌をうった。実際に理解しているかは不明である。
「亡くなられたトワさんの症状が、クルス君のそれと酷似していると判明したのは五月に入ってからのことです。インデストから送られたデータを分析した結果、そのことが判明しました」
今度はエリックが反応した。
「二人の症状が似ているのですね?」
「そういうことです。非常に珍しい症状であり、二人には同じような血管の奇形もあることから、何らかの血縁関係があっても不思議ではありません」
「で、クルス君の状態はどうなのですか?」
今度はサクライが質問を投げた。
「それですが、非常に難しい……というより当院、いえ現代の医学では手の施しようがありません。正直なところ、次に大きな発作が起きれば救命は困難であると思われます。そして、その発作を防止する手立ても……」
「未だ見つかっていないのか……」
ロビーが悲痛な声でうなった。
それに対しアイネスも毅然と答える。
「その通りです。正直なところ、これ以上の検査や治療は彼を苦しめるだけだと思われます。本人が希望すれば治療を終了させ、彼の望むことをさせるべきだと私は考えます」
「それしかないのか……」
そう呻くように言いながら、ロビーは拳でテーブルを叩いた。
テーブルの金具が当たり、手の甲から血が流れるが、一向に気にする気配はない。
いつもの彼なら激高してアイネスにつかみかかってもおかしくない状況であったが、彼の怒りはアイネスには向かわなかった。
「彼は……クルス君は……あと、どのくらい持ちそうなのでしょうか?」
恐る恐るエリックが問うと、アイネスは「確実なことは言えないが、あと三ヶ月から半年以内という可能性が非常に高い」と答えた。
予想されている中でもかなり悪い方の事態であったためか、部屋の中に漂っていた空気がより重苦しさを増したようになった。
いつまで続くか見当もつかない沈黙が場を覆った。
「ここで黙っていても何も起きねえ!」
不意にロビーが立ち上がった。
「俺は……セスがしたいことをできるように少しでも長く持たせたい。退院させるのはいいが、医者がいないところで放っておくのは気が気でない。何か手を考えたい、少し時間をくれ!」
手立てがないという状況でも、ロビーは何かできることを探すのを止めようとはしない。
「……わかりました。私の方でも案を考えておきます」
アイネスはロビーにそれだけ伝えると部屋から去っていった。
部屋に入るや否や、結果を報告し始めた。
ウォーリーの死因は肺の異状であり、他殺ではなく病死であることにほぼ間違いないだろうと最初に説明してきた。
また、症状が三年ほど前から断続的に発生しており、定期的に治療を受けていたこともここで説明された。エリックが把握していなかったウォーリーと医師とのやり取りもここで明かされた。
ウォーリーについては非常に困難な症状であり、治療を受けても長期の延命は困難であった可能性が高いことも合わせて説明があった。
最後にセスとウォーリーとの兄弟関係を判断するDNA鑑定には二、三日を要するため、その結果を待ってウォーリーの遺体の処置を決定してはどうか、という提案がアイネスからなされた。
「ちょ、ちょっと……今からですか?」
セスは困惑したものの、他の全員に異存は無い。
ここで、セスは検査のため一旦部屋を離れることになった。
去り際にセスは非常に不安そうな表情を見せたが、ロビーが「ここで遠慮したら後悔するぞ」と強引に押し切った。
部屋にはセスを除いた全員が残された。すなわち、ロビー、ミヤハラ、サクライ、エリックの四名である。
アイネスが部屋を出ようとする者を止めて、その場に留まらせたのだ。
普段でも硬いアイネスの表情には、更なる沈痛さが加わっていた。
そして、重い口が開かれる。
「タカミ君、ここにいるミヤハラさん、サクライさん、モトムラさんもクルス君の関係者として話をしたいと思うがいいだろうか?」
ロビーは少し考えたが、
「トワさんも、イナ社長もいないからな……いいでしょう」
とアイネスの申し出を受け入れた。
「わかりました。では、簡単に説明します。クルス君の病気は、体内の酸素交換反応に異常が生じて、発作が起きるものです。その状況によっては昏倒、最悪の場合は死に至る、というものです」
「……なるほど」
ミヤハラが相槌をうった。実際に理解しているかは不明である。
「亡くなられたトワさんの症状が、クルス君のそれと酷似していると判明したのは五月に入ってからのことです。インデストから送られたデータを分析した結果、そのことが判明しました」
今度はエリックが反応した。
「二人の症状が似ているのですね?」
「そういうことです。非常に珍しい症状であり、二人には同じような血管の奇形もあることから、何らかの血縁関係があっても不思議ではありません」
「で、クルス君の状態はどうなのですか?」
今度はサクライが質問を投げた。
「それですが、非常に難しい……というより当院、いえ現代の医学では手の施しようがありません。正直なところ、次に大きな発作が起きれば救命は困難であると思われます。そして、その発作を防止する手立ても……」
「未だ見つかっていないのか……」
ロビーが悲痛な声でうなった。
それに対しアイネスも毅然と答える。
「その通りです。正直なところ、これ以上の検査や治療は彼を苦しめるだけだと思われます。本人が希望すれば治療を終了させ、彼の望むことをさせるべきだと私は考えます」
「それしかないのか……」
そう呻くように言いながら、ロビーは拳でテーブルを叩いた。
テーブルの金具が当たり、手の甲から血が流れるが、一向に気にする気配はない。
いつもの彼なら激高してアイネスにつかみかかってもおかしくない状況であったが、彼の怒りはアイネスには向かわなかった。
「彼は……クルス君は……あと、どのくらい持ちそうなのでしょうか?」
恐る恐るエリックが問うと、アイネスは「確実なことは言えないが、あと三ヶ月から半年以内という可能性が非常に高い」と答えた。
予想されている中でもかなり悪い方の事態であったためか、部屋の中に漂っていた空気がより重苦しさを増したようになった。
いつまで続くか見当もつかない沈黙が場を覆った。
「ここで黙っていても何も起きねえ!」
不意にロビーが立ち上がった。
「俺は……セスがしたいことをできるように少しでも長く持たせたい。退院させるのはいいが、医者がいないところで放っておくのは気が気でない。何か手を考えたい、少し時間をくれ!」
手立てがないという状況でも、ロビーは何かできることを探すのを止めようとはしない。
「……わかりました。私の方でも案を考えておきます」
アイネスはロビーにそれだけ伝えると部屋から去っていった。
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