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第九章
396:エリック、命令に背く
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六月二日、ついにウォーリーが倒れた。「オーシャンリゾート」を発ってからおよそ二週間後のことであった。
街道を歩いている途中、不意に前のめりに崩れ落ちたのである。
慌ててエリックを中心とした数名が駆け寄る。
「ありあわせの物を使って担架を作りましょう! そしてマネージャーを乗せるんです!」
同行していた一人がそう叫んだ。
エリックにも異論はない。
早速担架を作らせようとしたが、ウォーリーが弱弱しい声で制止する。
「俺を病人にするな……
フジミ・タウンの医者など絶対に行かないからな……」
「フジミ・タウンには行きません。行き先はジンです」
エリックがそう答えた。
メンバーにフジミ・タウンの医師と連絡を取らせたところ、フジミ・タウンの医療資源は新しい患者を受け入れるのに到底十分とはいえない状況であることがわかったからだ。
医師の診察を受けるために二日や三日待つのが当然といった状況なのだ。
それならば体制が十分に整っているジンへ戻った方が早い。
メディットで診察を受けるにも本来は別の医師の紹介状が必要だが、ウォーリーは継続して診療を受けている扱いになっているからその点は問題ない。
渋るウォーリーを無理矢理担架に乗せて、道を急ぐ。
ウォーリーは嫌がったのだが、「速く歩けないと足手まといだ」とエリックが主張して、強引に納得させたのだ。
「足手まとい」という言葉に反論しなかったのも、彼らしくなかった。状況が非常に厳しいように思われた。
エリックも焦っていた。
まさか、ジンに到達する前にこれほどまで状況が悪くなるとは思えなかったからだ。
確かにウォーリーは「俺の身に何かあれば」とは言っていたが、ここまで深刻な状況だとは考えもしていなかった。
ハドリ率いる部隊との戦闘中にウォーリーは一度倒れているが、別行動をとっていたエリックはそのことを知らされていない。
だから、ウォーリーは今まで特に何の異状も見せずにいたと思っている。
その人物がいきなり倒れたのである。
状況がかなり深刻に見えるのも、エリックの不安を煽った。
数十分後、何とかジンとの連絡を取ることに成功し、ミヤハラとサクライにだけウォーリーの異状を伝える。
ミヤハラがサクライに指示して受け入れ態勢を整えることになった。
そして、ウォーリーの異状については「タブーなきエンジニア集団」内の動揺を誘わないよう、ウォーリーがジンに到着するまでは伏せることにした。
二日後の六月四日午前、ウォーリーの身体は、ジンからおよそ一五キロの地点にまで到達していた。
ウォーリーは歯を食いしばりながら身体の異変に耐えていたが、その意識は時々失われ、エリックなどの呼びかけに反応しないこともしばしばであった。
エリックは不眠不休でジンまで進むことを決意し、周りの者にそう伝えた。
ウォーリーは薄れゆく意識の中で、必死に自分を襲った身体の異変に対抗していた。
(俺はこんなことで倒れるような人間じゃない! てめえのような相手に負けるわけにはいかないんだよ!)
自らの思いが、声になって出てしまったらしい。
エリックがそれに気づき、どうしましたと問いかける。
「何か飲むもの……水でいい、よこせ……」
かすれる声でエリックに指示する。
エリックは慌てて自分の荷物からスポーツドリンクのボトルを取り出し、ウォーリーに手渡す。
ウォーリーは二、三口それを口に含んだ後、エリックにボトルを返した。
「ぬるくなっているな。ジンに戻ったら冷たいのを頼むぜ……」
力なくそう言うとウォーリーは目を閉じた。
「大丈夫だ、まだ、大丈夫だ……
文句を言えるうちは、まだ大丈夫なんだ……」
エリックは自分に言い聞かせるようにつぶやいた。
そして、担架の後ろを持っていたメンバーと交代し、自ら担架の後ろの方を持って走る。
午後一時過ぎ、再びウォーリーが飲み物を求めた。
そのときウォーリーがこう口走った。
「あの……ボンクラ社長のワインをミヤハラやサクライに飲まれるのも癪だな……
俺の分も残しておけ、と伝えてくれや……」
エリックはわかりました、と答える。
ジンまでの距離は八キロほどになっている。
八キロ、といってもこのあたりは足場が悪いうえに、細かいアップダウンが多い。
担架を持つ者を何度も交代させながらジンへと進んでいくのだが、思うようにペースが上がらない。
同行しているメンバーの疲労も目立つようになってきた。
「おい、エリック……お前はともかく、周りの連中に無理させるな……」
ウォーリーにしては珍しい台詞が担架から聞こえてきた。
しかし、エリックにはその抗議を聞き入れるつもりがない。
「エリック……
トップはあまり部下をひっぱたきすぎてもいけねえ。ちゃんと部下の様子も見てな……
ちょっと無理させるくらいにしておくんだ……
それ以上無茶をさせるのは、暴君、って奴だぜ……」
ウォーリーの言い分もエリックには理解できないわけではないが、現在は非常時である。
エリックは敢えてウォーリーの言葉を無視して、ジンへと皆を急がせた。
街道を歩いている途中、不意に前のめりに崩れ落ちたのである。
慌ててエリックを中心とした数名が駆け寄る。
「ありあわせの物を使って担架を作りましょう! そしてマネージャーを乗せるんです!」
同行していた一人がそう叫んだ。
エリックにも異論はない。
早速担架を作らせようとしたが、ウォーリーが弱弱しい声で制止する。
「俺を病人にするな……
フジミ・タウンの医者など絶対に行かないからな……」
「フジミ・タウンには行きません。行き先はジンです」
エリックがそう答えた。
メンバーにフジミ・タウンの医師と連絡を取らせたところ、フジミ・タウンの医療資源は新しい患者を受け入れるのに到底十分とはいえない状況であることがわかったからだ。
医師の診察を受けるために二日や三日待つのが当然といった状況なのだ。
それならば体制が十分に整っているジンへ戻った方が早い。
メディットで診察を受けるにも本来は別の医師の紹介状が必要だが、ウォーリーは継続して診療を受けている扱いになっているからその点は問題ない。
渋るウォーリーを無理矢理担架に乗せて、道を急ぐ。
ウォーリーは嫌がったのだが、「速く歩けないと足手まといだ」とエリックが主張して、強引に納得させたのだ。
「足手まとい」という言葉に反論しなかったのも、彼らしくなかった。状況が非常に厳しいように思われた。
エリックも焦っていた。
まさか、ジンに到達する前にこれほどまで状況が悪くなるとは思えなかったからだ。
確かにウォーリーは「俺の身に何かあれば」とは言っていたが、ここまで深刻な状況だとは考えもしていなかった。
ハドリ率いる部隊との戦闘中にウォーリーは一度倒れているが、別行動をとっていたエリックはそのことを知らされていない。
だから、ウォーリーは今まで特に何の異状も見せずにいたと思っている。
その人物がいきなり倒れたのである。
状況がかなり深刻に見えるのも、エリックの不安を煽った。
数十分後、何とかジンとの連絡を取ることに成功し、ミヤハラとサクライにだけウォーリーの異状を伝える。
ミヤハラがサクライに指示して受け入れ態勢を整えることになった。
そして、ウォーリーの異状については「タブーなきエンジニア集団」内の動揺を誘わないよう、ウォーリーがジンに到着するまでは伏せることにした。
二日後の六月四日午前、ウォーリーの身体は、ジンからおよそ一五キロの地点にまで到達していた。
ウォーリーは歯を食いしばりながら身体の異変に耐えていたが、その意識は時々失われ、エリックなどの呼びかけに反応しないこともしばしばであった。
エリックは不眠不休でジンまで進むことを決意し、周りの者にそう伝えた。
ウォーリーは薄れゆく意識の中で、必死に自分を襲った身体の異変に対抗していた。
(俺はこんなことで倒れるような人間じゃない! てめえのような相手に負けるわけにはいかないんだよ!)
自らの思いが、声になって出てしまったらしい。
エリックがそれに気づき、どうしましたと問いかける。
「何か飲むもの……水でいい、よこせ……」
かすれる声でエリックに指示する。
エリックは慌てて自分の荷物からスポーツドリンクのボトルを取り出し、ウォーリーに手渡す。
ウォーリーは二、三口それを口に含んだ後、エリックにボトルを返した。
「ぬるくなっているな。ジンに戻ったら冷たいのを頼むぜ……」
力なくそう言うとウォーリーは目を閉じた。
「大丈夫だ、まだ、大丈夫だ……
文句を言えるうちは、まだ大丈夫なんだ……」
エリックは自分に言い聞かせるようにつぶやいた。
そして、担架の後ろを持っていたメンバーと交代し、自ら担架の後ろの方を持って走る。
午後一時過ぎ、再びウォーリーが飲み物を求めた。
そのときウォーリーがこう口走った。
「あの……ボンクラ社長のワインをミヤハラやサクライに飲まれるのも癪だな……
俺の分も残しておけ、と伝えてくれや……」
エリックはわかりました、と答える。
ジンまでの距離は八キロほどになっている。
八キロ、といってもこのあたりは足場が悪いうえに、細かいアップダウンが多い。
担架を持つ者を何度も交代させながらジンへと進んでいくのだが、思うようにペースが上がらない。
同行しているメンバーの疲労も目立つようになってきた。
「おい、エリック……お前はともかく、周りの連中に無理させるな……」
ウォーリーにしては珍しい台詞が担架から聞こえてきた。
しかし、エリックにはその抗議を聞き入れるつもりがない。
「エリック……
トップはあまり部下をひっぱたきすぎてもいけねえ。ちゃんと部下の様子も見てな……
ちょっと無理させるくらいにしておくんだ……
それ以上無茶をさせるのは、暴君、って奴だぜ……」
ウォーリーの言い分もエリックには理解できないわけではないが、現在は非常時である。
エリックは敢えてウォーリーの言葉を無視して、ジンへと皆を急がせた。
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