ストランディング・ワールド(Stranding World) ~不時着した宇宙ステーションが拓いた地にて兄を探す~

空乃参三

文字の大きさ
上 下
405 / 436
第九章

395:焦り

しおりを挟む
 翌五月一八日にウォーリーは「オーシャンリゾート」を出発した。
 順調に進めば六月上旬にはジンに帰還することができる。

 出発から一週間の道のりは順調であった。
 しかし、その順調さは長くは続かなかった。
 最初の障害は大雨である。
 最初のうちは、「まあ、そういう日もあるさ」とウォーリーも鷹揚に構えていたのだが、雨が長引くに連れて、苛立ちを見せるようになってきた。
 ウォーリーの体調を気遣ってエリックが休息を勧めたのだが、ウォーリーはそれを聞き入れることをしない。
「早く戻ってやらないとミヤハラたちが困るだろう! それに俺の帰りを待っている奴も居るのだからな!」
 ウォーリーは焦っていた。短気な彼ではあるが、普段ではあまり見せない感情だ。
 歩を進めるごとに、肉体の消耗が進んでいく。
 (休むなどと言っていたら、相手に気合で負ける! 俺はこんなことに負ける男じゃない!)
 そう気力を奮い立たせて、一歩でも前へ進もうと歯を食いしばり、身体を前へ傾ける。
 エリックからはウォーリーは敢えて困難な道を進み、自身を消耗させようとしているようにさえ見える。
 だから休むことを勧めたのだが、ウォーリーは一向にそれを聞き入れる様子を見せなかった。
 (あのセス、って青年に会って俺が兄だということを確定させてやらないと、あいつは身よりもないまま、不自由な療養生活を強いられるかもしれない。俺は絶対に行かなければならない)
 ウォーリーが焦るのは、その気持ちが強かったからだ。
 ウォーリー自身も優男風の外見ではあるのだが、言葉の調子が強いのと活力が全身から溢れ出ているような雰囲気から、保護欲をそそるような部分はほとんど見受けられない。
 それと比較して、弟と名乗るセス・クルスは落ち着いた雰囲気の上に、車椅子ということも手伝って、強烈な保護欲をそそる相手なのだ。
 ウォーリーが知る由もなかったが、現に「とぉえんてぃ? ず」のカネサキやオオイダは、そういった目でセスを見ている節がある。
 ウォーリーも「こいつは何とかしなければ」という気持ちにさせられている。
 もともと困った人間を見捨てることができるような男ではない。
 それができていれば、メイ・カワナはこの世になかったであろうし、彼女がこうしてオイゲンを失って悲しみに暮れることもなかったのだから。
 メイの心境について、ウォーリーが知る由もない。
 ウォーリーはただ良かれと思い周りの人々を助けているに過ぎない。
 そして今、セス・クルスという困っている青年、それも自分の弟だという存在を目の当たりにして、自分がそれを手助けしないということを看過するはずもない。
 そのためにも、この場で倒れるわけにはいかない。
 一刻も早くジンへと帰還し、セスの疑問を解決するとともに、彼を助ける必要があると考えている。

 五月三一日、当初の予定より二、三日遅れて彼等はフジミ・タウンへと達した。
 今年のはじめにハドリの手によって解放されたこの街は、現在OP社の手による復興途上の状況にあった。
 既に物流関係などでこの土地を訪れる者用に簡易宿泊所も設置されており、ウォーリーたちは約二週間ぶりに建物の中で身体を休めることができた。
 ウォーリーの身体に明確な異変が出始めたのは、この頃からである。
 心配したエリックは医師に診せることを提案したが、これはウォーリーが強く拒否した。
 医師に診せれば健康体でも病名をつけられて、無理にでも療養生活をさせるだろう、と言ったのだ。
 これはウォーリーが自身の身体に異状を認めていることの証左であるかもしれない。
 自身の身体に異状がなければ堂々と医師の診察を受け、異状が無いことを証明すればよいのだから。
 ウォーリーは渋るエリックを尻目に強引にフジミ・タウンを出発し、ジンへ向けて進んだ。
 しかし、その歩みは一向に速まらない。
 見かねたエリックがフジミ・タウンへ戻ることを提案する。
「マネージャー、戻って医師の診察を受けましょう! 急がば回れ、という言葉もあります」
 それに対し、ウォーリーは烈火のごとく怒り出した。普段ならあり得ないことだ。
「おい、エリック! お前は俺をどうしても病人にしたいのか?! 
 俺はな、自分で勝手に病気だと思って病につけこまれるような軟弱者じゃないんだよ!」
「そんなことは、言っていません。ただ……」
「ただ、何だ?! 
 俺を見てみろ! 別におかしなところなどないだろう!
 それにな、俺はジンへ戻ると決めたんだ!
 それを放擲して戦いもせず医者に逃げ込むなんてのはな、負け犬のすることなんだよ! 
 俺はそんなことごときで負け犬になんてなりたくねぇ! 
 お前は、どうしても俺を負け犬にしたいのか?!」
 そこまで言われるとエリックも押し黙ってしまう。
 それでもエリックは密かに同行しているメンバーを数名集めて、フジミ・タウンの医師と連絡を取るように指示した。それが彼にできる精一杯の対応であった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ゲート0 -zero- 自衛隊 銀座にて、斯く戦えり

柳内たくみ
ファンタジー
20XX年、うだるような暑さの8月某日―― 東京・銀座四丁目交差点中央に、突如巨大な『門(ゲート)』が現れた。 中からなだれ込んできたのは、見目醜悪な怪異の群れ、そして剣や弓を携えた謎の軍勢。 彼らは何の躊躇いもなく、奇声と雄叫びを上げながら、そこで戸惑う人々を殺戮しはじめる。 無慈悲で凄惨な殺戮劇によって、瞬く間に血の海と化した銀座。 政府も警察もマスコミも、誰もがこの状況になすすべもなく混乱するばかりだった。 「皇居だ! 皇居に逃げるんだ!」 ただ、一人を除いて―― これは、たまたま現場に居合わせたオタク自衛官が、 たまたま人々を救い出し、たまたま英雄になっちゃうまでを描いた、7日間の壮絶な物語。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

処理中です...