ストランディング・ワールド(Stranding World) ~不時着した宇宙ステーションが拓いた地にて兄を探す~

空乃参三

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第九章

391:突きつけられる真実

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 LH五一年五月一六日、OP社はマスコミ各社に向けて、重大な発表を行った。
 ハドリが行方不明であるため、発表はヤマガタの名前で行われている。
 最初に既に報道で明らかになっていたことであったが、五月三日夜の「オーシャンリゾート」の爆発事件で、社長のエイチ・ハドリが行方不明になったことを正式に認めた。
 次は、「タブーなきエンジニア集団」およびOP社グループ労働者組合との和解だ。
 そして、ウォーリーなど「タブーなきエンジニア集団」がこだわった、「司法警察活動の無期限休止」も発表された。
 この活動に多くの人員を投入してきたセキュリティ・センターとパトロール・チームの二部署は解体され、新たに従来の規模の一〇分の一の安全衛生部として再出発することとなった。
 これは本来、ホンゴウの名前で発表される予定だったのだが、その動きに気づいたヤマガタが規程を盾に自ら発表するとしたのである。
 報道を聞いたウォーリーは、
「『無期限休止』とは気にいらねえな。素直に『司法警察権の返上』として、過去の過ちを認めろ、って」
 と毒づいた。これは今後の「タブーなきエンジニア集団」の活動の中で、修正を迫るつもりでいるようだ。

 発表の前日、ウォーリーのもとにホンゴウが別れの挨拶を告げに来ていた。
 OP社の部隊を引き上げ、ポータル・シティへ帰還した後、彼はOP社を退職する、とウォーリーに告げたのである。
 その際、ホンゴウは一冊のファイルをウォーリーに手渡した。
「トワさん。うちの社長が宿に残した荷物から出てきたものです。貴方に関する記述がありますのでお渡ししておきます」
「俺……だって? そんな物もらっても意味がないんじゃないか?」
 ウォーリーはファイルの受け取りを謝絶した。
 だが、ホンゴウも引かない。
「私もすべてを見たわけではありませんが、これに記載されている情報は、貴方が知っておくべきことだと思います」
「……そういうのならもらっておくけどよ」
 結局、ウォーリーが折れてホンゴウからファイルを受け取った。
「確かにお渡ししました。それでは私はここで失礼します」
 ホンゴウはウォーリーがファイルを手にしたのを確認して、その場を去った。

 ウォーリーについても、インデストでの業務がほぼ終わりを告げていた。
 後のことは地元の支持者に任せるつもりだ。
 共に戦ったサン・アカシ率いる組合も、「タブーなきエンジニア集団」にとって強力な支持者になるであろう。
 OP社の部隊があらかた引き上げたのを確認し、ウォーリーもジンへの引き上げを決めた。
 早速、ウォーリーがアカシに声をかける。
「長いこと苦労をかけたが、どうにか上手くまとまってよかったな」
「ありがとうございます。トワさんは、これからジンへ戻られて、どうされるのですか?」
「まあ、当面は本業専念だな。本業が落ち着いたら何か新しいことをするさ。狭いところに閉じこもるのは性に合わないしな」
「機会がありましたら、そちらの事務所をお訪ねするかもしれません。そのときは、よろしくお願いします」
「ああ、一緒に戦った相手なら、いつでも歓迎するぜ。
 それとな、ヌマタの捜索を続けてくれ。見つかったら連絡をよこしてほしい。奴にはずいぶん助けられた」
 ウォーリーは未だ行方の知れないヌマタについての捜索継続を依頼した。短い間であったが、協力者としての彼の身を案じていたのだ。

 ヌマタに関しても、今までその足取りがつかめていない。
 当初、ウォーリーはヌマタが見つかるまでインデストに残留し、捜索隊の指揮を執ると主張していた。
 これに対し、アカシが待ったをかけた。
 ヌマタに関してはオイゲンやハドリと違い、「オーシャンリゾート」の爆発事件に巻き込まれた、という情報がない。
 したがって、OP社の部隊から逃れるためどこかに潜伏している可能性が高いと思われる。
 OP社の部隊が去ったという情報が伝わればインデストに戻ってくる可能性が高いので、アカシが責任を持って捜索する、と申し出たのだ。
 最後にアカシはこう付け加えた。
「ヌマタさんはもともとインデストの人ではないですが、我々の最大の協力者であり、仲間でした。仲間の我々に捜索を任せてください」
 ヌマタの捜索以外にも、アカシの前にはすべきことが山積みになっている。
 インデストにおけるOP社やその関連会社の再建にも、アカシをはじめとした組合の協力が必要である。その道のりは平坦なものではないだろう。
 その晩、ウォーリーたちのためにアカシがささやかな宴を催した。

 宴の後、自室に戻ったウォーリーはホンゴウから手渡されたファイルに目を通す。
 (一体、ハドリの奴は俺の何を調べていたんだ……?)
 ファイルの最初の方には、ウォーリーに関する詳細な調査結果が書かれていた。
 ウォーリー自身も記憶していないような交友関係や、学生時代から現在に至る活動履歴などが事細かに記録されている。
 (それにしてもよく調べたものだな……)
 不意にファイルのページをめくるウォーリーの手が止まる。
 それはウォーリーの両親に関する情報が書かれているページだった。
 (何だ? このサトミ・カワチってのは?)
 ウォーリーの目は、自分の母親に関する系図のところで止まった。
「……ハドリの奴と俺が血縁だと?! 冗談じゃない!」
 ウォーリーは思わずファイルを放り投げた。
 見たくもない情報である。
 (それにしても、一体どういうことだ……?)
 放り投げられたファイルに書かれている情報は見たくないものだ。
 しかし、内容は彼の興味を引くものである。
 (ちっ! しょうがねえなぁ)
 ウォーリーはファイルを拾い上げ、再びそれに目を通し始めた。
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