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第九章

389:兄探しの旅が終わったら

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 メイにオイゲンが行方不明となった件を伝えるという大役? を終えたセスは一人宿舎の自室で今後のことを考えていた。
 喫茶店でコナカを待つ間、そしてその後コナカから報告を聞く間にコーヒーを飲みすぎてしまったので、妙に頭が冴えてしまっている。その一方で、胃の方は不快感を訴えているのだが。

 兄を探す旅が終わったら……

 セスは兄の活動を手伝おうと考えている。
 ウォーリーが兄と確定すれば、セスは「タブーなきエンジニア集団」の活動を継続するつもりだ。
 ロビーやモリタも一緒に参加してくれるといいな、と思うが彼等の意思を確認するのには不安がある。
 ロビーやモリタはセスの兄探しに付き合ってくれたのだ。
 二人にとってはほとんど関係のない相手探しに、少なくない時間を割いてくれたことに対してはセスも感謝しかない。
 だが、兄が見つかった後、二人がセスと行動を共にする理由があるのだろうか?
 (兄が見つかったとしたら……ロビーやモリタの活動はそれで終わるのだろうか? 
 仲間としての関係もそこで解消されるのだろうか……?)
 そう考えるとセスは不安になってくる。
 ロビーはセスの兄探しを手伝う、と言った。
 そして、その活動は終盤戦に差し掛かっているように思われた。
 兄が見つかったとしても、それがロビーやモリタとトレードオフの関係になるのであれば、意味はない。
 ロビーやモリタを選択するならば、兄が見つかった後は何をすればよいのだろうか?
 現在、三人とも「タブーなきエンジニア集団」に所属してはいるが、それはOP社の司法警察権返上を支持する活動を支援しているに過ぎない。
 そして、その活動自体、ハドリが行方不明になったことで縮小または、方向転換を迫られるのではないかとセスは思う。
 そうなれば、自らを含めた三人の去就も考えなければならない。
 三人とも、「タブーなきエンジニア集団」で求められるコンピュータの通信システムのエンジニアではない。
 「タブーなきエンジニア集団」が、OP社への活動を停止すれば、彼等三人のできる仕事はほとんど無いのである。
 彼等の専門は海流発電の設備管理である。
 職業学校卒業後、一度もこの業務に就いたことがないとはいえ、彼等も本質的に技術者であるから、専門に近い分野の仕事に就いた方が良いように思われる。
 この地で発電事業の技術者を必要としている企業は、OP社ただ一社である。
 理屈でも感情でも、OP社へ就職するのは気が進まない。
 今まで散々OP社に敵対する活動を続けていた者が、いきなりOP社に転ずるのは、先方にとってもはた迷惑な話であろうから。そして、OP社へ転ずることは兄と一緒に仕事ができなくなることを意味するから。
 更に事態を複雑にしているのは、ウォーリーとハドリの間に血縁関係があるらしいことだ。
 もし、セスとウォーリーの間に兄弟関係が認められれば、セスとハドリとの間にも血縁関係があることになる。
 親類同士の喧嘩に大勢の市民が巻き込まれ、傷つき命を落とした者がいる。
 家屋や財産を失った者も、職を失った者もいる。
 セスはその両方の当事者の親類、ということになるのかもしれない。
 片方の当事者に至っては、セスが積極的に手を貸しているのだ。
 親類同士仲良くしていればこのようなことにはならなかったかもしれないが、事態がここまで大きくなっては手遅れである。
 (考えることが多すぎて、頭の中がデータであふれちゃうよ……
 頭の神経回路が暴走しそうだ……)
 そう危惧を抱きつつも、セスの思考は一向にストップする気配を見せなかった。
 多量のコーヒーで冴えた頭が、思考を止めることを許さなかったのだった。
 そこに不安という燃料を注ぎ込まれれば、そう簡単に思考が止まることはなさそうであった。
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