ストランディング・ワールド(Stranding World) ~不時着した宇宙ステーションが拓いた地にて兄を探す~

空乃参三

文字の大きさ
上 下
398 / 436
第九章

388:大役を終えて

しおりを挟む
 ロビーとセスが外に出た後、コナカは一時間以上メイの部屋で、彼女に語りかけていたらしい。
 その間ロビーとセスは痺れを切らして近くの喫茶店で暇をつぶしていた。

 二人の飲み物が空になるころになって、二人のもとにコナカが駆け込んできた。
 コナカの姿に気づいたセスが、彼女の分のコーヒーを注文してから声をかけた。
「秘書さん、何か言っていました?」
「ダメ、ほとんど話してくれなかった。ただ、社長さんの眼鏡を持ってきてほしい、ってことと、後は『東へ……』とだけ言っていたの。どういうことかわかります?」
 コナカが力なく首を横に振った。
 ロビーはコナカの言葉に首を傾げたが、セスには心当たりがある。
 しかし、コナカに対してそれを話そうとはしなかった。
 「東へ行く」というのは、オイゲンがよく語っていたことであるし、セスもその話を聞いたことがある。メイが言っているのも同じことだと思われる。
 しかし、東に行く、すなわち島の東部を探索するのは、想像を絶する困難を伴うだろう。今まで誰もそれを実行したことはないのだから。
 詳しく内容を説明して、コナカが変に興味を持つことにセスは不安を感じている。
 行きたい人間を止めるつもりはないが、もしそのようなことをしようとするのであるならば、ウォーリーやロビーのような屈強で不屈の精神を持った者に任せた方がいい、と思う。

「ちょっとわからないですね。調べてみます」
 セスが軽い調子で答えた。
 コナカがコーヒーカップを手につぶやく。
「長いこと一緒に仕事をしていた上司がいきなりいなくなってしまったのですものね……
 彼女、相当辛いんじゃないかな。私と違って彼女は物事を真剣に考えているみたいだから、ああいう風に落ち込んでしまうのでしょうね……」
 コナカの言葉にロビーとセスが驚いた様子で目を合わせる。
「ちょっと待ってくれ! 上司がいなくなっただけであそこまで落ち込むか? それ以上に決まっているだろうよ」
 ロビーが何を言っているのだと言わんばかりに言い放った。
「えっ?」
「そうですよ。ロビーの言うとおりです。仕事中は社長室で二人きりだったんですよ」
 ロビーとセスの言葉はコナカにとって理解できないもののようだ。
 その証拠にコナカは口を少し開けてぽかんとした顔をしている。
「……そうかなぁ? カワナさんは純粋に上司がいなくなったのを真摯に受け止めて、辛い思いをしているのだと思うけど……」
「社長さんはともかく、秘書さんは自分のお昼とかを社長さんにお願いするとかしていたからなぁ……
 秘書さんは、そういう意味じゃ社長さんに頼りっぱなしだったように見えたぜ」
「そうそう、僕等が『はじまりの丘』に行くとき挨拶に来ていましたけど、そのときも社長さんの陰に隠れながらだったのですよ」
 ロビーとセスの指摘にコナカは感心した様子で「そうだったんだぁ」と繰り返していた。
 大役? を済ませた三人は、そのまま帰宅の途につくことにした。
 セスはロビーと一緒にメディット近くの宿舎へと戻る。
「それにしても、コナカさんもおめでたいというか、天然というか……
 他人の恋路には鈍感なんだね」
 セスがつぶやいた。
「ああ、そうだな。てっきり、すべてお見通しで秘書さんと話をしていたかと思ったら……
 まさか、全然気がついていないとは……
 まあ、あれだから逆に秘書さんに話ができたんだろうな」
「そうだろうね」
「ところで、インデストの方はそろそろ事後処理も終わるんじゃないか? トワさんも近いうちに帰ってくると思うが、セスは予定を聞いているか?」
 ウォーリーの名前が出たところで、セスの表情が少し硬くなる。
「……まだ、その予定は聞いていないよ。近いうちに伝えてくれると思うけど。ミヤハラさんやサクライさんから見れば、僕の方が秘書さんよりずっと話はしやすいはずだからね」
「まあ、そんなところだろうな。明日、俺が予定を聞いてみるぜ」
 ハドリとオイゲンが行方不明となり、OP社と「タブーなきエンジニア集団」は停戦状態にある。
 ウォーリーがインデストに残る理由も無くなりつつある。
 そうすれば、ウォーリーがジンなりポータル・シティなりに戻ってくるだろう。
 セスとウォーリーが顔を合わせる時期も近いということである。
 セスの予後はかなり厳しいが、ウォーリーが早急に戻ってくれば、間に合う可能性は十分にある。
 インデストからジンまでの旅程は二、三週間だろう。
 (その程度なら、セスだって十分に耐えうるはずだ……
 もう少しだからな、それまで何も起こるなよ……)
 ロビーは、天に向けてそう祈ったのだった。
 セスも兄と思われるウォーリーの帰還が近い、となれば気分も高揚してくる。
 ここのところは、「タブーなきエンジニア集団」の活動に追われて、ウォーリーと通信を交わすこともできていないが、彼の帰還が近いのであれば、それすら大したことではなかった。
 ウォーリーは、既にセスとの兄弟関係を確認するためのDNA鑑定を受けることを了承している。
 そこで兄弟関係が否定されなければ、八歳のころから一〇年以上に渡って続けてきたセスの、いやセス達三人によるセスの兄探しの旅も終わりを迎える。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ゲート0 -zero- 自衛隊 銀座にて、斯く戦えり

柳内たくみ
ファンタジー
20XX年、うだるような暑さの8月某日―― 東京・銀座四丁目交差点中央に、突如巨大な『門(ゲート)』が現れた。 中からなだれ込んできたのは、見目醜悪な怪異の群れ、そして剣や弓を携えた謎の軍勢。 彼らは何の躊躇いもなく、奇声と雄叫びを上げながら、そこで戸惑う人々を殺戮しはじめる。 無慈悲で凄惨な殺戮劇によって、瞬く間に血の海と化した銀座。 政府も警察もマスコミも、誰もがこの状況になすすべもなく混乱するばかりだった。 「皇居だ! 皇居に逃げるんだ!」 ただ、一人を除いて―― これは、たまたま現場に居合わせたオタク自衛官が、 たまたま人々を救い出し、たまたま英雄になっちゃうまでを描いた、7日間の壮絶な物語。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

処理中です...