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第九章
385:手掛かりは見つからず
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LH五一年五月一四日、「オーシャンリゾート」でハドリおよびオイゲンの捜索を行っていた捜索隊は、かつてイベントホール棟が存在していた更地に集められていた。
瓦礫の撤去が完了し周辺の捜索も完了したが、行方不明者に関する手がかりは、ただ一つの例外を除き、何一つ見つからなかった。
ただ一つの例外はオイゲンの眼鏡の残骸である。
レンズは失われていたが、フレームは変形しながらも残存しており、間違いなく彼のものであることがわかった。
それ以外は遺体も発見されず、行方不明となった二人の消息はまるでつかめなかった。
二人とも宿泊している部屋が本館にあったため、荷物の大半は本館の客室に残されたままだった。
それらの荷物の調査も行われたが、爆発の時点二人ともで恐らくイベントホール棟にいたであろうということ以外に判明したことはなかった。
他には砂浜で何かを引きずった跡が見つかっていたが、これは様々な憶測を呼んだ。
しかし、そこからも行方不明者につながる手がかりは一切得られなかった。
砂に血が混じっていることは明らかだった。
だが、爆発の翌日夜の強風により、跡のある砂浜の大部分が波で洗われてしまったことが災いした。
跡を保存しようとしたため、砂の回収を急がなかったことが悔やまれた。今となっては後の祭りである。
跡は海にまで続いていたことが明らかになっていたので、跡を作った何かは海の中に飲み込まれたと推測された。
流れがない安全な場所に限って海中の捜索も行われたが、何一つ手がかりらしいものを発見することはできなかった。
その結果、何者かが遺体を海に捨てた、とか
動物か何かが遺体を獲物だとして引きずった跡だ、とか
吹き飛ばされた瓦礫か何かが転がって海に落ちた、
などという説がまことしやかにささやかれる始末であった。
いずれの証拠となるものは発見できず、推測の域を出るものではなかった。
「もう……いいだろう」
ウォーリーがイベントホール棟の跡地の地面を探っていたエリックとアカシに向けて言った。その声は疲労を強く感じさせるものであった。
不眠不休とまではいかないものの、彼はほとんど休むことなく先頭に立って行方不明者の捜索を続けていたのだった。
ウォーリーに捜索終了を言い渡された二人が無言で立ち上がる。
「何か……後味の悪い話だな、まったく」
ウォーリーが苦虫を噛み潰したような表情でぼやいた。
「まったくですな……」
アカシの表情も冴えない。彼の声もまた、疲労を強く感じさせるものであった。
この後ウォーリーはホンゴウと協議し、捜索の終了を宣言することを決めた。
協議の場で、ジンにいるミヤハラ達にも捜索で得られた情報を開示することを認めるものとした。
捜索の最終結果が整理されるまで、ウォーリーとエリックは長くはないであろう休息をとることにした。
「ハドリ社長といい、うちの社長といい、どうしちゃったんでしょうか……?」
あてがわれた控え室でエリックがウォーリーに尋ねた。
アカシは早急に自社の業務を再開したい、ということで既に「オーシャンリゾート」を後にしている。
「ああ、何か釈然としないな。謎ばかりで、何一つわかりやしねえ。気味悪いったらありゃしないぜ」
そう言いつつも、ウォーリーの表情もどこか精彩を欠いているようだった。
「ミヤハラやサクライのところへの報告が終わったら飲むか? 何かやってられない気分だぜ」
ウォーリーの誘いにエリックは、軽くうなずいて賛同の意を示した。
実のところウォーリーは医師から酒を止められている。
エリックはそれを知っていて、飲みにいこうというウォーリーを制止したことも何度かあった。
しかし、今日ばかりは飲まなければやっていられないような気分である。
ウォーリーの飲酒を咎める気には到底なれなかった。
先にジンへと通信を繋ぎ、ミヤハラとサクライを呼び出す。
気乗りのしない報告であるが、二人には事実を伝える必要がある。
オイゲンは辞めた会社の社長とはいえ、ミヤハラの親友ともいえる存在なのだ。
ウォーリーとて、話にくいことというものはある。
ミヤハラのことだから表面上は動じることなどないだろうが、それでもあまり聞きたくはない情報であろう。
また、ハドリが行方不明なのも素直に喜べない。
あくまで彼の過ちを正すのが目的であり、その殺害までは本気では考えていなかったからだ。
眼鏡のフレームが見つかったオイゲンと異なり、ハドリの消息に関する手がかりが何も得られていないことも、すっきりしない。
すっきりしないことが多すぎたためか、ウォーリーは明らかに疲労していた。
報告を受けたミヤハラとサクライは、表面上は何一つ変わった様子を見せなかった。
ミヤハラは「そうでしたか」とだけ答え、サクライは無言だった。
今後の活動については明日に伝達するとして、ウォーリーは通信を切った。
特に質問がなかったことを幸いに、ウォーリーは通信を打ち切ったのだ。
サクライはともかく、ミヤハラと長時間話をする気分にはなれなかったのだった。
通信を終えたウォーリーとエリックは「オーシャンリゾート」の本館最上階にあるラウンジへと向かった。
普段は陽気なウォーリーだが、この日、酒の席で一言も発することはなかった。
エリックもウォーリーに話しかける気分になれず、ひたすら目の前のグラスを空にしていくだけである。
それも長いことは続かず、ウォーリーが三杯目の酒を飲みほしたところで、二人は顔を見合わせて席を立った。これ以上飲むという気分にもなれなかったのだ。
ラウンジを後にした二人は、軽やかとはいえない足取りであてがわれた部屋へ向かって歩いていった。部屋に到着するまで二人は一言も口をきかなかった。
瓦礫の撤去が完了し周辺の捜索も完了したが、行方不明者に関する手がかりは、ただ一つの例外を除き、何一つ見つからなかった。
ただ一つの例外はオイゲンの眼鏡の残骸である。
レンズは失われていたが、フレームは変形しながらも残存しており、間違いなく彼のものであることがわかった。
それ以外は遺体も発見されず、行方不明となった二人の消息はまるでつかめなかった。
二人とも宿泊している部屋が本館にあったため、荷物の大半は本館の客室に残されたままだった。
それらの荷物の調査も行われたが、爆発の時点二人ともで恐らくイベントホール棟にいたであろうということ以外に判明したことはなかった。
他には砂浜で何かを引きずった跡が見つかっていたが、これは様々な憶測を呼んだ。
しかし、そこからも行方不明者につながる手がかりは一切得られなかった。
砂に血が混じっていることは明らかだった。
だが、爆発の翌日夜の強風により、跡のある砂浜の大部分が波で洗われてしまったことが災いした。
跡を保存しようとしたため、砂の回収を急がなかったことが悔やまれた。今となっては後の祭りである。
跡は海にまで続いていたことが明らかになっていたので、跡を作った何かは海の中に飲み込まれたと推測された。
流れがない安全な場所に限って海中の捜索も行われたが、何一つ手がかりらしいものを発見することはできなかった。
その結果、何者かが遺体を海に捨てた、とか
動物か何かが遺体を獲物だとして引きずった跡だ、とか
吹き飛ばされた瓦礫か何かが転がって海に落ちた、
などという説がまことしやかにささやかれる始末であった。
いずれの証拠となるものは発見できず、推測の域を出るものではなかった。
「もう……いいだろう」
ウォーリーがイベントホール棟の跡地の地面を探っていたエリックとアカシに向けて言った。その声は疲労を強く感じさせるものであった。
不眠不休とまではいかないものの、彼はほとんど休むことなく先頭に立って行方不明者の捜索を続けていたのだった。
ウォーリーに捜索終了を言い渡された二人が無言で立ち上がる。
「何か……後味の悪い話だな、まったく」
ウォーリーが苦虫を噛み潰したような表情でぼやいた。
「まったくですな……」
アカシの表情も冴えない。彼の声もまた、疲労を強く感じさせるものであった。
この後ウォーリーはホンゴウと協議し、捜索の終了を宣言することを決めた。
協議の場で、ジンにいるミヤハラ達にも捜索で得られた情報を開示することを認めるものとした。
捜索の最終結果が整理されるまで、ウォーリーとエリックは長くはないであろう休息をとることにした。
「ハドリ社長といい、うちの社長といい、どうしちゃったんでしょうか……?」
あてがわれた控え室でエリックがウォーリーに尋ねた。
アカシは早急に自社の業務を再開したい、ということで既に「オーシャンリゾート」を後にしている。
「ああ、何か釈然としないな。謎ばかりで、何一つわかりやしねえ。気味悪いったらありゃしないぜ」
そう言いつつも、ウォーリーの表情もどこか精彩を欠いているようだった。
「ミヤハラやサクライのところへの報告が終わったら飲むか? 何かやってられない気分だぜ」
ウォーリーの誘いにエリックは、軽くうなずいて賛同の意を示した。
実のところウォーリーは医師から酒を止められている。
エリックはそれを知っていて、飲みにいこうというウォーリーを制止したことも何度かあった。
しかし、今日ばかりは飲まなければやっていられないような気分である。
ウォーリーの飲酒を咎める気には到底なれなかった。
先にジンへと通信を繋ぎ、ミヤハラとサクライを呼び出す。
気乗りのしない報告であるが、二人には事実を伝える必要がある。
オイゲンは辞めた会社の社長とはいえ、ミヤハラの親友ともいえる存在なのだ。
ウォーリーとて、話にくいことというものはある。
ミヤハラのことだから表面上は動じることなどないだろうが、それでもあまり聞きたくはない情報であろう。
また、ハドリが行方不明なのも素直に喜べない。
あくまで彼の過ちを正すのが目的であり、その殺害までは本気では考えていなかったからだ。
眼鏡のフレームが見つかったオイゲンと異なり、ハドリの消息に関する手がかりが何も得られていないことも、すっきりしない。
すっきりしないことが多すぎたためか、ウォーリーは明らかに疲労していた。
報告を受けたミヤハラとサクライは、表面上は何一つ変わった様子を見せなかった。
ミヤハラは「そうでしたか」とだけ答え、サクライは無言だった。
今後の活動については明日に伝達するとして、ウォーリーは通信を切った。
特に質問がなかったことを幸いに、ウォーリーは通信を打ち切ったのだ。
サクライはともかく、ミヤハラと長時間話をする気分にはなれなかったのだった。
通信を終えたウォーリーとエリックは「オーシャンリゾート」の本館最上階にあるラウンジへと向かった。
普段は陽気なウォーリーだが、この日、酒の席で一言も発することはなかった。
エリックもウォーリーに話しかける気分になれず、ひたすら目の前のグラスを空にしていくだけである。
それも長いことは続かず、ウォーリーが三杯目の酒を飲みほしたところで、二人は顔を見合わせて席を立った。これ以上飲むという気分にもなれなかったのだ。
ラウンジを後にした二人は、軽やかとはいえない足取りであてがわれた部屋へ向かって歩いていった。部屋に到着するまで二人は一言も口をきかなかった。
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