ストランディング・ワールド(Stranding World) ~不時着した宇宙ステーションが拓いた地にて兄を探す~

空乃参三

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第九章

382:ジンとの情報交換

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「それにしても……一体どうなっているのかよくわからねぇな。この爆発を誰が引き起こしたか、ってことだ」
 ウォーリーは五月三日夜に発生した「オーシャンリゾート」の爆発事件についての報道を見ながらつぶやいた。
 今は「サウスセンター」から引きあげて「OP社グループ労働者組合」の建物の中にある「タブーなきエンジニア集団」に割り当てられた部屋の中にいる。
 部屋に置かれたモニタには、爆発事件について報じるニュース番組が映し出されている。
 インデストではマスコミに対するOP社の影響力が強いのか、爆発事件で行方不明者や負傷者が出ていることのみを伝えており、行方不明者や負傷者が何者かを伝えていない。
 しかし、エリックが傍受したOP社の通信内容から、ハドリが行方不明である可能性は高いと思われる。

「まさか……二人の行方不明者、とはハドリ氏とヌマタさん、ではないでしょうね?」
 エリックが心配そうな表情を見せたが、アカシが笑いながらその考えを否定する。
「それはまずないでしょう。偵察に行くのに、敵と同じ宿にいるのは危険が大きすぎます。ヌマタさんはOP社の責任者クラスの社員でしたから、面が割れている可能性は十分にありますよ」
 アカシによれば責任者というのは、現場の班長レベルだが、大多数の社員が末端の労働者でしかないOP社の中では比較的高い地位なのだそうだ。
「言われてみればそうですね……
 OP社の攻撃部隊のリーダーが一人行方不明らしいですし」
 エリックが一応納得したような表情を見せたので、ウォーリーはジンへの通信を開くようにエリックに指示した。
 通信機を持たずにOP社の部隊に包囲されていたため、ジンとは長いこと連絡が取れていない。
 一時停戦のこの隙に連絡を取ってしまおうというのである。
 エリックは数分で通信の準備を完了させた。「タブーなきエンジニア集団」最強のエンジニアの本領発揮、というところである。

 モニタにミヤハラとサクライの姿が映し出される。
 しかし、その姿はあまり鮮明ではない。
「おい、エリック、どうしたんだ?」
 ウォーリーが人の悪い笑みを浮かべながらエリックの方を見やった。
 ウォーリーも一流のエンジニアである。映像が不鮮明な理由は見当がついている上で、エリックをからかっているのである。
「通信経路のどこかが損傷したか、機能しなくなっているのでしょう」
 エリックはからかわれているのを承知で冷静に答えた。
「まあ、そういったところだろうな」
 ウォーリーはそう答えると、マイクに向かい、画面のミヤハラとサクライに向かって話しかける。
「……という訳だ。OP社とは一時停戦中だ。そっちも俺が許可するまでOP社に手を出さないでくれ。そっちはどうだ?」
「どうということはありませんね。ところで、爆発事件での行方不明者について、そちらに情報はないでしょうか?」
 ミヤハラは表面上は普段と変わりのない落ち着き払った様子で問うてきた。
「いや、それはこちらに情報がない。ハドリが行方不明らしいが、確実な情報ではないな。二人行方不明者がいるらしいが……」
 ミヤハラは、駄目だ、とばかりに首を振ってから答えた。
「ならば、こちらの方に多くの情報があるようです。報道では、一人はハドリ氏……そしてもう一人は、イナだと伝えています」
 ウォーリーはミヤハラの声が最後にわずかに震えたのを聞いた。
「そうか……うちの社長だというのか……
 俺のところに情報がないから、誤報か未確認の情報じゃないのか?」
 ミヤハラの心中は察して余りある。
 職業学校の同期で、もっとも仲のよい友人と公言して憚らない相手なのだ。
 ウォーリーもオイゲンのことを「ボンクラ社長」とは言うものの、人間としては好ましく思っている。あくまでも「ボンクラ」というのは、若干のからかいと仕事上の煮え切らなさに対する不満、そして親しみを込めてのものだ。
 また、冗談でも「ボンクラ」と言って怒らないオイゲンの性格も、ウォーリーがこのような呼称を使った理由かもしれない。
「そうかもしれませんな。確認が取れるまでは、こちらから特に情報を出さないようにしますか」
「情報? 誰にだ? ……そうか、秘書か」
「ECN社在籍経験者全員、ですね。かなり多いです。マネージャーの弟さんといわれるクルス君もアルバイトですが、在籍経験がありますな」
「わかった。事実関係は明日、OP社との交渉で確認を取る。それまで発表は待て」
「承知しました」
 その後、一時間半ほどに渡って情報交換を行い、通信を終えた。

「行方不明者がうちの社長、ですか……」
 エリックが沈痛な面持ちでウォーリーに問うてきた。
「報道ではそう言っているらしいが、こっちではそんな話は無いし、決まったわけでもねえ。明日確認してみればいいだけさ」
 ウォーリーはそう言うと、どこか釈然としない表情で自室へと引き上げていった。
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