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第九章
379:「サウスセンター」への帰還
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幸いなことにOP社からの妨害もなく、すぐにエリックとの通信がつながった。
「エリック、俺だ。ウォーリー・トワだ。さっき、アカシたちと合流した。そっちの様子はどうだ?」
「マネージャー、ご無事で何よりです。こちらは……OP社の包囲が薄くなったので、有志を集めて建物から外に出ています。OP社の部隊と対峙している状況です」
エリックによれば、アカシが脱出した後、更にOP社の包囲網が薄くなったとのことであった。
それを見た組合員や市民などが、建物の外でOP社の者と直接ぶつかることを希望したため、有志を募って建物を出ることを決めたという。小競り合いはあるものの、OP社の方も実力行使には出ていないらしい。
「OP社側の人数はかなり減っています。人数だけで言えば恐らくこちらの方が数倍になります。状況を見て、一気に押しておきたいと思います。いくら武装しているとはいえ、これだけの人数を相手にするのは難しいでしょうからね」
エリックの声はいつもの彼にはない好戦的な雰囲気を感じさせた。
ウォーリーは軽く「一般人に犠牲を無理強いするな」と忠告しておいた。
「それとマネージャー、気になることがあります」
「何だ、言ってみろ」
エリックは、「サウスセンター」に残された人々の世話をしながらも、暇を見つけてはOP社の通信を傍受していたのだった。
そこでは「サウスセンター」を包囲しているOP社の部隊のリーダーが行方不明であるらしいことと、ハドリからの命令が半日以上出ていないらしいことが語られていた。
「……OP社の内部も混乱しているということか。自業自得だな。市民の力で打ち倒されるよりも自滅する日の方が近いかも知れないな」
エリックの報告を聞いたウォーリーは、そう感想を漏らしたのだった。
ウォーリーは思案した結果、負傷者を病院へ送ってから、「サウスセンター」へと戻ることを決めた。
負傷者を病院へ運ぶことに、それほどの支障はなかった。
ウォーリー自ら負傷者の一人を背負い、アカシの案内で近くの病院へと運び込んだ。
アカシが裏道ばかりを選択したためか、OP社の者と出会うこともなかった。
インデストには、複雑に入り組んだ細い路地のような通りが数多くあり、いくらOP社の人員数が多くとも、こうした通りのすべてを封鎖することは不可能なのだ。
負傷者を病院に置いた後、一旦隠れ家となったテント倉庫へと戻る。
ここで荷物を回収し、「サウスセンター」へと向かう。
数が減ったとはいえ、「サウスセンター」の周辺は、OP社の部隊に封鎖されている。
包囲の壁を突き抜けて、「サウスセンター」へ戻るには相当の困難が伴うはずだった。
ウォーリーはエリックの援護を信じ、真っ向からOP社の壁を突き抜けて「サウスセンター」へ戻ることを試みようとしていた。
アカシもそれを止めることはなく、むしろウォーリーに賛同するかのように、無言でその後に続く。覚悟を決めたのであろう。
しかし、彼等が「サウスセンター」前の大通りにたどり着いたとき、彼等の覚悟は見事なまでに空回りすることとなった。
確かに「サウスセンター」周辺の通りはOP社の部隊に囲まれていたが、その網の目はザル同然であった。
「サウスセンター」の中から出てきた人々に対し、攻撃するどころか声をかけることもなく、その行き来を黙認していたのである。
「おい、アカシ。これはどういうことだ?」
ウォーリーは事態が飲み込めない、といった様子でアカシに尋ねた。
「私にもわかりませんよ。一体何があったのか、モトムラさんに聞いてみた方がいいのではないですか?」
尋ねられたアカシも訳がわからない、という様子で、大げさに首をすくめてみせた。
念のためウォーリーとアカシは周辺を警戒しながらOP社の者達による壁を歩いて通り抜けたが、相手は何もしてこなかった。
少なくとも彼等がウォーリーやアカシの顔を知らないわけがない。それにもかかわらず、手出しをしないというのは一体どのような理由なのだろうか?
「サウスセンター」の一階ホールでウォーリーはエリックをつかまえることに成功した。
「おいエリック、一体何があったんだ?」
ウォーリーの問いにエリックも事態が飲み込めていない、と答えた。
現在のところ出入りが自由なのでそれに任せているという。
「まあ、敵さんが許してくれるのなら、その好意は素直に受け取っておくべきだろうな。ところで何か不足しているものとかあるか?」
ウォーリーは不本意な篭城を余儀なくされた人々の体調などを気遣った。
やはり水や食料が不足しているという。
水道が封鎖された模様で、水の不足が著しい。
予め準備していた飲料水や消防用水などを回して凌いでいたため、篭城していた人々が動揺するような事態は免れていた。だが、篭城が長期化すれば決定的な痛手となる可能性があったという。
「わかった。俺がOP社に掛け合って、水道を開放させよう。あの様子なら、案外話が通るかも知れないぞ」
本気とも冗談ともつかない言葉を残し、ウォーリーは駆け足でその場を去った。
慌ててエリックがそれを追う。
「いくら何でも無茶ですよ。マネージャーも立場というものを少しは理解してください!」
しかし、ウォーリーはどこ吹く風とその忠告を聞き流し、いずこかへと消えていってしまった。
ウォーリーの姿を見失ったエリックは、肩を落として「サウスセンター」へ戻るしかなかった。
「モトムラさん、我々も食料や水の買出しに行きましょう」
「サウスセンター」に戻ったエリックを迎えたのは、アカシの言葉だった。
アカシもまた、ウォーリー同様に気楽な様子で仲間に台車を持ってこさせながら買出しの準備をしている。
「確かに食料も水も必要ですが……買出しとかに行っている場合でしょうか?」
「構わないでしょう。調達しなければ、こっちが飢える。飢えて倒れるよりは、戦う方がいい。人間なら殴って倒せるが、飢えが相手じゃそうもいきませんよ」
そう言うとアカシは、エリックに手を振ってにこやかに「サウスセンター」から出ていった。
(器が違いすぎるな……
マネージャーにしろ、アカシさんにしろ、僕にはできない発想で道を切り開くもの)
エリックがウォーリーの後継者となることを躊躇するのは、こうした器の違いを思い知らされる機会があまりにも多いからだ。
エンジニアの仕事をしている限りは、器の違いに気づかされることはほとんどなかった。
しかし、「タブーなきエンジニア集団」の幹部として、市民にこちらの主張を理解してもらう活動や情報収集、意見の異なる者との舌戦や実際の戦闘という場になると、彼のできることは著しく少なく感じられた。
(トップの仕事は未知との戦い、とするならば、僕の器の種類には合わないだろう……)
「器の大きさでは足らない」としないところが、彼なりのプライドなのかもしれない。
ともかく、今は強大なトップが無事に帰還してきた。
エリックは本気で、このままウォーリーが無事であり続けることを祈ることにした。
「エリック、俺だ。ウォーリー・トワだ。さっき、アカシたちと合流した。そっちの様子はどうだ?」
「マネージャー、ご無事で何よりです。こちらは……OP社の包囲が薄くなったので、有志を集めて建物から外に出ています。OP社の部隊と対峙している状況です」
エリックによれば、アカシが脱出した後、更にOP社の包囲網が薄くなったとのことであった。
それを見た組合員や市民などが、建物の外でOP社の者と直接ぶつかることを希望したため、有志を募って建物を出ることを決めたという。小競り合いはあるものの、OP社の方も実力行使には出ていないらしい。
「OP社側の人数はかなり減っています。人数だけで言えば恐らくこちらの方が数倍になります。状況を見て、一気に押しておきたいと思います。いくら武装しているとはいえ、これだけの人数を相手にするのは難しいでしょうからね」
エリックの声はいつもの彼にはない好戦的な雰囲気を感じさせた。
ウォーリーは軽く「一般人に犠牲を無理強いするな」と忠告しておいた。
「それとマネージャー、気になることがあります」
「何だ、言ってみろ」
エリックは、「サウスセンター」に残された人々の世話をしながらも、暇を見つけてはOP社の通信を傍受していたのだった。
そこでは「サウスセンター」を包囲しているOP社の部隊のリーダーが行方不明であるらしいことと、ハドリからの命令が半日以上出ていないらしいことが語られていた。
「……OP社の内部も混乱しているということか。自業自得だな。市民の力で打ち倒されるよりも自滅する日の方が近いかも知れないな」
エリックの報告を聞いたウォーリーは、そう感想を漏らしたのだった。
ウォーリーは思案した結果、負傷者を病院へ送ってから、「サウスセンター」へと戻ることを決めた。
負傷者を病院へ運ぶことに、それほどの支障はなかった。
ウォーリー自ら負傷者の一人を背負い、アカシの案内で近くの病院へと運び込んだ。
アカシが裏道ばかりを選択したためか、OP社の者と出会うこともなかった。
インデストには、複雑に入り組んだ細い路地のような通りが数多くあり、いくらOP社の人員数が多くとも、こうした通りのすべてを封鎖することは不可能なのだ。
負傷者を病院に置いた後、一旦隠れ家となったテント倉庫へと戻る。
ここで荷物を回収し、「サウスセンター」へと向かう。
数が減ったとはいえ、「サウスセンター」の周辺は、OP社の部隊に封鎖されている。
包囲の壁を突き抜けて、「サウスセンター」へ戻るには相当の困難が伴うはずだった。
ウォーリーはエリックの援護を信じ、真っ向からOP社の壁を突き抜けて「サウスセンター」へ戻ることを試みようとしていた。
アカシもそれを止めることはなく、むしろウォーリーに賛同するかのように、無言でその後に続く。覚悟を決めたのであろう。
しかし、彼等が「サウスセンター」前の大通りにたどり着いたとき、彼等の覚悟は見事なまでに空回りすることとなった。
確かに「サウスセンター」周辺の通りはOP社の部隊に囲まれていたが、その網の目はザル同然であった。
「サウスセンター」の中から出てきた人々に対し、攻撃するどころか声をかけることもなく、その行き来を黙認していたのである。
「おい、アカシ。これはどういうことだ?」
ウォーリーは事態が飲み込めない、といった様子でアカシに尋ねた。
「私にもわかりませんよ。一体何があったのか、モトムラさんに聞いてみた方がいいのではないですか?」
尋ねられたアカシも訳がわからない、という様子で、大げさに首をすくめてみせた。
念のためウォーリーとアカシは周辺を警戒しながらOP社の者達による壁を歩いて通り抜けたが、相手は何もしてこなかった。
少なくとも彼等がウォーリーやアカシの顔を知らないわけがない。それにもかかわらず、手出しをしないというのは一体どのような理由なのだろうか?
「サウスセンター」の一階ホールでウォーリーはエリックをつかまえることに成功した。
「おいエリック、一体何があったんだ?」
ウォーリーの問いにエリックも事態が飲み込めていない、と答えた。
現在のところ出入りが自由なのでそれに任せているという。
「まあ、敵さんが許してくれるのなら、その好意は素直に受け取っておくべきだろうな。ところで何か不足しているものとかあるか?」
ウォーリーは不本意な篭城を余儀なくされた人々の体調などを気遣った。
やはり水や食料が不足しているという。
水道が封鎖された模様で、水の不足が著しい。
予め準備していた飲料水や消防用水などを回して凌いでいたため、篭城していた人々が動揺するような事態は免れていた。だが、篭城が長期化すれば決定的な痛手となる可能性があったという。
「わかった。俺がOP社に掛け合って、水道を開放させよう。あの様子なら、案外話が通るかも知れないぞ」
本気とも冗談ともつかない言葉を残し、ウォーリーは駆け足でその場を去った。
慌ててエリックがそれを追う。
「いくら何でも無茶ですよ。マネージャーも立場というものを少しは理解してください!」
しかし、ウォーリーはどこ吹く風とその忠告を聞き流し、いずこかへと消えていってしまった。
ウォーリーの姿を見失ったエリックは、肩を落として「サウスセンター」へ戻るしかなかった。
「モトムラさん、我々も食料や水の買出しに行きましょう」
「サウスセンター」に戻ったエリックを迎えたのは、アカシの言葉だった。
アカシもまた、ウォーリー同様に気楽な様子で仲間に台車を持ってこさせながら買出しの準備をしている。
「確かに食料も水も必要ですが……買出しとかに行っている場合でしょうか?」
「構わないでしょう。調達しなければ、こっちが飢える。飢えて倒れるよりは、戦う方がいい。人間なら殴って倒せるが、飢えが相手じゃそうもいきませんよ」
そう言うとアカシは、エリックに手を振ってにこやかに「サウスセンター」から出ていった。
(器が違いすぎるな……
マネージャーにしろ、アカシさんにしろ、僕にはできない発想で道を切り開くもの)
エリックがウォーリーの後継者となることを躊躇するのは、こうした器の違いを思い知らされる機会があまりにも多いからだ。
エンジニアの仕事をしている限りは、器の違いに気づかされることはほとんどなかった。
しかし、「タブーなきエンジニア集団」の幹部として、市民にこちらの主張を理解してもらう活動や情報収集、意見の異なる者との舌戦や実際の戦闘という場になると、彼のできることは著しく少なく感じられた。
(トップの仕事は未知との戦い、とするならば、僕の器の種類には合わないだろう……)
「器の大きさでは足らない」としないところが、彼なりのプライドなのかもしれない。
ともかく、今は強大なトップが無事に帰還してきた。
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