ストランディング・ワールド(Stranding World) ~不時着した宇宙ステーションが拓いた地にて兄を探す~

空乃参三

文字の大きさ
上 下
388 / 436
第九章

378:綻びだした網

しおりを挟む
 インデスト市街のとある裏通りで、周囲を警戒している一人の青年が口を開いた。
「包囲が薄くなっています、罠でしょうか?」
 五月四日の午後のことである。
 「タブーなきエンジニア集団」のトップであるウォーリー・トワら一二名は、いまだOP社治安改革部隊の包囲下にあった。
 しかし、包囲の輪を形成しているOP社の人員が急速に減少している。
 それを見かけた一人がウォーリーに報告してきたのだ。冒頭の言葉はその報告だ。

 報告に対するウォーリーの行動は迅速だった。
「ならば、すぐ行くぞ!」
 そう言った瞬間に表通りへと飛び出している。
「ちょっと! 確認しないでいいのですか?」
「罠でも構わん。輪が薄くなれば、その分、俺たちを防ぐ力も弱くなる!」
 仲間の制止の声を無視して、ウォーリーは雄叫びをあげながら包囲の輪に突っ込んでいった。
 敵の反撃がこれほど早くにあると考えていなかったのか、明らかにOP社の治安改革部隊が浮き足立っている。
 ウォーリーはここぞとばかりに手にした金属の棒で、敵を打ちすえながら先頭を切って道を開いていく。
 戦闘は長くは続かなかった。
 一〇分ほどで道が開かれ、ウォーリーは無事、仲間全員と包囲の輪を突破することに成功したのである。

 輪を突破して「サウスセンター」の方へ向かっても、敵は追ってこない。
「何だ? 妙に弱っちいな? 拍子抜けしたぞ」
 ウォーリーは呆れた表情を見せながら、仲間の様子を確認した。
 一緒にいた仲間たちも全員無事のようだ。
 今まで散々突破を阻まれていた包囲網がこれほどまでに簡単に突破できるとは、一体どうしたことだろうか?
 そのような疑念を抱きつつも、ウォーリーは仲間の待つであろう「サウスセンター」へと足を進めていく。
 この男には休息という言葉は似合わないのだ。
 ウォーリーの歩みはかなり速い。
 他の者たちは半ば小走りになってそれについていく。
 細い路地に面したテント型倉庫の影で、ウォーリーの歩みが突然ストップする。
 後ろを走っていた何人かが勢い余って、ウォーリーの背中や後頭部に激突する。
「痛えなぁ、気をつけろよ」
 ウォーリーがぶつけられた後頭部をさすりながら、後ろへと振り向いた。
「急に止まらないでくださいよ。一体どうしたというのですか?」
 ウォーリーの真後ろにいた者が抗議の声をあげた。
「静かにしてくれ。誰か来るぞ。中に隠れろ!」
 その声に皆が押し黙り、テント倉庫の中へと身を隠した。

 幸いテント倉庫の中には人の姿はなかった。
 ここで向かってくる相手をやり過ごす、という手もあるのだが、それはウォーリーの性質には合わない。
 その代わりウォーリーは無言で空いた手を後ろに差し出した。
 後ろから、もう一本の金属棒が手渡される。
 彼自ら先頭を切って、相手に攻撃を加えようというのである。
 路地の向こうから相手の足音が徐々に近づいてくる。
 人数はこちらと同じくらいのように思われた。
 ウォーリーたちは、息を押し殺してテント倉庫の中に潜んでいる。
 足音は倉庫の入口の近くで止まった。
 その瞬間、ウォーリーは右手に持った金属棒を斜めに突き出した。
 金属棒に手ごたえはない。どうやら避けられたようだ、と思った瞬間、金属棒を伝わって強烈な衝撃が右手を襲った。
 衝撃に耐え切れず、思わず右手の棒を離してしまうが、これは計算のうちだ。
 左手に持った金属棒を両手に持ち替え相手目掛けて振り抜こうと外へ出たところで、ウォーリーの動きが止まった。
「何だ、アカシじゃないか! お前何でこんなところに?」
「トワさんこそ、いつの間に包囲網を抜けたのです……?」
 足音の主はアカシ率いるOP社グループ労働者組合のメンバーのものであった。
 アカシはテント倉庫の奥へウォーリーたちを招き入れた。テント倉庫はアカシたちの活動拠点だったのだ。

「それにしてもアカシ。お前、何て馬鹿力しているんだ? この棒を曲げるなんてどうかしているぜ」
 アカシによって直角に近い角度に曲げられてしまった金属棒を片手に、ウォーリーが呆れたような口調で言った。
「我々は採掘場の作業員ですからね。力がないと仕事にならないのですよ」
「それはそうと、お前等はここで何をしているんだ?」
 ウォーリーの疑問については、すぐに答えが得られた。
 彼等はこの倉庫を拠点にウォーリーの捜索に当たっていたとのことであった。
 ウォーリーのチームと異なり、アカシのチームには負傷者が出ていた。
 そのため倉庫に潜伏しながら負傷者の応急処置を行い、回復を待ちながらウォーリーを捜索していたらしい。

「ところで、エリックはどうしている?」
「モトムラさんは我々が『サウスセンター』から脱出するのを手伝った後、残された人々を守りながら建物に控えているはずです」
「……そうか。エリックと連絡はつけられるか?」
「通信は問題ないと思います。電波の発信場所を探知されたくないので、場所を変えて通信しましょう」
「わかった」
 ウォーリーはアカシの忠告に従い、アカシを連れて近くの空き家へと移動した。
 ここでエリックとの通信を行おうというのである。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ゲート0 -zero- 自衛隊 銀座にて、斯く戦えり

柳内たくみ
ファンタジー
20XX年、うだるような暑さの8月某日―― 東京・銀座四丁目交差点中央に、突如巨大な『門(ゲート)』が現れた。 中からなだれ込んできたのは、見目醜悪な怪異の群れ、そして剣や弓を携えた謎の軍勢。 彼らは何の躊躇いもなく、奇声と雄叫びを上げながら、そこで戸惑う人々を殺戮しはじめる。 無慈悲で凄惨な殺戮劇によって、瞬く間に血の海と化した銀座。 政府も警察もマスコミも、誰もがこの状況になすすべもなく混乱するばかりだった。 「皇居だ! 皇居に逃げるんだ!」 ただ、一人を除いて―― これは、たまたま現場に居合わせたオタク自衛官が、 たまたま人々を救い出し、たまたま英雄になっちゃうまでを描いた、7日間の壮絶な物語。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

処理中です...