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第九章
374:激震
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「何ですと? 社長が行方不明に?!」
LH五一年五月四日、OP社本社ではハドリに留守を任されたノブヤ・ヤマガタがインデストからの報告を受けていた。
「そ、それは事実ですか?」
ヤマガタが震える声で確認を求める。明らかに動揺している。
無理もない、昨日までハドリはいつも通り厳しい命令を飛ばしていたからだ。
昨夜、インデスト郊外の「オーシャンリゾート」で起きた爆発事件で、OP社社長のエイチ・ハドリとECN社社長のオイゲン・イナの二人が行方不明となった。
また、この事故で一七名の負傷者も出ている。
事件の翌朝から、現場では無事であったOP社の社員が先頭に立って行方不明となった二人の捜索を開始していた。
ほどなくして、砂浜から何かを引きずったような痕跡が見つかった。
痕跡は海へと続いており、何かが海に引きずりこまれた可能性が考えられた。
しかし、引きずり込んだ者の足跡などの痕跡が見つからない。
一方、事件が起きたイベントホール棟の建物は原型を留めておらず、瓦礫の山となっていた。現場となった「オーシャンリゾート」には本館とイベントホール棟の二つの建物があるが、本館は無傷であった。
行方不明者の捜索を行いながら瓦礫を除去するには、二週間程度を要するとのことだった。
ヤマガタはハドリとオイゲンの捜索を命じた後、現在目の当たりにしているもう一つの問題への対応を続けた。
もう一つの問題━━
それは、発電事業に従事する従業員の多くを治安改革業務に異動させたため、従来の発電量を維持できなくなったことである。
今は電力需要がそれほど大きい月ではないので、電力料金の一部値上げと一時的な供給制限で何とか対応できている。
しかし、ヤマガタはそれが一時しのぎに過ぎないことを知っている。
これから夏場にかけて電力需要量が増大するが、それに対応できるだけの余力が社内にはないのだ。
早急にインデストに展開している部隊の一部でも帰還させ、発電事業に戻さなければ、この事業は崩壊するに違いない。
ヤマガタは緊急時の対応マニュアルと首っ引きで次の対応策を練っている。
OP社はハドリの指示に従うだけでことが足りていたので、多くの従業員は自分で考え、判断することに慣れていない。
ヤマガタも例外ではなかった。
忠実な部下として、創業当時からハドリを支えてきた彼は、ハドリの指示を受けることが最も多い従業員でもある。
長きにわたってハドリの指示を待つことに慣れてしまった彼にとって、自分の判断で決定を行うのは困難を伴う。
ヤマガタはパトロール・チームのリーダー、ヒロ・ホンゴウにハドリの捜索を命じた。
そして、自らは発電事業の建て直しに専念することにした。
自分の意思で決めた、というより、決定を先延ばしにした結果であった。
ハドリの捜索を命じられたホンゴウは、自らが率いている人員の三分の二を「オーシャンリゾート」へ向かわせた。
崩壊したイベントホール棟の瓦礫の除去と、行方不明者の捜索に当たらせるためである。
そして、残った三分の一を引き続きインデスト市街の特定のブロックの包囲に充てた。
このブロックには「タブーなきエンジニア集団」のトップ、ウォーリー・トワが潜伏していると思われた。
ホンゴウは部下に攻撃を受けたときのみ各自の持ち場にて迎撃せよ、と指示した。
そして、改めて指示があるまで持ち場を離れることを禁じた。
ハドリの所在が不明な状態で、ウォーリーを捕らえたところで意味がない。
ホンゴウは態度を表面に出してはいなかったが、この遠征にはもともと反対であった。
ウォーリー・トワはOP社の活動に反対こそしていたが、彼が暴力的な手段や非道徳的な手段に訴えた形跡は見られない。
攻撃された際に反撃することはあったが、あくまで防衛的なものであり、ウォーリーの側から先に手出ししたという例はひとつもない。
そのような者を捕らえるために、治安改革部隊を総動員して遠征するなど、思慮ある者の行為だとは考えられなかった。
しかし、その考えを表明すればハドリの怒りを買うのは明白である。
そのため、敢えてハドリの意思に従いながらも慎重に動くことによって時間を稼いでいた。
そのハドリが現在行方不明とのことである。
死亡が確認されたわけではないから、行方不明と偽ってどこかから部下を監視している可能性も考えられる。
その場合、ウォーリーを捕捉するとかえって危険だ、とホンゴウは考えた。
ハドリは猜疑心の強い性格である。
ホンゴウがウォーリーを捉えてしまった場合、ハドリを見捨てて自分の業績を優先した、と糾弾される可能性がある。
OP社社内での彼の立場も微妙なものになる可能性もある。
また、彼にはECN社社長のオイゲン・イナと共謀し、一度はウォーリーを故意に見逃したという前科がある。
そのオイゲンも現在行方不明なのだ。
ホンゴウを陥れるために、ハドリとオイゲンが共謀した可能性、またはオイゲンが自らの意思によらずハドリに陥れられた可能性も考えられる。
ホンゴウから見ると、オイゲンは権謀術数の世界とは程遠い人の好さそうな青年であったから、後者の可能性が高いように思われる。
逃亡も考えたが、今の段階で逃亡すれば、ハドリ暗殺の濡れ衣を着せられる可能性もある。
そこで、ヤマガタからの指示を幸いにハドリの捜索に自身が動かせる最大限の人員を動かし、ウォーリーに対しては監視するだけにとどめたのである。
これでハドリが行方不明であることの正否の確認を取ることができるし、多少の時間を稼ぐこともできる。
LH五一年五月四日、OP社本社ではハドリに留守を任されたノブヤ・ヤマガタがインデストからの報告を受けていた。
「そ、それは事実ですか?」
ヤマガタが震える声で確認を求める。明らかに動揺している。
無理もない、昨日までハドリはいつも通り厳しい命令を飛ばしていたからだ。
昨夜、インデスト郊外の「オーシャンリゾート」で起きた爆発事件で、OP社社長のエイチ・ハドリとECN社社長のオイゲン・イナの二人が行方不明となった。
また、この事故で一七名の負傷者も出ている。
事件の翌朝から、現場では無事であったOP社の社員が先頭に立って行方不明となった二人の捜索を開始していた。
ほどなくして、砂浜から何かを引きずったような痕跡が見つかった。
痕跡は海へと続いており、何かが海に引きずりこまれた可能性が考えられた。
しかし、引きずり込んだ者の足跡などの痕跡が見つからない。
一方、事件が起きたイベントホール棟の建物は原型を留めておらず、瓦礫の山となっていた。現場となった「オーシャンリゾート」には本館とイベントホール棟の二つの建物があるが、本館は無傷であった。
行方不明者の捜索を行いながら瓦礫を除去するには、二週間程度を要するとのことだった。
ヤマガタはハドリとオイゲンの捜索を命じた後、現在目の当たりにしているもう一つの問題への対応を続けた。
もう一つの問題━━
それは、発電事業に従事する従業員の多くを治安改革業務に異動させたため、従来の発電量を維持できなくなったことである。
今は電力需要がそれほど大きい月ではないので、電力料金の一部値上げと一時的な供給制限で何とか対応できている。
しかし、ヤマガタはそれが一時しのぎに過ぎないことを知っている。
これから夏場にかけて電力需要量が増大するが、それに対応できるだけの余力が社内にはないのだ。
早急にインデストに展開している部隊の一部でも帰還させ、発電事業に戻さなければ、この事業は崩壊するに違いない。
ヤマガタは緊急時の対応マニュアルと首っ引きで次の対応策を練っている。
OP社はハドリの指示に従うだけでことが足りていたので、多くの従業員は自分で考え、判断することに慣れていない。
ヤマガタも例外ではなかった。
忠実な部下として、創業当時からハドリを支えてきた彼は、ハドリの指示を受けることが最も多い従業員でもある。
長きにわたってハドリの指示を待つことに慣れてしまった彼にとって、自分の判断で決定を行うのは困難を伴う。
ヤマガタはパトロール・チームのリーダー、ヒロ・ホンゴウにハドリの捜索を命じた。
そして、自らは発電事業の建て直しに専念することにした。
自分の意思で決めた、というより、決定を先延ばしにした結果であった。
ハドリの捜索を命じられたホンゴウは、自らが率いている人員の三分の二を「オーシャンリゾート」へ向かわせた。
崩壊したイベントホール棟の瓦礫の除去と、行方不明者の捜索に当たらせるためである。
そして、残った三分の一を引き続きインデスト市街の特定のブロックの包囲に充てた。
このブロックには「タブーなきエンジニア集団」のトップ、ウォーリー・トワが潜伏していると思われた。
ホンゴウは部下に攻撃を受けたときのみ各自の持ち場にて迎撃せよ、と指示した。
そして、改めて指示があるまで持ち場を離れることを禁じた。
ハドリの所在が不明な状態で、ウォーリーを捕らえたところで意味がない。
ホンゴウは態度を表面に出してはいなかったが、この遠征にはもともと反対であった。
ウォーリー・トワはOP社の活動に反対こそしていたが、彼が暴力的な手段や非道徳的な手段に訴えた形跡は見られない。
攻撃された際に反撃することはあったが、あくまで防衛的なものであり、ウォーリーの側から先に手出ししたという例はひとつもない。
そのような者を捕らえるために、治安改革部隊を総動員して遠征するなど、思慮ある者の行為だとは考えられなかった。
しかし、その考えを表明すればハドリの怒りを買うのは明白である。
そのため、敢えてハドリの意思に従いながらも慎重に動くことによって時間を稼いでいた。
そのハドリが現在行方不明とのことである。
死亡が確認されたわけではないから、行方不明と偽ってどこかから部下を監視している可能性も考えられる。
その場合、ウォーリーを捕捉するとかえって危険だ、とホンゴウは考えた。
ハドリは猜疑心の強い性格である。
ホンゴウがウォーリーを捉えてしまった場合、ハドリを見捨てて自分の業績を優先した、と糾弾される可能性がある。
OP社社内での彼の立場も微妙なものになる可能性もある。
また、彼にはECN社社長のオイゲン・イナと共謀し、一度はウォーリーを故意に見逃したという前科がある。
そのオイゲンも現在行方不明なのだ。
ホンゴウを陥れるために、ハドリとオイゲンが共謀した可能性、またはオイゲンが自らの意思によらずハドリに陥れられた可能性も考えられる。
ホンゴウから見ると、オイゲンは権謀術数の世界とは程遠い人の好さそうな青年であったから、後者の可能性が高いように思われる。
逃亡も考えたが、今の段階で逃亡すれば、ハドリ暗殺の濡れ衣を着せられる可能性もある。
そこで、ヤマガタからの指示を幸いにハドリの捜索に自身が動かせる最大限の人員を動かし、ウォーリーに対しては監視するだけにとどめたのである。
これでハドリが行方不明であることの正否の確認を取ることができるし、多少の時間を稼ぐこともできる。
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