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第八章
372:人でなし
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爆発が起きれば、近くにいる自分など助からないだろう。
オイゲンはその現実から逃れるように、ふらふらと歩いて加工場に向いた窓の扉を閉めた。
前にこの場を訪れたとき、彼の父は彼に向かってこう言った。
「いっそのこと、あの箱に火をつけて死んでしまうのが、自分の責務であるかと思う」
その時オイゲンは初めて父が死にたがっていたことを知った。
理由を知ったのはその夜のことだった。
この地に人が住まざるを得ない状況に追い込んだ責任が父にある、と知ったとき、オイゲンは父に返す言葉を持たなかった。
四年前、父が亡くなる直前、オイゲンは父が就いていたECN社社長の地位に就くことを決意した。
そして、メディットの医師から病床にある父の延命治療について問われたとき、それを拒絶することで父の思いに答えた。
彼の父も同様に延命治療を拒否した。
それは彼の父が、自らが負った責任から逃れようとしての行動であったかもしれない。
それを読み取っていたからこそ、オイゲンは事前に社長の地位に就く意思を固め、父に伝えていたのである。
「肉親の罪が、子である自分に及ぶのだろうか……?」
ふと、オイゲンの脳裏にそのような考えが浮かんだ。
それならこうなるのも当然かもしれない、と彼は考えた。
脱出の手段を断たれた以上、今更罪から逃れることもできまい、と彼は考えていた。
そして、自らが死ぬことによって抱えていた責任や葛藤から逃れられるとも感じていたのである。
「親の罪が子に……」
再びそう考えたとき、不意に彼はその考えを否定しなければ、という思いに駆られた。
彼を支えてきた (とオイゲンは感じている)秘書は、言われもない親の罪でその存在を抹消されかけたのである。
彼自身が親の罪を問われ、責任を負うことを認めれば、それは秘書であるメイ・カワナの存在を否定することになる。
乏しいながらも彼の中に自負というものがあるのであれば、そのうちのかなりの割合を「メイの存在を認める」ことが占めているはずだ。
ならば、自分は何故、このような状況に置かれなければならなかったのか……
何故かそれを考えることが自身の責務であるかのようにオイゲンは考えた。
(ハドリ社長には悪いけど、彼がいなくなれば、すべては丸く収まるんだよね……)
数分後、彼は理由となりそうな自分の考えを思い出した。
これだ!
オイゲンは自分の罪が何であるか、確信した。
一度でもハドリ社長の死を願い、彼を暗殺しようという思いを持ったことの報いだ。
(テロリストとして、ハドリ社長と心中になるかもしれないな……
正直なところ、ハドリ社長にはあまり助かってほしくないという気持ちもある。これが罪、か……
それに加えて正しいかどうかはわからないが、自分で自分を殺めることがもっとも罪深い死に方なら……
自分はもっとも罪深く、卑怯に死んでいく方が似合っているのだろう。
そういえば、昔「感情のない人でなし」と呼ばれたことがあったな。
まさに「人でなし」の死に方だよ、これは……
こういう仕事は僕みたいな感情の薄い人間にぴったりなのだろうな。
人には自分に合った役割があるということだろう。
僕はここで無責任に退場するけど、ウォーリー、ミヤハラ、カワナさん……あとはうまくやってくれよ……)
ひとしきり思考を巡らせた後、酔いによる眠気が急速に襲ってきた。
オイゲンは床に横たわって目を閉じた。
数秒後、轟音とともにオイゲンの記憶が途切れた。
オイゲンはその現実から逃れるように、ふらふらと歩いて加工場に向いた窓の扉を閉めた。
前にこの場を訪れたとき、彼の父は彼に向かってこう言った。
「いっそのこと、あの箱に火をつけて死んでしまうのが、自分の責務であるかと思う」
その時オイゲンは初めて父が死にたがっていたことを知った。
理由を知ったのはその夜のことだった。
この地に人が住まざるを得ない状況に追い込んだ責任が父にある、と知ったとき、オイゲンは父に返す言葉を持たなかった。
四年前、父が亡くなる直前、オイゲンは父が就いていたECN社社長の地位に就くことを決意した。
そして、メディットの医師から病床にある父の延命治療について問われたとき、それを拒絶することで父の思いに答えた。
彼の父も同様に延命治療を拒否した。
それは彼の父が、自らが負った責任から逃れようとしての行動であったかもしれない。
それを読み取っていたからこそ、オイゲンは事前に社長の地位に就く意思を固め、父に伝えていたのである。
「肉親の罪が、子である自分に及ぶのだろうか……?」
ふと、オイゲンの脳裏にそのような考えが浮かんだ。
それならこうなるのも当然かもしれない、と彼は考えた。
脱出の手段を断たれた以上、今更罪から逃れることもできまい、と彼は考えていた。
そして、自らが死ぬことによって抱えていた責任や葛藤から逃れられるとも感じていたのである。
「親の罪が子に……」
再びそう考えたとき、不意に彼はその考えを否定しなければ、という思いに駆られた。
彼を支えてきた (とオイゲンは感じている)秘書は、言われもない親の罪でその存在を抹消されかけたのである。
彼自身が親の罪を問われ、責任を負うことを認めれば、それは秘書であるメイ・カワナの存在を否定することになる。
乏しいながらも彼の中に自負というものがあるのであれば、そのうちのかなりの割合を「メイの存在を認める」ことが占めているはずだ。
ならば、自分は何故、このような状況に置かれなければならなかったのか……
何故かそれを考えることが自身の責務であるかのようにオイゲンは考えた。
(ハドリ社長には悪いけど、彼がいなくなれば、すべては丸く収まるんだよね……)
数分後、彼は理由となりそうな自分の考えを思い出した。
これだ!
オイゲンは自分の罪が何であるか、確信した。
一度でもハドリ社長の死を願い、彼を暗殺しようという思いを持ったことの報いだ。
(テロリストとして、ハドリ社長と心中になるかもしれないな……
正直なところ、ハドリ社長にはあまり助かってほしくないという気持ちもある。これが罪、か……
それに加えて正しいかどうかはわからないが、自分で自分を殺めることがもっとも罪深い死に方なら……
自分はもっとも罪深く、卑怯に死んでいく方が似合っているのだろう。
そういえば、昔「感情のない人でなし」と呼ばれたことがあったな。
まさに「人でなし」の死に方だよ、これは……
こういう仕事は僕みたいな感情の薄い人間にぴったりなのだろうな。
人には自分に合った役割があるということだろう。
僕はここで無責任に退場するけど、ウォーリー、ミヤハラ、カワナさん……あとはうまくやってくれよ……)
ひとしきり思考を巡らせた後、酔いによる眠気が急速に襲ってきた。
オイゲンは床に横たわって目を閉じた。
数秒後、轟音とともにオイゲンの記憶が途切れた。
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