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第八章
371:願望と現実と覚悟と諦め
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オイゲンは「オーシャンリゾート」イベントホール棟の地下一階にある北端の部屋でソファに腰かけて休んでいた。
この部屋は現在、自動販売機コーナーとして使用されており、十台程度の自動販売機と、ソファが置かれている。
本来オイゲンはほとんど酒が飲めないのだが、今回はハドリに強要されたので、かなり酒量を過ごしている。
酔っぱらって足元がふらつくなどの醜態を披露してしまった。しばらくはハドリやその周辺の人々の笑いものになることを覚悟しなければならないようだ。
オイゲンは不意に地下にある実験場を見たくなり、窓を塞いでいる木製の扉を開けた。
実験場は非常灯で照らされているだけで薄暗いのだが、中に木箱が積み上げられている様子を見ることができた。
その光景は以前、父親に連れられてきたときとほとんど変わっていない。
もともとこの建物はインデストで発掘された鉄鉱石を加工するための加工実験場として建てられたものだ、とオイゲンは聞かされていた。
そして、現在いる部屋は実験場の管理室であり、加工場で使う火や電気などを制御する場でもある。
オイゲンが前回ここを訪れたときは、実験場は稼動準備中で鉄鉱石の採掘に使われる爆発物の倉庫となっていた。
結局、この近くの鉱脈が非常に小さいものであったため、ここから離れた場所にある現在の鉱脈を採掘することになり、加工場や実験場も現在の採掘場の近くで新たに建設されることになったのだった。
(あの木箱は、そのときの爆発物なのだろうか……? 物騒だな……)
オイゲンはそう思いながらも特にそのことに注意を払わなかった。
酔いのせいで、思考が麻痺しているようであった。
不意にオイゲンは自分のしていることを他人に見られたくないという気分になる。
これは、酔いがさせていることなのだ、と。
その思いは入口のドアを閉めるという行為につながった。
インデストへと向けて発つ直前に、彼の秘書と過ごした夜のことを思い出していた。
あの夜も酔っていたな、と彼はその日に起きた出来事を思い出しながら、自らの行為を恥じた。
(酔い覚ましに何か飲むか……)
閉ざされた部屋の中で、オイゲンはふと壁側の自動販売機に目をやった。
しかし、自動販売機のある方の照明が落ちており、商品のボタンがよく見えない。
(電気が消えているのか、スイッチはどこだ……?)
オイゲンは周辺を見回し、すぐにそれらしいスイッチを見つけた。
スイッチは全部で六つあり、三つがオンに、残りの三つがオフになっている。
(ここで、スイッチを入れたら何か起こる……訳なんてないか)
彼は、この数ヶ月間、極度の緊張を強いられる環境に置かれていた。
━━ウォーリーに肩入れしていることによるハドリからの報復
━━そして、ウォーリーに肩入れしているにも関わらず、ハドリと行動をともにしなければならないことへの葛藤
━━彼自身の決断により、影響を受ける部下たちへの責任
━━そして、関係を持ってしまった秘書に対する責任
それらが彼の中で渦巻きそして複雑に絡み合っている。
彼の心は折れ、焼き切れる寸前だった。
不意にオフとなったスイッチの一つに彼の手が伸びる。
(これですべてがリセットされて……元に戻ればいいのだが……
ハドリ社長には悪いけど、彼がいなくなれば、すべては丸く収まるんだよね……
そのような虫のいい話はないね……)
酔いのせいか、ソファまで戻る気力も湧かない。
喉の渇きを覚えているのに、飲み物を買う気力すらないのだ。
オイゲンは力なく床に座り込み、そのまま目を閉じた。
(まあ、なるようになるしかないさ……)
しばらくそうしていると、遠くのほうで何か物音が聞こえてくる。
それは、ゴーッと何かが燃えるような音だった。
興味をひかれて音のする方を見る。
すると、加工場に設置されたバーナーが青白い炎を発し、その炎が木箱に燃え移っている様が見えた。
(あれは……爆発物だぞ! 止めないと!)
オイゲンが慌ててすべてのスイッチをオフにした。
だが、バーナーの炎は止まる気配がない。
(逃げなきゃ! それに中の人に知らせないと)
オイゲンは神経が凍りつくような感覚を覚えながら、閉じたドアを開けようと力を込める。
しかし、ドアは彼の意に反して、びくともしない。
慌てて周囲を調べてみるが、鍵がかかっている様子もなく、特に異常も見受けられない。
声をあげようともしたが、ろれつが回らない。
(箱の中に火が燃え移ったら最後だぞ!)
オイゲンは慌てて加工場の方に目をやる。
炎は木箱の一つを完全に包み込み、その中に達するのも時間の問題だと思われた。
未だに安定しない足で、ドアを蹴りつけたが、やはりドアは開かない。
二、三度体当たりも試みたが、やはりドアは動かなかった。
「万策尽きたか……」
オイゲンはそう小さくつぶやいて床に座り込んだ。
それは覚悟を決めたというより生を諦めた結果であった。
この部屋は現在、自動販売機コーナーとして使用されており、十台程度の自動販売機と、ソファが置かれている。
本来オイゲンはほとんど酒が飲めないのだが、今回はハドリに強要されたので、かなり酒量を過ごしている。
酔っぱらって足元がふらつくなどの醜態を披露してしまった。しばらくはハドリやその周辺の人々の笑いものになることを覚悟しなければならないようだ。
オイゲンは不意に地下にある実験場を見たくなり、窓を塞いでいる木製の扉を開けた。
実験場は非常灯で照らされているだけで薄暗いのだが、中に木箱が積み上げられている様子を見ることができた。
その光景は以前、父親に連れられてきたときとほとんど変わっていない。
もともとこの建物はインデストで発掘された鉄鉱石を加工するための加工実験場として建てられたものだ、とオイゲンは聞かされていた。
そして、現在いる部屋は実験場の管理室であり、加工場で使う火や電気などを制御する場でもある。
オイゲンが前回ここを訪れたときは、実験場は稼動準備中で鉄鉱石の採掘に使われる爆発物の倉庫となっていた。
結局、この近くの鉱脈が非常に小さいものであったため、ここから離れた場所にある現在の鉱脈を採掘することになり、加工場や実験場も現在の採掘場の近くで新たに建設されることになったのだった。
(あの木箱は、そのときの爆発物なのだろうか……? 物騒だな……)
オイゲンはそう思いながらも特にそのことに注意を払わなかった。
酔いのせいで、思考が麻痺しているようであった。
不意にオイゲンは自分のしていることを他人に見られたくないという気分になる。
これは、酔いがさせていることなのだ、と。
その思いは入口のドアを閉めるという行為につながった。
インデストへと向けて発つ直前に、彼の秘書と過ごした夜のことを思い出していた。
あの夜も酔っていたな、と彼はその日に起きた出来事を思い出しながら、自らの行為を恥じた。
(酔い覚ましに何か飲むか……)
閉ざされた部屋の中で、オイゲンはふと壁側の自動販売機に目をやった。
しかし、自動販売機のある方の照明が落ちており、商品のボタンがよく見えない。
(電気が消えているのか、スイッチはどこだ……?)
オイゲンは周辺を見回し、すぐにそれらしいスイッチを見つけた。
スイッチは全部で六つあり、三つがオンに、残りの三つがオフになっている。
(ここで、スイッチを入れたら何か起こる……訳なんてないか)
彼は、この数ヶ月間、極度の緊張を強いられる環境に置かれていた。
━━ウォーリーに肩入れしていることによるハドリからの報復
━━そして、ウォーリーに肩入れしているにも関わらず、ハドリと行動をともにしなければならないことへの葛藤
━━彼自身の決断により、影響を受ける部下たちへの責任
━━そして、関係を持ってしまった秘書に対する責任
それらが彼の中で渦巻きそして複雑に絡み合っている。
彼の心は折れ、焼き切れる寸前だった。
不意にオフとなったスイッチの一つに彼の手が伸びる。
(これですべてがリセットされて……元に戻ればいいのだが……
ハドリ社長には悪いけど、彼がいなくなれば、すべては丸く収まるんだよね……
そのような虫のいい話はないね……)
酔いのせいか、ソファまで戻る気力も湧かない。
喉の渇きを覚えているのに、飲み物を買う気力すらないのだ。
オイゲンは力なく床に座り込み、そのまま目を閉じた。
(まあ、なるようになるしかないさ……)
しばらくそうしていると、遠くのほうで何か物音が聞こえてくる。
それは、ゴーッと何かが燃えるような音だった。
興味をひかれて音のする方を見る。
すると、加工場に設置されたバーナーが青白い炎を発し、その炎が木箱に燃え移っている様が見えた。
(あれは……爆発物だぞ! 止めないと!)
オイゲンが慌ててすべてのスイッチをオフにした。
だが、バーナーの炎は止まる気配がない。
(逃げなきゃ! それに中の人に知らせないと)
オイゲンは神経が凍りつくような感覚を覚えながら、閉じたドアを開けようと力を込める。
しかし、ドアは彼の意に反して、びくともしない。
慌てて周囲を調べてみるが、鍵がかかっている様子もなく、特に異常も見受けられない。
声をあげようともしたが、ろれつが回らない。
(箱の中に火が燃え移ったら最後だぞ!)
オイゲンは慌てて加工場の方に目をやる。
炎は木箱の一つを完全に包み込み、その中に達するのも時間の問題だと思われた。
未だに安定しない足で、ドアを蹴りつけたが、やはりドアは開かない。
二、三度体当たりも試みたが、やはりドアは動かなかった。
「万策尽きたか……」
オイゲンはそう小さくつぶやいて床に座り込んだ。
それは覚悟を決めたというより生を諦めた結果であった。
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