ストランディング・ワールド(Stranding World) ~不時着した宇宙ステーションが拓いた地にて兄を探す~

空乃参三

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第八章

368:時機はいつ到来するのか?

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 時は少し戻って、五月三日の夕方のことである。ハドリは「オーシャンリゾート」の一室で人を待っていた。
 外は日も暮れかけ、南側の海が赤く染まっている。
「明日だな……あの男を血祭りにあげるのもな……」
 ハドリが窓から外を見ていると、内線から客の到着が告げられた。
「イベントホール棟の三階に通しておけ」
 ハドリはそう命じると、内線を切った。
 (貴様の忌まわしい血がこの世にあるのも今日限りだ……
 この地があの血で汚される前に、先に祝ってやるとしよう……)
 部下からウォーリーを街のある一角に封じこめたと報告を受けている。
 包囲の輪はかなり狭まっており、彼を捕らえるのも時間の問題だ。
 通信による各所の報告からハドリはそう判断した。
 オオカワの動きが鈍く態度が反抗的なのが引っかかるが、ホンゴウの働きは辛うじて及第点に達している。
 不満はあるが、この程度の働きでも十分に勝つだけの準備はしていたという自負がハドリにはあった。
 敵の反撃は予想よりも苛烈であった。
 しかし、敵には戦える者が少ない。それが彼等の致命的な弱点である。
 訓練を積んでいない市民を集めたところで、実際に戦う者は少なく、その戦闘力は低い。
 こちらが攻撃をためらうことさえなければ、負けようのない相手なのだ。
 事実、こちらも少なからぬ損害を出しているが、近いうちに敵は戦えなくなるはずだ。
 戦える者の数が二桁違えば、どちらが勝つかは自明である。
 勝利して力を示せば市民は勝利した指導者によって正しい道へと導かれる。
 そのためには、指導者を妨害する不埒者を徹底的に叩いておく必要がある。
 ましてや、その不埒者が忌まわしい血を持っている者であるならば……
 ハドリはゆっくりと立ち上がり、部屋を後にしてイベントホール棟へと向かった。

 ※※
 同じ頃、「オーシャンリゾート」近くの茂みに潜んでいたジン・ヌマタが動いた。
 「オーシャンリゾート」のイベントホール棟に灯りが灯ったのを見つけたのだ。
 (あれは! OP社が今夜動くのか?)
 ヌマタは急いでイベントホール棟の方へと走っていった。
 イベントホール棟の二階と三階には大きな窓がいくつもあるので、近づけば外からでも中の様子をある程度確認できる。

 建物のすぐ近くにある木の陰からヌマタはイベントホール棟の様子を窺った。
 灯りの灯っているのは二階と三階のホールである。ここで今夜何か行われるのは間違いない。
 ホールに潜入してハドリの姿を探そうかとも考えたが、外から見る限りホールに集まっている人影が少なすぎた。
 また、ホールに集まっている者の大部分が女性であることもわかった。この中に男のヌマタが入り込めば目立つに違いない。
 ハドリ暗殺という大願を成就するためにも、無駄な危険は冒したくなかった。

 ヌマタは先ほどよりも建物から離れ、散歩している宿泊客を装いながら双眼鏡でホールの窓を覗いてみた。
 二階は立食パーティー形式のようだ。OP社の関係者と見られる女性や「オーシャンリゾート」の制服を着た従業員が、あわただしく料理や飲み物の準備をしている。
 三階を覗いてみると、こちらは豪華なソファが並べられている。
 かなり派手な装飾で、ヌマタからすれば吐き気のするようなものである。
 (恐らく……ハドリはこっちに来るな……)
 ヌマタはハドリの派手好きな性格をよく知っていた。
 そして、装飾から二階が一般の従業員用、三階がハドリや幹部用のスペースと判断した。
「そろそろ中に入り込むか……」
 ヌマタがそう考えて裏口に回ろうとすると、建物の中から大勢の「オーシャンリゾート」の従業員が手に袋のようなものを持って外に出てきた。
 (見つかると厄介だな……)
 ヌマタは慌てて近くの茂みに身を隠す。
 出てきた従業員たちは建物の壁や生垣に照明をくくりつけ始めた。
 ヌマタは「オーシャンリゾート」の正面から入り、ロビーで雑誌を読みながら周辺の様子を窺うことにした。
 この様子だと建物の中を通ってイベントホール棟へ行くことは何とかできそうだが、地下に潜伏するのが難しそうだ。
 彼は遠隔操作で地下に仕掛けたバーナーを点火し、爆発物に火をつけようとしている。
 しかし、この方法には致命的な弱点があった。
 遠隔操作用のリモコンの電波が弱く、イベントホール棟の裏口の扉が開いた状態になるか、イベントホール棟の地下二階でリモコンを操作しない限り、バーナーが操作できないのである。
 裏口は近くで大勢の人々が作業をしているので、見つからずにドアを開けたままにしておくのは難しい。
 イベントホール棟の地下二階は立ち入り禁止である。「オーシャンリゾート」の従業員に見つからずに地下二階に到達し、リモコンを操作するのも一苦労である。
 この問題は最近になって発覚したのだが、今更手を打つこともできない。
 何て使えない機械だ、と自分の迂闊さを棚に上げてヌマタは機械を責めたが、すぐに開き直った。
 (だったらやるしかないだろう)
 ロビーから隙を窺うが人の出入りが多く、なかなかチャンスを見出せない。
 (落ち着け、時間はまだある……)
 ヌマタは腕時計を見ながら、チャンスを窺っている。
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