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第八章
365:捕虜
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ウォーリー達に拘束された相手はウォーリーを睨みつけている。
「まあ、そう怖い顔するなっての。別に取って喰いやしねえよ」
ウォーリーの口調は若い部下をからかうかのようなものである。
「ウォーリー・トワ! わが社の従業員は、決して犯罪者に屈することなどないのだ」
相手は鋭くそう言い放って、身を乗り出してきた。
慌てて、「タブーなきエンジニア集団」のメンバーがそれを押さえる。
あんまり手荒にするなよ、とウォーリーは仲間に注意を与えてから、もう一度ハドリの居場所を問う。
「痛めつけた方がいいんじゃないですか? マネージャー」
その声にウォーリーは、
「そうだな、見たところ二、三年目、ってところか。社会の厳しさを覚えるのにはちょうどいい時期だな」
とうなずいた。
ウォーリーはECN社時代から部下の教育には熱心で、時には部下を厳しく叱咤することもあった。
気さくな人柄なので、恐れる者は少なかったが、怒った時の彼に近づく者も少なかった。
オイゲンやミヤハラは、このようなときのウォーリーの緩衝役を務めることが多かったのである。ときにはウォーリーのやりすぎを咎めることもあった。
今回の場合、相手が女性であれば、暴力に訴えることはしなかっただろう。
しかし、相手は二〇歳くらいの若い男性である。怪我をしない程度に痛めつけることに何の躊躇もなかった。幸か不幸かこの場には制止役のオイゲンやミヤハラの姿もない。
更に相手の態度と言葉がウォーリーの怒りを呼んだ。
「隠れて徒党を組むしか能のないチンピラの集まり、か。モラルのかけらもないな。どういう躾を受けてきたのだか……」
「わかったような口を聞くな、若造!」
その言葉とともに、ウォーリーの平手打ちが飛んだ。
平手打ちにしては鈍い音が響いた後、遅れて鮮血が飛んだ。
相手は勢い余って、近くの建物の外壁に激突する。
ウォーリーは平手打ちだけでは不十分と言わんばかりに相手の髪を引っ張り引きずり起こした。
「お前には、自分の言葉ってのがないのか?! どこかで聞いたような口ばかり叩きやがって! あん?!」
そして自分の額と相手の額が接するくらいの距離まで近づけ、相手の目を見据える。
相手はその勢いに気圧されて言葉を発することができない。
「聞こえないのか?! お前の言葉はないのか?」
ウォーリーが今度は額をぶつけながら問うてきた。
「……」
やはり、返答はない。
「話は自分の言葉でしろ! そんなことも知らねえのか!」
ウォーリーはそう吐き捨てると、仲間に声をかけて、その場を去ろうとした。
すると、地面に転がった相手が口を開いた。
「俺を……人質にしないのかよ?」
ウォーリーは、その言葉に振り向きもせずに答える。
「あん? てめえにそんな価値があると思っているのか? この小物が!
てめえには人としての価値がねぇ、人質にならねぇじゃないか!」
そして、行くぞ、と仲間に声をかけた。
ウォーリーが五、六歩進んだところで、再び相手から声がかかる。
「待ってくれ! このままでは、社長に……処分される……それだけは……」
その口調は今までとはうって変わって弱弱しいものであった。
ウォーリーは足も止めずにその言葉を聞き流している。
「死にたくない! 社長の処分も嫌だ! せめて捕虜に!」
相手の訴えが悲痛なものとなる。
ウォーリーが足を止めて口を開く。
「なら……どうしたいんだ?」
「捕虜でいいから、社に戻さないでくれ!」
「捕虜でいい? 甘いな」
相手の訴えをウォーリーは振り向きもせず切り捨てた。
しかし、相手も必死だ。そう簡単に諦めない。それだけ会社、いやハドリが恐ろしいのだろう。
「何でもいいですから!」
するとウォーリーは、しょうがねえなぁ、とぼやきながら振り返った。
「おい、お前の名前は何だ?」
「……エイ・タザワ」
「そうか。タザワ、もう一度聞くが、そっちの社長はどこにいるか知らないか?」
「……本当に知りません。うちの社長は一般の社員に居場所を伝えることなどありません」
タザワの言葉に嘘はないようにウォーリーには思える。
「そうか……誰なら知っている?」
タザワによれば彼の所属するセキュリティ・センターのセンター長ミツハル・オオカワであれば、ハドリの所在が判る可能性があるとのことだった。しかし、彼の言葉は歯切れが悪い。
「そのセンター長は、どこにいる?」
「それが……わかりません。一時間ほど前から行方不明です。それまでは、『サウスセンター』のところの部隊にいたのですが……」
ウォーリーとタザワのやり取りを聞いていた「タブーなきエンジニア集団」のメンバー達の顔が喜色に染まる。
社長のハドリには及ばないものの、セキュリティ・センターのセンター長は、OP社の中でもかなりの大物だからだ。
「他に知っている奴はいないのか?」
ウォーリーは苛立ちを隠せない。
彼の狙いは、あくまでハドリが悔い改め、間違った活動を停止することであって、他の幹部などに興味はないのだ。
しかし、タザワは首を横に振るだけだった。
「まあ、そう怖い顔するなっての。別に取って喰いやしねえよ」
ウォーリーの口調は若い部下をからかうかのようなものである。
「ウォーリー・トワ! わが社の従業員は、決して犯罪者に屈することなどないのだ」
相手は鋭くそう言い放って、身を乗り出してきた。
慌てて、「タブーなきエンジニア集団」のメンバーがそれを押さえる。
あんまり手荒にするなよ、とウォーリーは仲間に注意を与えてから、もう一度ハドリの居場所を問う。
「痛めつけた方がいいんじゃないですか? マネージャー」
その声にウォーリーは、
「そうだな、見たところ二、三年目、ってところか。社会の厳しさを覚えるのにはちょうどいい時期だな」
とうなずいた。
ウォーリーはECN社時代から部下の教育には熱心で、時には部下を厳しく叱咤することもあった。
気さくな人柄なので、恐れる者は少なかったが、怒った時の彼に近づく者も少なかった。
オイゲンやミヤハラは、このようなときのウォーリーの緩衝役を務めることが多かったのである。ときにはウォーリーのやりすぎを咎めることもあった。
今回の場合、相手が女性であれば、暴力に訴えることはしなかっただろう。
しかし、相手は二〇歳くらいの若い男性である。怪我をしない程度に痛めつけることに何の躊躇もなかった。幸か不幸かこの場には制止役のオイゲンやミヤハラの姿もない。
更に相手の態度と言葉がウォーリーの怒りを呼んだ。
「隠れて徒党を組むしか能のないチンピラの集まり、か。モラルのかけらもないな。どういう躾を受けてきたのだか……」
「わかったような口を聞くな、若造!」
その言葉とともに、ウォーリーの平手打ちが飛んだ。
平手打ちにしては鈍い音が響いた後、遅れて鮮血が飛んだ。
相手は勢い余って、近くの建物の外壁に激突する。
ウォーリーは平手打ちだけでは不十分と言わんばかりに相手の髪を引っ張り引きずり起こした。
「お前には、自分の言葉ってのがないのか?! どこかで聞いたような口ばかり叩きやがって! あん?!」
そして自分の額と相手の額が接するくらいの距離まで近づけ、相手の目を見据える。
相手はその勢いに気圧されて言葉を発することができない。
「聞こえないのか?! お前の言葉はないのか?」
ウォーリーが今度は額をぶつけながら問うてきた。
「……」
やはり、返答はない。
「話は自分の言葉でしろ! そんなことも知らねえのか!」
ウォーリーはそう吐き捨てると、仲間に声をかけて、その場を去ろうとした。
すると、地面に転がった相手が口を開いた。
「俺を……人質にしないのかよ?」
ウォーリーは、その言葉に振り向きもせずに答える。
「あん? てめえにそんな価値があると思っているのか? この小物が!
てめえには人としての価値がねぇ、人質にならねぇじゃないか!」
そして、行くぞ、と仲間に声をかけた。
ウォーリーが五、六歩進んだところで、再び相手から声がかかる。
「待ってくれ! このままでは、社長に……処分される……それだけは……」
その口調は今までとはうって変わって弱弱しいものであった。
ウォーリーは足も止めずにその言葉を聞き流している。
「死にたくない! 社長の処分も嫌だ! せめて捕虜に!」
相手の訴えが悲痛なものとなる。
ウォーリーが足を止めて口を開く。
「なら……どうしたいんだ?」
「捕虜でいいから、社に戻さないでくれ!」
「捕虜でいい? 甘いな」
相手の訴えをウォーリーは振り向きもせず切り捨てた。
しかし、相手も必死だ。そう簡単に諦めない。それだけ会社、いやハドリが恐ろしいのだろう。
「何でもいいですから!」
するとウォーリーは、しょうがねえなぁ、とぼやきながら振り返った。
「おい、お前の名前は何だ?」
「……エイ・タザワ」
「そうか。タザワ、もう一度聞くが、そっちの社長はどこにいるか知らないか?」
「……本当に知りません。うちの社長は一般の社員に居場所を伝えることなどありません」
タザワの言葉に嘘はないようにウォーリーには思える。
「そうか……誰なら知っている?」
タザワによれば彼の所属するセキュリティ・センターのセンター長ミツハル・オオカワであれば、ハドリの所在が判る可能性があるとのことだった。しかし、彼の言葉は歯切れが悪い。
「そのセンター長は、どこにいる?」
「それが……わかりません。一時間ほど前から行方不明です。それまでは、『サウスセンター』のところの部隊にいたのですが……」
ウォーリーとタザワのやり取りを聞いていた「タブーなきエンジニア集団」のメンバー達の顔が喜色に染まる。
社長のハドリには及ばないものの、セキュリティ・センターのセンター長は、OP社の中でもかなりの大物だからだ。
「他に知っている奴はいないのか?」
ウォーリーは苛立ちを隠せない。
彼の狙いは、あくまでハドリが悔い改め、間違った活動を停止することであって、他の幹部などに興味はないのだ。
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