ストランディング・ワールド(Stranding World) ~不時着した宇宙ステーションが拓いた地にて兄を探す~

空乃参三

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第八章

364:部下の心大将知らず

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(……ここはどこだ?)
 ゆっくりと目を開けたウォーリーの視界に入ったのは、薄暗い天井であった。病院でないことはわかる。
 身体を起こして周辺を見回す。
(そうか……情けないことに倒れていたのだったな……)
 しかし、今はその不調もなく、身体も楽である。
(肝心なときにボロ出しやがって! 何やっているんだ?!)
 ウォーリーはぶつけようのない怒りを覚えていた。
 一番肝心なときに倒れたとあっては、自分の身体に苛立ちを覚えざるを得ない。
 周辺には横になって休んでいる仲間が何人かいる。
 時計を見ると、もうすぐ午前六時になるところであった。

 ウォーリーが身体を起こしたのに気づいた者がいた。
 昨日から一緒に行動しているメンバーの一人である。どうやら見張りを担当していたようだ。
「マネージャー、気づかれましたか?」
「あのなぁ、早く『サウスセンター』に戻れと言ったろ! どういう了見でここにいるんだ?」
「すみませんっ! その……周辺の警戒が厳重で、身動きが……取れないんです」
 ウォーリーはその答えに舌打ちすると、今度はここがどこなのかと聞いてみた。
「運送業者の地下倉庫です。ここの社長は我々の支援者です」
 携帯端末で地図を確認すると、昨日のスーパーから一〇〇メートルほど離れた位置になるらしいことがわかった。見張りのメンバーの話によれば、運送業社がスーパーから荷物を発送する際に、発送荷物の中にウォーリーたちを隠して移動させてきたらしい。
「さすがに遠くに移動するには荷物のチェックを受けるらしくて、ここまでが限界だったようですが……」
「まあ、ここの社長には礼を言っておいた方がいいな。俺が行こう」
 ウォーリーが立ち上がって外へ出ようとしたが、それは止められた。
「まだ六時前ですよ? 早すぎるのではないかと……」
 確かにその通りだった。
 ウォーリーは運送会社の社長への挨拶をあきらめ、寝ているメンバーを起こした。
 そして、「サウスセンター」に戻れといった指示を無視したことを軽く叱責した後、出立を命じた。
 メンバーからは驚きの声があがる。
「何を言っているんだ! 早く戦線に復帰しないと、エリックやアカシに負担がかかるだろうが!」
 ウォーリーはそう怒鳴ると、今にも飛び出していきそうな勢いで扉の方へと進んでいった。
 他の者が声をかける間もなく扉を開けて外へ出て行ってしまったので、遅れじと彼等も続くしかなかった。

 運送業者の地下倉庫を飛び出して十分ほど後、ウォーリーは物陰に身を潜めて周囲の様子を窺っていた。
「人数の少ない集団を見つけて、一人か二人捕まえたいところだな」
 その言葉に後に続いた者たちがうなずく。
 ここでウォーリーは従来の方針に若干の修正を加えた。
 OP社の事業活動の崩壊を待つだけではなく、ハドリの身柄の拘束も視野に入れることにしたのだ。
 本来の彼であれば積極策であるこちらを優先したであろう。
 それを考えなかったあたり、身体に自信が持てなかったことの証左であるかもしれない。
 自ら能動的に動くのが彼の本質であり、もと上司であるオイゲンもその点を高く評価していた。
(待つのは性に合わねえからな)
 昨日の異変が嘘のように身体も軽い。
「やっぱ、自分で動いておかないと気持ち悪い」
 軽くそう言い放って、ウォーリーは身を隠せる場所を探しながら、歩を進めていく。

 ※※
「何だ、この人数は? どこから湧いてきたって言うのだ?」
 三〇分ほど動き回ったところで、ウォーリーが呆れたように声をあげた。
 ウォーリーが潜んでいた運送業者のあるブロックと隣のブロックを合わせたエリアが完全に包囲されていたからだ。
「ま、どこか突破するときに、向こうの誰かを捕まえておくか」
 ウォーリーはそうつぶやいたのだが、仲間はこぞってそれに反対した。
 ウォーリーが率いているチームは全部で一二名に過ぎない。
 周辺を包囲している敵の数は数千はいるだろう。
 放水路や下水などを移動することも考えたが、周辺に適当なものもなかった。
「進退窮まりましたね……」
 メンバーの一人が悲痛な表情でウォーリーに訴えかけたが、ウォーリーはどこ吹く風と言った様子だ。
「囲まれただけで、別に捕まったわけでも何でもないからな。隙の一つや二つできるだろうよ」
 また、これだけの人数でウォーリーのチームだけを囲めば、「サウスセンター」への包囲が手薄になる、とも考えていた。
 エリックやアカシであれば、それに乗じて何らかの手を打ってくるだろう、という期待もある。
 この男、そのような意味ではかなりポジティヴである。
「おっ、噂をすれば……」
 そう言ってウォーリーが指差した先には、OP社治安改革センターの制服を着た職員がパンの空袋を手にして歩いてきた。
 ウォーリーは後ろにいる仲間と目を合わせた。
 その直後に潜んでいた物陰から飛び出し、相手の後ろに回りこむ。
 そして、とっておきのスタンガンの一撃を浴びせると、動けなくなった相手を仲間と一緒に物陰へと引きずりこんだ。「タブーなきエンジニア集団」とOP社グループ労働者組合を合わせて、全部で三つしかない秘密兵器である。
 相手が身動きできないよう、ウォーリーと仲間たちはすぐに携帯しているロープで手足を縛る。
 そして、相手が落ち着いたところで、ウォーリーが単刀直入に問う。
「さて、と。お前のところの社長はどこにいる?」
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