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第八章
359:包囲の網は……閉じられず
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一方、ウォーリーはインデストの路地という路地を駆け巡りながら、出会った敵の部隊に奇襲を仕掛けては逃亡する、ということを繰り返していた。
敵の会話から、その目的が明らかに自らの身柄にあることがわかる。
ならば、ウォーリー本人が、「サウスセンター」の外にいることが相手に知れているのは好都合かもしれない。
そこでウォーリーは、わざわざ名乗りながら敵の小部隊に奇襲を仕掛け、その注意を引き付けていった。
しかし、多勢に無勢である。
インデストの路地という路地を調べ上げたウォーリーですらも、次第に街のある一角へと追い詰められていった。
「さすがにやばいな……このままじゃジリ貧だぜ……」
ウォーリーは建物の影に身を潜ませながら、誰にも聞こえない声でつぶやいた。
彼自身を含めて二〇名だったメンバーは、いつの間にかその数を減らして一二名になっている。
彼にとって誤算だったのが、OP社に協力する市民が相当数いたことだった。
OP社に協力する市民は決して多数派ではなかったが、その協力の度合いがウォーリーの予想を遥かに上回っていた。
ウォーリーの居場所をOP社の治安改革部隊に伝えるだけではなく、ウォーリーの捜索を買って出る者までいたのである。
「裏切った卑劣な連中は、相応の報いを受けるべきです! 今からでも奴等を討ちましょう!」
血気盛んなメンバーからそのような声もあがったが、ウォーリーは自重するように命じた。
本来、ウォーリーがメンバーに止められるほうなのであるが、最近は彼がメンバーに自重を促すことが多い。
彼自身、体調に自信が持てないことから、普段と比較してやや慎重になっている面も否めない。
近くにはOP社の小部隊が油断なく巡回している姿が見える。
ウォーリーのいる位置から、四、五〇メートルくらいの距離であろう。
「マネージャー、先手を打って奴等を攻撃しましょうか?」
「そうだな……奴等を攻撃して、次はどこに隠れ……」
ウォーリーの声が急に力ないものとなった。
異変に気づいたメンバーがウォーリーの顔を見ると、彼は必死に歯を食いしばって何かに耐えているようであった。
「マネージャー!」
「……あ、ああ……気にするな。大丈夫だ……」
しかし、その答えとは裏腹に、ウォーリーは建物の壁に手をついて辛うじてその身体を支えているように見える。
急に大勢の足音が近づいてきた。
「気づかれたか!」
メンバーが二人がかりでウォーリーの身体を抱え、近くの建物の中に逃げ込んだ。
建物の中に全員が飛び込んだ直後、路地のほうから大勢の足音が聞こえてくる。
飛び込んだ先は倉庫のようで、数々のダンボールが山積みになっている。
彼等はウォーリーを引きずりながら、ダンボールの陰に身を潜めた。
「おい……ここに潜んでいても長く持たねえぞ……
お前等だけでも逃げておけ」
顔面蒼白になりながら、ウォーリーが震える声で言った。
ウォーリーの様子は明らかにおかしいものであった。
彼を知る者は、彼について胆力や度胸に不安のある人間ではないと信じている。
顔色や息遣いに異常があることから、身体の変調をきたしていることに周辺のメンバーは気づいていた。
「マネージャー、大丈夫ですか?!」
「ああ……ちょっと今は落ち着かないがな。とりあえず、お前等は『サウスセンター』に戻って、エリックかアカシの指示を受けるんだ。俺も後で戻る……」
「しかし……」
「つべこべ言わずに行け! 『サウスセンター』の連中が困るだろう!」
ウォーリーは薄れゆく意識の中でも敵の目的が彼自身の身柄であることを忘れていなかった。
彼を捨てて逃亡すれば、他の一一名は恐らく無事に助かるのだ。
今や自由に身体を動かすことのできない身である。その身を守ることに何の意味があるというのだろうか?
「早く行けよ……」
ウォーリーが消え入りそうな声で命じるが、従う者はない。
そこに扉を開ける音が聞こえてきた。
メンバーの間に緊張が走る。
足音からすると中に入ってきたのは二人らしい。
二人は声も出さずに徐々にウォーリーたちが潜んでいるダンボールの方に近づいてくる。
ウォーリーを除く一一名のメンバーは、互いに目配せをして、相手が近づいてきたら攻撃することを確認した。
しかし、足音は彼等の数メートル手前で止まった。
そして、一方の足音の主と思われる者の声が聞こえてきた。
「……そろそろ夕方ですね。スーパーも混むのではないでしょうか?」
ウォーリーには、この声に聞き覚えがある。
何とかしてそれを周辺に伝えようとするのだが、身体も声帯も言うことをきかない。
少しして、もう一方の者の答えが返ってくる。
「……そうだな。かき入れどきに商売の邪魔をするのは本意ではないな」
「ホンゴウさん、ここの捜索は後回しでもいいのではないでしょうか? あまり人手を分けると思わぬ反撃を受ける恐れもあります。それに、ここならスーパーの従業員の出入りもありますから、何かあれば従業員から通報があるでしょう」
「それもそうだ。一旦外へ出てチームを集結させよう」
すると、二人はウォーリーのいるダンボールの周囲を調べることなく、外へと出て行った。
ダンボールの陰に隠れていたウォーリーを除く一一名は、ほっと胸を撫で下ろしている。
しかし、ウォーリーは飛んでいきそうな意識の中で必死に何かを伝えようと歯を食いしばっていた。
(あれは……ボンクラ社長の声だ! 何をしに来たんだ……?)
歯を食いしばっているうちに、手に力が入るようになった。
ウォーリーは手にしていたナイフで、近くの柱に文字を彫った。
そして、近くのメンバーにそれを示そうとしたところで意識を失った。
敵の会話から、その目的が明らかに自らの身柄にあることがわかる。
ならば、ウォーリー本人が、「サウスセンター」の外にいることが相手に知れているのは好都合かもしれない。
そこでウォーリーは、わざわざ名乗りながら敵の小部隊に奇襲を仕掛け、その注意を引き付けていった。
しかし、多勢に無勢である。
インデストの路地という路地を調べ上げたウォーリーですらも、次第に街のある一角へと追い詰められていった。
「さすがにやばいな……このままじゃジリ貧だぜ……」
ウォーリーは建物の影に身を潜ませながら、誰にも聞こえない声でつぶやいた。
彼自身を含めて二〇名だったメンバーは、いつの間にかその数を減らして一二名になっている。
彼にとって誤算だったのが、OP社に協力する市民が相当数いたことだった。
OP社に協力する市民は決して多数派ではなかったが、その協力の度合いがウォーリーの予想を遥かに上回っていた。
ウォーリーの居場所をOP社の治安改革部隊に伝えるだけではなく、ウォーリーの捜索を買って出る者までいたのである。
「裏切った卑劣な連中は、相応の報いを受けるべきです! 今からでも奴等を討ちましょう!」
血気盛んなメンバーからそのような声もあがったが、ウォーリーは自重するように命じた。
本来、ウォーリーがメンバーに止められるほうなのであるが、最近は彼がメンバーに自重を促すことが多い。
彼自身、体調に自信が持てないことから、普段と比較してやや慎重になっている面も否めない。
近くにはOP社の小部隊が油断なく巡回している姿が見える。
ウォーリーのいる位置から、四、五〇メートルくらいの距離であろう。
「マネージャー、先手を打って奴等を攻撃しましょうか?」
「そうだな……奴等を攻撃して、次はどこに隠れ……」
ウォーリーの声が急に力ないものとなった。
異変に気づいたメンバーがウォーリーの顔を見ると、彼は必死に歯を食いしばって何かに耐えているようであった。
「マネージャー!」
「……あ、ああ……気にするな。大丈夫だ……」
しかし、その答えとは裏腹に、ウォーリーは建物の壁に手をついて辛うじてその身体を支えているように見える。
急に大勢の足音が近づいてきた。
「気づかれたか!」
メンバーが二人がかりでウォーリーの身体を抱え、近くの建物の中に逃げ込んだ。
建物の中に全員が飛び込んだ直後、路地のほうから大勢の足音が聞こえてくる。
飛び込んだ先は倉庫のようで、数々のダンボールが山積みになっている。
彼等はウォーリーを引きずりながら、ダンボールの陰に身を潜めた。
「おい……ここに潜んでいても長く持たねえぞ……
お前等だけでも逃げておけ」
顔面蒼白になりながら、ウォーリーが震える声で言った。
ウォーリーの様子は明らかにおかしいものであった。
彼を知る者は、彼について胆力や度胸に不安のある人間ではないと信じている。
顔色や息遣いに異常があることから、身体の変調をきたしていることに周辺のメンバーは気づいていた。
「マネージャー、大丈夫ですか?!」
「ああ……ちょっと今は落ち着かないがな。とりあえず、お前等は『サウスセンター』に戻って、エリックかアカシの指示を受けるんだ。俺も後で戻る……」
「しかし……」
「つべこべ言わずに行け! 『サウスセンター』の連中が困るだろう!」
ウォーリーは薄れゆく意識の中でも敵の目的が彼自身の身柄であることを忘れていなかった。
彼を捨てて逃亡すれば、他の一一名は恐らく無事に助かるのだ。
今や自由に身体を動かすことのできない身である。その身を守ることに何の意味があるというのだろうか?
「早く行けよ……」
ウォーリーが消え入りそうな声で命じるが、従う者はない。
そこに扉を開ける音が聞こえてきた。
メンバーの間に緊張が走る。
足音からすると中に入ってきたのは二人らしい。
二人は声も出さずに徐々にウォーリーたちが潜んでいるダンボールの方に近づいてくる。
ウォーリーを除く一一名のメンバーは、互いに目配せをして、相手が近づいてきたら攻撃することを確認した。
しかし、足音は彼等の数メートル手前で止まった。
そして、一方の足音の主と思われる者の声が聞こえてきた。
「……そろそろ夕方ですね。スーパーも混むのではないでしょうか?」
ウォーリーには、この声に聞き覚えがある。
何とかしてそれを周辺に伝えようとするのだが、身体も声帯も言うことをきかない。
少しして、もう一方の者の答えが返ってくる。
「……そうだな。かき入れどきに商売の邪魔をするのは本意ではないな」
「ホンゴウさん、ここの捜索は後回しでもいいのではないでしょうか? あまり人手を分けると思わぬ反撃を受ける恐れもあります。それに、ここならスーパーの従業員の出入りもありますから、何かあれば従業員から通報があるでしょう」
「それもそうだ。一旦外へ出てチームを集結させよう」
すると、二人はウォーリーのいるダンボールの周囲を調べることなく、外へと出て行った。
ダンボールの陰に隠れていたウォーリーを除く一一名は、ほっと胸を撫で下ろしている。
しかし、ウォーリーは飛んでいきそうな意識の中で必死に何かを伝えようと歯を食いしばっていた。
(あれは……ボンクラ社長の声だ! 何をしに来たんだ……?)
歯を食いしばっているうちに、手に力が入るようになった。
ウォーリーは手にしていたナイフで、近くの柱に文字を彫った。
そして、近くのメンバーにそれを示そうとしたところで意識を失った。
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