ストランディング・ワールド(Stranding World) ~不時着した宇宙ステーションが拓いた地にて兄を探す~

空乃参三

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第八章

355:躓くも前進あるのみ

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「構わん! 今維持できる電力を維持していろ!」
 ハドリが通信機に向かって怒鳴った。
 五月二日、午後一時を少し回った頃のことである。

 既にハドリ自身が率いる約二万の部隊はインデストの西一〇数キロメートルの地点にまで到達していた。
 一気に走り抜ければ、二日のうちに彼の敵が篭城している「サウスセンター」へ到達することも可能な距離だ。
 しかし、ハドリは無駄に部下を疲労させる愚を避け、三日の午前中に「サウスセンター」へ達する速度で進むことを決めていた。
 そこに本社のヤマガタから急報が入ったのである。
 発電量が維持不可能、縮退運転の許可を乞う。
 ハドリは本社が深刻な状況にあると考え、ヤマガタの話を聞いた。
 ハドリは長年追い求めていたウォーリー殺害を目の前にしていても、自社の深刻な問題から目を逸らさないだけの冷静さを保っていた。

 発電量が維持できなくなった背景は次のようなものである。
 昨日、OP社本社に向けた「タブーなきエンジニア集団」のデモ活動により、多くの人員をその鎮圧と身柄を拘束したデモ隊の管理に充てる必要が生じた。
 発電関連の従業員もデモ隊の管理に充当したため、発電業務に支障が出ている。
 デモ隊の管理から解放された従業員を発電業務に順次充当しているが、従業員の損耗が予想以上にひどく、復旧には数日を要する。
 ハドリはこの事態をある程度は予測しており、ヤマガタの報告にも動じることはなかった。
 ただし、ハドリの予想よりも従業員の混乱の状況が深刻で、その沈静化に手を焼いた。
(何たる様だ! 従業員どもはそんなことで、陰謀が取り巻くこの世界で競争を勝ち抜けると思っているのか?!)
 ハドリからすれば、本社の混乱ぶりが腹立たしい。
 発電機能の低下は容易に予測できることであり、冷静に対処できるはずである。
 供給できる電力が足りなくなれば、送る電力を減らせばよいのだ。
 ハドリは本社の動きが遅いのにも腹を立てていた。
 ハドリ自身はヤマガタからの報告で二時間半近く前に発電量の低下を認識していた。
 この時点でヤマガタは大量の電力を消費する企業向けの送電を絞り込んだ。

 ここまでの対応については特に不満はない。
 その後も発電量は低下を続けており、歯止めがかからなかった。
 発電量低下を抑えきれないと判明した時点ですぐに縮退運転の判断を行うべきだ。
 だが、発電量の低下が生じてからハドリに縮退運転の判断を求めるまでに二時間以上が経過している。このタイムラグが迅速な判断と行動を旨とするハドリには許容できなかった。

「今やれ! わかったな?!」
 ハドリはヤマガタに対応を命じると、すぐにインデストにいる従業員と連絡を取った。
 発電量の低下に対しては、これでしばらくは自らの手を要することはないはずだ。
 その代わりに彼の目前に迫っている敵の動向を確認する。今はこちらに集中すべきであった。
 彼等の敵は「サウスセンター」を占拠し、その場所に留まっているという。
 戦い方を知らない連中だ、とハドリは思った。
 援軍が期待できず、そして数が少ないのだからゲリラ戦で撹乱するのが定石というものだろう。
 しかし、何を血迷ったか敵は戦えない者を多く集めて篭城したという。
(この程度の敵に、俺が負けるわけがない。あの忌まわしい血は俺の手によって葬られる宿命なのだ!)
 ハドリはこのとき、自らの大願成就を確信した。
 そして、近くにいた部下に命じて、郊外の宿を確保させる。
 インデストの郊外に大きな宿は「オーシャンリゾート」一軒しかない。
 部下がその宿かと確認を取ると、ハドリはそうだと答え、宴会場と部屋を確保するように命じた。
(ウォーリー・トワ……卑劣な血の持ち主か……
 己の血の忌まわしさを思い知るがいい)
 ハドリは無言でインデストにあるウォーリーの影を見据えていた。
 ハドリ率いるOP社の治安改革部隊は一歩一歩インデストへと迫っていく。
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