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第八章
352:メディットでの蜂起
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ミヤハラ達がOP社本社からほうほうの体で引き上げてきた翌日の五月二日、ジンにある医療施設メディットは「タブーなきエンジニア集団」を支持する市民たちで埋め尽くされていた。
入院患者や外来の者の邪魔にならないよう施設の通路を確保するため、セスやロビーなどが奔走していた。
「すみませんっ! 病院を利用される方がいますので、道を空けてくださいっ!」
セスの声が病棟に響いた。こうしたとき、車椅子を使っているセスの言葉は説得力がある。
彼は今現在、緊急に加療が必要な状況にはない、というよりも有効な手が見出せず経過を見守っている状態である。
そういう意味では、メディットで治療を受けている患者ではない。
しかし、車椅子を見た周りの人々が勝手に患者と解釈してくれるので、通路を確保するのに役立っているのだ。
昨日、ミヤハラ率いるデモ隊がOP社本社から敗走してきたことで、メディットに集結した市民の士気が落ちることが懸念された。
しかし、その懸念は良い意味で覆された。
デモ隊がOP社から攻撃を受けたことで、集まった市民の士気はかえって高くなった。
先に手を出すなと指示したことが功を奏したのだ。
もっとも、OP社のお膝元であるポータル・シティでは、「タブーなきエンジニア集団」側が暴動を起こした、とまことしやかに信じられている。もちろん、OP社がそのように発表したからだ。
昨日のポータル・シティのデモに参加した者のうち、最終的に無事帰宅できた者は半数を少し超える程度だった。
残りの半数弱のうち、五〇〇名がOP社によって拘束され、一千名弱が負傷して加療中だ。そして、二六名が死亡したという。その大部分は「タブーなきエンジニア集団」のメンバーだったが、一般市民にも犠牲を出したのは事実である。
死者が出ることは可能性として考えていたが、予想が事実となったことの衝撃が大きい。
ミヤハラはこの日の朝、亡くなった二六名に哀悼の意を表した後、メディットでの集会に参加した。
この場で改めてOP社の司法警察権の独占に反対する声明を発表するともに、インデストで決起したOP社グループ労働者組合の活動に賛同の意を表した。
ミヤハラの堂々とした態度と体躯は、このような場には各組織のトップを差し置いて最適であった。
ウォーリーも悪くはないのだが、細身であることと言動が庶民的であるため、やや重みに欠ける。ハドリは堂々としているが小柄なのが問題である。オイゲンに至っては論外であろう。
ミヤハラの姿勢に勇気づけられた市民たちが大勢、メディットに集結している。
彼等もこうしてOP社と戦っているのだ。
メディットに詰めているセス、ロビー、モリタなどの仕事は、こうした闘士たちの世話をすることである。
「そういえば、アイネス先生が来るって言っていたな。セス、いつごろになるかわかるか?」
セスがロビーの問いに間髪いれずに答える。
「アイネス先生は、昨日のC帯で勤務するようなことを言っていたから、一〇時くらいには来ると思うよ。僕はこれから会見場の準備に行くから」
C帯とはメディットの勤務シフトで午前〇時から九時までの勤務のことだ。
メディットのスタッフは三交代制で勤務に当たっており、昼間の勤務をA帯、夜間の勤務をB帯、深夜早朝の勤務をC帯と呼んでいる。
この勤務シフトは医師、看護師、その他のスタッフの負担を軽減するものとして、ECN社のものをモデルに導入された。
モリタとレイカ・メルツがロビーのもとへ走ってきた。モリタが息を切らせながら尋ねる。
「ロビー、アイネス先生の会見の準備は?」
「セスが今やっている!」
アイネスの会見は今日の重要イベントのひとつである。
モリタやレイカが忘れっぽいロビーの性格を案じて、指摘しにきたのだ。
改めて医療機関「メディット」が、OP社による司法警察権の独占を非難する声明を発表するのである。
声明を発表するのに先立って、メディットは「あくまでも司法警察権の独占を否定するのであって、OP社の存在を否定するものではない」ということを前面に押し出すよう依頼してきた。
この点については、ミヤハラをはじめとする「タブーなきエンジニア集団」のメンバーも了承している。
彼等とてOP社の通常の事業活動を否定するものではないし、メディットは医療の専門家として基本的には中立を貫くほうが良いと考えているからだ。
「クルス君一人で大丈夫かしら? 私が手伝いに入りましょうか?」
レイカが心配そうな表情を見せたが、ロビーは問題ないと答えた。
「『とぉえんてぃ? ず』のうちの二人が志願して一緒にやっていますからね。大丈夫でしょう」
「とぉえんてぃ? ず」の三人のうち、コナカだけはロビーの近くで届いた荷物の整理をしていた。
ということは、カネサキとオオイダの二人がセスを手伝っているのであろう。
この二人はセスをめぐって何かと争っていたから、今回もそうしているに違いない。
三人がかりで準備をしているのであれば、アイネスの会見は問題ないだろうとレイカは判断したのだった。
入院患者や外来の者の邪魔にならないよう施設の通路を確保するため、セスやロビーなどが奔走していた。
「すみませんっ! 病院を利用される方がいますので、道を空けてくださいっ!」
セスの声が病棟に響いた。こうしたとき、車椅子を使っているセスの言葉は説得力がある。
彼は今現在、緊急に加療が必要な状況にはない、というよりも有効な手が見出せず経過を見守っている状態である。
そういう意味では、メディットで治療を受けている患者ではない。
しかし、車椅子を見た周りの人々が勝手に患者と解釈してくれるので、通路を確保するのに役立っているのだ。
昨日、ミヤハラ率いるデモ隊がOP社本社から敗走してきたことで、メディットに集結した市民の士気が落ちることが懸念された。
しかし、その懸念は良い意味で覆された。
デモ隊がOP社から攻撃を受けたことで、集まった市民の士気はかえって高くなった。
先に手を出すなと指示したことが功を奏したのだ。
もっとも、OP社のお膝元であるポータル・シティでは、「タブーなきエンジニア集団」側が暴動を起こした、とまことしやかに信じられている。もちろん、OP社がそのように発表したからだ。
昨日のポータル・シティのデモに参加した者のうち、最終的に無事帰宅できた者は半数を少し超える程度だった。
残りの半数弱のうち、五〇〇名がOP社によって拘束され、一千名弱が負傷して加療中だ。そして、二六名が死亡したという。その大部分は「タブーなきエンジニア集団」のメンバーだったが、一般市民にも犠牲を出したのは事実である。
死者が出ることは可能性として考えていたが、予想が事実となったことの衝撃が大きい。
ミヤハラはこの日の朝、亡くなった二六名に哀悼の意を表した後、メディットでの集会に参加した。
この場で改めてOP社の司法警察権の独占に反対する声明を発表するともに、インデストで決起したOP社グループ労働者組合の活動に賛同の意を表した。
ミヤハラの堂々とした態度と体躯は、このような場には各組織のトップを差し置いて最適であった。
ウォーリーも悪くはないのだが、細身であることと言動が庶民的であるため、やや重みに欠ける。ハドリは堂々としているが小柄なのが問題である。オイゲンに至っては論外であろう。
ミヤハラの姿勢に勇気づけられた市民たちが大勢、メディットに集結している。
彼等もこうしてOP社と戦っているのだ。
メディットに詰めているセス、ロビー、モリタなどの仕事は、こうした闘士たちの世話をすることである。
「そういえば、アイネス先生が来るって言っていたな。セス、いつごろになるかわかるか?」
セスがロビーの問いに間髪いれずに答える。
「アイネス先生は、昨日のC帯で勤務するようなことを言っていたから、一〇時くらいには来ると思うよ。僕はこれから会見場の準備に行くから」
C帯とはメディットの勤務シフトで午前〇時から九時までの勤務のことだ。
メディットのスタッフは三交代制で勤務に当たっており、昼間の勤務をA帯、夜間の勤務をB帯、深夜早朝の勤務をC帯と呼んでいる。
この勤務シフトは医師、看護師、その他のスタッフの負担を軽減するものとして、ECN社のものをモデルに導入された。
モリタとレイカ・メルツがロビーのもとへ走ってきた。モリタが息を切らせながら尋ねる。
「ロビー、アイネス先生の会見の準備は?」
「セスが今やっている!」
アイネスの会見は今日の重要イベントのひとつである。
モリタやレイカが忘れっぽいロビーの性格を案じて、指摘しにきたのだ。
改めて医療機関「メディット」が、OP社による司法警察権の独占を非難する声明を発表するのである。
声明を発表するのに先立って、メディットは「あくまでも司法警察権の独占を否定するのであって、OP社の存在を否定するものではない」ということを前面に押し出すよう依頼してきた。
この点については、ミヤハラをはじめとする「タブーなきエンジニア集団」のメンバーも了承している。
彼等とてOP社の通常の事業活動を否定するものではないし、メディットは医療の専門家として基本的には中立を貫くほうが良いと考えているからだ。
「クルス君一人で大丈夫かしら? 私が手伝いに入りましょうか?」
レイカが心配そうな表情を見せたが、ロビーは問題ないと答えた。
「『とぉえんてぃ? ず』のうちの二人が志願して一緒にやっていますからね。大丈夫でしょう」
「とぉえんてぃ? ず」の三人のうち、コナカだけはロビーの近くで届いた荷物の整理をしていた。
ということは、カネサキとオオイダの二人がセスを手伝っているのであろう。
この二人はセスをめぐって何かと争っていたから、今回もそうしているに違いない。
三人がかりで準備をしているのであれば、アイネスの会見は問題ないだろうとレイカは判断したのだった。
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