ストランディング・ワールド(Stranding World) ~不時着した宇宙ステーションが拓いた地にて兄を探す~

空乃参三

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第八章

350:OP社本社前の攻防

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 ポータル・シティにあるOP社本社ビルでは、OP社の治安改革センターの職員とミヤハラ率いる「タブーなきエンジニア集団」のメンバーおよび支持者たちがもみ合っていた。
 ポータル・シティはOP社の本拠地であり、「タブーなきエンジニア集団」の形勢は不利である。

 数の上では「タブーなきエンジニア集団」側が支持者を加えて三千、OP社とその支持者がそれを上回る四千程度である。
 ミヤハラたちはOP社だけではなく、OP社を支持する市民たちをも敵に回して戦わなければならなかった。
 こうした市民たちは治安改革センターの職員よりも血気盛んであった。
「回復した秩序を破壊する犯罪者どもめ、思い知れ!」
「今こそ、ハドリ社長の恩に報いるとき!」
 OP社を支持する市民たちは、こうした声をあげて制止を振り切り、敵対する市民たちに石や工具などを投げつけたり、つかみかかったりしていたのである。
 むしろOP社治安改革センターの職員はそれを止めるのに必死だったともいえる。
「投石をやめろ! デモ隊はOP社のルールに基づいて拘束する! 下がれ!」
 しかし、こうした制止もむなしく、OP社本社ビル周辺は人々が入り乱れて大混乱となってしまった。

「いやぁ、これはやるしかないですね」
 サクライが薄気味悪い笑みを浮かべながらミヤハラにそう持ち掛けてきた。
 断られることなど考えてもいないようにミヤハラには思われた。
 ミヤハラが周囲を見回すと、OP社を支持する市民たちの投石や暴行によって傷ついている味方がいる。これはさすがに看過できない。

「仕方ない。やられたからにはやり返せ」
 ミヤハラも重い腰を上げて人々の入り乱れた方へと向かった。
 サクライは鼻歌を歌いながら、落ち着いた足取りで乱闘の渦へと突っ込んでいく。
 その直後、二人の人間がミヤハラの方に向けて降ってきた。
 一人は地面に頭をしたたかに打ちつけて血を流している。
 もう一人は頭こそ打たなかったものの意識を失っているようで、だらしなく口が開いている。
「おい! やりすぎるんじゃないぞ!」
 ミヤハラはサクライに向けて怒鳴ったが、その声も届いたのかどうか怪しい。
「参ったな……OP社の社員ならともかく、一般市民を巻き込むことはないだろうに」
 ミヤハラの呟きが終わるか終わらないかのタイミングで、一人の男がミヤハラ目指して走ってきた。男はOP社治安改革センターの制服を着ている。
 (こいつは完全な敵だな……ならば!)
 ミヤハラは身体を沈めて相手の下にもぐり込むと、そのまま身体を伸ばし、後ろへと跳ね飛ばした。
 そして、男が落ちてきたところを、手にしていたハンマーを顎に向けて振り抜く。
 顎を砕かれた男は悶絶し、気を失った。
 ミヤハラは地面に這いつくばった男の身体をハンマーで脇によけた。
 彼にとって、足元にだらしなく横たわっている男の姿は滑稽でしかなかった。
 (自業自得って奴だな。相手の力量を見抜けない奴は倒れて当然だな)
 ミヤハラには男に同情する理由などない。己の力量を知らず、相手の力量も見抜けなかった愚か者が無様にも地にひれ伏しているだけなのである。これを滑稽と言わずして、何を滑稽と言うべきだろうか。
 普段は泰然自若を通り越して根が張ったかのように動かないこの男だが、あるときは闘士としての本能が目覚めるようであった。そして、今こそ闘士の本能が覚醒した瞬間でもあった。

 しかしそれも長くは続かず、意識が平静の方に振れた。
「やれやれ、油断している暇はないってことか」
 奴のようにはなりたくないからな、という言葉を内に秘めながら、彼はけだるそうにそうつぶやいた。
 彼のいる場所はデモ隊のやや後方ということもあり、騒動の中心からはかなり離れている。それでも、騒動の物音や悲鳴が徐々に大きくなっていくのがわかる。
 OP社治安改革センターの職員たちもOP社を支持する市民の制止をあきらめ、「タブーなきエンジニア集団」のメンバーやその支持者の鎮圧や拘束に回ったようだ。
 (長くは持たないな……)
 ミヤハラは密かにそう思った。
 ミヤハラやサクライといった腕に覚えのあるメンバーはともかく、デモ隊のほとんどが一般市民である。
 数で劣っている「タブーなきエンジニア集団」側は、落ち着きを取り戻したOP社の職員の組織行動にも翻弄され、その数を徐々に減らしていった。
 伝えられる情報からは、相手の数はこちらの倍以上に達しており、その差は開くばかりのようだ。
 相手のうち、二五〇〇名程度はOP社治安改革センターの職員であると思われた。そして、残りはOP社の一般従業員と彼等を支持する市民が半々、といった様子だ。

 ミヤハラたちの行動は、もともとウォーリーのために時間を稼ぎ、ハドリの注意を分散させるためのものである。十分な人員や物資が確保できる状況ではなかった。
 それでも当初のミヤハラの見積よりデモ隊は健闘しているといえた。
 メンバーの大部分が戦闘訓練を受けていない者である。それに対し、相手側にはこちらの全人員数とほぼ同人数の訓練を受けた職員がいるのである。

 ミヤハラが腕時計に目をやる。
 午後五時を回ったところだ。現在の位置に到達してから既に五時間以上が経過している。
 騒動の音はミヤハラのすぐ近くまで近づいてきた。
 デモ隊の参加者の多くが拘束、掃討されて人数が減ったためだ。
 OP社の魔手はミヤハラに届くまでには至っていなかったが、それも時間の問題であるように思われた。
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