ストランディング・ワールド(Stranding World) ~不時着した宇宙ステーションが拓いた地にて兄を探す~

空乃参三

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第八章

349:オイゲンの反撃

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 インデストへ向かうOP社治安改革部隊の後方で、ハドリとオイゲンが会話を交わしている。会話というよりは、ハドリによる脅迫というのが実態に近い。

「イナ君、『タブーなきエンジニア集団』を名乗る犯罪者グループの首領について何を知っている?」
 オイゲンにはハドリの質問の意図が読み取れていないのか、回答に迷うような顔を見せている。
「ウォーリー・トワ、ですか……? 最終的な役職は弊社の上級チームマネージャーといって、役員に次ぐ地位でしたが……」
 結局ハドリに気圧されたためか、返ってきたのはかなりあいまいな答えだった。これではウォーリーのECN社時代における最終的な地位だけしかわからない。

 期待された答えが返ってこなかったことから、ハドリは質問を変える。
「俺が確認したいのは、奴の家族構成だ」
「家族構成……ですか?」
 オイゲンは相変わらず不思議そうな顔のままだ。
「そうだ。奴を処断しても奴の血筋が残っては意味がないからな……」
「……社の資料を調べて確認したいと思いますが、彼は確か祖父母に育てられたはずで、その両者ともが他界していたかと……」
「両親や兄弟は?」
「少なくとも私の知る限り、ありません」
 オイゲンの答えにハドリの声が怒りを含んだものに変貌する。
「兄弟はともかく、両親がないというのはどういうことだ? 親がいなければ子はないだろう? 俺をたばかろうとする気か?」
 ハドリの勢いにオイゲンはほうほうの体で、力なく答える。
「いえ、そういう意図は……
 私どもも彼の両親についての情報を持っていないのです……」
「彼についての情報を今、ここで見せてもらおう」
 ハドリの命令にオイゲンが慌てて携帯端末を操作する。その手が震えているのをハドリは見逃さなかった。

(……社にはこれ以上ウォーリーの情報はない。ハドリ氏が調べてもこれ以上は出てこないはず)
 オイゲンは震える手で携帯端末を操作した。
 実はオイゲンはウォーリーの両親についての情報を持っているのだが、そのことを知らないふりをしていた。こう見えても意外と役者なのである。
 もっともウォーリーの両親の情報については、オイゲンの頭の中だけにあるものである。ECN社のデータにアクセスする限り、これらの情報を手に入れることはできない。
「……どうぞ」
 オイゲンが携帯端末の画面を示した。
 画面にはウォーリーに関する情報が表示されている
 両親の名はなく、備考に「幼少時に祖父母の家に引き取られたため、祖父母が保護者となっている」とある。
「何だ、これしか情報がないのか!」
「すみません……」
「従業員の管理を今後は徹底しろ! そんなことでは従業員に経営者が負けるぞ!」
 ハドリに叱責されたオイゲンは肩をすくめて携帯端末をたたんだ。
 だが、それ以上ハドリはオイゲンを問い詰めることをしなかった。
 幸い、オイゲンがウォーリーに関する情報を持っているということを気づかれなかったようだ。
 しかし、ここで気を抜くわけにはいかない、とオイゲンは考えた。相手は隙の無いハドリである。

 一方、ハドリはオイゲンの迂闊さに腹を立てながらも、その回答には納得した。
 要するにオイゲン・イナという人物は、かなり鈍いということだ。
 しかし、命じれば命じたことをその通り忠実に遂行する。
 ある意味ハドリにとっては使いでのある人物である。こうした人物は、必要に応じて脅しておけば何でも言うことを聞かせられる、とハドリは確信している。OP社の幹部にもこの手の人物は少ないので、ある意味重宝する。
 先ほども釘を刺しておいた。これで安心、という訳にはいかないだろうが、よからぬ考えを持ったとしてもそれを行動に移す危険は減らせるはずだ。

 自身とウォーリーの関係について、外部に情報が漏洩する危険はほぼないとハドリは確信した。ウォーリーが最も長く在籍していた組織ですら、その情報を掴んでいなかったからだ。
 それならば情報が外部に漏れる前に、母を陵辱した男の血を引くウォーリー・トワを八つ裂きにすることに専念すべきだ。
 冷静さを欠いては相手の思う壺だ。ミヤハラごときが本社を襲撃したことに惑わされてはならない。
 本命はウォーリー・トワである。
 ハドリは己にそう言い聞かせた。

 現在の位置からウォーリーのいるインデストまでは、あと一日半ほどの道のりである。
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